STORY 日本電産 vol.2

未来の働き方生み出す 
あふれる好奇心と周囲へのまなざし

日本電産 法務部
真野 裕子さん

日本電産の真野裕子さん(33)は大学卒業後、企業法務一筋に歩んできたスペシャリストだ。今は同社法務部の課長代理として会社のビジネスを支える契約書の作成や審査に駆け回りながら、0歳の男の子を育てる母でもある。生来のあふれる好奇心と、周囲に目配りする細やかさを武器に、キャリアアップと育児を両立させた未来の働き方を生み出そうとしている。

育児との両立、新たな制度とツールで工夫凝らす

「こちらの案件の承認をお願いします」。真野さんが働く法務部の主な業務は、製品の開発や営業などに関する契約書の作成や審査。社内の各部門から、取引先との契約をめぐる様々な法律関係の問い合わせが舞い込む。部員は一人で並行して複数の案件を担当し、日に何件も上司の決裁を仰ぎながら契約書を仕上げていく。

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真野裕子さんは大学卒業後、企業法務一筋に歩んできた

勤務先の滋賀技術開発センター(滋賀県愛荘町)は、同社が重点分野と位置づける車載用モーターを数多く手がけており、真野さんも自動車関連の先進技術に関わる契約を担当することが増えている。事業部がどんなビジネスをしたいのか、何を実現したいか――。社内の複数の部門と連携しながら、製品の詳細な内容から顧客の要望まで細かく聞き取って、契約書でどのような項目を決めておくべきかを考える。想像力と根気が求められる仕事だ。

この日も真野さんは、ある案件について社内の担当者への回答を準備し、上司に承認を求めた。ただし真野さんがいるのは自宅。日本電産は2017年4月に在宅勤務制度を導入した。15年下期にスタートした「働き方改革」で20年度までに生産性を2倍に、その結果として残業をゼロにする目標を掲げるなか、通勤による負荷をなくし仕事と生活とのバランスを高める狙いがある。

在宅勤務は役職によって1カ月あたりの取得上限日数が定められており、真野さんの「課長代理」の場合は月に10回。「私はおそらく会社で一番使っている人間じゃないかと思うくらい活用している」という。制度が導入されたころ、ちょうど妊娠初期のつわりで体調がすぐれない時期と重なり、負担の大きな通勤を在宅勤務で回避することで乗り切った。18年8月に育児休業から復職してからも、まだ0歳の長男の育児と仕事とを両立するため制度をフル活用している。

復職する際に支給されたスマートフォンも両立の強い味方だ。ちょっとした時間にメールやスケジュールのチェックができるため、社内のメンバーのスケジュールを確認して打ち合わせの日程を調整したり、メールで指示を出したりと、わずかなスキマ時間を生かして効率よく業務を処理できるようになった。

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育児と両立するようになって、今まで以上に上司や同僚との密なコミュニケーションを心がけている

情報ツールを活用して常に職場のコミュニケーションを密にすることで、柔軟な業務分担も可能になっている。あるとき真野さんが引き受けた社内からの相談。少し話を聞いてみると、当日の午後5時までに回答が必要な案件だった。時間はすでに午後3時半。短時間勤務制度を利用中の真野さんの退勤時間が30分後に迫っていた。

このときはすぐに対応する時間を確保できた別の担当者がその案件を引き継いだ。反対に、真野さんが他のメンバーの繁閑を見て、手が回らなそうな案件を引き受けることもある。

日本電産では真野さんのような新しい働き方が急速に広まっている。そもそも滋賀県の拠点に法務部のメンバーとして勤務することも新たな取り組みだ。法務部のオフィスは京都市の本社にある。従来はメンバー全員が京都本社で勤務していたが、開発拠点として重要性を増す滋賀技術開発センターに法務駐在を置くべきだとの部門長のアイデアと、現場に近いところで仕事をしたいという真野さんの希望が合致し、週に1度、自宅に近い同センターへ駐在するようになった。産休・育休からの復職後、育児との両立も考慮して開発拠点の法務常駐が決定した。戦略的な配置転換が、結果として真野さんの効率的な働き方につながった。

「どこにでも関われる」企業法務にやりがい

真野さんは短時間勤務制度も利用し、現在の勤務時間は一日6時間。「今まで8時間で処理していた仕事をなんとか6時間で回したい」。働き方に工夫を凝らす背景には、育児で働く時間が短くなっても、子どもが生まれる前と変わらない仕事量をこなしたいという思いがある。

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中国とシンガポールにある法務部門の海外拠点で働き、仕事の幅を広げたいと語る

大学では法学部で学んだ。周囲には司法試験を受けて法曹をめざす友人も多かったが、就職を選んだ。ビジネスの現場での法律という「知らない世界を知りたい気持ちと、人があまり行かない分野に行ってみたいという好奇心があった」。BtoBの工業系メーカーなどを中心に就職活動をし、前職の電子部品製造会社に入社した。

企業法務の世界に飛び込んだのは「正解だった」と言い切る。

企業の法務部は会社で起きるすべてのことに関わることができる。「法務部は法律関係であればどこの仕事にでも関われるのが醍醐味。自分の仕事の範囲をもっと広げたい」。就職して3、4年たつと、その思いはますます強くなった。

真野さんの前職の会社は業務負荷への配慮が厚く、もっと仕事をしたいと思ってもなかなか担当業務が広がらないもどかしさがあった。「バリバリ仕事ができるところはないか」。転職活動を始め、何社も採用選考を受けるなかで、キャリアに対する焦燥感にもっとも共感してくれたのが日本電産だったという。

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法務部は少数部隊で全社から寄せられる法律関係の相談に対応している

真野さんは関東地方出身。前職も関東の会社で、関西には住んだ経験はおろか親戚もいない。ここでも持ち前の好奇心を発揮し、同じく関西の別の企業への転職を決めた夫とともに新天地に飛び込んだ。

新たなビジネスを支える「プレーイングマネジャー」目指す

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子どもが生まれ、ほかの仲間も家庭と仕事を両立しているのだと視野が広がった

転職は思わぬ出会いももたらした。同じタイミングで日本電産の法務部に中途入社した女性。2人の子どもを育てる「先輩ママ」でもある。入社当時は上司として担当案件を一緒に見てもらい、直属の上司でなくなってからも、判断に迷う案件があったときに意見を聞いたり、育休中に復職などの相談に乗ってもらったり。公私ともに真野さんのメンターといえる存在となった。

真野さんが15年に課長代理に昇格したときに、その先輩女性も部門長に昇格した。同じような働き方、同じようなマネジメントは自分にはちょっと難しそうだ――。そう見ていた真野さんに、先輩女性はこう言ったという。「あなたのいいところは、部門全体に目配りしながら自分の役割をこなせるところよ」

さらに先輩はこう続けた。企業法務は経験を積めば積むほど自分のなかに知識やノウハウが蓄積できる。ライフイベントでキャリアにブランクができても蓄積したスキルを生かして現場に復帰しやすい、女性にとっては働きやすい仕事だと。

尊敬している先輩からの言葉が背中を押した。「どんどん幅広い案件の経験を積んで、しっかり職場のメンバーをサポートできるプレーイングマネジャーを目指そう」。真野さんは契約がまとまって新しいビジネスが始まる瞬間が大好きだという。真野さんがつくりつつある新たな働き方は、そんな瞬間をますます生み出しそうだ。

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