イベントリポート

生活や社会に役立つ数学を実感 女子高生、データサイエンスを学ぶ

文系か、理系か――多くの人にとって人生の岐路のひとつが高校時代の文理選択ではないでしょうか。一昔前まで女性は文系志望が圧倒的に多かったですが、最近は理系を選ぶ生徒の割合が高まってきました。日経サイエンス社と日本経済新聞社では企業などと連携し、科学技術の魅力と重要性を中高校生に伝えるサイエンス講義を各地の学校で開いています。12月3日には埼玉県立川越女子高校(川越市)で、ITサービス大手の日立システムズによる「データサイエンス」の特別講義が開催されました。受講した女子高生たちは、いま学んでいる数学が日常のなかに具体的に生かされている実例を学び、文系理系にかかわらず数学を学ぶ意義と大切さを実感しました。

文系にも数学の素養が求められるAI時代

川越女子高は理数教育に力を入れるスーパーサイエンスハイスクール(SSH)の指定校です。この日、特別講義を受けたのは、文系・理系の進路選択を控えた高校1年生37人。日立システムズで「データサイエンティスト」として活躍する板井光輝さんが教壇に立ち、表計算ソフトを活用したデータ分析の実践演習を交えて、約2時間の講義をしました。板井さんは大学院を出て2013年に日立システムズに入社。卓越した数学の知識を生かして、データ分析によるビジネス課題の解決やデータサイエンス人材の育成などを担っています。

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日立システムズの板井光輝さんは大学や企業でもデータサイエンスを教えている

「数学は私たちの身の回りにあふれている」と板井さんは生徒たちに語りかけます。例えば高校生が毎日使うスマートフォンの形状を決めるときにも、自動車や飛行機の空力設計にも、音楽をデジタル録音するときにも数学が使われていることなどを紹介しました。世の中はいまビッグデータとAI(人工知能)の時代が到来し、数学の素養は理系だけでなく文系の人にも求められるようになってきています。

ビジネスや社会の課題をデータ分析で解決

板井さんが務めるデータサイエンティストとは、数学・統計学に基づくデータ分析を通じてビジネスや社会の様々な課題の解決策を提案する専門家です。「幅広い数学の知識と、理論をプログラミングなどで実装する能力が不可欠で、さらに分析対象となる業務の専門知識が必要」といいます。実際のデータ分析に当たっては、データの収集・整形→データの特徴把握→数理分析による有益情報の抽出→結果検証→行動判断というプロセスがあり、収集したデータを分析しやすい形に前処理する「データ整形」が分析を成功させるカギになると説明しました。「全行程の7~8割をデータ整形に費やすこともある」そうです。

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データ分析のプロセスのなかで、分析成功のカギを握るのは「データ整形」という

今回の実習では、収集・整形したデータの特徴を把握するうえで、高校1年生が習う数学の範囲内の平均値や中央値、標準偏差などの基本統計量やヒストグラム(度数分布図)などを分析に利用しました。データの山に埋もれている有益な情報を発掘するためには「ヒストグラムの形状から確率分布を推定できるようになること、データの平均や標準偏差が意味のあるものなのかを判断することが大切」と板井さんはデータ分析の勘所を教えてくれました。

実践演習でテーマパークの来場客データを分析

生徒たちは板井さんが準備したデータ分析ツールを使った実践演習にも臨みました。生徒自らが経営コンサルタント役となり、あるテーマパークの来場客データを分析して、売上高を増やすための提案をするという演習です。飲食施設などの利用金額や好感度など、多数の項目にわたる大規模データを分析します。

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生徒たちはチームを組んでデータ分析に当たり、テーマパークが抱えるビジネス課題の解決策を探った

最初は分析ツールである表計算ソフトの扱い方に戸惑っていた生徒たちですが、板井さんの指導ですぐにマスターすると、3~4人でチームを組んでデータ分析を始めました。規模の大きい来場客データを切り分けて有意なデータを抽出し、統計的な分析を加えます。生徒たちのパソコン画面には次々と分析結果が並んでいきます。あるグループでは「アトラクションに比べ、飲食に重きを置いていない顧客像が浮かび上がる」と分析。「飲食施設でインスタ映えする商品を増やして利用を促せば、売り上げ増につながる」との仮説を導き出しました。

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表計算ソフトによるデータ分析ツールを使って来場客データのヒストグラムを作成

受け身ではなく、目的意識をもって学ぶ大切さ

講義を受けた生徒の一人は「企業などが実施しているアンケートが、商品やサービスを開発するのに、このように活用されているのだと分かった。データ分析の意義を実感できた」と世界が広がったようです。また、数学に苦手意識があるという生徒は「世の中は数学であふれていて、文系でも数学・統計学が大切だと理解できた」と語り、これからは数学の取り組みにも力を入れる姿勢です。「データサイエンティストという職業に興味を持った」という感想も聞かれました。

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川越女子高校の生徒たちはコンピューター室で「データサイエンス」の特別講義を受けた

板井さんは講義の最後に数学の産業界での活用事例を具体的に示しました。高校の3年間で習う微分・積分、ベクトル、行列、データの分析、漸化式、確率分布、統計的推測などの数学の知識は、実際にマーケット分析や機械の故障予測、画像や指紋認証技術など多くの産業でも応用されています。「データを扱わない業界や職業はほとんどありません。数学を意識的に活用できるとビジネスや社会の課題の解決に生かせます。受け身ではなく、自分が何のために数学を学ぶのかという目的意識をもって取り組んでください」と生徒たちに熱いメッセージを送りました。

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