イベントリポート

名門ホテルでおいしく学ぶ「心と五感に染みる幻の和酒」体験記

ホテルオークラ東京と日経ウーマノミクス・プロジェクトのタイアップセミナーの第8弾、「心と五感に染みる幻の和酒」が6月14日に開催されました。一流の食事を楽しみながらおいしく学べる好評のシリーズ。日本酒をテーマにした今回も定員40名がすぐに満席となりました。ビジネスパーソンとしてお酒の知識を身につけたいと思いつつ、なかなか勉強が進まない日経ウーマノミクス・プロジェクト事務局スタッフ(37)が受講生の一人として参加した体験記をお届けします。

シャクヤクが演出する初夏の華やぎ

会場の「ケンジントン テラス」は英ビクトリア朝の貴族の邸宅をイメージした空間。大きな窓の外のイングリッシュガーデンに迫る夕闇が、まもなく味わえる美食と日本酒のマリアージュ(組み合わせ)への期待を高めます。6~7人がけのテーブルには華やかなシャクヤクが生けられ、初夏の季節を演出。始まるまでのあいだ、さっそくテキストをめくる熱心なウーマノミクスの会員のみなさんです。初対面同士でもう会話が弾んでいるテーブルもあります。

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華やかな空間で「幻の和酒」を味わえる日本酒セミナーに参加者の皆さんも期待が高まります

定刻の午後7時。講師を務めるホテルオークラ東京の和食・天ぷら「山里」のソムリエ、岡田昌男さんが登壇し、講座のスタートです。さっそく日本酒が登場するかと思いきや、岡田さんはまず、各席に置かれた日本酒「獺祭(だっさい)」のロゴがパッケージに躍るせんべいをすすめます。「お酒は胃で2割、腸で8割が吸収されます。おなかに食べ物を入れると胃と腸をつなぐ幽門が閉まるので、酔いがゆっくりになります」と岡田さん。日本人の約4割は体質的に酒に弱いといわれ、最近は日本酒のあいまに水を飲む「和らぎ水」も提唱されているそうです。せんべいをかじって水をひとくち。本日、提供予定の計8種もの珍しい日本酒を味わう準備も万端です。

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本日の献立の前に置かれたせんべい。精米する際に出るコメの粉を使って作られているそう

おなかの準備が整ったら、次は日本酒の基礎知識を学んで頭のウオーミングアップです。酒税法で清酒はコメ・米麹・水を使って、発酵させ、こして造る酒と定められています。法的に「日本酒」と名乗れるのは原料のコメに国産のみを使い、国内で製造された清酒だけ。さらに吟醸酒、純米酒、本醸造酒といった特定名称を表示できる清酒は、精米歩合の違いや醸造アルコールの有無などによって「純米大吟醸酒」「大吟醸酒」「純米吟醸酒」「吟醸酒」「特別純米酒」「純米酒」「特別本醸造酒」「本醸造酒」の8種類に分類されています。

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講師を務めたホテルオークラ東京のソムリエ、岡田昌男さんは日本酒のスペシャリスト。縦横に日本酒の秘話を語ります

いよいよ最初の日本酒がサーブされます。お猪口(ちょこ)や盃(さかずき)でいただくのかと思いきや、登場したのはワイングラスに注がれた日本酒。しゅわしゅわとスパークリングワインのように泡が躍る一ノ蔵(宮城県大崎市)の「すず音」です。飲みやすくて最近人気を集めている低アルコールスパークリングの日本酒のなかでも先駆けの存在とのこと。シャンパーニュと同じ瓶内二次発酵による製法だそうです。アルコール度数が低く甘口のタイプが多い発泡清酒は女性に人気。「すず音」も一口飲むと、青リンゴのようなさわやかな香りと弾ける泡の軽やかな味わいが広がります。

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この日最初の銘柄として発泡清酒の「すず音」がワイングラスで各テーブルにサーブされました

