STORY 積水ハウス vol.11

お客様の笑顔に会うため、最善の設計探し求める

積水ハウス 横浜北支店 設計課
横倉 美佳さん

積水ハウスが全国に抱える122の支店・営業店の中でも、設計力で定評のある横浜北支店(横浜市)。設計課を支える一人、横倉美佳さん(33)は年間24棟に上る住宅の図面を引く。時間を惜しまず、妥協せず、いくつものプランを練り、最善の案を見つけ出す。顧客の笑顔に出会うため、探し続け、考え続けるのが彼女のスタイルだ。

異国に渡った手書きのパース

手書きの完成予想図(パース)は異国の地で飾られていた。1階のキッチンに立ちながら、2階にいる子供の様子が分かるようにしてほしい。そんな希望をかなえるため、悩んで作り上げた作品だった。

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お客様の喜ぶ姿をその目で見たくて積水ハウスに

入社してまだ4年足らずの横倉さんに託された物件は、難しい条件がそろっていた。2階の子供が目に入り、声を届けるには吹き抜けが必要になる。構造上の安全性を確保したうえで、どのような配置に仕上げるのか。経験は少なく、自信もなかったが「自分なりに一生懸命考えて提案したところ、すごく気に入っていただけた」。

ところが、契約を結ぶ前に依頼主は海外勤務に。そこでパースを渡したところ、帰国後に建築することを楽しみに、赴任先で額に入れて飾って見ていたというのだ。「3年後に日本に戻られると、改めて話をいただき、当初提案通りに進んだ。額を見ては将来の家を想像していたと伺い、本当にうれしくて。今でも思い出深い出来事」と振り返る。

2007年に技術職として入社し、今年11年目。鉄骨戸建て住宅の担当として支店を引っ張る横倉さんは、顧客のニーズを聞き取り、敷地を確かめ、様々なパターンを考案し、これがベストだと納得できた案を提示してきた。もっとよくなる。そう信じ、許す限り時間をかけて解を見つけ出す。姿勢は昔も今も変わらない。「お客様に真摯に丁寧に向き合い、的確にニーズを捉え、そして考えて考えてプランを提示している。若手社員にぜひ見習ってほしい」と上司である大出明・設計課長(51)も高く評価する。

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考えて考えてプランを提示していると大出明・設計課長は評価する

ものづくりに関わる職業を高校時代に志し始めた横倉さんは、大学で建築学を専攻した。集合住宅、小学校、商業施設などいくつもの設計対象がある中で、選んだのは住宅。「生活に密着し、日々の暮らしそのものが仕事につながることが魅力だった」。数ある住宅メーカーから積水ハウスを選んだのは、設計者が営業担当とともに顧客に向き合い、話を聞きながら家作りを進める仕組みに引かれたからだ。初対面の人とコミュニケーションをとるのは得意ではない。でも「会うことでお客様に喜んでもらえている、感謝されていることを実感できる。机で図面を書くだけの業務では物足りない」と進路を決めた。

横浜北支店に配属され、先輩に付いて仕事のイロハを学んでいた新人時代は、厳しさを実感する日々だったという。「知識も少なく、アイデアを練るための時間はあっという間に過ぎていった」。少しずつノウハウを学び、独り立ちする日を楽しみにしていた2年目には、CAD(コンピューターによる設計)を専門に扱い、ほかの人の図面を修正する部署に異動する。期待が膨らんでいただけに、納得できない面もあった。「今振り返ると、基礎的な技術を身に付けるうえで貴重な時間だった」

社内資格「CA」取得、評価受ける機会広がる

同期よりも1年遅く設計担当として歩み始め、海外まで図面を持っていってくれた施主との出会いを経て、5年目には建築課に。ここでの仕事は住宅展示場内の展示建物の設計と施工管理で、現場監督も務めた。作業をする職人さんたちと親しくなり、社内外の設計者や新築を考えるお客様など多くの人から評価をもらった。「個人住宅ではこれほど多くの人の目に触れることはない。社内から厳しい声も出たが、スキルアップしていくのが実感できた」。職人さんたちとの交流は今も続き、相談に乗ってもらうこともあるという。

