イベントリポート

語れる体験を積み上げよう ~ 学生のためのキャリアセミナー in 東京

「私って何?」「どんな仕事が向いているの?」――。大学生の就職活動は自らへの問いかけから始まります。そんな悩める学生に、社会の第一線で活躍する先輩たちの生き方から学んでもらおうと、日経ウーマノミクス・プロジェクト実行委員会は「学生のためのキャリアセミナー」を2019年度も全国6カ所で開催しました。2月15日に東京で開いたセミナーには、就活生を中心に約60人が参加。積水ハウス、東京海上日動火災保険、P&Gジャパンの社員が、キャリアに関するリアルな想いを披露してくれました。学生たちにはどのように届いたのでしょう。当日の模様をリポートします。

経験にひもづけて自分の可能性を探そう

セミナーはまず「就活のリアル~面接の舞台裏、教えます!」と題したキャリアコンサルタントの講演からスタート。講師はハナマルキャリア総合研究所代表の上田晶美さんです。「どんな仕事に就きたいか?」「自己分析の目的は?」――上田さんはマイクを手に会場を回りながら、就活生なら誰でも知りたいポイントを解説していきます。特に強調したのが、自らの経験で勝負するという点。例えば仕事選びで悩む学生には、大学での経験をもとにした「体験ひもづけ方式」の考え方を教えてくれました。「テニスサークルで会計→銀行」「アルバイトで塾教師→教育産業」といったように、経験をひもづけながら自分の可能性を探っていきます。

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学生に質問を投げかけながら講演するハナマルキャリア総合研究所代表の上田晶美さん

会場の学生が一斉にスクリーンに顔を向けたのは、志望動機の書き方の具体例が映し出された時です。ある学生が書いた証券会社向けの志望動機で、ネット上には「これで合格した」と書かれていたそうです。しかし、そこには「まず金融業界の志望理由、次に証券業界の志望理由、それから当該企業の志望理由」と三段階になっており、他の会社も受けるつもりなのが見え見え。上田さんは「志望動機がいいから合格したとは思えない。コピーして使ってはダメ!」とばっさり。代わりに模範例として示したエントリーシートは「ホールセール部門で働き、将来はM&A部門を担当して会社の成長に貢献したい」と具体的な内容。勉強しないとわからない用語がちりばめられ、会社説明会などに出向き、自分でしっかり業界研究している姿が浮かび上がります。その後も続いた解説では、面接終了後も会社を出るまで人事担当者は学生の態度を見ていることなど、面接時の具体的な助言が続出。熱心にメモをとる学生の姿が目立ちました。

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上田さんは面接のときの意外な注意点なども教えてくれました

変化の激しい時代 キャリア形成は「複線」型に

続いて日本経済新聞の中村奈都子女性面編集長が「自分らしく働くために今、知っておきたい3つのこと」と題して講演しました。3つのうちの第1は「知識」。「VUCA(ブーカ=変動、不確実、複雑、曖昧)」と呼ばれる変化の激しい時代になった今、人生設計は入社すれば人生のゴールが見えていた「単線」型から、変化を見極めながらキャリアを形成する「複線」型へと変わっています。そこで武器になるのが知識です。大学で学ぶだけでなく本や人との出会い、旅を通して知識を広げることがキャリア形成にも影響してきます。気負うことなく「1日15分、本や新聞を読むだけで十分な知識になる」と励ましました。

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「VUCAの時代には学びがキャリアを複線化する」と講演する日本経済新聞の中村奈都子女性面編集長

第2は「アウトプット力を高める」です。学生時代にインプットした知識を40年かけて仕事の成果としてアウトプットしてきた「単線」の時代ではなくなりました。人生100年時代を見据えて留学や通信教育による資格取得など、学び続ける重要性を強調しました。社会人のアウトプットとは、すなわち世の中の不満や不安を解決すること。アイデアを生み出す力と実行力が求められます。その力を高めるため「ニュースを見て不満をツイートするだけでなく、その具体的な問題解決策を考えよう」と助言しました。第3は「働く欲求レベルを上げていく」こと。経済的自立から会社や地域に役立つことへと「欲求レベルを順番に上げていけば本当にやりたいことがいつか見つかり、成長したと必ず実感できる」と締めくくりました。

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中村編集長は「自分らしく働くためにはアウトプット力を高めること」とアドバイスしました

先輩たちの入社の決め手

次は「将来の自分をイメージしよう~先輩社員から学ぶ」と題したパネルディスカッションです。積水ハウス・京葉支店に勤める村松奈津さん、東京海上日動火災保険・人事企画部人権啓発・ダイバーシティ推進室室長の三浦時子さん、P&Gジャパン・生産統括本部(高崎工場)の長岡渚さんが登壇。中村編集長がコーディネーターとなり、学生時代や社会人になってからの経験談などを3人が語りました。

