STORY 積水ハウス vol.21

賃貸住宅の環境対応を先導 営業最前線から脱炭素社会を目指す

積水ハウス 東京北シャーメゾン支店店長
磯崎 祥子さん

ESG(環境・社会・企業統治)経営のリーディングカンパニーを目標に掲げ、全従業員参加型で活動を進める積水ハウス。「E(環境)」分野の柱となるのが太陽光発電などの活用により住宅でのエネルギー収支をゼロにするネット・ゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH)の推進だ。「脱炭素社会」の実現に向けて、戸建住宅で先行した住まいのZEH化を他社に先駆けて賃貸住宅にも広げており、東京北シャーメゾン支店の磯崎祥子さん(37)は営業の最前線からこうした取り組みをけん引する。環境面で社会に貢献しているという誇らしさを賃貸住宅のオーナーにも感じてほしいとの思いを胸に、住まいづくりを通した脱炭素社会の実現を目指している。

賃貸住宅のZEH化で先駆け

ZEHとは、「①断熱性能などを大幅に向上させる」、「②高効率な設備システムの導入により、室内環境の質を維持しつつ大幅な省エネルギーを実現する」、「③再生可能エネルギーを導入する」ことにより、年間の1次エネルギー消費量の収支をゼロとすることを目指した住宅を指す。国立環境研究所によると、日本の二酸化炭素(CO2)排出量のうち、家庭部門が占める割合(電気・熱配分後)は2019年度時点で15.5%。工場などの産業部門(37.4%)、自動車などの運輸部門(20.0%)に比べて低いものの、50年にCO2の排出量を実質ゼロにするという政府の目標を実現するには家庭部門の対策も重要なことは言うまでもない。家庭部門での排出を減らすには個々のライフスタイルの見直しに加えて、住宅自体の環境対応が不可欠だ。

住宅からのCO2排出量の23%は賃貸が占めるが、賃貸住宅のZEH比率の向上にはそれを手掛ける住宅メーカーの取り組みが不可欠。積水ハウスでは戸建住宅での豊富な実績をベースに17年に日本で初めて賃貸住宅のZEH化に乗り出した。21年1月期時点での累計受注戸数は3500戸超と業界トップ。磯崎さんも共働き世帯やファミリー世帯向けの物件を提案する際には、ほぼ100%ZEH仕様を取り込んだプランを勧めているが、「提案を受けた顧客の反応が以前とは大きく変わってきた」と打ち明ける。環境に配慮した物件に興味がある顧客が増えており、「賃貸住宅のZEH化を通して社会に貢献したいという気持ちが強い」と手応えを感じている。

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磯崎祥子さんは積水ハウス東京北シャーメゾン支店で賃貸ZEH化の普及に力を注ぐ

磯崎さんは神奈川県小田原市出身で、3姉妹の長女。高校生の時にDIYが好きだったこともあり、インテリアや建築に携わる仕事がしたいと考え、そのためには大学進学が必要だと親を説得。推薦入試があり、文系でも関連した資格が取得できる大学として、共立女子大学の家政学部建築・デザイン学科に進学した。設計課題、模型作りに追われる大学生活を送りながら、設計事務所でのインターンシップを通じて、様々な体験を積み重ねてきた。

住宅メーカーの営業職に的絞り就活

就職シーズンを迎え、湧き上がってきたのは「1つのものをみんなで作り、自分が携わるのはその一部という働き方よりも、顧客と一対一で作り上げる戸建て住宅のほうが魅力的だ」という思い。設計の知識を持つ営業ならば、間取りなどに顧客の意思を反映しやすいはずと考え、住宅メーカーの営業職に的を絞った就職活動を展開した。当時は女性営業職の働く場所が制約される企業が多かったため、会社訪問での男女関係なく同じ仕事をさせるという説明が決め手となり、ここならば女性営業職もきちんと育成してもらえると06年に積水ハウスに入社した。ちょうど賃貸住宅ブランド「シャーメゾン」の名称を冠した支店展開が始まった年で、磯崎さんが最初に配属されたのも当時、東京都八王子市にあった多摩シャーメゾン支店だった。

