日経ウーマノミクスプロジェクト 組織に新たな風を吹き込む女性たち。しなやかな働き方に輝く社会へのヒントが詰まっている。 日経ウーマノミクスプロジェクト 組織に新たな風を吹き込む女性たち。しなやかな働き方に輝く社会へのヒントが詰まっている。

育児や介護「包み込む」組織目指す――女性店長、2年目の挑戦

金森さんは日々の何気ない対話から、部下の小さな変化を見つける

 「貴重な戦力になってくれているな」。積水ハウスで赤羽店(東京・北)の店長として2年目を迎えた金森悠江さん(32)は最近、部下の成長を実感できる出来事があった。入社4年目の女性社員が契約した賃貸併用住宅が、無事に顧客へと引き渡されたのだ。

 この女性社員とは赤羽店に来る以前にも、一緒に仕事をする機会があった。彼女が契約したのは、金森さんが店長になって間もなくのこと。夜遅くにまで及ぶ契約の折衝、着工後の予期しない出来事、それらを金森さんに相談しながら粘り強く丁寧に対処していった。独り立ちするために必ず経験する営業の厳しさを、部下は力をつけながら乗り越えていった。

■明るく会話の絶えない雰囲気を重視

 店長になってからのこの1年、金森さんはほかに2人いる部下の営業にも同行し、自分がこれまで経験してきたことを伝える作業を繰り返した。「店長として恥ずかしくない実績を残すのは当たり前」と、自身の営業も時間を効率よく使いながら取り組んだ。今では自分の仕事は軌道に乗り、部下の成長も感じられるようになった。「ようやく先を見据えてマネジメントできる環境になった」と金森さんは話す。

 上司として、決して厳しく指導するタイプではない。「明るく何でも言い合える雰囲気を大切にしている」と金森さん。部下の言葉の端々から小さな変化を感じ取り、気になれば相談に乗る。店長の権限では対応できない課題があれば、すぐに上司に相談する。「男性上司の職場にはない、家族的な雰囲気なのでしょうね。気がつけばお母さんみたいに話を聞いている自分がいる」

 もちろん優しいだけではない。「それぞれの役割は責任をもって果たしてもらうのが前提」だ。「全員が個人事業主のように仕事をする組織にしたい」と、部下には常に話す。オフィスの壁には個人成績表を貼ってある。動物などをデザインして見た目はかわいらしいが、契約金額や契約棟数など様々な切り口で成績を比較できるようにした。「組織としての目標を達成するために、個々に何が足りないか明確に示したかった」と金森さん。「だけど、ありきたりな棒グラフではなく、楽しくなるよう工夫したい」と、部下や女性スタッフと一緒に考えた。

■金森さんを店長に選んだ理由

宮島さんは金森さんに「組織の力を今まで以上に引き出す可能性がある」と期待する

 赤羽店を管轄する東京北支店の宮島高暢支店長(54)に金森さんを店長に指名した理由を聞いてみた。「組織の力を今まで以上に引き出す可能性があると思った。1足す1を2ではなく、4にも5にもするような」。宮島さんは理路整然とこう話した。店長にしても周囲が納得するだけの営業実績を残していたから、決して女性管理職の数を増やす目的で選んだわけではない。ただ女性リーダーならではの成果を期待させてくれる人材だった。

 店長にすると決めたのは辞令を出す1年前だという。宮島さんは金森さんにマネジャーとして必要な心構えをじっくり、時には厳しく伝えた。「若いし、足りない部分はあるかもしれない。ただ、それを支える組織をつくるのは私の仕事」。店長2年目に入った金森さんには「組織の課題などを現場から見つけ、率直に指摘してくれるので助かっている。頑張りすぎるタイプなので、部下を育てうまく任せていってほしい」とエールを送る。

 金森さんにとって宮島さんは目標とするリーダーだ。「部下に対し自分たちが何をしなくてはいけないか、何が足りないのか、データで示して動かす。いつもは優しいが、時には厳しく叱る。本社に掛け合って現場の課題を解決してくれることもある」。女性らしいデザインの成績表は、宮島さん流のデータを使った「目に見える経営」を金森さんなりに実践したものだ。

■大切な人に寄り添う時間、尊重できる組織に

「マネジメントを本気で学びたいと思うようになりました」と金森さん

 マネジメントの醍醐味を感じ始めた金森さんが思い描く、理想の組織とはどんなものだろうか。そう問いかけると、金森さんは言葉を選びながらこう話してくれた。「ライフステージの変化とともに、仕事より大切な人との時間を優先しないといけない時期が誰にでも来る。それを尊重した上で、効率を上げて成果を出す。そんな組織でしょうね」

 出産・育児、それに介護もそうだろう。人生には大切な人に寄り添う時間が必要なときがある。それを乗り越えて働き続けられる組織にするには、社員一人ひとりの意識を変え、業務の効率化を極めなくてはならない。言葉にするのは簡単だが高い目標だ。だから金森さんは部下に対し常に「個人事業主のようになって」と自立を促し、日々の何気ない会話の中でも「みんな早く帰れるように、仕事のやり方を変えてみようよ」と提案をし続ける。

 そして金森さんは最近、部下たちに「私もいつか結婚して、出産をする日がくるから。そのときはよろしくね」と話をしている。「子どもが生まれれば、どうしても仕事は離れなくてはならない。そうなれば後は入社4年目の二人に託すしかない」と、休暇後の体制についても具体的に考えている。

 リーダーだって仕事を離れなくてはならないライフステージがやってくる。金森さんのように若くして、結婚する前にリーダーになる女性が増えればなおさらだ。そう意識させることが、部下の成長の後押しになる。そんな思いも含んで話をしたのだろう。

 金森さんが育児休暇に入るころ、部下はどんなにたくましくなっているのだろうか。育児休暇から復帰した金森さんは、リーダーとしてどんな道を歩んでいくのだろうか。金森さんのような女性リーダーが増えた積水ハウスという会社は、どう変化するのだろうか――。取材を終え、これからのことに思いをめぐらしていたら支店長の宮島さんの言葉に行き着いた。「組織の力を今まで以上に引き出す可能性がある」。なるほど、そういうことか。

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