希少な製法、限定生産・・・レアな日本酒のオンパレード

続いて運ばれてきたのは新政酒造(秋田市)の「新政No.6 H-type」。米がアルコールになるのに必要な酵母としては、日本醸造協会が全国の酒蔵に提供している「きょうかい酵母」が有名です。このきょうかい酵母の中で現存する最も古い種類が新政酒造の蔵で誕生した「6号酵母」。「新政No.6 H-type」は蔵の壁などに自然にすんでいる乳酸菌の力を利用し、さらにこの6号酵母を使って、今では珍しい昔ながらの生酛(きもと)造りで生まれる日本酒です。香りは華やかで、参加者からは「白ワインを飲んでいるみたい」との声が聞こえてきました。

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1皿目のピンチョス3種「魚介類のムースと日本酒のジュレ」「フォアグラムースと抹茶風味ケークサレ」「トマトと初夏野菜のピンチョス」の後ろには、それぞれと組み合わせて楽しむ3種の日本酒が

3種類目のグラスは高木酒造(山形県村山市)の「十四代 本丸」です。フルーティーで優しい味が前菜の「フォアグラムースと抹茶風味ケークサレ」の甘味とあいまって、さらにまろやかさが際立ちます。「十四代」シリーズは高い人気を誇りますが、生産量は少なく、なかなかお目にかかれない幻の酒との呼び声も。シリーズのひとつ「龍泉」は、ネット通販のサイトやマニアの間では1本(720ミリリットル)30万円以上で取引されることもあるそうです。

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2皿目は「鱧(はも)葛(くず)打ち 海老湯〆(しめ)」。繊細なだしの風味が日本酒とよく合います

続く2杯は大七酒造(福島県二本松市)の「宝暦大七」と「大七 純米 生酛」。生酛は温かいお燗(かん)で運ばれてきました。どちらの大七もコメを細長い形のまま精米する「扁平精米」で造られています。通常日本酒では、割れたり砕けたりしないように米粒の間隔を広くとって高速で精米するため、米粒が丸く削れてしまい、長い方が必要以上に削り取られ、短い方は不要な成分を削り残してしまう難点がありました。扁平精米は米粒の密度を高めてゆっくり削ることで細長く精米できるように工夫しています。難しい技術で時間もかかりますが、「宝暦大七」は精米歩合を50%まで高めた純米大吟醸酒となっています。

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ホテルオークラ東京の和食調理総料理長、澤内恭さんは昨年と一昨年の「和食の食卓作法」をテーマにしたタイアップセミナーでおなじみ。この日も登壇すると、会場から拍手がわきました

レアな日本酒のオンパレードのこの日。料理はホテルオークラ東京の和食調理総料理長、澤内恭さんが日本酒の銘柄とよく合うマリアージュを一つ一つ考えてコースを組み立ててくれました。「最近は日本料理もワインと合わせることもありますが、きょうはぜひ日本酒とのマリアージュを楽しんで、もっと日本のお酒と料理を好きになってもらえたら」と澤内さんは参加者に語りかけます。

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「丸茄子(なす)田楽」(左)と「小鮎(あゆ)のから揚げ」。甘みと酸味のコントラストを日本酒がいっそう引き立てていました

講師のアシスタントを務めるソムリエの矢渡美幸さんも各テーブルを回って、料理との組み合わせのポイントを解説してくれます。「大七のお燗は丸茄子(なす)の田楽と一緒に味わってください」と矢渡さん。とろりとした甘いみそをまとった茄子と燗をした「大七 純米 生酛」を一緒に口に入れると、燗酒と田楽のタイプの違う甘みがハーモニーを奏でます。

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講師アシスタントを務めたソムリエの矢渡美幸さんは各テーブルを回りながら、参加者の質問に丁寧に答えていました

