STORY 大和証券グループ vol.1

私の感性とフットワークでつかむ 
企業と投資家つなぐ光る情報

大和証券 エクイティ調査部
猪股 彩香さん

大和証券の猪股彩香さん(29)は同社が育成に力を入れる新鋭の女性アナリストだ。企業・業界を投資家とつなぐ「光る情報」をいかにつかむか――。相手と直に向き合い話を引き出す、営業部門仕込みの感性が武器となる。男性が多いアナリストという職種で、試行錯誤しながら独自のスタイルを築きつつある。

「集大成」の決算発表日

午後3時。担当企業が発表した決算内容をすばやくチェックし、電話取材。発表内容が投資家にとってポジティブなものか、ネガティブなのか。その日のうちにファーストインプレッション(第一印象)としてレポートを書き上げる。翌朝、そのインプレッションは株式市場が開く前に、社内の営業部門に解説。問い合わせに対応しながら他の業務に対応している間に午後3時を迎え、次なる決算発表を読み解く。

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猪股さんは企業や業界を分析して投資家に伝えるアナリスト

猪股さんが最も多忙で、また最もやりがいを感じる日はこんな調子だ。3カ月に一度訪れる企業の決算発表日。それまで何カ月もかけてトップインタビューや拠点の取材を重ね、「この会社の業績はこの先、こう動くと思います」と発信してきたストーリーがぴたりと合ったとき、大きな手ごたえを感じると笑顔を見せる。

猪股さんは機械業界のセルサイドアナリストだ。株式を売る側(セルサイド)である証券会社に所属し、担当する業界や企業の財務情報や動向を分析。リポートなどで機関投資家に伝えるのが仕事だ。独自の視点で情報を分析することで評価を勝ち取っていく花形職種である半面、多忙で実力主義の世界でもある。所属するエクイティ調査部には数十人のアナリストがいるが、女性は1割に満たない。猪股さんは、大和証券が育成に力を入れる女性の若手アナリストの一人だ。

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企業の決算発表日は「集大成」。何カ月もかけ分析・発信してきた予想が合っていたときの達成感は大きい

さまざまな会社を応援できる

大学では応用化学を専攻する「リケジョ」だった。カニの甲羅に由来するキトサンを使って生物の体に無害な蛍光体を作り、医療で活用する研究をしていた。だが卒業を控えてどんな仕事をしたいか考えたとき、研究室で学問を続けるのではなく「もっと人とかかわりながら働きたい」と感じた。

思い出したのは、子どものころ、メーカーを経営する祖父を訪ねてきていた銀行や証券会社の担当者の姿だった。彼らのようにさまざまな会社にかかわってみたい。どの会社を応援するかがはっきりできる直接金融の世界を選び、大和証券の門をくぐった。

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もとは化学好きの「リケジョ」。祖父の会社を応援してくれた担当者の姿を思い出し、証券会社をめざした

最初の配属は営業部門だった。新宿支店でゼロから新規開拓をスタート。資産運用ニーズがありそうな企業・団体を見極め、次々と訪問していった。とはいえ商品の提案ばかりしていたわけではなく、訪問先の運用担当者と1時間ただ雑談するだけで帰ることもあったという。

保有している債券の償還や運用方針の変更など、証券会社からの提案が求められるときが必ずやってくる。「そのタイミングで『任せよう』と思ってもらえる関係をふだんから築いておくことが何より重要と考えていました」。地主や社長など社会的な地位の高い人とのコミュニケーションの取り方も徐々にコツをつかみ、それにつれて取引の成績は順調に伸びた。

この経験が異動後にアドバンテージとなる。猪股さんがアナリストとして重視するのは、担当企業と直接顔を合わせることだ。「営業部門にいたとき、顧客のもとに訪問を重ねて相手と波長を合わせていき、何か相談があったときに瞬発的にその場で提案できるようになった」。同じ要領でいま担当する企業にもフットワーク良く通い、工場の様子など現場の生の情報もどんどんインプットしていく。「何か少し話を聞けば瞬発的に『次はこうなりますね』と想像がつくような関係を目指しています」

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営業部門で社長など社会的な地位の高い人とコミュニケーションする経験を重ねたことも役立った

例えば機械業界のあるメーカーは投機的な売買で株式の値動きが荒くなることがある一方、ニッチな技術を武器に中国や新興国で順調に業績を伸ばしていた。今後の成長余地が大きいと見た猪股さんはリサーチを開始。会社を訪ね、こまめに電話し、中国の工場も何度も訪ねて情報を引き出してリポートをまとめた。すると成長性が知られるようになり、株価は安定。その会社からも「投資家向け広報(IR)の需要が増えた」と喜ばれたという。さまざまな会社を応援したい――。証券会社を目指したときの夢に向かい、着実に歩みを進めている。

挑戦を後押しするフィールドで

実は猪股さんの就職活動中、面接官として女性役員が登場したのは大和証券だけ。女性が働きやすい会社だと直感して入社したころの印象は今も変わらないままだ。

アナリストとして働く女性はまだ少なく、訪問先では女性というだけで腹を割って話してもらえていないと感じたり、出張先を決める際は治安が悪いと心配されたり。そんなときはもどかしさも覚える。だが性別や年齢を問わず出すべき成果さえ出せば自分のアイデアで仕事を進められる社風に背中を押され、企業と投資家を結ぶ独自の情報をどうつかみとるか、挑戦を続けている。

運用会社など株式を買う側(バイサイド)のアナリストとは違い、セルサイドアナリストの醍醐味は「利害関係のない立場から企業と深いコミュニケーションをとれること」。そうしてまだ注目されていない成長企業を見つけ出し、優れた投資家とつなぐ。業界全体の成長にも寄与することができる意義ある立場でもある。「一つの業界の担当を任され、『猪股』というアナリストがいると認めてもらえるようになりたい」と、きょうも企業の動きを追いかけている。

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「女性アナリスト」のロールモデルをつくっていきたいと意気込む

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