イベントリポート
進化するピアノ、
デジタルとアナログの連弾楽しむ
2022.03.20
1台のピアノを2人で同時に演奏するピアノ連弾。聴き手が広い音域の楽曲を楽しめるのが特徴だ。それを自動演奏のピアノで行ったら――。そんなユニークなイベント「ピアノの進化とストリートピアノの魅力~生演奏で届けたい~」がヤマハミュージックジャパンとヤマハミュージックリテイリングの主催、日経ウーマノミクス・プロジェクトの協力・共催で開かれた。
人気ユーチューバーの演奏に引き込まれる

東京で桜の開花が宣言された3月20日の午後、東京・銀座のヤマハ銀座店「ヤマハ銀座コンサートサロン」に登場したのは、作曲家でピアニスト、そして登録視聴者数が230万人を超える人気ユーチューバーでもある「よみぃ」さんだ。
木材をふんだんに使ったやわらかい雰囲気の会場。抽選で選ばれた約30人の聴衆を前に、ヤマハのハイブリッドピアノ「ディスクラビア(Disklavier)」に向かったよみぃさんは、「最終鬼畜妹フランドール・S」から始まり、「情熱大陸」「ナイト・オブ・ナイツ」「残響散歌」の演奏を披露。「Cry Baby」(Official髭男dism)や「六兆年と一夜物語」「地球最後の告白を」「千本桜」「群青」(YOASOBI)が、リクエストメドレーとして演奏された。
今回のイベントはインターネットを通じてリアルタイムで配信され、約1000人が演奏を楽しんだ。さらに特筆すべきなのは、東京でよみぃさんが演奏しているピアノがヤマハミュージック 名古屋店(名古屋市)にあるピアノとリアルタイムで同期していることだ。名古屋の会場では、無人のピアノが弾かれており、約20人の聴衆が聞き入った。大容量のデータを遠隔地とスムーズにやり取りできるようになった時代ならではの演出で、ストリートピアノの可能性をさらに広げたといえそうだ。
自動演奏の連弾の新たな可能性

続いてのナンバーは「夜に駆ける」(YOASOBI)。スピード感あふれる演奏に聴衆は引き込まれる。さらに「チャルダッシュ」「初音ミクの消失」となじみのある曲が流れていく。
ピアノをよく見ると、鍵盤が自動的に上下している。よみぃさん自身が事前に登録しておいた伴奏データに基づいてピアノが動いているのだ。まるで透明人間がいるかのよう。「透明人間」になったよみぃさんと、目の前に実在するよみぃさんがテンポを合わせながら鍵盤を弾いていく。「4本の腕、20本の指を操ったような感覚」とよみぃさんは表現する。
自動演奏によって鍵盤がどれぐらいの深さまで沈むのか、どれぐらいの速度で戻ってくるのかは、ピアノによって微妙に異なる。よみぃさんは「そうしたピアノによる個性を考えながら弾いている」と語る。デジタル技術でありながら、アナログ的な要素も含まれているのが自動演奏ピアノによる連弾なのだろう。
暗い時代だからこそ音楽を楽しむ

人との連弾と自動演奏との連弾は何が異なるのだろうか。「機械との連弾はテンポがくずれることはない。常に一定。人はそれに合わせていけばよい」とよみぃさんは説明する。今回はよみぃさんが事前に演奏したデータをもとにピアノが自動演奏した。別の人の演奏データを使えば、また別の趣が出るだろう。
連弾はピアノの練習でもよく使われるという。先生が難しいパートを弾き、その横で生徒が易しいパートを演奏する。またはその逆も行い、生徒の技量を上げていくというものだ。自動演奏による連弾が広がれば、こうした練習が気軽にできるようになりそうだ。

なかなか収まらないコロナ禍をはじめ、暗いニュースばかりの世の中で音楽が果たすべき役割は何か。ヤマハは「おかえり、おんがく。」というキャッチフレーズでそれを表現している。音楽は前を向こうとしている人の応援歌になるのだ。
同じ場所に多くの人が集まるのが難しくなった。よみぃさんは「動画を配信するユーチューバーとして、多くの人が家に居ながらにして音楽を楽しめるようにしたい」と話す。距離の壁を崩すインターネットをうまく利用すれば、音楽の力はもっと高まる。そんなことを感じさせるイベントだった。