イベントリポート

挑戦せよ、経験せよ ~ 学生のためのキャリアセミナー in 信州大

冠雪の北アルプスを西方に望み、国宝松本城にほど近い場所に信州大学松本キャンパス(長野県松本市)があります。2019年12月24日に開催した「学生のためのキャリアセミナー in 信州大学」(主催:信州大学キャリア教育・サポートセンター、日経ウーマノミクス・プロジェクト実行委員会)にはクリスマスイブの日にもかかわらず約150人の学生が集まりました。聖夜を控えて気もそぞろになりそうですが、学生の皆さんは社会で活躍する先輩たちから自分なりに何かを得ようと登壇者の話に熱心に耳を傾けました。

時間のある学生時代に海外に出よう

セミナーのパネルディスカッションに登壇したのは長野県の企業や県庁で働く先輩女性3人です。日本経済新聞の中村奈都子女性面編集長が司会となり、それぞれの学生時代や社会人になってからの経験をもとに学生たちに様々なアドバイスを送りました。

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セミナーには約150人の学生が参加。先輩たちの声に耳を傾けた

東京海上日動火災保険の後藤佳奈さんは信州大学人文学部のOG。長野支店東信支社で保険代理店の経営・営業支援を担当しています。学生時代には「厳しい」と評判だった「英語学ゼミ」の活動に力を入れました。「毎週、難易度の高い課題が出され、翌週発表するというプレッシャーのかかるゼミで非常に大変な思いをしたものの、先輩後輩一緒にワイワイと準備したのは楽しい思い出です」と懐かしそうに振り返ります。イベントサークルや趣味の写真撮影、現代アート巡りも学生時代に楽しんだそうです。

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東京海上日動火災保険長野支店東信支社で働く後藤佳奈さん。信州大学人文学部卒

長野県庁の中條瑞穂さんも信大経済学部の卒業。現在は産業人材の育成支援に携わっています。大学生活では「何か新しいことを始めたい」と一念発起。未経験だった音楽に挑戦しようとギターマンドリンクラブに入りました。「仲間の協力もあって4年間で演奏できるレベルになり充実した日々でした」。組織運営でも力を発揮し、クラブ内や外部との意見調整の経験は今の仕事にも大いに役立っているとのことです。

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長野県産業労働部人材育成課の中條瑞穂さん。信州大学経済学部卒

ホクトの渡邊沙織さんは東京の実践女子大学卒業後、地元長野県に戻って就職。現在は社長室で秘書を務めています。大学時代に力を入れたのはアルバイトと学業。イタリアンレストランや居酒屋、ピザ店、スーパーでの試食販売など食品系のバイトに精を出しました。「飲食店はまかないがあるので食費が浮いて助かった」と笑います。学業では教員免許のほか食品衛生管理士の資格を持ち、4年間での取得単位数は160に上ったそうです。

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ホクトの社長室で秘書を務める渡邊沙織さん。東京の実践女子大学卒、長野県出身

先輩3人は学業、サークル、アルバイト、趣味など様々な活動に挑戦し「充実した学生生活から多くのことを学んだ」と一様に振り返りました。大学生の間に取り組んでおいたほうがいいこととして「新聞を読むこと、パソコンのワードやエクセルのスキルを習得すること」(渡邊さん)、「英語力の向上と海外旅行」(中條さん)、「いろいろな年代の人と接点を持つこと、一般教養を身につけること」(後藤さん)が挙がりました。

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学生時代と社会人になってからの経験を踏まえ、学生たちにいま取り組むべきことなどをアドバイスした

特に海外旅行については全員が「社会人は時間がなく、なかなか長期休暇を取ることができない」と口をそろえ、時間に余裕のある学生時代に行くことを勧めました。「今はネットでいつでも何度でも海外各地を見られますが、実際に現地で数カ月生活するといろいろな面で日本と世界と違いが分かります。ぜひ体験してみてください」と中村編集長も強く同意しました。

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司会を務めた日本経済新聞の中村奈都子女性面編集長も学生たちに海外に出かけることを勧めた

「VUCA」の時代に自分らしく働くために

パネルディスカッションに先立ち、中村編集長が「自分らしく働くために今、知っておきたい3つのこと」と題して講演しました。現在の若者を取り巻く状況を説明する言葉として「VUCA(ブーカ=変動、不確実、複雑、曖昧)」を紹介。VUCAの時代に社会で働くいまの学生たちに向けて、日本企業で起こっている2つの変化、「働き方改革」と「ダイバーシティ(多様性)」について詳しい説明がありました。

働き方改革については、単に残業時間を減らすことや休日を増やすことではなく、労働生産性を高めることが目的、と説明。日本の労働生産性が他の先進国に比べて低い実態も紹介され、産業界がこの課題に取り組む重要性を分かりやすく説きました。ダイバーシティについては「日本人は宗教や文化に大きな違いがなく、考えることや発想が比較的似ているために画期的な商品やサービスが生まれにくい」と指摘。これが日本の企業の弱みになっており、働き方改革やダイバーシティに取り組むことが喫緊の課題である現状を伝えました。

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中村女性面編集長は講演で日本企業が取り組むべき課題と学生たちがこれから社会に出ていくに当たって必要なことを話した

人口減少時代の日本では働く女性を増やすとともに企業での登用を進めなければならないことにも触れ、世界経済フォーラムが発表した男女平等の度合いを示す「ジェンダー・ギャップ指数」が153カ国中121位と過去最低にまで落ちているデータを見せながら「日本で最も大きなマイノリティーである女性が活躍できる社会の実現が不可欠です」と強調しました。

中村編集長が講演で学生たちに伝えた「自分らしく働くために知っておきたい3つのこと」の第1は「知識は力なり」。大学4年間で学んだ量によって大きな差がつくと言い、本を読むこと、人に会って話を聞くこと、一人旅に出ることを勧めました。第2は「アウトプット力を高める」。インプットした知識や経験をどうアウトプットするかということを指します。「インプットなしにアウトプットはできないが、インプットしたからアウトプットできるわけではない。ニュースなどを見て問題解決策を考えることが第一歩になる」と強調しました。第3は「仕事と学びとライフイベントのバランスを考える」。「人生100年時代には仕事と学び、個人的なライフイベントが常に存在します。自分らしい生き方とは何か、人生の中で大切なものは何か、自分にとっての仕事はどんな位置づけなのかを考え、自分らしい働き方を導き出してください」と訴えました。そして「日本語で話している限り日本から出られない。英語を話せれば世界がずっと広がる」と、英語力を磨くことを勧めて講演を締めくくりました。

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交流会では参加学生たちが登壇した先輩たちに様々な質問を投げかけた

セミナー終了後は参加者と登壇者の交流会です。軽食を味わいつつ、登壇者を学生が囲み、仕事選びや海外旅行、休日の過ごし方など、様々な話題で盛り上がっていました。繊維学部1年生の関純哉さん(19歳)は「実際に社会で活躍する先輩たちの話は刺激になった。勉強している生物の知識が将来の仕事とどう結びつくか考えていきたい」と話してくれました。参加学生のアンケートでも「とても満足した」「満足した」という回答が9割を超える結果に。クリスマスイブに開催したこのセミナーが学生たちにとって「将来のキャリアを考えるきっかけ」というプレゼントになっていますように。

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