イベントリポート

映画『ジョジョ・ラビット』 ~ 笑って泣いて「愛は最強」を知る

カナダ・トロント国際映画祭の観客賞(最高賞)を受賞し、第92回米アカデミー賞の作品賞など6部門にノミネートされた米映画『ジョジョ・ラビット』(1月17日全国公開、配給ウォルト・ディズニー・ジャパン)の特別試写会&トークイベントが1月7日、日経ホール(東京・大手町)で開かれました。ナチスドイツの不条理を少年の目を通して描いた物語で、戦争映画でありながらユーモアと感動にあふれ、愛の力、心の自由、生きる喜び、戦争の残酷さなど多くを考えさせられます。映画鑑賞後にトークイベントに登壇した女優サヘル・ローズさんは「予想をはるかに超える大傑作。笑って笑って泣いて泣いた」と絶賛。試写会に参加した日経ウーマノミクスの会員からも「今までの映画で一番泣きました」「強い愛を築きたいと思いました」「パワーをもらいました」「もう一度見たい」といった感想が相次ぎました。

「『ライフ・イズ・ビューティフル』以上の作品」~50代男性

映画『ジョジョ・ラビット』は第二次世界大戦下のドイツで生きる10歳の少年ジョジョが主人公です。ナチスの青少年組織ヒトラーユーゲントに入り、立派な兵士になろうと奮闘していたジョジョが、シングルマザーのロージーやユダヤ人少女エルサなど周囲の人々との交流を通じて人生の真実に触れ、"大人"へと成長していく姿を描いています。ナチスドイツというシリアスな題材ですが、監督のタイカ・ワイティティはユーモアたっぷりに風刺することで幅広い世代に多くのメッセージを伝えることに成功しています。試写会の会場は幾度も笑いに包まれ、そして感動ですすり泣く声があちらこちらに広がりました。

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映画『ジョジョ・ラビット』はナチスドイツを風刺しながら、10歳の少年の成長を通じて人生の真実を描く物語

「いろいろなカタチの愛を、戦争の中での人の醜さや悲惨さと一緒に見た。笑いがたくさんあったから、悲しい描写も耐えられた」(10代女性、高校生)/「笑って泣いて、とても良かった。恐怖も美も経験し、絶望が最後ではない・・・本当にそう強く感じました」(20代女性、会社員)/「戦争映画なのに、あふれるユーモアと明るさで、じんわりくる感動」(30代女性、会社員)/「自分自身も2人の子供を持つ母親なので非常に考えさせられました。ユーモアとテンポよい音楽で救われましたが、作品のテーマが内包する重い現実につらさを感じました。こうした映画によって個々人の意識が変わり、未来がよい方向に進むことを願います」(40代女性、会社員)/「家族で見られるヒトラー、ユダヤ人問題の映画としては『ライフ・イズ・ビューティフル』以上に間口が広く、素晴らしい。シリアスとファンタジーのバランスもよく、監督のセンスの良さがうかがえる」(50代男性、教員)

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試写会会場には約400人が来場。上映後には女優サヘル・ローズさんを招いたトークイベントがあった

「私もかっこいい大人になろうと思いました」~20代女性

本作は新たな天才子役を誕生させました。ジョジョを演じたローマン・グリフィン・デイビスは映画初出演。「かわいくてかわいくて、初々しくて、この存在感。天才的な演技力、類を見ないクオリティの高さに驚きました」(50代女性、会社員)/「ジョジョのラストシーンの顔が最初と全然違っていて、かっこいいなと思った。それを表現できる子役がすごい」(10代女性、高校生)。ジョジョを取り巻く登場人物たちも個性たっぷりで魅力的です。ジョジョの空想上の友達、アドルフ・ヒトラーはワイティティ監督自らがコミカルに演じ、映画『チャップリンの独裁者』を彷彿させます。ジョジョの親友ヨーキーも多くの観客の心をつかみました。演じた子役アーチー・イェーツは、米ウォルト・ディズニーが手がけるリブート版『ホーム・アローン』の主演に抜擢されています。

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主人公ジョジョ(右)を演じたのは映画初出演のローマン・グリフィン・デイビス。ヒトラー(中央)はタイカ・ワイティティ監督がふんした

多くのウーマノミクス会員がとりわけ刺激を受けたのはジョジョの母親ロージー(スカーレット・ヨハンソン)と、隠し部屋で暮らすユダヤ人のエルサ(トーマシン・マッケンジー)、そしてヒトラーユーゲントの教官キャプテンKことクレンツェンドルフ大尉(サム・ロックウェル)です。「2人の強く優しい女性が印象的でした。私も彼女たちのようにジブンを持って生きていきたいと思いました」(30代女性、メーカー)/「スカーレット・ヨハンソンの明るく、勇気があり、胆力のある強い母親ぶりに感動しました」(20代男性、編集者)/「どんな時も明るく、ジョジョを楽しませようとする母の姿がかっこよかった。私自身もかっこいい大人になろうと思いました」(20代女性、事務職)/「サム・ロックウェル、よすぎ、泣いた・・・」(30代女性、会社員)/「キャプテンK、最後がかっこいい」(50代男性、会社役員)

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サム・ロックウェル演じる「キャプテンK」(左)とスカーレット・ヨハンソン演じる母親ロージー(中央)

