イベントリポート

必ず見つかる自分の"強み" ~ 転職でキャリアをつくる秘けつを学ぶ

転職市場が活況です。「35歳限界説は昔の話」と言われるなど「大転職時代」が到来し、これまでメインだった20~30代以外にも転職の波が広がっています。一方、現状の仕事や会社に不満を感じつつも「私にはこれといった強みがないからきっと無理・・・」「転職できる職種はごく一部では?」と不安は尽きず、モヤモヤしたままキャリアアップの可能性を思案する女性も少なくありません。そんな女性たちに何らかのヒントを提示できればと、日経ウーマノミクス・プロジェクト実行委員会は7月21日、「可能性は無限大∞~自分に会ったキャリアアップ法、教えます。」と題したセミナーを都内で開催しました。キャリアの専門家による「自分の強み発見!講座」と、グローバル企業3社(フィリップ モリス ジャパン、アビームコンサルティング、日本HP)で活躍する女性社員の座談会を実施。時に壁にぶつかり、悩みながらキャリアを積み上げてきた3人が、自分らしく輝くために必要な心構えやキャリアアップのノウハウを熱く語りました。約250人の参加者が熱心に耳を傾けたセミナーの報告です。

自らのスキル生かした成果が求められる時代に

セミナー第1部はパソナの常務執行役員・岩下純子さんが「『キャリアの棚卸し』による自分の強み発見!講座」と題して講演しました。働く環境が大きく変化するなかで「私たちが自分らしく働き続けるためには、自らの強みを認識することが重要」と岩下さんは強調します。

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セミナー参加者に自分の強みを認識する必要性を強調するパソナの岩下純子・常務執行役員

企業が主に国内向けに単一事業を展開してきた時代は、個人は同じ価値観で前に進むことが求められました。しかしグローバル市場を相手に事業が多様化し、常にイノベーションが求められる時代には、組織よりも個人の能力が尊重される働き方が必要とされます。外部環境の変化を受け「自分のスキルを生かして仕事を率先し、チームやプロジェクトで成果を出すことが重要になった」と岩下さん。だからこそ、まず自分の強みを認識する必要があるわけです。

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セミナーには600人を超える応募者があり、当選した約250人が会場を埋め尽くした

スキルは2つに大別できます。1つは「テクニカルスキル」。人事であれば中途採用ができる、経理であれば月次決算ができる、といったように職種や仕事にひもづくスキルです。もう1つは「ポータブルスキル」。文字通り個人が「持ち運びできる」スキルを意味します。課題発見力、計画力、企画立案力など業種や職種が変化しても生かせるスキルのことです。例えば営業職の場合、営業ができるというのは当然で、さらにスピード感や臨機応変さ、信頼感、育成力など営業の中でも自分は何が強みなのかを棚卸しすることが重要というわけです。

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参加者は「棚卸しシート」を記入しながら、自分の強みを探った

参加者は岩下さんの説明に沿って自分の強みを「棚卸し」するワークに挑戦しました。配布された「棚卸しシート」に記載された「継続する力」「決断力」「責任感」といった33項目のスキルのうち、自分が長けていると思う項目にチェックしていきます。次に自分で認識した強みを、これまでの経験で裏打ちする作業です。例えば自分が強みと思った「責任感」はいつ、どこで、どんなメンバーと、どんな場面で発揮したかを記入します。こうしたプロセスを経験することで自分の強みを可視化していきます。

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会場の皆さんは時々考え込みながら、真剣な表情でシートに筆を走らせていました。岩下さんは「日本の女性は謙遜しがち。何かを経験していれば必ず強みはあります」と強調。「強みは十人十色が当たり前。他人と比較せず、自分の絶対的価値判断でこれが強みと自信を持ってください」とエールを送りました。

新しい働き方を見出し、チームで共有

第2部は、転職をきっかけにキャリアを積み上げてきた3人によるトークタイムです。登壇したのはフィリップ モリス ジャパン(PMJ)でデジタル広告のマネジャーを務める稲本早苗さん、アビームコンサルティング執行役員プリンシパルの岩井かおりさん、日本HPの人事部に所属する安達京子さんです。司会はBSテレビ東京「日経プラス10」メインキャスターの榎戸教子さんが務めました。