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企業で活躍する3人が登壇したパネルディスカッション。コーディネーターは中村編集長

大学で建築学を専攻した村松さんですが、就活は住宅業界に絞っていなかったそうです。いろいろな企業を回るうちに「将来なりたい自分像にぴったりの働き方」との強い印象を持って積水ハウスへの入社を決めました。三浦さんは入社歴33年。大学で児童教育学を学び、保育の道などを模索しましたが、たまたま参加した東京海上のセミナーで女性社員の生き生きとした姿に引かれたのが入社の決め手となりました。今はダイバーシティの推進役として、誰もが働きがいを持って活躍できる環境づくりに取り組んでいます。理系出身の長岡さんは大学で時間がかかる基礎研究を続けるうち、身近な生活商品の開発・販売にかかわる「グローバルな消費財メーカーに行きたい」との思いを持つようになりました。今は欧州などのチームと協働して新製品の工場への導入や予算管理などを任されています。

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積水ハウス 京葉支店の村松奈津さん

仕事に生きる学生時代に培った力

3人の学生時代は今にどのようにつながっているのでしょう。長岡さんは所属したテニスサークルで2つのことに力を入れました。第1は向上心を忘れずに競技の勝ち負けにこだわること。第2はサポート活動で、進んでコーチを引き受けました。「周りのニーズにどう貢献し、チームのモチベーションをどう高めるかは今の仕事にもつながる経験」と言います。三浦さんも心理学やコミュニケーションを学んだ経験が今につながっています。損害保険会社で必要なのはクライアントのリスクを保険で解決する提案力。「お客様のお困りごとや課題など、本音を引き出すコミュニケーション力が何よりも大切」と力を込めます。「学生時代に何か変わったことをやるのもいいですよ」と話すのは村松さん。自身、古い建物が好きなのが高じて4年間、宮大工のアルバイトを経験しました。この体験をネタに、営業先の顧客や同僚と会話が弾むことも多いそうです。

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東京海上日動火災保険 人権啓発・ダイバーシティ推進室室長の三浦時子さん

仕事のやりがいを感じる瞬間

話題は仕事のやりがいや苦労したこと、今後の目標に移ります。長岡さんは入社前、当たり前のように店頭の生活用品を見ていましたが、その新製品が実は大変な苦労の中から生まれていることを入社後に実感。実際に棚に並んで消費者や家族、友人から満足の声が届くと「非常に大きな喜びを感じます」。今後は「大きな組織のマネジメント力を身に付けたい」と明るい表情で話してくれました。「あの時保険を勧めてくれてありがとう」。三浦さんは営業時代に、地震によって家屋に被害があったお客様からかけられた、この言葉が忘れられません。育児と仕事の両立に苦労した時期もありましたが、その時々の優先事項を見直しながら乗り切りました。営業職の村松さんは「お客様に寄り添って住宅の悩みを一緒に解決する仕事は、なりたかった自分像にかなり近い」と満足そうです。仕事と子育てを頑張り、退社後にもう一回家を建てて新しい生活をすることが夫婦の夢だそうです。

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P&Gジャパン 生産統括本部の長岡渚さん

AI時代こそ試される「人間力」

最後に学生たちへのメッセージをいただきました。三浦さんはAI時代こそ人にしかできない仕事の価値が高まると強調。旅行や美術、映画など本物に積極的に触れ、「この映画監督は何を伝えたかったのかな」などと考えて感性を高めることも自分磨きにつながると助言しました。村松さんは人間力を高めるためにも人とのつながりが大事と熱く語りました。何か問題に突き当たった時も「どう解決するか、人と会ってヒントをもらうことが大事」と言います。長岡さんは自己分析の点で具体的にアドバイス。「まず、何をしている時が楽しいか、やりがいを感じるか、日々の生活で自分の強みと弱みを見つける、それを自分の言葉で話す訓練をすれば、緊張せずに面接に臨めます」と笑顔でエールを送りました。

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交流会には登壇企業のほかの社員も加わり、学生たちが人生の先輩たちに積極的に質問をしていました

セミナー終了後は、登壇者と学生が軽食を取りながら気軽に話せる交流会です。エントリーシートや面接、企業選びのポイントなどさまざまな質問に会話も途切れません。終了後に学生に感想を聞くと「やりがいを軸にした企業選びが大事だと思った。流通業を希望していたが、もっと業種の枠を広げて研究したい」「理系で研究室に長くいるせいかコミュニケーションが苦手。就職に備え会話力を高めないといけないと刺激を受けた」など、自分を見つめ直すきっかけになったようです。新型コロナウイルスの感染拡大で企業説明会が中止・縮小されるなど学生への影響が懸念される事態になりましたが、今回のセミナー体験が学生のみなさんの糧になることを祈っています。

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