STORY 東京海上日動火災保険 vol.25

自然災害時の対応力磨く、山形県沖地震で対策室を切り盛り

東京海上日動火災保険 東北損害サービス部
加美山 玲衣さん

地震、台風、豪雨などの自然災害が頻発する昨今、損害保険会社の果たす役割が一段と注目されている。東京海上日動火災保険の加美山玲衣さん(36)は仙台を拠点に東北エリアの災害対応などを担当。今年6月の山形県沖地震では、各地から社員が対応の応援に駆け付けるなかで、保険金支払い対応の拠点となる災害対策室の事務局を担った。多くの被災者が出る自然災害では、正確かつ迅速に保険金を支払うことが課題となる。これまで自らが各地で経験した災害応援が対策室の運営に生かされた。

山形県初の震度6の地震、災害対策室を設置

2019年6月18日22時22分、山形県沖を震源とするマグニチュード6.7の地震が発生した。新潟県村上市で最大震度6強、山形県鶴岡市で6弱を観測。山形県内で震度6以上を観測したのは初めてだった。東京海上日動で山形など東北6県にある損害サービス拠点を統括する東北損害サービス部(仙台市)は、地震発生から間もなく、被災家屋などの損害鑑定をする災害対策室を鶴岡市に、保険金の支払い対応をする災害対策室を仙台市にそれぞれ立ち上げた。

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加美山玲衣さんは東北6県の損害サービス部門全体の業務をサポートする

加美山さんは東北損害サービス部に2人いるアドバイザリースタッフ(略称AS=アズ)の1人。損害対応実務の第一人者として部長を補佐し、会社の施策や部の方針を組織全体に浸透させ、推進する役割を担う。有事には災害対策室の運営を行う。山形県沖地震では仙台の対策室を担当。「地震被害に遭われたお客様からのご連絡を受けられる態勢を急いで整える必要がある」と、19日朝から対策室となる会議室の確保やパソコンなど必要機器の配備手続きなどを進めた。

仙台の対策室では、被災した契約者からの申し出内容を確認し、保険の対象かどうかを判別してから、鶴岡市の対策室にいる鑑定人に損害確認を依頼する。さらに現地からの鑑定結果を受けて、保険金を契約者に支払うまでの業務を担当する。初日に受けた申し出件数は約70件。災害発生後に集中する案件を正確かつ迅速に対応する必要がある。メンバーは火災保険の担当課7人のほかに、他拠点から派遣される応援社員5人、臨時スタッフ2人の計14人で構成した。

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もう一人のアドバイザリースタッフの小野寺紗弥香さんとは緊密に情報を交換する

対策室全体を指揮する加美山さんはメンバーの役割分担の調整、業務フローの策定、チェックシートの作成などを実施。応援社員は原則1週間ごとに入れ替わるため、保険金支払い手続きを正確かつ円滑にするために特に意識したのが「メンバー間の情報共有と2カ所の対策室の連携」という。それは自らが過去に派遣された自然災害の応援経験に基づくものだった。

京都、東京、大阪へ 相次いだ災害対応の応援

加美山さんは入社から11年間は福島県内で自動車保険の損害サービスの実務を担当。結婚を機に17年4月に仙台に異動し、ASに任命された。初めて自然災害対応の応援を経験したのはその年の11月。台風で大きな被害を受けた京都へ1週間赴き、現地で保険金支払い対応の実務を手伝った。翌18年は大阪北部地震や西日本豪雨、北海道地震など列島で自然災害が相次いだ年。加美山さんは7月に、大阪北部地震のバックアップ拠点となった東京の対策室に2週間派遣された。応援2回目となったこの時は、保険金支払い対応のデータ入力などをする約30人の事務スタッフをまとめるリーダー役を担った。

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自然災害の応援経験を重ね、アドバイザリースタッフとしての有事の際の立ち回り方を学んだ

9月には台風21号で関西国際空港が浸水し、タンカーが強風で流され連絡橋に衝突するなど甚大な被害があった大阪へ飛び、現地のASと一緒に対策室の立ち上げに携わった。常時100人程度がいる大規模な対策室で、全国から応援社員が入れ代わり立ち代わり派遣されてくる。損害サービス対応の経験がない営業部門などの社員も多く「業務内容のガイダンスや引き継ぎができていないと、業務がスムーズに進まない」ことを痛感した。

大阪の対策室には結局、9月から12月まで毎月1週間ずつ計4回応援に出動した。毎回、異なる課題に直面するなど、規模の大きな災害だけに混乱することもあったという。ASとして対策室の業務フローを見直したり、更新した情報をメンバー全員が共有できる仕組みを整えたりするなどの対応に追われた。このときの延べ1カ月にわたる経験は、その後の災害対応につながる貴重な糧になる。

