STORY 積水ハウス vol.14

育児休業で見つけた家族の顔、
分かった孤独

積水ハウス 山形支店
芳賀 翔平さん

男性社員に1カ月以上の育児休業を完全に取得させる。積水ハウスは2018年にこう宣言し、子育てを応援する社会の先導役に就いた。ダイバーシティを一段と推進し、男女問わず多様な働き方ができるようにするためだ。対象者の一人、山形支店の芳賀翔平さん(35)は2回に分けて1カ月間、家族と向き合う日々を得た。見つけたのは妻と娘のこれまでと違う顔、効率的に仕事をするすべ。分かったのは職場を離れる孤独。

縮まった娘との距離

「パパ、ちょうだい」「見せて」「お外で遊ぼ」。甘える結月ちゃん(2)に笑顔で応えながら、芳賀さんは変化を実感していた。「妻にはこれ、私にはこれと、お願いする相手を選ぶようになった」。父子の距離はずっと縮まり、育休前には見たことのなかった表情を見せてくれる、と頬を緩める。

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「体を動かす遊びは私にお願いしてくる」と芳賀翔平さん。育休中、結月ちゃんとそり遊び

積水ハウスが従来の制度を拡充し、通称「イクメン休業」の運用を始めたのは、18年9月。3歳未満の子どもを持つ男性社員は最初の1カ月間は有給で、かつ最大4回に分けて取れる。家族が絆を深めるのはもちろん、顧客への提案力を高め、職場では業務の分担、コミュニケーションの促進が期待できる。仲井嘉浩社長自ら旗振り役を務める重点施策だ。

15年に結婚し、翌年パパとなった芳賀さんにも話が届いた。子どもが生まれてすぐに1日取得した休暇に続き、さらに1カ月。「すごいなと会社に感謝しつつ、本当に休めるのというのが本音だった」と振り返る。同僚の間にもそんなムードはあった。何より、グループ会社に勤務する妻が「大丈夫なの?」と半信半疑だった。

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1カ月の休業取得に戸惑いもあった

多くの人が戸惑いを見せる中で、小西敏之支店長が発した言葉で支店の雰囲気は変わる。「対象者は全員、必ず休むように」。芳賀さんは「どんどん成長する娘の姿をより身近に見られる時間が手に入る」と申請を決めた。入社時の直属の上司であり、尊敬する先輩の指示に、迷いは吹っ切れた。

「個人の買い物では最も高額だからこそ、住宅をつくり、売りたい」と考え、06年に会社の門をたたいた芳賀さん。配属先の山形支店で小西さんと会い、仕事のイロハ、顧客との向き合い方を学んだ。「お客様のためにここまでやったと思っていても、さらに先があることを教えてもらった」。最初に戸建て住宅を受注したのは1年目の終わり。入籍前に展示場を訪れた2人からの依頼だった。今も年1回、必ずこの施主宅に足を運ぶ。「ご家族が増え、家も変わっていく。その姿を見られるのは本当にうれしい」。やりがいを実感できる瞬間だ。

「休みなのに休んだ気がしなかった」初回

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戸建て住宅の営業、不動産売買に奮闘

営業として駆け回る中で、壁にもぶち当たった。「正直、話すのは得意ではなく、どちらかといえば内向的な性格」。スラスラと営業トークを繰り出し、周囲を和ますとは、いかなかった。悩みを抱える中で、今までの手法を思い切って変えた。営業マンを「演じてみよう」と。努めて明るく振る舞う。会話の流れを工夫する。すると、成果が表れた。

自らのスタイルを確立し、実績を重ね、さらに分譲向け用地の仕入れ・販売という不動産業務が加わった。そんな支店に欠かせぬ人材に育休がやってきた。

1カ月丸々空けるのは難しい。そう予測して、芳賀さんは2回に分けることにした。本格的な休みは年末年始を挟み、その前の11月ごろにお試しを。前半の11日間は家族旅行にも出かけ、後半の19日間は帰省などに充てる計画を立てた。

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育休取得は2回に分けた

そして、前半は。「休みなのに休んだ気がしなかった」。育休前、資料作成をはじめとする事前準備の作業が膨らみ、残業が増えた。戸建て営業はペアを組んで訪問していた同僚へスムーズに引き継げた。半面、独特のノウハウがある不動産業務は思うように進まなかった。

