STORY 東京海上日動火災保険 vol.21

「東北6県を元気に」 地元育ちの社員が挑む復興支援

東京海上日動火災保険 東北業務支援部
前田 奈緒さん

仙台育ちの前田奈緒さん(32)は地元の大学を卒業後、東京海上日動火災保険に入社した。地元・仙台で希望した営業の道を7年間歩んだ後、現在は東北エリアを元気にする「地方創生」に関わる業務を手がけている。描いていたキャリアビジョンは「保険営業のプロ」。一見、営業とは関係がなさそうな任務に戸惑うも、奔走しながらその関連性を理解する。前田さんはいま何を思い、何を目指すのか――。

「営業を究めたい・・・」 意外だった人事異動

「営業ではないのですか?」。2人だけの会議室で思わず口に出してしまった。2016年の春先、上司に人事異動の内示を受けたときだ。仙台中央支社で営業事務を2年、保険代理店を支援する営業を5年務め、「そろそろ異動の時期かな」と意識はしていた。営業の第一線で活躍する先輩女性の背中を追い、自らも代理店営業の仕事に手応えを感じていた。だからこそ「次も営業の部署だろう」と思い描いていた。

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入社してから7年間、営業畑を歩んだ前田奈緒さん。「営業の仕事に手応えを感じていた」

ところが上司に告げられた異動先は東北業務支援部の部店支援室。前田さんはそれまで代理店約20社を担当する、いわば営業の最前線にいた。「代理店さんやお客様と信頼関係を築き、喜んでいただく瞬間が仕事のやりがいになっていた」。一方、東北業務支援部は東北エリアの営業・損害サービス部門を支援するための施策を企画立案する業務。「営業を究めたいというキャリアビジョンを描いていたので意外だった」

「大丈夫。前田さんの強みが生かせる」「この経験は営業の幅を広げることにもつながる」――内示後に上司からアドバイスを受けたが、不安と戸惑いは消えなかった。東北業務支援部での最初の1年間は手探りの日々。将来を見据えながら目の前の課題を一歩ずつ解決していた営業時代と違い、より長い時間軸で東北エリアの営業施策を考えたり、働き方改革の取り組みを考えたり。これまでとは異質の仕事に向き合い、社内関係部署と連携しながら企画書作りなどを経験していった。

観光・物産イベントを保険会社が主催する理由

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前田さんは今年で入社10年目。東北業務支援部では3年目となる

新しい部署にようやく慣れてきた2年目、新しいプロジェクトの担当になる。東京海上日動では、北沢利文社長が「地方の活性化は日本経済や保険事業の成長に不可欠」と16年7月に「地方創生室」を本店に新設。全国60以上の支店とともに地方を元気にするプロジェクトが動き出した。地方の仕事や人の流れを盛んにする活動を各地で支援することで地域に信頼される存在となり、同時に経済の活性化で保険が活躍する場面も増えるため、会社の成長につながるという取り組みだ。その東北エリア全体の地域振興策を担当するのが東北業務支援部。新しい取り組みとして東北6県の魅力を伝える大規模な観光・物産イベントを東京で開催することが決まり、前田さんはその企画・運営を任された。

東北6県を一堂に会した観光・物産イベントは、東日本大震災の被災地復興支援が目的でもある。前田さんも「3.11」の地震発生時は仙台支店のビル内にいた。大きな揺れに「もうダメかも」との思いが頭をよぎったという。入社2年目だった。自らが被災者の一人でもあるだけに「保険会社の社員として地元の東北地方を盛り上げ、震災復興に貢献できる仕事には大きなやりがいを感じた」。

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東北6県の観光・物産イベントを主に担当する東北業務支援部次長の福田昌彰さん(左)と前田さん

とはいえ損害保険会社に、大規模な観光・物産展を主催するノウハウがあるわけではない。しかもイベントを直接担当するのは前田さんを中心とした限られたメンバー。「初めての試みで知見がなく、手探りで準備を進めるしかなかった」

イベント開催は17年9月、メイン会場は東京駅前の丸ビル。準備期間は半年ほどしかなかった。6県の自治体などに協力を仰ぎ、各県ブースでの特産品出展や観光地情報の発信を依頼した。大変だったのは数多くいる関係者との調整だ。各県の意向を聞きながら、バランスに配慮し、できることできないことを随時判断して伝える必要がある。時間がない中で、イベント開催直前までぎりぎりの調整が続いた。「多くの方に迷惑をかけた」と省みる。

「何せ、分からないことばかり。自分の許容能力を超え、つらいことも多かった。少しでも良いものにしたいと思い、悩み続け、開催前の1カ月間は、夢にまでイベントのことが出てくることもあった」と打ち明ける。

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後輩の沖浦結香さん(右)は前田さんについて「経験のないイベント準備も自分で何とかしようという責任感が強い。つらそうな姿を見せず、かっこいい」と言う

