STORY 積水ハウス vol.10

わくわくドキドキ、心躍る職場づくり

積水ハウス
阿部 俊則社長

日本経済の大きなテーマとして浮かび上がる働き方改革。積水ハウスはいち早く取り組み、意識改革、環境整備を進めてきた。見直しを通じて阿部俊則社長(65)が目指すのは、すべての従業員が「わくわくドキドキ」し、楽しみながら仕事をする姿だ。この実現こそが、個人はもとより、会社の成長にもつながるとみる。

仕事は徹底的に。終わればさっと切り替え

上司が帰宅するまで全員残る。残業もしばしば。どこかでみるオフィスの風景だろう。積水ハウスも似たような雰囲気がかつてあった。今は違う。「夜遅くまで仕事をする会社に未来はない」と阿部社長。「やるときは効率的にかつ徹底的に。終わればさっと切り替え、家族と一緒にすごしたり、資格取得のための勉強の時間に充てたりしてほしい」

長時間労働が当たり前という企業がいまだある中で、新たなスタイルに移行できたのはなぜか。その理由を探ると、女性社員が活躍できる素地をつくってきたことに行き着く。その歩みは働き方改革が狙う「人材の定着と育成」に向けたロールモデルでもある。

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離職が多くても、「強い信念で女性を採用し続けた」

2005年に女性営業職の採用を増やし、06年には多様な人材の活用などを柱にした「人材サステナビリティ宣言」を発表した同社。背景にあったのは、優れた人材を確保するためにも女性が必要になるとの思いだった。

だが、スタート当初は辞めていく人が多かった。真面目。夜遅くまで上司の帰社を待つ。「BtoC」企業であり、顧客の要望に沿って休日出勤することも。疲労はたまり、離職につながっていった。「このまま続けるのは難しいかもしれない」。阿部社長の頭にはそんな考えもよぎったという。

それでも「女性がいなければ会社は成り立たない」と強い信念で採用を続けた。そして働きやすい環境づくりも推し進めていった。

現在の「ダイバーシティ推進室」の前身である「女性活躍推進グループ」を06年に立ち上げ、直面する様々な課題、悩みを相談できる体制を築いたことが出発点といえる。法定基準以上の様々な制度もそろえていった。育児休業や育児のための「短時間勤務制度」、女性の自律と上司の意識改革を目指し、立場の違う社員同士が両立について話し合う「仕事と育児の両立いきいきフォーラム」の開催。営業職、技術職や展示場の接客担当と、職種にあわせてきめ細かく活躍を推進するようにもした。職種ごとに女性社員を集めた「交流会」を催し、ロールモデルとなる先輩の仕事ぶりなどを学べる機会も準備した。さらには女性現場監督を増やしたり、女性の感性を生かした商品開発に乗り出したりと、活躍の機会も広げている。

16年4月には女性活躍推進法に基づく「女性活躍推進行動計画」を策定。「女性のキャリア促進」「両立サポート」「働き方改革」の3つの観点で、取り組みを加速している。

管理職育成において中心的な役割を果たしているのが「積水ハウス ウィメンズ カレッジ」とよぶ管理職候補者研修だ。期間は2年。1年目はマネジメントの本質を学ぶスキル学習を重ね、2年目には自ら管理職になったとの想定で経営課題に対する解決策を提案する。最後には経営層を前にしたプレゼンテーションも。阿部社長は「受講生全員が積極的。対応策への評価は私よりもはるかに厳しい」と笑う。女性の力強さがさらに増しているとの手ごたえもある。「営業部門、製造部門、本社部門など多様な部署から集まり議論することで、自部署の課題も明確になっている」。

17年4月1日現在で女性管理職はグループ全体で159人(2.93%)。行動計画では20年度までに200人に引き上げる目標を掲げるが、阿部社長は「数字ありきではない」とも話す。「ウィメンズ カレッジなど成長する機会は用意する。ここからチャンスをつかみ取れるかどうかはその人の努力にかかっている」

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ウィメンズ カレッジでは経営課題への対応策を提案

4度目のなでしこ銘柄選定、新・ダイバーシティ経営企業100選も受賞

ほかにも、パートナーが転勤になった場合、一緒に暮らせるように勤務地を配慮するといった柔軟な施策も用意する。営業職の場合、顧客の多様な要望に応えて受注を獲得しなければならない。顧客対応で悩んだり、子供の病気などで指定された期日に足を運べなかったりといったことも出てくる。これをサポートする体制に改めた。

