STORY 東京海上日動火災保険 vol.23

科学技術振興と損保営業、つくば市出向で越えたキャリアの壁

東京海上日動火災保険 茨城支店茨城南支社
中山 沙緒里さん

「仕事を通じて自分を成長させたい」。東京海上日動火災保険茨城支店の中山沙緒里さん(32)は働くことの意義をこう考えている。入社以来、損害保険の営業を主に担当してきたが、30歳の時につくば市役所に出向。全く畑の違う科学技術振興の業務に1年間携わった。異文化の仕事は自らの思考スタイルに変化をもたらし、キャリアの壁を越える成長経験となっている。

人見知り、だからこそ営業に挑戦し自分を変えたい

中山さんが東京海上日動に就職したのは、地元・茨城で働けること、女性活躍推進に熱心だったことが決め手となった。学生時代、会社説明会に登壇した女性社員が生き生きと話をしている姿に触れ、「自分もこの会社で長く働きたい」と思ったという。自らの性格を「人見知りで引っ込み思案」と分析する。だからこそ、女性社員が事務だけでなく、これからは営業にもどんどん出ていくようになるという会社の方針も魅力に感じた。「営業の仕事に挑戦して、自分を変えたい」との思いがあった。

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「地元で働き、地域に貢献したい」。中山沙緒里さんは転居を伴う転勤がないエリアコース社員として東京海上日動火災保険に入社した

入社後、茨城南支社(つくば市)に配属され、2年間は営業事務を担当。3年目から保険代理店の営業担当となった。先輩社員の指導を受けながら、担当する代理店を回って経営を支援する。営業の基礎を覚えながらの1年目。希望した営業職だったが、実際に担当してみると「やっていける自信が持てなかった」と見えない壁にぶち当たった。

「経験不足、勉強不足、知識不足です。担当した代理店さんのほうが保険について詳しい。自分が何をしたらいいのかが見いだせず、苦しかった」。当時はまだ女性の営業担当が少なく、身近にロールモデルがいなかった。指導役の先輩社員の営業手法や行動をそのまま模倣するのも容易ではない。自分はどのようなスタイルで営業に取り組めばいいのか――営業1年目はいつも悩んでいたという。

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営業職に挑戦し、自分の殻を破りたかったが・・・

「もっと代理店さんを知りたい」社員一人一人に声かけ

変化が起きたのは営業3年目に入った頃。それまで担当代理店との関係は管理職と面会するばかりだったが、「もっと代理店さんのことを知りたい」との思いから、接点が少なかった現場の社員たちにも積極的に声をかけることを始めた。「人見知りだから最初は不安で緊張する。今でもそれは変わらない」。しかし勇気を出して行動を起こすと、多くの社員との会話を通じて色々な情報が入るようになった。会話が楽しくなり、営業が面白いと感じ始めた。

営業の魅力を知り、代理店とのパイプが太くなると、営業成績にもつながる。担当する代理店に対して、保険商品に関する情報提供や勉強会の開催などを積極的に推し進めたところ、代理店の組織体制に関する相談なども受けるようになった。信頼関係の強まりとともに取扱額も増加。成績が伴えば、営業の仕事がさらに魅力的に感じる。当初感じた営業職の壁をひとつ越えることができた。

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中山さんは入社以来、茨城南支社で営業事務2年と営業6年半を勤務した

営業になって7年目の秋、異動の辞令を受ける。行先はつくば市役所。東京海上日動は各地域に寄り添い「地方創生」の取り組みに貢献していくことで、地域と共に成長していくことを目指している。自治体への社員の出向は、その取り組みの一環だ。社員がキャリアを広げていくために多様な経験を積むという目的もある。つくば市に出向するのは、中山さんの前任者に続いて2人目。辞令を受けたときは「期待半分、不安半分」。前任の先輩から市役所での仕事は充実しているとの話を聞いていた。ただ見知らぬ世界の中で、先輩のように活躍できるのか、大きなプレッシャーだったという。

目からうろこだった「自問」を繰り返す習慣

つくば市での配属先は科学技術振興課。「科学の街」を標榜する同市で、科学技術に関するイベントや事業の企画・運営・広報の担当となった。損保営業の仕事とは全く違う世界。これまで関わったことのない分野だが「チャレンジングな仕事。地元に貢献できる」と受け止めた。