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他部署での経験がスキルアップにつながった

非常に恵まれた環境にいたと思い返す横倉さんがもう一段高みに登れたと感じたのは、市街地中心部での3階建て住宅の設計だ。高層マンションに周囲を囲まれた立地。施主はプライバシーの確保と開放的な住まいという、相反する要望を持っていた。綿密に事前調査し、パートナーである営業担当者と聞き取った細やかなニーズやニュアンスももらさず取り入れ、打ち合わせを重ねながら、外部からの視線に配慮しつつ空への開放感を持たせた中庭を備えたプランを作り上げた。住宅メーカー5社が競合する中で、「設計の提案力」と「営業者の質」が評価され、受注に。「営業と設計が一丸となり、提案していくことの重要性を再認識しました」と強調する。

この市街地中心部で手がけた中庭のある3階建ての住宅は、横倉さんにさらなる成長を促すことになる。

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顧客を訪問する際には、担当した物件の作品集を持参

積水ハウスには、特に優れた技能を持つ設計担当を「チーフアーキテクト(CA)」と認定する社内資格制度がある。現在、社内で2800人以上いる1級建築士の中で、CAは235人。この狭き門に挑むにあたり、横倉さんは3階建て住宅をはじめ、代表的な建物をまとめて、応募した。「時期尚早という思いが強く、記念受験ぐらいの気持ちだった」そうだが、見事認定された。独創性がある物件を提案できるのがCA。自ら勝ち取るまでそう考えていたが、「お客様に寄り添い、基本的なことを一つ一つ丁寧に仕上げていくことで認められることが分かった」とほほ笑む。

CAという社内資格を得たことで訪れた変化は多い。例えば、研修や交流会に参加し、他人の作品を見たり、自ら手がけた物件について意見をもらったりする機会が増えた。住宅展示場の設計・建設に関わった5年目の時のように。「ほかの人の仕事ぶりをみると、自分のプランにはここが足りなかったと反省ばかりしている」と打ち明ける。多くの気づきがあり、いつも刺激を受ける日々だ。

結婚、出産後も設計を

社内有数の設計のスペシャリストなだけに、「横倉さんを」と希望する顧客が待ち構えている。しかも、要望が詰まっていたり、難しい条件を満たさなければならなかったりする案件が集まる。キャリアを重ね、自らの引き出しが増えても、悩む時間が少なくなるわけではない。「それだけに、難しい物件が完成したときの達成感は格別」

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チーフアーキテクトの証が胸に光る

仕事に対する気持ちも変わった。「資格に恥じないように」と、これまで以上に身の引き締まる思いで顧客に向き合うようになった。積水ハウスならではのシステム構法やオリジナル商品をベースに、希望のデザイン、こだわりをバランスよく組み込むCA。2年の有効期限が設定されており、取得後も高いレベルの仕事を続けて初めて、更新が可能になる。「取得するより、持ち続けることの方が難しいけれど、ずっとCAでいたい」と力を込める。

横浜北支店には横倉さんを含め5人のCAが在籍し、住宅展示場にはプロフィルを紹介するパネルが掲げられている。「ひとつの支店にこれほど集まるのは全国でも珍しい。営業担当は自信を持ってお客様にプランを提案できる」(大出課長)。プロフェッショナル同士が同じ職場で切磋琢磨(せっさたくま)することで、職場の実力も磨きがかかっている。

早くから人材のダイバーシティ(多様性)を掲げ、女性が活躍できる場を積極的に広げてきた会社だけに、出産で一時職場を離れても復帰し、第一線で再び活躍している社員は多い。横倉さんも「結婚して、出産した後でも設計の仕事を続けたい」と話す。自らのキャリアを考えてのことだけではない。顧客との打ち合わせでは子育ての話題も上る。今は実感がないが、経験をしていれば、依頼主の目線により合った、深い提案になる。そんな思いがある。大出課長も期待を込める。「収納、家事回りといった部分では奥様のご意見が重要になる。同性の目線で設計できることで、満足いただける住宅ができあがる」と。

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毎日が勉強。「後輩の目標になるような設計担当になれれば」

今年、横倉さんは「構造計画スペシャリスト」という社内資格も手に入れた。建築構造の知識などに優れているとのお墨付きを得たわけだ。そんな自分を目標にしてくれる後輩ができればうれしいとも話す。「私もきらきらと活躍している先輩を追いかけてきた。今度は自分がそんな存在になれれば」

引き渡しの際、「担当してもらってよかった」と声をかけてもらうことの喜びを幾度も味わうため、今日もベストのプランを練り続ける。「いい仕事・いい設計は次につながります」

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