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多摩シャーメゾン支店時代の上司・先輩と(右端が本人)

「シャーメゾンが会社の業績をけん引しているという自負を持って仕事をしている」と話す磯崎さんだが、当初は戸建住宅の営業が希望だったと振り返る。だが、街中を回って賃貸物件を建てられるような土地を持っている人を訪問する日々を続ける中で気づいたのは「担当エリアを回ることは、そこがどんな場所で、どんな人たちが暮らしているかを知るためにも必要だ」という賃貸住宅営業ならではのやりがい。08年に現在も務める東京北シャーメゾン支店に異動してからも、こうした経験を生かして仕事に向き合ってきた。

入社9年目、店長に抜てき

支店ではリーダーとなる店長の下、先輩社員に囲まれる中、営業目標の数字が達成できるよう貢献して店長を助ける役割を果たそうと地道に実績を積み上げてきた。11年に同期入社で戸建住宅の営業に従事する相手と社内結婚した際も「仕事が楽しく、結婚退職は全く考えなかった」という磯崎さんに転機が訪れたのが15年。女性営業全国1位となり、シャーメゾン支店としては全国で2例目という女性店長に抜てきされた。店長になる直前の半年間、3人チームのリーダーとして研修があり、連携して売り上げの数字を作っていく組織マネジメントを経験する機会を与えられてはいたが、実際に職務に就くと、自らの責任が大きくなったのを痛感した。

「チームのため」が自らの成長を促す

店長になってからは、後輩の打ち合わせにはすべて同行し、残った時間で自分の営業をこなすという忙しさの中、それまで限界と思っていたことが、いつの間にかできるようになる。そんな経験を繰り返すうちに気が付いたことがあった。チーム全体を考えてチームのために時間を使って働いていると、一人の時には大変に感じていた契約の獲得が簡単にできるようになっていた。「今、自分が一歩階段を上がったという瞬間を感じられた」。

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後輩社員の育成に楽しさとやりがい感じる

チームワークが生まれてきたと手応えを感じ始めてきた頃、以前より目標としていた社内の表彰制度「グランドスラム賞」を女性店長初、最年少年次チームで受賞した。全国にある各「店」単位で、メンバー全員の契約実績と成約率によって決まるこの表彰は、自分の目標の他に、メンバーそれぞれが目標をクリアすることが求められる。受賞した時は、チームで達成できた喜びと同時に「後輩社員の育成に楽しさとやりがいを実感した」と振り返る。

店長として経験を重ねてきた19年2月に待望の第1子となる女児を出産。出産直前の1月まで仕事を続け、契約済みの顧客のフォローのための後輩への引き継ぎなどをこなして出産・育児休暇に入った。入社以来、長期間にわたり仕事を離れるのはもちろん初めてのこと。子どもといる時間が穏やかに過ぎていき、今まで体験した中で一番ゆっくり解き放たれた。「育休中には初めて専業主婦になりたいと思った」と打ち明けるが、最後はすごく仕事が好きという気持ちが勝り、復職。働き始めると1時間弱の通勤時間の間にオンオフの切り替えができ、「メリハリがあって良かった」と振り返る。

コロナ禍での復職 再び店長職へ復帰

復職のタイミングは新型コロナウイルス感染症の最初の拡大期の真っただ中。当初は20年4月に復職する予定だったが、緊急事態宣言が出されて子どもを預けるための保育園が休園。6月末にずれ込んだ。最初は別の店長のチームに配属されたが、復職1カ月後には店長職への復帰が発令され、磯崎チームが再結成された。結婚、妊娠、出産を経てスムーズに復職できたという磯崎さん。順調に復帰できた理由を尋ねると、「仕事の面で自立できていたから」という答えが返ってきた。磯崎さんにとっての自立とは、社内できちんと自分の意見を主張し、助けが必要な時には社内を動かせること。そして、時間が無ければ、頼まれごとを断るなど自分で時間のコントロールができるようになること。これができれば、1人で仕事が完結できるようになるはずだと力説する。