地域活性化へ、地元社員と代理店の関与がカギ

イベント当日の9月5日、会場となった丸ビルと東京海上日動ビル本館には合計約5千人が来場した。ステージに登壇する各県の知事や副知事、ブースで接客する県庁関係者や来場者の笑顔を見て、前田さんはそれまでの苦労が報われたと感じた。終了後には周囲から「よい取り組みだった」と声をかけられた。

しかし「反省すべき点は山のようにあった」と納得感はない。一番の心残りは、「地元の社員や代理店さんをうまく巻き込めなかったこと」。観光・物産イベントは保険事業と直接には結びつきにくいため、現場の社員や代理店に"自分ごと"と捉えてもらいにくい。しかし一部の関係者が携わるだけでは、イベントの効果は一過性に終わる。「イベント開催は地元の社員や代理店さんが地域の未来について一緒に考えるきっかけになる。地元の多くの人が企画・運営に関われば、地域を継続的に盛り上げる流れにつながると思う」

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2017年9月に開催した東北6県イベント。メイン会場の「丸ビル マルキューブ」などに計5千人が来場した

そして18年秋。東京海上日動は再び6県の大規模イベントを東京で開催する。前田さんは昨年に続いて担当となり、今春からイベントの準備に奔走中だ。今年は11月7日の日程で、東京駅前にある商業施設「KITTE(キッテ)」がメイン会場。昨年の反省を踏まえ、早めに準備に取りかかった。

各県が何を出展し、何をアピールするか――。今年は自治体任せではなく、東京海上日動の各地域で働く社員と代理店に考えてもらうようにした。イチ押しの地元産品には、その事業者にもブースに来てPRしてもらう。地域のより多くの人が関与するようにイベントを変えていく。「東北にはまだまだ知られていない魅力がたくさんある。地元の人だからこそ知っている地域の隠れた名店や魅力的な観光地などを紹介し、観光客をもっと東北に呼び込みたい。自分を育ててくれた東北の復興に貢献したい」との願いがある。

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2018年11月のイベントでは、東北6県の地酒の飲みくらべも計画している

前田さんはイベントによる地域振興がなぜ重要か、自らの言葉で東北各地の担当者に説明し、協力を呼びかけた。「彼女の言葉には"思い"がある。聞く人にしっかりと伝わる」。イベントを一緒に担当する東北業務支援部の福田昌彰次長はそう感じている。東京海上日動全体の地方創生のプロジェクトもあって、社員の意識も変わりつつある。パートナーである代理店にまで、地方創生に自ら取り組むことが保険事業の成長につながるという意義を浸透させたい。前田さんはイベントがそのきっかけになれると思っている。

キャリアの転機、未来を共に考える営業パーソンに

今年はイベントをさらに盛り上げるために、大手企業との連携を拡大した。前田さんは自らが作った企画書を手にし、メイン会場KITTEを運営する企業や、東北の観光キャンペーンを続ける鉄道会社を訪ねて「東北を一緒に盛り上げましょう」と熱く訴えた。鉄道会社はメイン会場近くのスペースに東北をPRするステージを別に設け、2会場が一体となって観光キャンペーンを展開する。他の関連企業などの協力も得て、周囲にはオリジナルポスターを掲示する。「11月7日は東京・丸の内を東北色に染めたい」。今年は昨年の2倍となる1万人の来場を目指すという。

「業界の枠を越えて色々な人と出会い、意見を交わすことで、視点・視野の広がりや連携の意義など様々な学びがある。自分の成長につながっている」。地方創生の仕事を担当してからは、社内でも社外でも多くの人と接して話をする機会が増えた。以前の営業時代に大切さを学んだ人脈づくりや関係者の協力を得て創り上げる経験が生きているという。

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地方創生の仕事を通じて社内外の多くの人と接する機会が増えた。上司の福田さんは「難しいイベント準備も彼女の情報収集力とコミュニケーション能力に助けられている」と言う

営業の最前線から支援する側への異動は、振り返ると「自分が成長するための転機だった」と思う。社内外から多くの情報を集めて整理し、自分なりの最適解を考え、施策やイベントといったカタチにし、思いを伝えながら理解・賛同を得て大きな動きにしていく――こうした経験は、前田さんにとって新しい挑戦だった。とりわけ東北6県イベントの取り組みを通じて「日ごろから代理店さんやお客様と地域の将来を一緒に考えていくことの大切さに気付いた」。震災復興や地域活性化を支えることで地元で選ばれる会社となり、それが会社や代理店の成長につながっていく。

「将来はまた地元で営業の仕事をしていきたい」。これからのキャリアビジョンを尋ねると、すぐに答えが返ってきた。「お客様の未来を共に考え、多様な提案ができる営業パーソンとなれるように、現在の部署でもっと多くを学び、視野を広げたい」と前を向いた。

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