STORY メドトロニック vol.2

ジブン働き方改革で「小1の壁」突破、個からチームへの意識転換

コヴィディエンジャパン PM&RI中部ブロック
大城 麻衣子さん

仕事と育児・介護の両立は、直面すると多くの人が頭を悩ます課題だ。医療機器大手メドトロニックで働く営業職の大城麻衣子さんは、昨年春に「小1の壁」にぶつかった。キャリア継続に黄色信号が灯るなか、上司に相談して会社がトライアルで始めた新しい支援制度を活用し、自らも長年続けてきた営業スタイルを見直す"ジブン働き方改革"によって離職の危機を乗り越えた。上司や同僚のサポートを得る会社の新制度は、個のチカラだけに頼る営業から、チームとして相互に支援しあう営業のメリットを実感するきっかけにもなった。

パンデミック下で訪れたキャリア継続の危機

大城さんはメドトロニックの日本法人3社の一つ、コヴィディエンジャパン(東京・港)で主に麻酔分野と人工呼吸器関連など呼吸ケア分野の医療機器の営業をしている。名古屋の営業所を拠点に、愛知県内の自宅から車で約1時間圏内にある約30の医療機関を担当。病院の麻酔科や救急救命の医師、臨床工学技士や看護師などに関連製品を直接提案し、担当の代理店経由で販売している。

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コヴィディエンジャパンの大城麻衣子さん。生体情報を測定する機器なども担当する

昨年からの新型コロナウイルス感染症の広がりは、医療機器営業の現場にも変化をもたらした。緊急事態宣言下では病院に赴いての対面営業が難しくなり、ビデオ会議システム中心の営業に移行。一方、医療現場からは院内感染対策に有効な医療機器の引き合いが急増した。例えば手術を受ける患者の気管内に気道確保用チューブを挿入するときに使う喉頭鏡(こうとうきょう)では、患者の口腔内を直接のぞき込まなくて済む液晶画面付きタイプへの切り替えが急速に進んだ。大城さんも営業としてコロナ禍におけるニーズの対応に追われた。

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新型コロナ禍のもと需要が増えた液晶画面付きのビデオ喉頭鏡

同じ時期に大城さんにはもう一つの大きな環境変化が起きた。いわゆる「小1の壁」問題だ。長男が昨年4月に小学生になり、学校から午後3時には帰宅する。同じころ近くに住む義理の両親が体調を崩し、それまでのような子育てのフルサポートを受けるのが難しくなった。「小1の子供を放課後に一人にはできない。でも今の働き方では対応は無理。仕事を辞めなければならないかも」。そんな思いが脳裏をよぎった。

大城さんは大学卒業後に教育出版会社に勤め、子供用教材などを訪問販売する営業を約6年続けた。2008年に現在の会社に転職して、今に続く麻酔・呼吸器系の医療機器営業を担当する。転職から5年後に長男を出産し、産休と1年2カ月間の育休を取得。復職後は出産前と同じようにフルタイムで働き続けてきた。「夫の協力と義父母の支援があり、帰りが遅くなっても心配がなかった」と、時には夜10時頃まで仕事をする日もあった。

仕事最優先の「バリキャリ」タイプではない。育休期間中は子育てに没頭した。育休取得の時に「戻っておいでね」という人事担当者から掛けられた何気ない言葉が心に残ったこと、そして休職中は人員補充がないまま同じ営業チームのメンバーが担当病院をカバーしてくれているという申し訳なさもあって、自然の流れで復職した。営業の仕事そのものは「医師や看護師、患者様の役に立っている」という働き甲斐を感じている。「小1の壁」に直面するまでは家庭も仕事も両立できると思っていた。

「フレキシブル社員制度」使い 営業スタイルを転換

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「今の仕事はだれかの役に立っていると実感でき、自分の成長にもつながっている」という

メドトロニックはジェンダーダイバーシティの一環として、営業職の女性社員を増やす方針を打ち出している。大城さんが「小1の壁」に悩んでいたころ、会社が試験的に始めたのが、1日の労働時間を最短5時間にできる「フレキシブル社員制度」だった。大城さんは上司に相談し、同制度を利用することを決めた。午後3時までの5時間勤務にし、学校から帰ってきた子供との時間を大切にする。給料は勤務時間に応じて減額となるが、営業の仕事を続けられる選択だった。当時の上司の須貝一之さん(現在は神奈川・山梨・長野のセールスマネージャー)は「大城さんはお客様からの信頼が厚い。丁寧で粘り強さもあり、営業に向いている。子育て中も制度を使って仕事は続けたほうがいい」と助言した。

営業職社員の場合、労働時間を短縮すると、それに応じて担当する病院・代理店と営業予算を減らすことになり、他の社員がそれをカバーする必要がある。大城さんの所属する営業チームは、会社で同時に試験運用が始まった「テリトリーカバーインセンティブ制度」を活用。代わりにカバーする社員に対して報酬面でのインセンティブを与える制度で、チーム全体のパフォーマンスを落とさず、社員が「フレキシブル社員制度」を利用しやすくする狙いがある。当時の営業チームをまとめていた須貝さんは「最初はうまく機能するか心配だったが、カバーする社員たちと大城さんが密にコミュニケーションを取ってくれていたので大きな問題はなかった」と振り返る。

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大城さんが所属する営業チームのメンバー(2019年7月)。大城さんの隣(前列左)が当時のチームリーダーの須貝一之さん

