STORY ECC vol.8

営業が仕事の基盤になった
英語は日本の未来をつくる

ECC ジュニア事業部 大阪南部センター センター長
東江 華那さん

ECCの東江華那(あがりえ・かな)さん(42)は半年前、大阪府南部の「ECCジュニア教室」を管轄する大阪南部センターのセンター長に就いた。入社から4年。英語が身近な家庭に生まれ、自身のルーツの沖縄に思いをはせて育った。社会人としての基盤をつくったのは営業の仕事だ。2人の子を育てるシングルマザーとして仕事と子育ての両立を探りながら、その時々で自分がやれること、やらなければいけないことにしゃにむに取り組んできた。仕事人としての自身の背中を押すのは「次世代の未来をひらくのは英語教育」という信念だ。自分のこと、気持ち、自分たちの主張。つまりアイデンティティーを世界に向けて説明できなければ日本の未来はない、と強く思う。

先生、一緒にがんばろう!

大阪・梅田。繁華街として全国的に名高い北新地の一角に東江さんの職場がある。大阪府内に900以上あるECCジュニア教室を管轄する3センターのうち、大阪南部センターは堺、八尾など大和川より南側の地域を担当する。そのセンター長に就いたのは昨年夏。自宅や地域で教室を経営し、子供たちに英語を教える「ホームティーチャー」のコンサルティングをし、電話や対面でサポートするのがセンターの仕事だ。域内の教室数は323、ホームティーチャーは300名を超える。

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東江華那さんは323教室を管轄する大阪南部センターのセンター長

「なぜ、先生になりたいと思われたのか。まずはそこを共有させていただくことだと思います」。ホームティーチャーと良い関係で仕事するのに必要なことを尋ねると、東江さんは即座にそう答えた。「子供たちに教えたいと思われている方、地域への貢献を第一に考えておられる方、ご自身の英語力を生かせる仕事を求めていらっしゃる方。さまざまな動機でホームティーチャーの仕事を選ばれますので」。ECCとしても生徒数を伸ばすことばかりが狙いなのではない。日本人が英語力を伸ばすことを支援したいという思いがある。「だから先生、一緒に頑張ろう! そういうふうに話していくことが多いですね」

英語教育に対するこだわりは、自身の育ち方にも密接にかかわっている。1977年、京都市生まれ。父親は沖縄県久米島の出身で、京都外国語大学入学を機に関西に引っ越してきた。東江さんが子供のころを過ごしたアパートは家族持ちの留学生が多く暮らしていた。父母の影響で「4歳からの英語」というカセットテープを1歳のころから聴いて育ち、アパートの住人に「Onion!」「Tomato!」と臆せず話しかけるのが大好きになった。「あたし英語しゃべれんねん、みたいな感じで」。Good!とほめてもらうとうれしくて、ますますしゃべりたくなる。小学校の卒業文集には、将来の夢として通訳、ツアーコンダクターと書いた。

教育に関わる仕事に就きたい

進学先に選んだのは大阪外国語大学(現・大阪大学)のポルトガル語学科だ。父が好んで聴いていたジャズから生まれたブラジルの音楽、ボサノヴァから興味を持った。サンバのサークルに所属し、ダンサーとして踊りまくる。バンドも組んだ。活動的な学生生活を送る中で自然にひかれたのが父の故郷・沖縄だった。おりしも当時は沖縄ブーム。自身のルーツが誇らしく思えたが、一方で小学生のころは色黒を軽くからかわれることもあった。

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大学のサークルで組んだロックバンドではボーカルを担当した

米国との関係をめぐって複雑な色合いを帯びる沖縄の自意識。自分のアイデンティティーって何なんだろう――。そんな気持ちが、沖縄から海外に移住した人々のコミュニティーへの興味につながり、大阪大学大学院の文化人類学専攻へ。修士論文の題材には「沖縄移民コミュニティーのアイデンティティー形成」を取り上げた。卒業後は教育教材を訪問販売する会社に就職する。研究の過程で、貧しい国々にとっての教育の重要性を知ったからだ。「日系ブラジル人の日本のコミュニティーでもいろいろな問題が出てきますよね。語学、コミュニケーションができないことで犯罪に走る子が増えるなどの現状を見て、教育に携わりたいと強く思いました」

「とてつもない営業力」

一軒ずつドアの呼び鈴を押しては「こんにちはー!」と1時間、2時間話し込み、小中学校の補習教材を販売する。泥くさい営業力のすべてはこの仕事で鍛えた。「自分の仕事の根底には、このころの経験がある。今でも役立っています」。3年後、結婚を機に退職し、長男が生まれる。しかし長女が生まれて8カ月の時に離婚。子供たちを育てるために飲料販売や生命保険営業の職に就くが、やはり語学、教育に携わる仕事をしたい。子供たちの世話を頼めないか、母親に頼み込むと快諾を得られた。2015年、ECCに地域限定社員として入社。配属は大阪南部センターのスタッフ。自宅から梅田まで、片道1時間半かけて通う生活が始まった。