育休中は取引先などから電話が何本も入った。関係者すべてに育休取得を伝えることはできないと覚悟したとはいえ、落ち着かない日々。家事は「積極的にかかわるというより、妻が手の回らない部分だけ手伝うだけだった」。職場に復帰すると、やるべきことが大量に待っていた。

効率的に引き継ぎ、積極的に家事

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結月ちゃんが窓ふきを手伝ってくれた

一方で多くの発見もあった。妻や妻の実家に任せていた保育園への送り迎えを毎日続け、娘と接する時間が増えると、これまで気づかなかった表情が出てきた。どうすると機嫌が悪くなり、何時ごろには眠たくなるのかも、手に取るように分かるように。「幼いうちは仕事を多少セーブしても、家族と一緒に過ごすことが大事」と痛感した。

仕事では業務を見直し、無駄を削る取り組みに着手。一人で抱え込むのではなく、分担することが必要と考えを改めた。すると「代替できない、属人的なやり方をしている点が見えてきた」そうだ。

家族と向き合う大切さを学び、思うようにいかなかった反省を踏まえて、芳賀さんは後半の休みに突入する。まず、不動産業務は所属する営業部門ではなく、支店の総務部門に思い切って依頼。総務の担当者が日々手掛ける仕事と類似点が多く、対応しやすいと判断したためだ。年末年始を挟むため、取引先からの問い合わせもぐっと減るとみた。何より、気持ちを切り替えた。「周囲に申し訳ないと思うのではなく、上手にできない家事を学ぶ修行の時間を得た。しっかり子どもと話す期間にもする」

保育園にいる時間以外はずっとパパと一緒の日が続き、結月ちゃんはさらに上手に甘えるようになった。夕方迎えに出かけるまでの間は掃除、洗濯、料理。キッチン回りを美しくするなら何から手を付け、どの程度時間が必要か、理解できた。平日は夕食の準備を済ませ、洗濯物を片付け、妻の帰宅を待つ。「料理はパッと短時間で仕上げることはできず、洗濯物もたたみ方などうまくいかなかった」そうだが......。「本当に楽になった」。子どもを寝かしつけるまで少しの休みもなかった妻から、感謝の言葉が贈られた。

スムーズに職場復帰できるように

19年1月半ば。芳賀さんは職場に戻った。始まったのは、育休前と明らかに違う日々だ。

戸建て営業に訪問した先で育休の話をすると、どこに行っても「いい制度ですね」とほほ笑まれるそうだ。「しかも、奥様からは必ず『すごく』とか『すばらしく』と付けていただける」。具体的な話では経験が生きる。使いやすい、生活しやすい間取り、扱いやすく便利な設備。アドバイスにうなずいてもらえる場面が多くなったと実感する。

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訪問先では必ず「いい制度ですね」と言われる

業務の進め方も改めた。重要度に応じて着手する順序を判断する。予定にない仕事が入れば、できる限り早く処理し、残さないように心掛ける。

家に帰ると率先して家事に取り組んでいる。「妻を手伝うのではなく、何ができるか自分で考えるようになった」。夫婦でシェアするのが当たり前とも続ける。「全般的なレベルはまだまだ。妻のすごさが身に染みて分かる」

もう一つ、大きな気づきを得た。職場を離れている間の孤独感。「育休中、働いていないことが不安だった」。不在が当たり前になってしまうのではとの焦燥も生まれた。「それほど長くないはずなのに」。休み明けは勘が鈍っていたとも打ち明ける。

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「中途半端に休まず、しっかり家族と向き合って」とアドバイス

出産、育児によるキャリアブランクが1年ほどできる女性なら、なおさら。だからこそ、うまく復帰できるように手助けし、コミュニケーションを率先して取ることを心掛ける。こうも思う。貴重な経験が仕事で必ずプラスに働く。辞めてしまうのはもったいない。「男性が当たり前のように家事をするようになれば、社会も大きく変わる」

山形支店内はもとより、積水ハウスにはまだ多くのイクメン休業対象者がいる。次に続く取得者に向け「中途半端に休むのではなく、家族だけの時間にしてほしい」とエールを送る。

仕事も、家事も、家族も。全力で向き合いながら、芳賀さんは山形県内を走る。

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