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同期入社の夫とは分担して育児をこなす生活を送る

今の目標の1つとして挙げるのも後輩社員が安心して仕事と家庭の両立ができるように、自らの経験を伝えながら、自立を促すことだ。心がけているのは全てを教えるだけではなく、個々に寄り添いながら、成長を見守るという姿勢。誰もがざっくばらんに話をしやすい雰囲気を大切にしながら、個々に向き合い、それぞれに合った成長を促している。

娘に誇れる物件、作り続ける思い

もう一つ、母親となったことで心の中に灯った思いがある。それは「2歳の娘が大人になり、賃貸物件を借りるとなった時に選んでもらえるような物件を作り続けたい」という決意だ。豊富な環境教育を受けて成長する娘世代には環境に配慮した物件の人気が高くなるとの確信を感じながら、今手掛けている賃貸ZEHのようなものがスタンダードな賃貸物件になっているとの未来図を描く。実際、育休前と復帰後というわずか1年半で賃貸ZEHを提案した際の顧客の反応は一変。以前は説明を聞いてすぐに関心を持つ層が2割程度だったが、今は8割が前向きな反応を示すようになったという。

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シャーメゾンの賃貸ZEHの実例

積水ハウスが展開するシャーメゾンの賃貸ZEHは集合住宅に設置した太陽光パネルを部屋ごとに割り当てることができ、使わない電気は入居者が売電できる。入居者にとっては賃料が少し高くても光熱費の安さが実感でき、オーナーにとっても事前に年間の光熱費の削減率が想定できるため、周辺相場より賃料を高く設定できるため収益率が上がる。「こうしたウィンウィンの関係が明確なので提案しやすい」とは言うものの、当初は他社との競合で苦労した点も少なくない。

最も多いのは他社の間取りの提案が1K主体というケース。ZEHでかつ2LDKという積水ハウスの提案に比べると部屋数が2倍くらいになり、当初の5年間を見れば施工費の面も含めて、表面的な利回りが良く見えてしまうという。こうした状況で積水ハウスを選んでもらうために心がけているのは、10年20年先にどれだけの入居率を維持できるのかを示していくこと。その地域の特性を的確に捉え、入居者のニーズや将来の人口動向の予測なども踏まえたマーケティング力が最大の武器だ。

今でも「伝え方を磨かなければいけない」と反省するが、他の支店で顧客に響いたプレゼンがあると聞くと、チーム全員でそれを視聴するなど、自身とチームスキルの底上げに余念がない。例えば、東京北シャーメゾン支店が担当する文京、板橋、練馬、北、豊島の5区には30~50歳代の年齢層で小学生くらいの子どもを持つ世帯が多い地区も多い。ニーズが高いにもかかわらず2LDKタイプの賃貸物件の供給量は需要の半分程度といったことを調べ上げ、そこで本当に求められている間取りを提案していくことで、オーナーが求めている魅力的な物件だと感じてもらうことが重要と考える。

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マーケティングにより入居者ニーズに合ったプランを提案

地道な努力が実を結び、新たな追い風も吹き始めてきた。まずはESGの視点で借り上げ社宅として賃貸ZEHを選ぶ企業が増えている点。もともとシャーメゾンブランドは法人契約の比率が高いが、賃貸ZEHに限るとさらに跳ね上がる。もう一つが入居率の高さ。シャーメゾン全体でも97、8%と高水準だが、ZEH物件は100%に近い状態で、入居待ちが出るような状態で稼働している。「コロナ禍で在宅ワークが増えたことで、広い物件へのニーズも一段と高まっている」。

入社以来、営業の最前線を走り続けて痛感しているのは、住宅産業が環境に与える影響と果たすべき役割の大きさだ。環境意識が高まる中、自分は何ができるのか。多くの人がそんな思いを抱える今、環境にやさしい賃貸住宅を建てる機会やそれに住む機会を提供することもその一つ。「シャーメゾンの賃貸ZEHを市場に供給できただけで、社会貢献をしたという誇らしさを感じるし、物件を建てたオーナーの方にも感じてもらいたい」。誇らしさはそこに住む人にも広がっていくはずだ。

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