女性が必要であると言い続け、働きやすい職場を実現することで、会社は変わってきた。17年春に入社した営業職250人のうち約4分の1、設計や研究開発といった190人の技術職では4割以上が女性。一連の取り組みが評価され、17年3月には女性活躍推進に優れた上場企業の証しである「なでしこ銘柄」に選定され、多様な人材の能力発揮によりイノベーション等を生み出している企業を表彰する「新・ダイバーシティ経営企業100選」を受賞した。「なでしこ銘柄」選定は通算4度目となる。

「会社にとってその存在が重要だと理解し、ぶれずに推進してきた」(阿部社長)ことが女性社員の定着、育成にもつながった。実績も十分だ。阿部社長は「積水ハウスウーマンとしての、目線のきめ細かさ、多様な感性、対応でお客様の支持を集めている」と評価する。

リーマン・ショック後の逆風を収益管理体制の強化で乗り越えた積水ハウスは14~16年度を計画期間とする「第3次中期経営計画」において、期初目標を上回る実績を達成。17年1月期は売上高、純利益とも過去最高を更新した。今年3月に発表した17年度からの新たな3カ年の中期計画では、最終年度である20年1月期の売上高を17年1月よりも18%、純利益は22%伸ばすとする。

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IT化で働き方改革を推し進める

目標達成のための経営基盤として重視するのが「働き方改革」であり「ダイバーシティの推進」。阿部社長は「共働き家庭が増えるなど、我々の若い頃とは環境も、仕事の仕方も大きく変わった」とし、女性はもちろん、男性も含めてこれからの時代に即した仕事の手法を追求し、生産性を高めていくと力をこめる。

その布石としてIT(情報技術)化を推し進める。一例が営業職、技術職あわせた仕事の見える化。実際の現場管理や監督業務以外に、会議の時間、移動距離などの仕事の状況を浮かび上がらせるシステムを開発した。現場の写真を撮影するために何時間かけて往復したといった課題が明らかになり、付加価値の高い仕事へのシフトを実現している。

これだけではない。事前に何をすべきかといった計画も立てやすくなる。「計画性のないところに仕事はない。上司とコミュニケーションをとりながら、本当に残業が必要なのか相談することもできるようになった。とりわけ技術職は仕事の仕方がずいぶん変わってきた」(阿部社長)

個人の業績に対する評価を透明化し、顧客、社内など複数の視点を導入する取り組みも進める。設計社員のレベルアップを目指し、優れた社員だけが名乗れる「チーフアーキテクト」制度も設置するなど、モチベーションアップに向けたアイデアもあふれる。

働き方、業績向上と両輪で

多様な施策が始まった働き方改革。阿部社長はこう付け加えることも忘れない。「好業績だからこそ、見直しができる」。収益が伸びている間に将来を見据えて改革する。それが一段の成長につながれば、自信が生まれ、さらなる改革に結びつく。逆に落ち込んでしまえば、株主をはじめとするステークホルダー(利害関係者)からの支持を得られない。正の循環を築くためにも「改革と好業績の両輪が不可欠だ」(阿部社長)

だからこそ、仕事に対し「わくわくドキドキしてほしい」と願っている。仕事を好きになってこそ、創造力も高まる。目標に向けて集中し、無心でやり遂げることで、付加価値の高い仕事へ前向きに取り組み、実力以上のものが発揮できる。自発性も生まれてくるとみる。仕事に対して前向きに取り組み、自ら努力を続けて、成果を勝ち取ることこそ、必要だと。

積水ハウスはバブル経済真っただ中の1989年、「人間愛」を根本哲学とする企業理念を制定した。「人間愛」は相手の幸せを願い、その喜びを我が喜びとする奉仕の精神をもって何事にも誠実に実践する事である。数字だけを目標にするのではいつか枯れてしまう。常に相手の幸せを考え、社員の人格で同業他社よりも秀でることを目指す。「for you」、顧客を大事にし、社員と工事店の人たち、取引先を大事にする。当時、この言葉が示す意味をどれほどの人が正確に理解することができただろうか。

「目先にとらわれず、先々を見越していたのだと、今になって実感する」。阿部社長は打ち明ける。働き方を見直し、社員や取引先の環境を好転させる。そうすることで競争力が生まれ、収益性の向上にもつながる。「まだまだ変えなければならないことはたくさんある」(阿部社長)。それをひとつずつ解決し、さらなる高みを目指すつもりだ。

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