「新制度を活用することで、早く仕事を終える後ろめたさといった心理的な抵抗を減らせたのが大きかった」。大城さんが感じたメリットだ。営業先にも育児との両立で午後3時までの勤務になったことを説明し、勤務時間外の急ぎの要件は上司に連絡してもらうなど自らの状況を理解してもらった。「以前だったら何事もお客様最優先で動き、アポイントも先方の都合に無理に合わせることもあった。いまは自分の対応可能な時間を提示してからアポを決めている」。これまで営業先と築いてきた信頼関係が大前提にはあるとはいえ、大城さんにとっては、自らが長年貫いてきた営業スタイルの転換でもあった。

5時間勤務で起きた働き方の2つの進化

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昨年はOEM(相手先ブランドによる生産)メーカーとの協業で大手病院に長年働きかけていた「生体情報モニター」の納品を実現。指先につけるセンサーの販売増につながった

実際に5時間勤務を経験してみると、自らの働き方に2つの進化が生じた。第1は「限られた勤務時間を有効に使う工夫をし始めた」こと。以前は好きなだけ仕事をしていて時間を意識することがあまりなかったという。この点は上司だった須貝さんも指摘する。「大城さんは仕事が丁寧だが時間をかけすぎたり、無駄にしたりすることが多かった。フレキシブル社員制度を使うことでスケジュール管理術が上がり、仕事の生産性を高められるのではないかとの期待があった」

第2は「仕事を一人で抱え込まず、常に情報を共有する味方を社内外でつくるようになった」。営業職といえば一匹狼的なイメージが根強い。大城さんも担当先の案件については自分の力ですべて対処するという意識が以前は強かった。しかし5時間勤務でこれまでと同じことはできない。「上司や同僚、代理店担当者を頼らざるをえなかった。しかし頼ることで複数の案件が同時進行できるなど仕事の効率が上がることが分かった」という。頼ることで、頼られるようにもなった。個のプレーから相互が支え合うチームプレーへの進化。それは、営業チームをまとめる須貝さんが目指してきた姿でもあった。

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営業車の中でチームメンバーや営業先とオンラインミーティングもすることも多い

「もう来なくていい」 厳しい叱責で成長

大城さんが医療機器の営業職になって12年半。転職直後は慣れない業務で製品の一方的な紹介に前のめりになりすぎ、ある大手病院から「もう来なくていい」と言われた経験もある。それでもめげることはなかった。当時の上司にフォローしてもらい、1年近くかけてその病院と関係を修復した。「相手のことやニーズを理解し、自分のことも知ってもらうコミュニケーションの重要性を学ばせてもらった」。営業職として一人前になるために必要な経験だったと振り返る。

医療機器営業の仕事そのものには、性別による有利・不利といった違いは全く感じないという。病院には女性の医師や看護師も多い。出産・育児に伴って生じる壁については、社員を支える会社の制度と周囲のサポート、そして働き方に対する自らの意識改革によって乗り越えることができた。フレキシブル社員制度を利用し始める時に宣言した「営業予算はしっかりと達成する」という目標も見事にクリア。「営業は自分の裁量で時間をコントロールできるため、むしろ上手に使えば育児と両立しやすい仕事」と感じている。

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後輩には「子供が生まれる前から自分で時間をコントロールして仕事ができるようになっておくと子育て中も楽になるよ」と経験を踏まえてアドバイスする

大城さんは長男が小学1年生の途中から児童クラブに入れたタイミングで勤務時間を午後4時15分までに変更し、今年5月からは午後5時までに延ばした。フレキシブル社員制度の勤務時間は15分単位で変更できる。昨年から切り替えた働き方で、長男を学習塾、習字、陸上の習い事にも通わせることができている。子供との時間を大切にしたいため、長男が小学3年生になるまでは今のスタイルで営業の仕事を続けていくつもりだ。その先のキャリアビジョンについては「目の前の仕事を懸命にしていくなかで、じきに見えてくるのではないか」と思っている。

「営業職の固定観念を崩す」~日本メドトロニックの前田桂バイスプレジデント

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日本メドトロニックの前田桂クラニアル&スパイナルテクノロジーズ バイスプレジデント

――メドトロニックが女性営業職を増やす理由は?

「今の時代は企業競争力を高めるのにダイバーシティは欠かせないが、医療機器営業の現場はまだ女性社員が少ない。医療サービスは老若男女が受けるものであり、関連機器を提供する側も多様な人材がアイデアを出し合ったほうがよりよい製品やサービスにつながっていく。医療機器業界の仕事は社会的意義を感じやすい。特に営業職は医療現場の最前線で医師や看護師の活動を側面からサポートでき、患者さんの命や健康を守るのに貢献できたと実感する場面が多くある。性別に関係なく女性にも魅力の大きい仕事だ」

――これまで女性営業職が少なかったのはなぜですか?

「営業社員は担当病院とのやりとりを一人で完結するのがこれまでの商慣行だった。病院側も営業担当が常に要求に応えてくれることを期待するので、営業はいつでも呼ばれれば対応できる人でないと難しいというイメージもあった。しかしそうした固定観念は崩れつつあり、崩したいと思っている。新型コロナウイルス禍によって営業が物理的に病院に駆けつけなくても対応できることも明らかになった。子育てをしながらの営業は無理という思い込みによって未来の可能性を消す必要はない」

――会社としての具体的な施策は?

社員が出産・育児・介護などに直面した時に利用できる会社の制度はかなり整っている。さらに試験的に始めた『フレキシブル社員制度』などを改善しながら、全社的に広めていきたい。こうした制度は整えるだけでなく、だれもが心理的な抵抗を感じずにスムーズに使えるようなカルチャーにしていく必要がある。それには社員の間のコミュニケーションが大切であり、組織の運営スタイルも見直していく。女性に限らず、体力に自信がない人や時間に制限がある人など、だれもが働きやすい組織であり続けることが優秀な人材を引き寄せることにもつながる

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