STORY ECC vol.5

英語使える日本人を少しでも、長年の課題に新プログラムで挑む

ECC 外語事業部運営センター
加藤 由希子さん

グローバル化、IT化が加速し、過去にないほど英語の重要性が増している。にもかかわらず、それとも「だから」だろうか、苦手意識を抱える日本人は減らない。ECC外語事業部運営センター関東管区教務研修チーフの加藤由希子さん(42)は英語で世界中の人々とコミュニケーションを取れる人材を育てるべく、奮闘している。自らも立ち上げに加わった、「使う」ことに重点を置いたプログラムを引っ提げて。

和製英語OK、言葉の理解や考えの伝達重視

「用意してきたリハーサルシートを参考にしながら、早速、海外からの観光客にお薦めの日本の街とその理由を説明してみましょう」。ECC BiViつくば校(つくば市)の「ENVISION」コースで加藤さんは切り出した。詰まりながら、間違えながらも、懸命に話す生徒。4月から始まったこの新コースで、加藤さんは講師向けの研修の企画・運営に加え、教壇にも立つ。

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加藤由希子さんは新コース「ENVISION」の講師も務める

ENVISIONは英語を「習う」のではなく「使う」ことを重視する。生徒はテーマに沿って自分が話したいことを「事前学習」で用意し、レッスンに出席する。授業は日本人講師の主導でクラスの仲間とひたすら会話。そこで見つけた表現法などを「事後学習」し、外国人講師と実践的なレッスンに挑むことになる。

ビジネスをはじめ、英語でやりとりする場面が急速に広がるのと歩調を合わせるように、会話したり、情報交換したりする相手がネーティブスピーカーではないことが多くなってきた。そこでは「正しい」ことが何より優先されるわけではない。

間違っていても、和製英語が入っていてもいい。相手の発言を理解し、こちらの思いを伝える英語の「ユーザー」であることがこれまで以上に求められている。ECCはそう判断し、新たなプログラムを立ち上げた。当初から研修事業を任された加藤さんは、講師に発想の転換を求めた。「正しく話してもらいたいという意識がどうしても強い。間違ってもいいと理解してもらうために苦労した」と振り返る。

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外国人講師と日々コミュニケーションをとり、よりよい教え方を研究

発想を転換「授業を楽しむ」

英語教育の最前線に立ち、講師と、生徒と向き合う加藤さん。ECCでのキャリアを始めたのは今から約20年前のことだ。好きだった英語をしっかり身に付けたいと、高校卒業後に米ボストンへ留学し、卒業後は現地のホテルでフロントの仕事に就いた。与えられた労働ビザは1年。継続も考えたが、手続きはかなりハードルが高い。再び渡米できる機会を待とうと、一旦帰国し、地元福岡で就職先を探した。「英語を生かせる仕事といえば英会話学校かなと、単純な動機で応募した」と笑う。

複数の企業を受ける中でひかれたのがECCだった。「誰もがリラックスした感じがあり、やわらかい雰囲気を醸し出していた」。ここなら面白く働けると感じたという。

入社するとすぐ、最初の壁が訪れた。同社では新任講師に45時間に及ぶ研修を経たうえで教壇に送り込んでいる。加藤さんも例外ではない。「それでも、実際にクラスに立ってみると戸惑いしかなかった」。米国時代と同じ調子で話していると「あの先生は何を言っているか分からない」と運営スタッフに苦情が。英語でも日本語でも、ほとんどの人は日常会話で口をはっきり開けず、発音、スピードも気にせず話す。加藤さんも普通に話しただけなのだが、伝わらなかった。口をしっかりと開き、発音をクリアにして、言葉に強弱をつけるように気を付けても、生徒たちとの微妙な隙間は残った。

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「向いていない」と入社半年で退職を考えたことも

「話すことと教えることはぜんぜん違う」。自分は向いていないのではと悩み、入社半年で辞めることも考えたという。思いとどまったのは「年度途中で退社するのも嫌。だったら教えることを楽しんでみようと切り替えた」から。生徒をもっと知るために質問を投げかける、研修で教えてもらった手順を守ることにきゅうきゅうとしない。すると、クラスの雰囲気はガラッと変わり、授業が終わってから皆で食事に出かけるほど、団結力も強まった。「技術が急に高まったわけでも、知識がすぐに身に付いたわけでもなかったが、教えることの楽しさが少し分かった」。退職の文字は頭の中から消えた。

