日経ウーマノミクスプロジェクト 組織に新たな風を吹き込む女性たち。しなやかな働き方に輝く社会へのヒントが詰まっている。 日経ウーマノミクスプロジェクト 組織に新たな風を吹き込む女性たち。しなやかな働き方に輝く社会へのヒントが詰まっている。

日々の「言葉」に心をこめて――理想の英語教育へ「二人三脚」

ホームティーチャーと話すときも、部下を指導するときも、「言葉」一つひとつを大切にしている

 「皆さんが人生の先輩。教わることばかりです」。ECCジュニアの東京センター長を務める藤巻香菜さん(30)は入社して8年間、ECCとフランチャイズ契約し英語教室を運営するホームティーチャーの支援業務に携わってきた。子どもたちに英語を教えるホームティーチャーの経歴は多彩だ。出産・育児を機に会社勤めを辞めて、自宅でできる仕事として選ぶ人もいれば、60歳からの第二の人生を幼児教育に捧げたいという人もいる。藤巻さんはそれぞれの立場にたって最適な支援を心がけるが、気がつけば先生からも人生の機微を教わっている。

 入社して埼玉県内にある教室をサポートする埼玉センター(さいたま市)のスタッフをしていたころ、夫を亡くし、一人で病気がちな子どもの介護をしているホームティーチャーと出会った。日々の生活は大変だが、その疲れを感じさせない笑顔で教室に通ってくる子どもたちを迎えている。「生徒の皆さんの笑顔や声が、日々の辛いことを忘れさせてくれる。この仕事が生きがい」。幼児教育に携わる仕事の奥深さを教えてくれた一言だった。

■「子どもたちの笑顔が生きがい」

 小さな子どもを持つホームティーチャーは子育てと教室運営の両立に悩むこともある。ECCとしてできる限りの支援をするが、先生に両立を決意させるのは「先生をやっているママが大好き」というわが子の一言だ。働くママの姿は何よりも格好いい。そんな親子の物語は「女性として働き続けることの意味を教えてくれる」。

 初めて教室を開くホームティーチャーにとって「生徒が集まってくれるのだろうか」という不安は、計り知れないものがある。藤巻さんはそんな先生を励まし、チラシのポスティングなどで一緒に汗を流す。入学の申し込みがあるたびに、居ても立ってもいられない様子で電話をくれる先生の声を聞くと、自分のことのようにうれしくなる。

 藤巻さんが日々の仕事の中で最も大切にしているのは「言葉」だ。世界に通用する英語を子どもたちに身につけてもらうには、ECCのスタッフとホームティーチャーが心を一つにしなければならない。そのためには、心のこもった言葉をどれだけ先生たちに伝えられるかが重要だと藤巻さんは感じている。だから何かを伝えるときは、それぞれの先生の生活スタイルや考え方を思い起こし「言葉だけでなく伝え方も、伝えるタイミングも考え抜く」。

 入社3年目に東京センター(東京・新宿)に赴任したばかりのころ、言葉の重みを実感する経験をした。20年以上のキャリアのあるホームティーチャーに「担当になったご挨拶に」と面会を申し込んだが「時間がない」と断られた。センターの先輩スタッフに聞けば、以前からスタッフの面会を断ることがあるということだった。

 それでも藤巻さんは諦めず、何とかアポイントを取る。実際に教室を訪問し直接話をしてみると、改善しないといけない課題が見えてきた。指摘すれば機嫌を損ねるかもしれない。それでも「先生のためにも、生徒さんのためにも伝えなくてはならない」と藤巻さんは決心する。心の中に「英語教育の大先輩」への尊敬の念を抱きながら、必死に思いを伝えた。

 数日後、その先生から会社に手紙が届いた。「私と親子ほど年の離れた若いスタッフが来られ、私の弱点を分かりやすく伝えてくれた。自分でも至らない点に気付いてはいたが、逃げていた。今回それをうまく指摘してくれて、一から頑張ろうと思えた」。藤巻さんが言葉に心をこめたから、先生の心を変えることができたのだろう。そして自分の弱みを認め、素直に手紙につづった先生の勇気は、英語教育の道を歩む藤巻さんにとって大きな励みになっている。

■宝物はホームティーチャーからの手紙

高校時代の短期留学での出会いをきっかけに、英語教育の道に進むことを決めた

 藤巻さんが英語教育の道に進もうと決めたのは高校2年のときだった。学校の短期留学制度を利用し米国でホームステイをした際、ホストファミリーと訪れた教会で、たまたまタイ人家族と席が隣り合わせになる。最初は母国語で話していた家族が、英語で話しかけてくれた。藤巻さんも英語で応えると気持ちが通じ、食事を一緒にするほど仲良くなった。「英語が話せると、世界中の人たちと交流できるんだ」。そう実感できた出来事だった。そして南山大学に進み、英語教育を本格的に学ぶ。卒業後の進路は悩んだが、幼児からシニアまで、世界で通用する英語を学べる機会を提供しているECCを選んだ。

 入社以降、藤巻さんは担当したホームティーチャーから届いた手紙を全て大切にとってある。「初めて生徒の申し込みがありました」という喜びの声があれば、「最初は教室に来るのがいやだと泣いてばかりいた幼児が、今では立派に先生と英語で会話できるようになりました」という経過報告などもある。内容は様々だが、手書きの文字の温もりはすべて、ECCジュニアに通う子どもたちの将来のために、藤巻さんとホームティーチャーが二人三脚で歩んできた証だ。

 2011年6月、藤巻さんは入社4年目で東京センター長に抜てきされる。当時では異例の若さで、女性センター長も少なかった。「私がセンター長でいいの」と戸惑ったのはほんの一瞬で、多忙な日々が始まった。

 東京センターは他の地区センターに比べスタッフ数が多く、若手も多い組織。現在は総勢19人のスタッフのうち、7人が若手だ。センター長も担当の教室を持つが、若手の指導に大半の時間を割かれることになる。時には一人の新人に終日付きっきりで指導することもある。

入社4年目という若さで東京センター長に抜てきされ、新人教育に知恵を絞る毎日だ

 センタースタッフだったころと比べればホームティーチャーと接する機会は減ったが、センターの部下を育成する際にも「言葉」にこだわっている。若手の性格や得意、不得意を見極めながら、言葉を選んで心を動かす。これも全て、人生の先輩であるホームティーチャーたちが藤巻さんに教えてくれたことだ。

 センター長としての4年間、「一人でも多くECCの英語教育の魅力を広めることができる人材を育てたい」と、一気に駆け抜けてきた。そんな藤巻さんも、少し仕事を離れる時間が必要になった。新しい命を授かり、10月から出産・育児のための休暇に入るのだ。

 もちろん、「働く姿をわが子に見せる大切さをホームティーチャーの皆さんが教えてくれたから」来年には職場に復帰する予定だという。母になり、再び英語教育の舞台に戻る藤巻さんの「言葉」はきっと、今まで以上に心を動かす力を備えているのだろう。

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