現代ならではの美酒

6杯目は本田商店(兵庫県姫路市)の「純米大吟醸 龍力 米のささやき 秋津」です。口に含むと水のようにサラリとした軽さが、スダチの香りを利かせた「小鮎(あゆ)のから揚げ」にぴったり。兵庫県加東市秋津という米栽培の「超優良地帯」のさらに限られた特A地区でとれる酒米・山田錦100%を使って、精米歩合35%で磨き上げられて造られた純米大吟醸酒です。岡田さんは「日本酒版のロマネコンティのような銘柄」と例えていました。

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「味わいの違う一流の銘柄を飲み比べることで、自分の好みの日本酒を知ることができた」という声が聞かれました

ショウガやゴボウ、木の芽の自然豊かな香りが食欲をそそる「鯛(たい)のあら煮」と合わせるのは、朝日酒造(新潟県長岡市)のその名も「無濾過(ろか)生原酒」。同社の「純米大吟醸 久保田 萬寿(まんじゅ)」の原酒です。酒販店で小売りされておらず、ホテルオークラ東京にも年間2、3本しか入らないとのこと。日本酒は濾過することで酵母が取り除かれ、安定します。品質を損なわないように無濾過で保存するのは難しく、これもまさに幻の1杯です。

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「鯛(たい)のあら煮」はやわらかく炊きあげられた鯛とゴボウが絶品

最後は萬乗醸造(名古屋市)の「醸し人九平次 純米大吟醸 ワイン樽(たる)貯蔵」です。樽で熟成したことで、まるでデザートワインのように透き通った金色で、バニラの香りが立ちのぼります。チーズを使ったライスボールとの組み合わせもばっちりです。

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最後の食事はライスボール2種。「サフランライスのスモールボールフライ」「カリカリライスで挟んだチーズ」

本日の8種類の日本酒はすべてワイングラスでいただきましたが、色や香りをしっかりと楽しむことができました。欧米では日本酒を楽しむときにワイングラスを使うことが多いそうです。エレガントな感じもして、日本酒に対するイメージも変わる気がしました。

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透き通ったイメージの日本酒ですが、樽で熟成させた「醸し人九平次」は金色に色づいていました

テーブルにずらり並んだグラスを傾け楽しむ参加者のみなさん。岡田さんの講義は多岐にわたりました。例えば精米技術の話。新澤醸造店(宮城県大崎市)が造る「残響 Super7」はなんと精米歩合が7%。実際に93%を削り取った米粒を岡田さんは見せてくれました。さらに70日間かけて精米歩合1%まで磨きあげたのが楯の川酒造(山形県酒田市)の「楯野川 光明」。そしてそれを上回るのが新澤醸造店の「零響-Absolute 0-」です。精米歩合は1%未満、表示上は「精米歩合0%」。7カ月以上かけて磨いているそうです。反対に、精米歩合100%、つまり精米しない日本酒をつくる酒蔵もあります。精米せずに発酵させることも難しく技術が必要です。極限の精米への挑戦は現代ならではといえるでしょう。

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精米歩合7%まで磨いた「残響 Super7」の酒米。丸く輝いて小さな真珠のようです

岡田さんは全国の酒蔵巡りが趣味とのことで、訪ねた産地で自ら撮影した写真をスクリーン映し出しながら、日本酒が造られる風土や各酒蔵のこだわりの製法などの話もたっぷりと語ってくれました。最近は地産地消の流れで、その土地のコメ、水、蔵付き酵母による日本酒造りの動きが広がっているそうです。昔ながらの生酛造りが復活したり、新たな分野としてスパークリングの研究が盛んになったりと、これからの日本酒文化は多様で個性豊かな銘柄が増えていきそうです。

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いつもコミュニケーションが活発なウマノミ会員のみなさまも、日本酒を交えてさらに会話が盛り上がっていました

セミナーが終わると岡田さんの周りには参加者の人だかり。講師の方が質問攻めになるのもウーマノミクスらしい一幕です。子どもたちに夕食を用意してから駆けつけた川崎市で働く50代の女性は「また来週からがんばれそう」と満足げな笑顔を見せてくれました。

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この日、提供されたのは8種類の日本酒(写真はうち7種)。それぞれレアな特色を持つ美酒ばかりでした

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