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「チャレンジングな仕事」。つくば市役所への出向を前向きにとらえた

具体的に携わったのは、全国の企業などから先進的な技術を実用化する提案を公募・審査し、有望なアイデアをつくば市内で実証実験するのを支援する「つくばSociety 5.0 社会実装トライアル支援事業」や、身体に装着して歩行をサポートするリハビリ用ロボットを普及するための体験会など。中山さんが任された業務を進める中で、市役所の上司や同僚から絶えず聞かれる問いがあった。「なぜ、そのようにするの?」

例えばイベント告知のためのチラシやホームページを作成する際には、デザインや記載内容を見て「誰に何を伝えたいのか?」「どのような人にイベントに来てもらいたいのか?」「どうしてチラシという手段を選んだのか?」などを徹底的に尋ねられた。「Society 5.0」の公開審査会の観覧者を募集する際には、「なぜ、その募集方法なのか?」「それって市民のためになるのか?」・・・などなど。中山さんはこの「なぜ、なぜ、なぜ」の問いに窮してしまう。「前例に倣って何となくやっていると、なぜに答えられない」

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「つくばSociety 5.0 社会実装トライアル支援事業」を担当する市役所のメンバー。中山さんは左から6番目。関係各所との調整作業も貴重な経験となった

市役所の職員を見ていると、事業に取り組む際にいつも「市民のためになるか」という自問を繰り返していた。「市民のメリットという視点を忘れずに、しっかりした目標やビジョンを持ったうえで自らの取り組みを提案し、行動しないといけない」。過去のやり方を踏襲しがちだった中山さんにとって目からうろこが落ちた経験だった。「なぜ?」と自問し、考えることで、よりよい方法が見いだせる可能性がある。

実際、中山さんは審査会の観覧者を募集する際に、市民が書類で申し込む従来方法のままでよいのかとの疑問を持ち、ネットだけで申し込み手続きが完結する新しい手法を取り入れた。「SNS(交流サイト)で拡散できるので、より多くの方にご案内できる」との狙いも当たり、応募者は前年を上回ったという。

新技術の普及を保険で後押し

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茨城南支社の横山孝臣支社長(左)が中山さんをつくば市への武者修行に送り出した

1年間の市役所勤めを終え、2018年10月に再び茨城南支社に戻った。「会社をいったん外から見るのは良い経験だった。保険営業でも今までの手法を当たり前のように受け入れていたが、もっと『なぜ』の意識を持てば改善できるものもあるのではないか」と、仕事に取り組む際の思考スタイルの変化を自覚する。上司の横山孝臣支社長も「この1年間で視野が随分広がった。難しい課題に対しても深く考え、前向きに挑むようになった」と帰任した中山さんの成長に目を細める。

科学技術振興の仕事と損害保険との意外な関係にも気付かされた。中山さんは出向中、新技術を使った実証実験やイベント開催の時に、何かあった場合に補償できる保険商品がないかとの相談を受けることがあった。その時は残念ながら期待に応えられなかったが、ニーズに対応した保険商品を提供することが新技術の普及を後押しし、損保会社として貢献できる分野だと意識するようになった。つくば市のニーズをとらえ、自動運転やAI(人工知能)など新技術の普及を促す保険商品の開発の橋渡し役にもなって、地元に恩返ししたい。そんな思いも芽生えてきた。

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「仕事を通じて色々な人から多くを学べる。働き続けることで自らを成長させたい」

誰しも仕事を長年続けていくうちに、固定観念や思考停止といったキャリアの成長を阻む壁が知らず知らずにできていくことがある。中山さんにとっての出向経験は、このキャリアの壁を崩すものとなった。「地元で営業を続けていきたい」「地元に貢献していきたい」という気持ちはさらに強くなった。そして代理店との関係については以前よりも深くありたいと思うようになった。「目先の数字にとらわれるのではなく、代理店のビジョン・目標を共有し、一緒になってその実現に取り組んでいく」。それがやりがいになるとの思いを強く抱いている。

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