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加美山さんは清水隆仁東北損害サービス部長(左)を補佐する役割を担う

「対策室の業務フローは、立ち上げから収束までを意識して作成する必要がある」。山形県沖地震の対策室で自らが事務局となった加美山さんは、メンバー全員が情報共有できるように社内のポータルサイトを作成。保険契約者から申し出があった全ての事案について、受付から支払いに至るまでの各段階でデータを入力する統一ルールを決め、各事案がいま、どんな状態にあるかを全員がひと目で確認できるようにした。対策室は1カ月余りの間に500件近い保険金請求に対応し、7月24日に無事役割を終了。清水隆仁東北損害サービス部長は「応援社員の役割分担など、対策室をよく切り盛りしてくれた」と加美山さんをねぎらった。

1本の電話が高めた使命感、「平時からの備え」を意識

災害対応に当たって、加美山さんには忘れられない出来事がある。京都で初めての応援をしているときに受けた1本の電話だ。「無事に保険金を受け取りました。すぐに家を修理することができ、本当に助かりました」。ヘッドセット受話器の向こうの女性からこう伝えられた。次から次へと入ってくる事案対応に追われるなかで、不意に受けた感謝の言葉。あまり考えることがなかった仕事の意義とやりがいを思い起こした。「お客様にお役に立てたことを実感できた瞬間だった。いざという時に安心を提供する保険会社の使命感が心の中で高まった」

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保険会社の意義を心に留めて、日々の仕事に取り組む

加美山さんがそんな使命感と応援経験から意識するようになったのは「平時からの準備」。災害が起きてから対応を考え始めるのでは遅い。いざという時の業務フローを考え、策定しておく必要があると動き出した。山形県沖地震での対応が順調だった一因に、東北で災害が起きた場合のアクションプランの策定作業を進めていたことが大きかったという。例えば営業部門との連携。大きな災害時には損害サービス部門だけでは対応しきれないため、営業部門などの協力は欠かせない。東日本大震災は全社を挙げて乗り切った経験から、どの社員にも連携の意識はある。有事にそれを生かすため、保険金支払い対応の勉強会を開いたり、災害対応のツールを作って提供したりする取り組みを進めていた。

さらに最近はデジタル技術への対応も意識している。会社全体で業務のペーパーレス化や新しいデジタルツールの導入が進みつつあるなか、「使い慣れていないと、いざという時に現場は混乱しかねない」と加美山さん。災害対応で利用できる新しいツールを会社が導入すると、できるだけ多くの社員がその使い方を学ぶ機会を増やすなどして、平時からの備えを常にアップデートしていく必要があると考えている。

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人材育成も重要な役割。後輩社員とは積極的にコミュニケーションを図る

「社会人2年目の壁」、乗り越えられた理由

災害対応のほかに、ASの重要な役割として若手社員の育成がある。加美山さんが後輩に接する姿を傍らで見ている清水部長は「感性が高く、人の機微を察してよく気付いている」と周囲を気遣う力を評価する。人の前に出てぐいぐいと引っ張っていくタイプではない。柔らかな雰囲気で、周囲から慕われる存在という。「困ったときに相談しやすい先輩。よく声をかけてくださる」と話すのは後輩の菅澤陽子さん。若手社員に見せる姿は、加美山さん自身が目標とする先輩の姿が手本になっているという。

加美山さんは入社2年目、仕事の流れを覚えた頃に壁にぶつかった。1年目は無我夢中であっという間に過ぎたが、自分を客観視できるようになると「お客様への説明や事故相手との交渉がうまくできないことに気づき、落ち込むことが多くなった。ストレスをすごく感じていた」という。そんな時に支えてくれたのがチームリーダーだった先輩社員。「相談に行けばいつも明るく迎えてくれ、席に戻る時には『お疲れさま』と必ずねぎらいの言葉をかけてくれる。自分がつらい時には、よく気付いてくれて声をかけてくれる。つらい時期を乗り越えられたのはその先輩の存在が大きかった」

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「今のアドバイザリースタッフはとても貴重な経験。これからのキャリアに生かしていきたい」

今は自らが若手社員の育成に携わる立場になり、心の支えになった先輩と同じように後輩たちを支え、育てていきたいと強く思っている。自然災害が発生した時の対応、後輩たちの育成――自身が積み重ねた経験を組織に生かし、次代につなげていく姿勢はこれからも続いていく。加美山さんは足元を踏みしめながら、キャリアの道を前へ前へと歩んでいる。

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