いろいろな業界を経験した営業力は、ECC入社後にいかんなく発揮された。ジュニア事業部の上司である濱野順一・西日本管区エリア長が当時のエピソードを明かす。「今年の新入社員に東江さんという人がいて、とてつもなく営業力を発揮していると。当時の私は埼玉県にいたのですが、関東にもその名前は聞こえてきました」。この時、東江さんは37歳。新入社員ではあるが、社会人としての経験も十分にある。「それまでの営業の経験が大きかったので、そのあたりは新卒で入ったスタッフとは違ったのではないかと思います」と東江さんは振り返る。

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濱野エリア長は東江さんの営業力を高く評価している

教室を経営するホームティーチャーは営業や経営者としての経験がないことが多く、子育て中の主婦が比率としては高い。センターのスタッフはそんな先生たちを後方支援し、経営上の課題から生徒募集の方法までさまざまな相談ごとに対応する。

よく例に引くのが「アフリカで靴を売る話」だ。ある営業担当者は「アフリカの人々ははだしで暮らしているから靴など売れるわけがない」と言う。だがもう一人は「みながはだしだったらそれだけ靴が売れる可能性がある」――。英語に関心がない人が多いならまだチャンスはある。彼らはどこの英語教室にも通っていないはずだ。それならば世の中の動きをしっかり見極め、知識を増やして英語の必要性を伝えていけば、市場は活性化するし生徒数も増える。消費者心理の観察力も大切だ。「お断りの言葉の裏にある本音を聞きだすようにしましょう」。生徒募集がうまくいかないホームティーチャーには入社当初からそう話してきた。ジャンルは違っても、営業の経験を重ねる中で培ったやり方だ。

二つめの職場となった大阪中部センターでは出会いもあった。ECCジュニアでも全国で十指に入る大規模教室を運営する先生。いまも最も尊敬できる相手だ。ひかれたのはビジネスマインドのすごさ。物事をビジネス的に考え、実行に移せる「経営者」だった。「こちらがアドバイスする立場なんですが、たくさんのことを勉強させてもらいました」。ビジネスのノウハウではなく、マインドを学んだ。電話で話すだけではなく、授業の前の午前中、たびたび教室まで出かけては話をした。

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「南部センターはみんな東江さんのことが好きだよね」と濱野エリア長も言う

落ち込んでいる暇はない

スタッフ4人、パート2人を率いるセンター長となって半年が過ぎた。300を超える教室があれば、時にトラブルも起こる。それを解決まで持っていこうという意欲、営業仕込みの現場力が東江さんの持ち味だ。「東江さんだけが突出して持っている力。リーダーシップというより、カリスマ性です。スタッフから見れば頼もしいでしょう」(濱野エリア長)

ホームティーチャーのやる気を高めるのもセンターの仕事。そのためにも、チームの精神状態を常に良い状態に保っておくことが大事だ。「機嫌が悪かったりとか、暗いときがあったりでは絶対ダメだと思っているので。こっちがピリピリしていると、電話越しでも絶対に察知されます」。たとえ上司に叱られた後でも、電話には「こんにちは!」と明るく応答したい。「性格もあるかと思いますけど、少々のことではへこたれないんです。忙しいので落ち込んでいる暇もない」(笑)。

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ホームティーチャーからの電話には何があっても明るく応答する

子供が教育を受ける権利を親は奪えない

世界に向かって自分の考えや意見を発信できていない日本に強い危機感を覚える。「そういうことができないとグローバル化の中で生き残れない。いまの日本は自分の可能性を自分で殺してしまっていると思っています」。英語力は、日本の次世代が置かれたそんな環境を打開する手段になる――。自身のルーツについて考え、アイデンティティーを探り続ける中で達した結論だ。

働く女性として、子供を育てる親として、その時々でできることを精一杯にやってきた。いま、息子は中学1年生、娘は小学6年生。母親がしっかり働いて自分たちを育ててくれている、と分かってくる年ごろだ。「卒業の時に親に向けて書いた手紙とかにそんな内容が書いてあって。ちゃんと保管してあるのを読んでは号泣しています」

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託児所付きの職場で仕事をしながら2人の子供を育てた

祖母の家で夕飯を済ませた子供たちを迎えに行くのは、早くても午後9時。残業をすれば10時、11時を回ることもある。葛藤もあるが、表には決して出さない。「子育て中であることをもうちょっと言い訳にしてもよさそうな気もしますが、東江さんはそれを絶対にしない」(濱野エリア長)。親の勝手を押し付けて子供たちの未来を閉ざしたくはない。

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ゴールに向かう思いを共有できるチームをつくりたい

子供が教育を受ける権利を親が奪ってはいけないーー。それが営業の原動力だ。うちの子は元気であればいいんですという親の論理に対抗できないといけない。そう、肝に銘じている。「学ばなくてもいい、と親が言う時の『学業』のイメージは『受験』なのだと思います。入試偏重への反発。でも大事なのはそれではない」。受験に合格するための教育ではなく、知性・教養を養う素地をつくる教育。コミュニケーションを導く教育。「英語を学ばせたいという親だけに勧めるのではなく、むしろ英語を学ぶことに関心がない家庭に伝えたい。これからの日本にこそ英語が必要なんだよ、と」。そんなひたむきな営業が、新しい市場をつくっていく。

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