日経ウーマノミクスプロジェクト 組織に新たな風を吹き込む女性たち。しなやかな働き方に輝く社会へのヒントが詰まっている。 日経ウーマノミクスプロジェクト 組織に新たな風を吹き込む女性たち。しなやかな働き方に輝く社会へのヒントが詰まっている。

笑顔とチームワークで挑む理想のリフォーム

リフォーム顧客の懐に笑顔で飛び込む。家族のように接してもらい、地元のお祭りに呼ばれることもある
リフォーム顧客の懐に笑顔で飛び込む。家族のように接してもらい、地元のお祭りに呼ばれることもある

 住宅リフォームの現場で奮闘する女性設計士がいる。積水ハウスグループの積和建設中国(広島市)ハウジング事業部に所属する増見友世さん(27)だ。笑顔と持ち前の明るさで顧客の懐に飛び込み、リフォームに対する細かな要望を聞き取る。夕食時に呼ばれ食事を共にしながら語り合うこともある。「施主様のお子さんと同じ世代だから、娘のように思っていただけるのでしょう」。呼び名が「増見さん」から「増見ちゃん」に変われば、満足いただけた証しだ。

 一緒に顧客訪問をすることが多い営業担当の時光努さんは「提案力があり、お客様も増見さんを信頼している」と評する。笑顔だけでは信頼を得られない。笑顔の裏側で増見さんは、お客様の思いを形にできる設計士になろうと、日々努力を積み重ねている。

 仕事を進める上で理解できないことがあれば、営業の先輩だろうが現場監督だろうが、自分が納得いくまで質問する。リフォームをする家の床下などにも入らせてもらい、気になる箇所は自分の目で確認する。図面にもこだわる。目指すは顧客が一目で納得し、建築担当者にも意図が伝わる図面。尊敬するOBの設計士の昔の図面を引っ張り出して、表現方法を学ぶ。

 設計士になってまだ5年足らずだが、「設計に対するこだわりは、社内の誰にも負けないつもりです」ときっぱり。向上心の塊のような増見さんの素顔を、顧客も会話の中から感じとり信頼を寄せるのだろう。

■夫婦が語った大黒柱への思い出

 2年ほど前、こんな出来事があった。両親の住む家に長男家族が同居する「三世代住宅」へのリフォーム案件で、「ご長男からのリクエストをもとに設計図を起こしてほしい」という営業からの依頼があった。最初は手元の情報だけで書き出したが、どうもしっくりこない。上司に相談すると「自分で訪問してきなさい。家のことを一番知っている最年長の方にお話を伺うこと」とアドバイスを受けた。

 増見さんは顧客宅へと急ぎ、長年住み続けてきた夫婦の話を聞いた。広い家に二人暮らし。ご主人は足が悪く、日当たりの良い和室で過ごす時間が長い。大黒柱は先代の夫婦が裏山に植えた記念樹を切り出して使ったそうだ。

 きっと夫婦は息子に全てを任せ、自分たちの思いは心にしまうつもりだったのだろう。増見さんは職場に戻ると、三世代が一緒に心地よく暮らしてほしいという思いを精一杯、設計図にこめた。大黒柱は今も、家族のだんらんを見守っている。

営業担当の時光さん(写真左)と増見さんの採用を担当した山下さん(右)。「貴重な戦力になってくれている」と増見さんの活躍に目を細める

 リフォームとは家に刻まれた家族の歴史と、住む人それぞれの「こうしたい」という未来への思いを融和して形にする仕事だろう。新築に比べれば建築上の制約もある。複雑な条件が入り交じる難題に、最適な解を出すのは一人の力では無理だ。大切なのはチームの総合力。チームのメンバーが最大限の働きをしてはじめて、顧客の笑顔に出合える。

 だから増見さんは、社内の営業や建築部門のメンバーに、自分の意見を率直にぶつける。メンバーも日ごろの妥協しない増見さんの姿を見ているから、年齢や経験など関係なくチームの一員として認め、議論に応じる。増見さんは顧客を思うあまり、感極まってしまうこともある。それでもチームは議論を重ね、顧客本位の答えを導き出す。

 昨年7月、顧客から一通の手紙が届いた。手書きで便箋にびっしり、増見さんをはじめリフォームに携わった社員一人ひとりへの感謝の気持ちがつづられていた。「営業、設計、建築のメンバーが連携して取り組んだことを評価いただけたことが何よりうれしい」。増見さんは満面の笑みでこう語った。

■「設計長になれよ」「はい、なります」

 増見さんは大工である父の、柱をかんなで削る姿を見て育った。二人の兄も建築関係に進み、増見さんも自然と建築関連の専門学校に入学した。卒業と同時に地元企業に就職するが、仕事を覚える機会が少なく転職を決意する。縁あって採用試験を受けたのが積和建設中国だった。

 採用面接を担当したハウジング事業部中国営業統括部長の山下敬示さんは、当時の様子を昨日のことのように覚えている。「常に笑顔で、気持ちが強い。将来はリフォーム分野で育てたいと思った」

 そして入社2年目で奮闘する増見さんを見て、山下さんはこう声をかけた。「設計やるからには、設計長になれよ」。並みの新人なら「頑張ります」が模範解答だろう。しかし増見さんはこう答えた。「はい、必ずなります」。増見さんは純粋に「リフォームは面白い。10年先でも今の仕事を続け、極めたい」と考えているから、潔い答えになったのだろう。

 実際に現在では所属する設計課の「半数が年下」。後輩から相談をもちかけられると、「一緒に考えよう」と周囲を巻き込むリーダーの顔ものぞかせている。積水ハウスグループの研修にも精力的に参加する。「営業の研修も受けられ勉強になるし、全国で頑張っている仲間と交流するだけでもいい刺激になる」。採用した山下さんは「自分の判断は間違っていなかった」と目を細める。

「自分が家を持つなら、昔ながらの瓦ぶきの軒の深い家がいい」と増見さん

 昨年、社内の先輩女性社員から発案があって「Link」という活動を共に立ち上げた。リフォームの顧客を招いて施工時に生活空間に職人などが入ってくることのストレスなどの声を聞き、軽減策を検討につなげたり、まだ家を持たない若い夫婦を招いて「家」に対する意識調査を実施したりしている。「同世代でも住宅ローンなどの知識が豊富な方もいて、色々考えているのだなって感じている」

 増見さんは自分で家を持つなら「瓦ぶきの軒の深い家がいい」と言う。リフォームで訪れる家のほとんどが昔ながらの家屋。「木の香りがすると落ち着く。子どもの頃に仕事帰りの父の背中についた木くずの香りを思い出すからかな」。そう話す増見さんの涼しげな笑顔には、優しさと温もりが詰まっていた。

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