STORY シード vol.1
学ぶ気持ち常に抱き、自分を磨き、職場を変える
- シード カスタマーサービス部係長
- 保科 千晴さん
2019.02.12 掲載
ずっと学び続ける。そして、目標に向けて一歩ずつ進んでいく。シードのカスタマーサービス部で係長を務める保科千晴さん(35)は、強い意志で仕事に取り組んできた。幼い頃の夢、パティシエを目指していたときも、そうだった。今も姿勢は変わらない。様々な知識を吸収し、自分を磨く。目標は、より魅力的な職場、会社にすること。
相手に寄り添う電話応対
「細かな点にも配慮が行き届いていると、お客様が電話での応対をほめていたよ」。エリアマネジャーと呼ばれる営業統括者から聞いた一言に、保科さんは自信を深めた。必要なことだけを効率的に伝えるのではなく、できる限り相手に寄り添い、質問以外にも不明点がないか丁寧に尋ねる。会社での研修を踏まえ、意識して変えてきたことは間違っていなかった。「最初はこれでいいのかなと不安な気持ちもあったが、方向は正しいと確信した」
取引先からのコンタクトレンズ・関連品の注文や問い合わせに、電話で応対するカスタマーサービス部。顔を合わせることはなく、声だけでつながる職種だ。相手の表情が見えないだけに、本当に喜ばれているのか判断しにくい。そんなハンデをひらりと乗り越えた。
「仕事のためにも、学びたい」。保科さんのモチベーションはここに凝縮している。シード入社前、パティシエを目指した当時も変わらなかった。そして、夢を諦めた原因にも深くかかわる。
幼い頃からケーキが好きで、自分で店を開きたいと、高校卒業と同時にケーキづくりの道に入った。店舗で基礎を習得し、次に接客マナーを体得するため、レストランへ。一通り身に付け、さらにフードコーディネートにも挑もうとした時、壁にぶつかってしまった。
「当時は教えてくれる場所が少なく、どうすべきか悩んでしまった」と振り返る。ここでつまずくぐらいなら、店を持つなんてできない。パティシエの道は諦めよう。決断したのは25歳だった。
目標がなくなり、これから先はどのような道を歩むのか。保科さんは悩んだ末に、派遣会社に登録し、事務職を始めることに決めた。働くことが好きで、独身時代は休みが月2回、1日何十時間という長時間労働もいとわなかった。でも、「これからは自分の生活も大切にしたい」と、勤務時間が決まっている職場を希望した。紹介されたのが、シードのカスタマーサービス部だ。
実は働き始めると、違和感が生まれたという。レストランでの接客術が役に立ったこともあり、電話での応対はすぐに慣れた。ただ、問い合わせへの返答に際し、営業担当者に多くを頼ることに物足りなさがあった。「もっと窓口としてできることがある」。派遣社員であり、提案する立場にない。理解はしつつ、何かスッキリしなかった。
抜け落ちた記憶
一方で、シードの自由な社風はどんどん心地よくなっていた。派遣期間が終わり、契約社員を打診された際、ためらうことなく続ける道を選んだのは、自然な流れだった。
契約社員として経験を積むうちに、求めていた「学ぶ機会」も訪れた。正社員以外にも社内研修を受講できるように。そんな上司の計らいで、電話応対の勉強に加わった。応対レベルを調べる外部検定では、初回こそ成績が悪かったが、研修を経て2回目に挑戦すると大幅に改善した。「もう少し勉強してみたい」。福利厚生の一環として用意されている通信教育を始めるまで、時間はかからなかった。
スキルを磨く保科さんを評価し、2013年に会社から正社員の打診が舞い込むと、今度も迷わず受諾した。学ぶ機会は一段と広がる。さらに「自分の手で、営業に頼り過ぎないカスタマーセンターにする」ことも可能と考えた。「営業に任せなければいけないこともある。ただ、製品ガイド、パンフレットに記載されているレンズの特徴やお薦めのケア用品を紹介するといったことは、私たちでも問題ない」
正社員登用という仕事の転機とともに、プライベートでも幸せが舞い降りる。1人目の子どもの誕生。仕事を辞めることは考えもせず、「育児休暇を終えて復帰したら、また頑張ると張り切っていた」。なのに、思わぬ問題が立ちはだかった。育休明けに出社すると、仕事の手順が頭からすっぽり抜け落ちていたのだ。
記憶力には自信があり、「特別な対処が必要なことも覚えていた」。でも、データ処理の方法といった日々普通に手掛ける手順の一部が、抜け落ちる。焦り、悩む。逆境が逆に気付きをもたらす。カスタマーサービスという業務は記憶力が必要となる。多くの案件で、先輩の助言を求めることも。「今後、私のように困る人も出てきかねない。何かを参照して、可能な範囲で誰もがすぐに対応できる応対ツールがあれば、問題は解消できるはず」と。
すぐに上司に相談し、職場の仲間に声をかけ、応対ツールを作り上げていった。パソコンで検索すると、返品時の対応策などが具体的に表示され、顧客からの質問に迅速に返事ができる。さらに、ミスを削減するため、間違いやすい事例を集め、共有すると、部署全員の応対の質が上がった。
リーダーシップを身に付ける
仕事の最初の壁を部署の変革につなげた保科さんは、自分の勤務方法も変えている。子育てとの両立を考え、短時間勤務を利用。平日は優先順位をしっかり付け、自分一人で進められる業務はフルタイムで入る土曜日の勤務中に。不在でも同僚が困らないように、情報の共有を心掛けた。それでも、「復帰後1年ほどは慣れずにつらい思いをしたこともあった」と打ち明ける。
試行錯誤する中で自分なりの仕事法を築くと、新たな取り組みにも乗り出した。その一つが電話応対の会話の流れをまとめたマニュアルの整備。業務をしながら学ぶという従来のスタイルを改め、統一したマニュアルを部署全員が学ぶようにすると、応対水準は向上した。新たなメンバーが入った際の教育ツールとしても有効に機能した。
やがて2人目の子宝にも恵まれ、再度の産休、育休に入る。18年4月に復帰すると、また新たな活躍の場が用意されていた。新入社員の教育担当。自ら整備したマニュアルを片手に、少しでも早く戦力となってもらうべく、アドバイスする日々のスタートだ。
5月には社内の働き方改革のプロジェクトチームに抜てきされ、手始めに工場での職場環境の整備、見直しを進めた。介護、出産といった休暇がスムーズに取得でき、しかも生産性を上げる工夫はないか、6人のメンバーで議論している。「女性が多いなど、カスタマーサービス部と似た部分は多い。これまでの経験を生かせる」。保科さんは力を込める。
10月には、係長に就任した。名実ともにリーダーとして、部署を引っ張る役目。取引先からの注文を受け、製品を発送するまでの一連の過程を、部署全員で滞りなく完成させる。チームワークが求められる職場ゆえ、「いかにコミュニケーションを取るか、同じリーダー職にいる4人とともに考えている」。
多様な業務に携わる中で、もちろん、学びを忘れてはいない。電話応対の研修、技能検定は引き続き受講するとともに、リーダーシップを体得する学習もしたいと上司に相談し、外部研修を利用することを企画している。「通勤時間中や子どもを寝かしつけてから勉強している」。そう話す表情は充実しており、多忙な毎日に追われる様子はない。
「今後のキャリア形成はそれほど深く考えていない」。保科さんはそう話す。後からついてくるものと考えるから。それよりも、「部署、会社がよりよい方向に進むことが大切」。その視線は高く、言葉には力が満ちていた。