考え方を押し付けない指導

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英語を学ぶ楽しさ、分かる楽しさを伝えることが大事と痛感している

講師という職業の魅力を本当に実感したのは、それからしばらくして。受け持った「TOEIC L&Rテスト対策」のレッスンに、ある女子生徒がいた。文法が不得意で、加藤さんの目からも苦手意識が手に取るように見えた。興味が湧くためにはどうすればよいのか。問いかけを工夫するなどしていると、ある日、彼女からポロっと言葉がこぼれた。「英語って楽しい」

分かると楽しくなり、学ぼうという意識が生まれる。自ら学ぼうとする「自律する学習者」になって初めて、英語に限らず様々なことが身に付く。「週1回のレッスンで私たち講師ができることは学ぶ楽しさ、分かる楽しさを伝え、モチベーションを維持し続けること」。仕事の本質が確認できた瞬間だった。

講師としての経験を重ね、「教える」能力が周囲にも伝わると、加藤さんに新しいステージが打診された。勤務する学校の講師たちを取りまとめ、教え方をアドバイスする「リーダー」だ。一度は断ったが、仕事の幅を広げてみたいと受諾。業務が加わると、ここでも頭を抱える場面に直面した。自分が教えていないクラスの生徒の満足度をどう上げればよいのか、と。

授業を視察して気付いた点を指摘したり、運営スタッフと協力して生徒の感想を拾い上げたり。講師とも常に会話し、悩みやうまくいったことを聞きだした。地味なことを一つ一つ。その際、これだけは注意したという。「考えは押し付けない」。自分よりベテランもいる。経験を尊重しながら、より優れた教え方を一緒に探した。

リーダーとしての実績を重ね、次に回ってきたのが九州エリアに勤務する講師の研修を一手に担う「トレーナー」だった。

新任講師に基礎から「教え方」を伝授する役割。プログラムはすべて決まっており、トレーナーは繰り返し基礎を教えることになる。「でも、実際に生徒の前に立つ本番はまったく別。私もそうだったが、最初はやるべき手順をこなすだけで精一杯になってしまう」

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自らの経験を踏まえ、指導法を熟慮する

受け持つ生徒の英語の実力、問いかけた際の答えなど、どれも生徒と向き合ってこそ初めてつかめる。だからこそ、ノウハウを取得したうえで、「まず生徒の一挙一動をしっかり見てください」と伝えた。「そして、自分自身がまずクラスで、授業を楽しんでください」。クラスの雰囲気が一変したあの経験を思い浮かべながら。

日本人講師にはこうも話す。「求められるのは生徒のロールモデルになること。日本人でこれだけ身に付けたという目標であってほしい」。身につけたノウハウをしっかり教えることは、生徒にも必ずプラスになる。ただ、これだけは言い添える。「決して自分のやり方を押し付けないで」と。

英語の上達、特効薬なし

2015年には初めて郷里を離れ、大阪の本社に勤務した。担当は外国人講師の海外採用で、ビザ取得の手伝いといった実務が中心だった。日本の年金制度、健康保険制度の説明といった専門的な話はもちろん、時間厳守が求められるので遅刻はダメといった生活態度も――。「これも教えなきゃいけないんだ」と戸惑い、苦笑いを浮かべたそうだ。

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「少しでも英語を使える日本人を育てたい」

ENVISIONの立ち上げにあわせて講師向け研修の設計に携わった後、今年4月からは東京に職場を移し、教務・研修チーフを始めた。今度は各エリアにいるトレーナーのまとめ役。一人ひとりがスキルアップできるようなプログラムの開発や、ほかの2人のチーフトレーナーと連携しながら全体のレベルを引き上げている。ENVISION向け研修にも引き続き携わり、プログラムの見直しを進める。あわせて、教壇にも立つ。「教室で教えてこそ見えることもある」と考えるからだ。

英語は日本語と共通部分がほとんどなく、そもそも学ぶことが難しい言語。そこにできないという思い込み、間違ったら恥ずかしい・ダメという「メンタルブロック」が立ちはだかる。高い障害を乗り越えて上達・会得するには、英語に触れる時間を増やし、少しずつ精神的な壁を取り除くしかない。「特効薬はない。地道にやっていくしかない」と加藤さんは思う。「その結果、世界の共通言語といわれる英語を実用的に使える日本人を少しでも多く世に送り出せれば、私たちの存在意義がある」

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