「こんなに愛について考える日になるなんて・・・」~40代女性

『ジョジョ・ラビット』のメッセージの一つが「愛は最強」です。映画を見た会員の感想にも優しさと愛を思い起こす言葉があふれていました。

「息子が10歳になります。帰宅したら息子を抱きしめたいと思います。私もシングルマザー、愛情たっぷりに育てていきます」(40代女性)/「いま、生きていることに感謝し、家族を愛し、大切にしたいと思いました」(30代女性)/「戦争の怖さ、愛の強さなどインパクトのある映画でした。いま、私の家族は全員バラバラに住んでいますが、この試写会が終わったらすぐに電話して、親に愛を伝えようと思いました」(女性、会社員)/「自分の信じるものをしっかり持ち続けていれば、どんな世界でも素晴らしく生きられる(死ぬことができる)のだと感じました。私もそんな強い人になりたい。それを支えるのが愛なのだなと思います」(20代女性、アルバイト)/「こんなに愛について考える日になるなんて、今朝目覚めたときには考えもしませんでした!」(40代女性、会社員)

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ユダヤ人少女エルサ(左)を演じるのはトーマシン・マッケンジー

ビートルズ、デヴィッド・ボウイの名曲が映す世界観

映画を彩る音楽や映像美もこの作品の世界観を効果的に表しています。冒頭に流れる曲はビートルズが初期の時代にドイツ語で収録した「抱きしめたい」(I Want To Hold Your Hand)。ラストシーンではデヴィッド・ボウイの名曲「ヒーローズ」(Heroes)のドイツ語版が使われます。

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「キラキラしたファンタジーのような映像美がとても印象的。苦しい戦争という事実が胸に突き刺さるストーリーなのに、どこか心温まる秀逸な映画でした」(30代女性)/「映像の美しさ、戦争の悲しさ、洗脳の怖さなどを感じました」(50代女性、デザイン業)/「期待していなかったのですが、見始めると音楽もよく、どんどん引き込まれ、いくつかのシーンで涙しました。戦争の怖さも感じつつ、国家や人種の問題など重苦しいだけの表現ではないところが心により響いたと思います」(20代女性、会社員)/「ラストで流れるヒーローズが映画の言いたいことを締めくくっている」(40代女性、会社員)

女優サヘル・ローズさん「母の愛の力に救われた」

試写会後のトークイベントでは女優・タレントとして活躍するサヘル・ローズさんが日本経済新聞の中村奈都子女性面編集長と対談しました。サヘルさんはイランで孤児院に入り、養母ジャスミンさんに引き取られ、8歳の時に日本にやってきました。映画のジョジョと同じように母子家庭で育ち、子供のときに貧困やいじめを経験しています。一時は「私は生まれてくるべきではなかったのかな。自分は必要とされていないのかな」と深く思い悩んだそうですが、そんなサヘルさんにジャスミンさんはこう諭しました。「あなたはあなたの良さがある。他人を見るのではなく、自分のパワーを信じて生きなさい。置かれた環境をどう生きるかはその人次第。生きているだけでありがたいのだから、目の前にあることを大切にしなさい」

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トークイベントに登壇したサヘル・ローズさん(右)。聞き手は日本経済新聞の中村奈都子女性面編集長

サヘルさんは養母の愛情をいっぱいに受けたといいます。「映画を見ながらジョジョの母親ロージーに、私のお母さんの姿を何度も重ねました。心の強いロージーが食卓でジョジョに向かって父親役を演じるシーンが大好きです・・・」とトーク中に映画を思い出し涙ぐむ場面も。「母親の存在って、子供にとってすごく大きい。強い母がいつも笑顔でそばにいたからこそ、私は救われました。まさに愛は最強なんだということを母から学びました」と語ってくれました。養母だけではありません。小学校の給食調理員や校長先生など周囲の大人にも助けられ、支えられたと感謝しています。サヘルさんはいま世界を旅しながら、孤児を支援する活動に取り組んでいます。

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「イランの孤児院にいたときにイラクは敵だと大人に言い聞かされていた。しかし今の母は『間違っている。憎しみは捨てなさい。イラクの子供たちと触れ合い、相手を知れば敵も味方もない』と教えれてくれた」

「次代を担う子供を導くのは大人の大切な役割」

映画『ジョジョ・ラビット』は子供の成長に与える大人の役割の大きさを物語っています。サヘルさんは自らの経験も踏まえ、「大人がどう子供を導くかはすごく大事。皆さんも子供たちに自分たちの姿が見られているということ、子供たちは大人の言葉にすごく敏感であることをこの映画で感じ取ってもらいたい」と会場に訴えました。映画を見て同じように感じた会員は多くいます。「ラストシーンのジョジョの姿に、母の愛の力、無限の愛の強さを感じた」(40代女性、会社員)/「子供の育つ環境は大人たちで決まるということ、私も民間人の一人ですが、子供に立派だと思ってもらえるように2020年は姿勢を改めたいと思います」(30代女性、主婦)

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「『ジョジョ・ラビット』は私のベスト5に入る作品」とサヘルさん。「次回は母と一緒に見たい」という

いま世界では偏見、不寛容、憎しみなどの不穏な動きが相次いでいます。ワイティティ監督は「子供たちが耳をそばだて、学び、未来へと進むことを助けるために、第二次世界大戦の恐ろしさを繰り返し語ることが重要」と指摘しています。映画を見た若い世代は次のように感想を記しました。「世界で何が起きているかを知ろうとするきっかけとして、この映画を見るのもありだと思った。高校の友達に教えたい!」(10代女性、高校生)/「第二次世界大戦の話だが、現代にもある怖さをストレートに描いている」(20代男性、大学生)/「自分は戦争を経験していないけれど、決して戦争を起こしてはいけないと強く思った。この作品との素晴らしい出会いに感謝したい」(20代女性、学生)――。みなさんも『ジョジョ・ラビット』を見て、映画に込められた多くのメッセージを噛み締めてみてください。

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