STORY 日本能率協会 vol.5

異なる業務を次々経験、新たな発想を常に意識

日本能率協会 産業振興センター FOODEX JAPAN事務局
草柳 友美さん

製造業向けの研修に物流や食品関連の展示会の企画・運営。建設機械メーカーの子会社から転職した草柳友美さん(38)は、日本能率協会での10年で様々な業務を経験してきた。失敗もたくさんある。でも、過去にとらわれることなく、異なる視点を探し、新たな発想で取り組んできた。前例踏襲をよしとしない姿勢をこれからも貫く考えだ。

様々な人に巡り合いたいと転職

日本能率協会での初日は戸惑いばかりだった。

まず配属先だ。求人サイトの募集要項には「産業振興本部」「経営・人材本部」などの部署が紹介されていたが、草柳さんが配属された「生産マネジメント本部」は記載がなかった。職場は技術者を中心とした製造業向けの研修やシンポジウムを担当する部署。日本企業のものづくり力強化を目指しているという説明を受けた。「希望したのは展示会を手がける部署だったので、『何の仕事をするのだろう?』というのが正直な気持ちだった」と振り返る。

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出勤初日に参加した懇親会は参加者と会話の糸口がつかめかなったと振り返る

偶然、この日は外部の業界団体との会議・懇親会が開かれていた。きょうは懇親会に出席するように。上司から指示があったものの、大手企業の役員クラスや技術者が多い参加者と会話の糸口が見つからない。「聞いた単語もよく分からなかった」。激動を予感させるような出勤初日はこうして終えた。

建設機械メーカーの物流子会社で働いていた草柳さんが転身したのは、幅広い業務を経験し、多くの人と交流したいという思いからだった。以前の勤務先では入社して5年が過ぎ、取り組んでいたシステム構築の仕事が一区切りついた。周囲に女性のロールモデルが少なく、キャリアアップの道が見えづらくもあった。求人サイトで探すうち、目に留まったのが日本能率協会。取引先が多く、業容も多様な点に強く引かれたという。試験を経て、2007年9月に新たな社会人生活がスタートした。

初日の戸惑いにたがわず、新たな職場では草柳さんにジェットコースターのように急展開する日々が待っていた。製造業向け研修・シンポジウムの担当として最初は分からなかった用語や技術者が抱える課題などが見え始めた4年目、突然、展示会の企画・運営に業務は変わった。新たな業務は大型プラントで使われる機械のメンテナンス、コンクリート構造物の劣化を発見する技術など5分野だった。

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希望していた展示会部門への異動は突然訪れた

会場設営のために施工会社や電力・ガス会社と調整するなど、研修とはまったく異なる「プロジェクトマネジメント」という業務を経験し始めた直後、わずか8カ月で同じ展示会でも物流分野に担当が変わった。さらに1年後、再び製造業関連の展示会に呼び戻される。当時問題となっていた道路をはじめとするインフラの保守・整備をクローズアップするなど、チームリーダーとして1年奮闘。すると今度は、アジア最大級の食品・飲料専門展示会「FOODEX JAPAN(フーデックス・ジャパン)」と、女性目線での食品開発と販路開拓を支援する「FOODEX 美食女子プロジェクト」の担当に。入職6年で5つ目の異なる部署だった。当時は異動が比較的少なく、まして研修と展示会という2つの事業を経験した職員はほとんどいなかった。

斬新なアイデアを投入

この間、失敗や反省したエピソードは事欠かないと草柳さんは苦笑する。研修担当時代、あるベテラン講師を怒らしてしまったことがある。受講者のアンケートで書かれていた講師への批判をそのまま伝えてしまい、プライドを傷つけてしまったのだ。

長期の研修コースに参加した企業を訪ね、「何か気になる点があったらご意見ください」と軽い気持ちで話したら、教材に使われている工場のケーススタディーの事例、ビデオの画像とも古すぎるとの「重い」指摘をもらったこともある。「情報が漏れることを避けるため、工場をお借りしての撮影を許可してくださる企業は大変少ない。協力企業を懸命に探して、何とか作り直した」

