STORY 積水ハウス vol.18

住み心地決める「開口」のスペシャリスト、開発から現場までを目配り

積水ハウス 商品技術開発室 開口開発グループ
阿部 美佳子さん

家がただ閉じこもるだけの空間ではなく、外に開かれ、自然とのつながりを感じることができるのは、窓をはじめとする開口部があるからだ。窓のあり方ひとつで住宅は心地良くも悪くもなるし、住まい手にこの上ない安心感をもたらしたりもする。積水ハウスの阿部美佳子さん(44)は、この「開口」に絞って長年商品開発に取り組んできた「窓のスペシャリスト」。控えめだが確かな語り口からは、家づくりに欠かせない要素を担ってきたのだという自負を感じさせる。

窓は家の「弱点」だが光と風を採り入れる特別な存在

開口開発グループ。名刺に記された所属部署名が阿部さんの仕事のすべてを物語る。家の外と内をゆるやかにつなぎ、光と風を導くのが「開口」。その役割と存在感は住宅建築の世界にあって特別なものだ。外装全般を開発する部署から5年ほど前に同グループは独立した。「窓は求められる性能も、メーカーとのつながりも独特ですから」。以来、窓やドア、シャッター、トップライトなどの開口部材を専門としてきた。

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阿部美佳子さんは窓など家の「開口」の技術開発が専門

開口部材の基本的な完成度は、耐風圧性、水密性、気密性という「守り」の性能で決まる。風や雨を遮り、外気の流入を防いで夏の暑さ、冬の寒さから住まい手を守る。さらには断熱性や遮音性、防犯性、防火性など、求められる要素は時代の変化も映して多様さを増すばかり。家の中では壁などに比べ「弱い」部分であることを前提に、基本条件をクリアしてさらに高みを目指せるかが開発のカギとなる。「弱いところにどういう性能を持たせれば弱点じゃなくなるのか。そして、弱いけれども、光と風を採り入れる大事な部分でもあるんです」

積水ハウスが新たに提案する「ファミリー スイート」は快適に暮らせる家づくりとして、仕切りのない大空間の魅力を追求している。多彩な用途の大空間を確保し、家族がそれぞれ居心地よく過ごせる場をつくるのに、大きな開口は欠かせない。外部とのつながりを重視したつくりは快適性、居心地の良さを向上させる、という同社の調査結果を踏まえたものだ。室内の床とデッキに段差がなく、サッシが気にならない「フルフラットサッシ」。床とデッキの段差がないだけでなく深い軒と天井が同じ高さでつながり、サッシ上部と天井の間の小壁がない「クリアビューデザイン」ーー。そんな工夫の積み重ねと組み合わせの妙が、ファミリー スイートの新しい提案につながっている。

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サッシが目立たず開放感がある開口のファミリー スイート

とはいえ、フルフラットサッシやクリアビューデザインといったコンセプトは、ファミリー スイートの展開に合わせて開発されたわけではない。たとえば下部がフラットになる窓サッシは9年前には製品化されていた。「ウッドデッキの高さがリビングのフローリング床と揃ったら気持ちいい。でも段差がないと水が入ってくるかもしれない。それならレールの形状を工夫して......。といった細かい検証作業の繰り返しでした」。阿部さんはそう振り返る。

同社の木造住宅ブランド「シャーウッド」で耐震性能を保ちながら設計の自由度を大幅に向上する「スーパー・メタル・ジョイント(SMJ)構法」が採用され、それまでより開口部を広く取れるようになったことなども背景に、2004年には幅最大5メートルの大開口サッシや、吹き抜けと一体化したサッシ類を世に送り出した。斬新な部材を日々開発していく中で、いろいろそろってきていた部材を総合したのがファミリー スイート、というわけだ。開口の開発担当者としては「今あるものより良いものを目指していく」。それだけだ。

企画から現場の納まりまでトータルに目配り

学生時代は建築系の専攻で、構造や設計、意匠などを一通り学んだ。所属した研究室は都市計画系で、街並み開発に興味があった。だから、同じ建築分野とはいえ、一つ一つのパーツをつくる細かい作業工程までは意識が向いていなかった。積水ハウスに入社した際も、漠然と設計をやるんだろうと考えていた。「木(もく)とサッシがどう取り合っているか、なんて仕事を将来するとは思ってもいなかった」

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細かい納まりなどを決めていく専門性が問われる仕事

2000年に入社し、最初の配属は外装全般の開発を手掛ける部署だった。屋根の部材を触ってみたり、ピロティ柱の意匠を手掛けたり。仕事を教えてくれた上司が担当していたのが開口だった。その仕事を手伝ううちに、阿部さん自身も開口の仕事が増え、いつしか「シャーウッド」の開口と言えば、阿部さん指名で仕事が来るようになった。「それで、開口開発グループができたときに私もメンバーとしてばれたんです」

外装もそうだが、開口部材の開発も表に出る仕事ではない。ブランドをつくる商品企画のように前に出るタイプの華やかさはなく、そのための技術を研究開発する裏方的な業務だ。協力メーカーと細かなやり取りを重ね、部材の細かい納まりや仕様を決め、コストパフォーマンスが合うように標準化をした上で、実際にモノを現場に出すまでの詳細を設計する。専門性と正確さが問われる領域だ。

