イベントリポート

ポストコロナの女性リーダー、強さ誇示せず等身大の思いやり重視で

新型コロナウイルスの感染拡大は私たちの働き方や生き方にも大きな影響を及ぼしています。その経験は感染収束後もそれぞれの人生設計に色濃く反映されるでしょう。女性の働き方や生き方の変化と将来の姿について各界の女性リーダーが議論する「日経バーチャル・グローバルフォーラム~Women in Innovation~女性リーダーが見るポストコロナ時代 新しい働き方・生き方」4回シリーズが始まりました。2月12日配信の第1回「リーダーシップ」編では、衆議院議員で自由民主党幹事長代行の野田聖子さんが登壇。これから求められる新しい女性リーダー像について、自身の体験を交えてざっくばらんに語りました。

新リーダーは「透明」かつ「誠実」であれ

「変わる社会と新たなリーダー像」をテーマに掲げたこの日のトーク。ポストコロナ時代に求められるリーダー像について野田聖子さんは「(男性的な)強さに代わって、透明性や誠実さが求められている」と自分の考えを語りました。一例がコロナ禍への対応。自身が感染しないためというよりも、他人や家族に感染させないためにマスクを着用する。そこで問われるのは他人に対する思いやりです。「相手の立場に立てるやさしさ、思いやりを積み重ねていくことが今まで以上に大切になります。等身大の"仲間"であることが、リーダーとして承認される条件になると思います」。指導力でぐいぐい引っ張るタイプというより、周囲からコンセンサスを得られる、つまり「あなたなら信用できる」と誰もが思えるリーダー像です。

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野田聖子さんは1993年から衆議院議員を務め、女性を取り巻く様々な課題に取り組んできた

そんなリーダーが生き生きと引っ張り、活性化する社会の姿を、野田さんは経済用語の「ブロックチェーン」に例えます。これまでの日本は政治も経済もトップダウン、つまり上から波及していく"マッチョ"な仕組みでしたが、これからは「あなたの取り柄、私の取り柄が多様に生かされていく」。そんな世の中になるというイメージを描きます。

野田さんは会社員の経験があり、現在は子育て真っ最中のママでもあります。「普通に、平凡で、どちらかというと"しくじり"の多い人生。今は10歳児に振り回されて半ベソをかいています」――。ステイホームの世の中になって、政治を取り巻く環境も変わりました。若手議員の頃に教え込まれた「国会議員の仕事は夜の会食が本番」「相手の本音はほろ酔いのところで聞き出す」といった流儀は一転、自粛に。ただ、野田さんは自ら自粛を早々に決め込んでいました。「息子には基礎疾患があり、コロナで真っ先に命を失う、と思ったときから(会食などは)やめました」。衆院本会議場にマスクを持ち込み、定着させたのも彼女。「言われてやるとしんどいじゃないですか。息子を守んなきゃ、という自分の決意で進めました」

決断はリーダーでなくても自分でするもの

祖父を継いで政治の世界に飛び込んでからは、「目の前にあること」「自分の耳で聞いたこと」で判断することを心掛けてきたそうです。国政への最初の挑戦がうまくいかなかったり、郵政民営化では「造反」のレッテルも貼られたりもしました。「それでも、自分に嘘をついていないから楽なんです。自分が青だと思っているのに、支持者や有権者のために、あるいは自分のキャリアのために赤と言ったりすると仕事がつらくなる」。こうだと思ったことを曲げたことがないので、メンタルに"くる"ことがなかったのです。

リーダーは孤独とも言われます。仕事を問わずいまそんな立場を目指すひとたちに対しては「孤独、ストレスという言葉を自分の内面の辞書に入れなければいい」とエールを送ります。孤独な時間とは、裏返せば自分一人でいられる時間。一人でいられる時間は自分で決められる時間。そう思えばいい、ということです。そもそも、人生で何か決断を迫られたとき、最後に決めるのは自分です。パンプスを買うかどうかという些細なこともそう。結婚するかどうかを決めるのだって最後は自分です。「リーダーであろうとなかろうと、結局は自分で決断するんですよ。そう思えばいいんじゃないですかと思いますね」

