イベントリポート
輝け!理系高校生 ~ 未来予想図描き、前へ 300人が熱い議論
2019.07.17
日本の未来を担う高校生たちは今、どんな夢に挑戦しようとしているのでしょうか。医薬やITなど理系分野の道を歩み始めた女子高校生たちを応援し、将来の夢の実現や悩みの解決に少しでも力になりたい。そんな思いから日経ウーマノミクス・プロジェクト実行委員会は7月17日、「理系学生・高校生応援プロジェクト Be Ambitious! 夢に向かって決意の瞬間」と題したシンポジウムを大阪市内で開催しました。自分が本当にやりたいことは何か。どんな進路を選択すればいいのか――。高校生たちがそれぞれの未来予想図をめぐり、熱く交わした議論の模様をリポートします。
高校での活動、社会に通じる力に
会場となった大阪梅田駅近くのハービスホールには朝から関西地区の高校生が続々と集まってきました。この日参加したのは17校の生徒約300人。最初に製薬会社の日本イーライリリー(神戸市)の北野美英執行役員が「求められる人材と女性活躍」と題して講演し、医薬業界の現状や仕事の内容を生徒たちにわかりやすく説明しました。
新しい医薬品を創り出すには地道な研究開発と忍耐力が欠かせません。新薬が候補物質から誕生する確率は約3万分の1、市場にでるまでに平均10~15年の歳月がかかるといいます。その成果として「薬による治療満足度はこの十数年間で大きく向上しています」と北野さん。MR(医薬情報担当者)の仕事については「医師との情報交換を通じて患者さんから高く評価されることが励みになっています」と紹介。「薬を創り、患者さんに届けることは、患者さんとご家族の人生を変えることができる仕事です」と製薬会社で働く意義を力説しました。
高校生たちには「仕事をする上で英語力は必須」と助言します。同社は米国に本社を持ち世界120カ国で製品を販売するグローバル企業。「日本の患者さんのニーズを世界に伝える力が必要」といいます。このほか働くうえで①多様なチーム・人を受け入れ尊重して協働する力(インクルージョン)②知的好奇心を持って学びながら開拓していく力(イノベーション)③優先順位を意識しながらスピード感を持って課題解決に向かう力(促進)④他組織と連携し、信頼に応えながら自律的に目標達成に向かう力(成果)――など6つの素養の必要性を示しました。
これらは高校生にも無縁ではありません。例えばクラブ活動で、自分の役割を認識しながら認め合い目標達成を目指す姿勢は①のインクルージョンにつながります。優先順位を意識して研究リポートを時間通りに仕上げることは③に重なります。今向き合っている日々の活動で培う力が、社会人になってもつながってくることを教えてくれました。
高校生座談会「Youは何しに大学へ?」
続いて女子高校生の代表9人が登壇し、会場の高校生も交えての座談会です。テーマは「Youは何しに大学へ?」。大阪府立大学理系女子大学院生チーム「IRIS」(アイリス)のメンバーがファシリテーターとなり、将来の夢や大学で学びたいことついて語り合いました。
「講演で興味を持った再生医療を大学で学びたい」「ロボットのプログラミング教育を世界中の子供たちに広めたい。国が違っても技術を通じてお互いを理解し合える」「医療職、中でも生活環境や家族を支えられる看護師に興味があり、手話ができる看護師になりたい」「周りに喜んでもらえる家電製品や自動車をつくりたい」――壇上の高校生からはさまざまな夢が広がります。会場からは「志望校は学力で選ぶべきか、やりたいことで選ぶべきか」などの悩みも寄せられました。
短い休憩を挟み、会場を10グループに分けてのディスカッションに移ります。ファシリテーターの大学院生に導かれながら、各グループで議論の中心になったのは、何を基準に大学への進路を決めればいいか、何を大学でやりたいかという点です。既に将来の職種を決めている人、そうでない人を含め、悩みを打ち明けながら、大学に入ってからしたいことなどをホワイトボードに書き込んで議論が進んでいきます。普段は交流がない他の高校の生徒たちとの意見交換に多くの参加者は刺激を受けていました。