「なぜ聞かれたか」をとことん想像する

「私の所属する部署は一人ひとりの専門分野が狭く、たとえば私だったら開口以外はあまり知らない、と言ってもいいくらい。でも、企画からメーカーによる生産、さらには施工現場まで広く目配りし、最初から最後まで、すべてがうまく流れるようにしておかなければならないんです」。もちろん開口部材の開発だけで完結する仕事ではない。躯体や外壁とどう組み合わせるのか、どう納めれば性能を担保できるのかーー。開発した開口部材を住宅に持ってきたときにどうなるのか、家づくり全体をマクロの視点で把握できる専門家集団が開口開発グループ、ということになる。

裏方ゆえ顧客・施主と直接話す機会はあまりなく、そのニーズは事業所を通じて把握することになる。事業所からの問い合わせは多いので、そこから要望を吸い上げるようにしている。「問い合わせについて単に可否を答えるのではなくて、なぜそれを聞いてきたのかを考えるようにしています」。要求水準が高い顧客も多く、その水準に合わせて開発しがちな社風でもある。コストや性能など他の要素とのバランスをいかに取るかは、何年やっても「その都度協議、さまざまな立場の人の言うことを聞きながらになります」。あっちの意見を聞き、こっちの声を聞き......。まちづくりに似たところもある。

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窓の納まりを確認(京都府木津川市の総合住宅研究所)

「割と向いているなと思ってずっとやってきましたが、それでもあまり深くは考えなかったですね」。商品企画をもっとやりたいとも思わず、内装の方がいいかなとも考えず、目の前の仕事に真摯に取り組んでいるうちに年月が過ぎた感じがするという。

超高断熱化でリーダーシップ

近年、住宅業界では環境の観点から「ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス」(ZEH=ゼッチ)が注目されている。断熱と省エネ設備などで省エネを実現し、再生可能エネルギーを導入することにより年間の一次エネルギー消費量の収支ゼロを目指した住宅のことで、国は2020年までに注文戸建住宅の過半数をZEHにすることを目指している。

ZEHの基準達成に効果的なのが、開口部の断熱性能を引き上げることだ。壁を厚くするよりも、開口を補強し、断熱性、気密性を高めた方が、効果的に数値を高めることができる。同社は大きな開口部に使う引き違い窓から超高断熱化に対応した。樹脂の量を増やしたサッシと厚いガラスを組み合わせたり、真空複層やトリプルガラスを採用したり。「世間には窓のそばは寒いものだ、といった"あきらめ"があるようにも思えますが、当社の家を建てた方なら『こんなに大きな開口がついているのに、窓のそばでも寒くない!』と気づいていただけるはずです」

積水ハウスはこの春、「縦滑り出し窓」、「はめ殺し(FIX)窓」のような比較的開口面積の小さい窓なども超高断熱化した。軽量鉄骨造と木造のシャーウッドが同時平行で進めた取り組みで、阿部さんはシャーウッドを担当。スタートした2018年は、16年から取得した育児休業から復帰して間もないころだった。1年間におよぶプロジェクトでメーンを張る、復帰後初の大きな仕事。「楽しかった。もともとチーム一丸で目標を達成するとモチベーションが上がるタイプなので(笑)」

3人の娘を育てながらフルタイムで勤務

大阪・梅田の本社での勤務を終えて1時間かけて帰宅すれば、中3、小5、そして年少の三姉妹のママの顔に。娘たちは母親がフルタイムで働いていることは分かっているので「言えば手伝ってくれます」。ただ、仕事の細かな内容についてはあまり分かっていないかもしれないと笑う。

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家族旅行で出かけた石川県輪島市の白米千枚田で(2019年5月)

会社員生活は今年20年になるが、3回の産休、育休で「実際に出勤したのは20年の4分の3くらいかもしれません」。現在、勤務する部署は育休を取りながら働いている社員も多く、リーダーも夫婦共働きなので理解がある。会社としての制度も充実しており、恵まれた環境だと思っている。

もっとも、日常の業務の場で女性だから、男性だからと意識することはほとんどないという。逆に女性だからやりにくいということもない。「工具が大きくて使いづらいくらいで。あ、私、足場が怖いんです。だから現場で足場に上るのは2階までが精一杯です。屋根担当じゃなくてよかったとは思っています(笑)」

窓について知らないことはまだまだある

形のないものより、形があるものをつくる方が昔から好きだった。たとえるなら音楽よりも美術、といった具合だ。今の仕事は商品や企画、事業所など社内外の要望、ニーズに対し、要素技術を積み上げながら課題を解決し、出荷(量産化)までを滞りないよう整える業務。実際にものを形にすることができ、やりがいを実感できる部署だという。

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ものづくりのやりがいを実感できる仕事で充実している

長い間、開口の開発部署に籍を置いているが、知らないことはまだまだある。技術革新のスピードは速く、覚えなければならない知識は多い。協力メーカーや先輩社員、建設現場の人々など周囲の人たちに質問、確認の日々はこれからも続く。「もっと極めて、若い人たちにいろいろなことを伝える立場になりたい、という気持ちはもちろんあります」。仕事の間口は狭いように見えるが、実は深く、そして外に開かれている。

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