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研修で招いた講師を怒らせたことも

展示会の企画・運営を手がけ始めた頃にも、ちょっとした一言で関係者を怒らせてしまったことがある。「上司と4日間続けて伺い、ようやく許してもらえた」。苦い経験もした。展示会業務は会期前になると急激に仕事が積みあがる。連日終電前まで仕事をしても終わらない。ようやく本番を迎え、会場を巡回していると、出展者から「すごく疲れた顔で歩いていますね」と指摘された。開幕前の慌ただしさ、時間のなさは出展者も同じ。「展示会が初めてとはいえ、主催者がこれではよくない」と悔やんだという。

嫌な体験をすれば、人は慎重になり、前例を踏襲しがちになる。しかし、草柳さんは違う。「前年に行っていたことを繰り返していては、発展しない」と常に前を向き、業務に新たなアイデアを加えてきた。

製造業向け研修を手がけた際には、海外移転した工場でのマネジメントを学ぶセミナーを始めた。日本流を持ち込むべきか、現地採用の管理者に任せるべきか、いち早く海外進出した企業に具体的な事例と対策を紹介してもらった。「多くの企業が悩んでいたので、タイムリーだった。私も勉強になった」とほほ笑む。物流の展示会では、ヤマトホールディングスと全日本空輸が那覇空港(那覇市)内の国際物流基地を活用し、生鮮品の海外輸送を始める取り組みを大きく取り上げ、注目を浴びた。当時広がり始めた3Dプリンターに焦点を当てた新企画をチームと一緒に立ち上げたのは、2度目の製造業向け展示会担当でのことだ。

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仕事の繁閑の調整も少しずつできるようになった

ここまで自分のアイデアを打ち出せたのは、環境にも恵まれたとみる。「企画や登壇交渉、運営に至るまで、日本能率協会では担当者にすべて権限が与えられているから、思い切って進められる」

展示・運営法を惜しまずアドバイス

目まぐるしく変わった6年を経て、FOODEX、美食女子担当はもうすぐ5年目に入る。日本能率協会主催の事業では最大規模のイベントに、草柳さんは失敗から得た学びと、経験から生み出したアイデアを注ぎ込んでいる。

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FOODEX JAPANの担当はもうすぐ5年目に(2017年のプレスイベント)

華やかで、女性も引きつけるイベントだが、出展者は小規模だったり事業を始めたばかりだったりといった企業も多い。まとまったお金を投じてブースを出して、事業の新たな展望を開きたいとの切実な思いが透けて見える。だからこそ、時間が許す限り、こんな展示法、こういった運営方法がいいですよとアドバイスをする。「会期後に新しい取引先を開拓できたと言っていただけることが、なによりのやりがいになる」。来場者から「欲しかった商材が見つかった」という声を聞くことも、心躍る瞬間だ。

イベント全体が盛り上がるような仕掛けも取り入れてきた。テレビ番組で取り上げてもらえるように働きかけ、出展企業や来場者への密着取材を実現。朝の情報番組で紹介された食材は3カ月分の売り上げをわずか数時間で達成したそうだ。広い会場で目当てのブースに短時間でたどり着けるように、今年は地図機能を備えた専用アプリを導入する。

美食女子では知名度を上げるために、モデルの朝比奈彩さんをアンバサダーとして起用。朝比奈さんに憧れる女性に美食女子を知ってもらおうとしている。一連の取り組みが奏功すれば、女性目線で開発する商品がもっと広がり、食がよりバラエティー豊かになるとも信じている。

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「常にアンテナを張り、新しいことに挑戦する」

昨年、草柳さんは自己研さんに振り向ける時間を増やした。事業を一段と大きく育てるため、経営の基礎が学べるセミナーに参加したのだ。常にアンテナを張り、新しいことに挑戦できるよう様々な場所に足を運ぶようにもしている。「そうでないと、知らず知らずのうちに内輪の論理、経験した方法でこなそうとしてしまうから」。目線を高く持つ草柳さんがリーダーを務めるFOODEX JAPAN 2018は3月6日、開幕する。

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