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トークは日本経済新聞社東京本社のスタジオで行われた

日本の女性の社会的地位は世界の国々の中でも低いとされています。要因の一つが終身雇用制度。毎朝出勤し、残業もいとわず働く正社員の働き方を念頭に置いた制度が続く限り、女性はこの先も生きにくいでしょう。野田さんは「たくさん働いた人が評価されるのはモノをたくさん作って売る時代の工場生産モデルで、ひと世代前の発想です」と指摘。その上で「コロナは悲しい出来事ですが、会社に通勤することの意味をある意味で問いかけてもいます」と続けました。通勤することがイコール仕事をすること、ではないことに気づかせてくれたからです。女性は長い目で見ると妊娠・出産などで仕事上のハンディキャップを背負わされています 。出産のときには絶対に出勤できません。しかし、テレワークが定着してくれば性別(によるハンデ)はなくなっていくのでは......。野田さんは力を込めてそう語りました。

少子化対策の政策立案に女性が主体的な議論を

日本総合研究所によると2021年の出生数は前年比7.5%減の78万4000人に落ち込む見通しです。2016年に100万人を割ってから5年。コロナ禍の追い打ちもあって、予想を上回る少子化が進んでいます。理由を聞かれた野田さんは「少子化の局面でも女性が"モノ申せる"状況になかった」ことがそもそもの問題だと断言します。「男性が政策立案している限り、その政策から『子供』がボロボロ落ちて行ってしまう」。男性は妊娠する主体でも、出産する主体でも、授乳する主体でもない。主体でないから発想が出ない。「私たち女性には産まない自由はあります。でも、今議論しているのは産め、産まないという話ではない。産みたいと願っている人が産めなくなっていることの問題。そこが混同されています」。それをいかに解決していくかが問題なのに、本質的な議論ができなくなっていることを懸念します。

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ナビゲーターはBSテレ東「日経プラス10」の榎戸教子キャスターが務めた

本音の議論をするためには、それゆえに女性の力が重要になります。「30代の未婚男性が語るより、妊娠・出産・育児を経験した女性が語る方がダイレクトに伝わります」。企業も、政治も、行政も、女性を起用しなければ本質的な議論はできない。よくある「1セクションに女性が1人」というのは最悪の人事だ、と野田さんは語気を強めます。「ひとつの職場に少なくとも女性が管理職として3人いなければ"モノ申す"ことなどできません」。1人では「引き上げられ感」が強いが、3人いれば数も頼りに突き進むことができる。それを経営者には分かってほしい、と言います。「100人の課長枠がある会社はうち30人が女性なら議論ができる。(役職に)1人上げただけで得意顔の会社はむしろ『この会社大丈夫かな』と思わなければ」

メッセージは「等身大」を意識して発信

コロナ禍のいまはリーダーがメッセージを伝えるのが難しい時代と言われます。一方で、SNS(交流サイト)では個人の偏った言い分が爆発的に拡散する現象も広がっています。正しいことを発信するリーダーに必要な資質について、野田さんは「私は、むしろ工夫をしない方ですね」と言います。「あるがままの等身大でいい。よく見せたり、強く見せようとしたりしても、すぐにバレてしまうから」。等身大でいるためには、自分の弱いところも見せられるようにしておく。若い頃は男性議員に負けじと強く、知識豊富に見せかけていたそうですが、今は違います。「等身大でいられると率直になれるんです。いいところも悪いところも出せるのが楽だし、そういう距離感で仕事をするのは大事なことだと思います」

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知らない、分からないと言えることが大事と話す

国会議員は法律をつくるのが仕事で、もとよりそれは一人ではできません。野田さんがこれまで作った議員立法も「すべて女性たちの叫びから始まっている」。だから「分からない」ことは恥ずかしいことではなく、むしろ虚勢を張るのをやめた方が勝ち。キャリアを重ねて「いろいろな人たちの力を借りたい」と臆せず言えるようになった――。議員として年数を、当選を重ねて達した境地でしょうか。「分からないことは本当にたくさんあります。分からないことは恥じゃない。"知ったかぶり"をやめるのに相当の年数がかかった。だからやめられたもの勝ち。『分からない』と言えるかがカギですかね」

「ここまで仕事をして生きてくることができた、自分は働けるんだということを普通に受容できればいい。自分の内なる自分が、自分を一番励まし、愛してくれていると思います。 (だから)自分の中の自分をいちばん大事にしてほしいと思います。私はいつもそう思っています」。1時間のトークはこんな言葉で締めくくられました。

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日経バーチャル・グローバルフォーラム~Women in Innovation~女性リーダーが見るポストコロナ時代 新しい働き方・生き方」は4テーマの配信を予定しています。「リーダーシップ」、「ダイバーシティ」(2月15日配信済み)に続き、第3回「エンパワーメント」を3月1日(月)に配信します。第4回「ウェルネス」は配信日が決まり次第、サイトにてお知らせします。いずれのテーマも配信後は日経ウーマノミクス・プロジェクトのサイトでアーカイブ公開を予定しています。

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