ディスカッションを終えた後はグループごとにメンバー全員が壇上に上がり、議論の結果を報告しました。「自分のやりたいことを見極めてから大学や学科を決めるべき」「自分が取り組みたい研究に一番近い論文を発表している教授がいる大学を選ぶ」「オープンキャンパスで知見を広げることが重要」などの意見が続々と披露されます。全グループの発表が終わると、司会を務めたIRISの川岸樹奈さんが「自分で選んだ道は絶対後悔はしない。自信を持って突き進んでください」と高校生たちにエールを送りました。
豊かな社会の実現へ、企業の社員らと議論
午後は「知の探求 常識通じぬ未来を開け」と題して、企業などの第一線で活躍するビジネスパーソンがファシリテーターとなってのグループディスカッションです。「製薬(塩野義製薬)」「生活・健康(三洋化成工業)」「エネルギー・環境(住友電気工業)」「食品(タマノイ酢)」「IT(大阪府警察本部サイバー犯罪対策課)」の5つのグループで、それぞれ8~10人の高校生が豊かな社会の実現に必要なこと、女性活躍推進に必要なこと、豊かな未来社会を築くために企業・組織がすべきことを共通のテーマに2時間をかけて話し合います。
議論を終えた後はそれぞれのグループによる結果発表です。参加した企業のみなさんは高校生の問題意識の高さに目を見張っていました。「製薬」グループで議論した生徒たちは豊かな社会を実現するための製薬会社の役割として「製薬以外の面で、教育的な援助ができる」との結論を披露。ファシリテーターを務めたシオノギ総合サービスの戸島小百合さんは「企業として医薬品以外で求められていることが多々と実感させられました」とコメントしました。
「生活・健康」グループの生徒たちは豊かな社会の実現を妨げているものとして、育児や介護の負担が女性に重くなっている点に着目。企業には「育児・介護の負担を軽減できる商品や材料の開発に期待する」との結論を発表しました。ファシリテーターをした三洋化成工業の末永えりかさんは「育児や介護など高校生では未経験の社会問題を自分なりに考えている姿に感心しました」と振り返りました。
大学・企業・高校によるミニセミナーも開催
シンポジウムではメイン会場の隣のブース会場で大学や企業によるミニセミナーも開催されました。大学では大阪府立大学や大阪大学などのほか、今年から徳島大学、京都女子大学、京都産業大学、関西医科大学が初参加。理系女子の大学生活や研究内容などを高校生たちに紹介していました。また高校生たちも各校で取り組んだ科学に関する研究の成果をこの会場で発表しました。各ブースでは、志望する大学や研究発表テーマに興味を持った高校生が熱心に耳を傾ける姿が見られました。
シンポジウムに参加した高校生たちは午前10時から夕方までファシリテーターとなった大学生や社会人、そして多くの高校生の話を聞き、意見交換をして濃密な時間を過ごしました。「自分の意見だけでなく、他人の意見をよく理解して、自分の意見を見直す姿勢も大事。今回のシンポジウムでそれを学んだだけでも貴重な時間になったと思う。今後の人生に生かしてほしい」。最後に登壇した大阪大学副理事の望月正人さんはこう総括しました。
この日の体験で女子高校生たちは何を感じたのでしょうか。話を聞いてみると、「大学進学は一人で悩むより、オープンキャンパスへの参加などまず行動することが大事と認識しました」「高校生のうちから企業と接点を持てたことで社会に出てからのイメージづくりができました」「企業にはもっと女性管理職の枠を増やしてほしいです」などなど、感想はさまざまです。今回のシンポジウムがみなさんの描いた輝かしい未来予想図の実現に少しでも役立ちますように――。