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転職でキャリアアップをしてきた女性3人によるトークタイム。司会はキャスターの榎戸教子さん(左)

稲本さんは2011年に転職でPMJに入社しました。ブランドマーケティング業務などを歴任し、今年からデジタル広告を担当しています。大学卒業後に入社したのは世界的に有名な外資系高級ブランド企業の日本法人。「グローバル企業でブランド販売を通して人を笑顔にしたい」との思いで働いてきました。自らのキャリアを振り返ると、これまで大きな転機が2回あったといいます。

最初は25歳の時です。高級ブランド企業で店頭販売やEコマースのプロジェクトを経験するなかで「お客様の隠れたニーズにも素早く応えられるビジネスパーソンになりたい」との思いが募ったそうです。そのころ、先輩や友人から「自分の武器を可視化したいのならMBA(経営学修士)がいい経験になる」とのアドバイスを受け、留学を決意。思い切って会社を辞め、米サンダーバード国際経営大学院でMBA(マーケティング専攻)を取得しました。

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フィリップ モリス ジャパンの稲本早苗さんは留学でMBAを取得。2児の母として仕事と育児を両立中

その後、新天地としてPMJを選択。「実務の経験はないけれど、どうしても最初からマーケティングの仕事をやりたい」と思っていた稲本さん。オファーがあった別の会社は「まずは営業を経験してから」との対応でしたが、PMJは「君の情熱があればそれを受け止める土台がうちにはある」と快く門戸を開いてくれたことが決め手になりました。ちなみに稲本さんは非喫煙者です。

もう1つの転機は長男を出産した時です。「仕事を1日でも早く再開したい」と産後8週間で会社に復帰しました。ただ子育てをしながらだと、今までのペースで仕事に取り組むには限界があります。そこで「一番重要なタスクは諦めず、それ以外の仕事は少し妥協するといった工夫をして新しい働き方を見出した」そうです。この姿勢と実績を会社が評価し、見事、昇格にもつながりました。「新しい働き方をチームでも共有できた」と、稲本さんの笑顔も輝いています。

カリスマ男性の後任に、自分らしいリーダーシップ模索

岩井さんは大学卒業後、1992年に食品会社に入社し、2000年にアビームコンサルティングに転職しました。現在は執行役員として、ITマネジメントコンサルティング部門を統括するとともに社内のダイバーシティ&インクルージョンの推進役も担う立場にいます。岩井さんにも2つの転機がありました。

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アビームコンサルティング執行役員の岩井かおりさんはダイバーシティ&インクルージョンの推進役も担う

最初はアビームに転職した時です。以前勤めていた会社で第1子を出産し、育休を終えて戻った際、それまでやりたかったことと違う仕事内容に変わっていました。「もう少し刺激的な仕事をしたい」と転職を決意。今の会社に入って「男女問わず成長するチャンスがあり、子育てなどその時の自分の環境にあった働き方ができる世界に初めて触れた驚きがあった」と打ち明けてくれました。

次の転機は3年前、組織のセンター長の役割を任された時です。前任のセンター長はカリスマ的な男性リーダー。「自分は『私の背中について来い』というタイプではない。自分らしいリーダーシップとは何か」とさんざん悩み、周りと調整しながら試行錯誤して前に進める道を模索し続けてきました。「3年経って組織の雰囲気が変わってきた。やればできると思えたことがターニングポイント」と振り返りました。

営業から畑違いの人事に挑戦、「人生100年時代」が転機に

日本HPの安達さんは外資系航空会社で客室乗務員として勤務した後、コールセンターのスーパーバイザーや営業職、大手IT企業でデジタル広告の営業マネジャーを経験するなど、何度か転職を経験。2017年からは日本HPで採用業務を担当しています。営業から畑違いの人事へ――。転機になったのは、数年前にベストセラーになった、リンダ・グラットン著作の「ライフ・シフト 100年時代の人生戦略」を読んだことです。

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日本HPの安達京子さんは外資系航空会社や大手IT企業など複数回の転職を重ねてきた

100歳まで生きると思った時、「この先、自分は何をやればいいのか」と考えたそうです。今までやってきた営業やマーケティングなどのキャリアを振り返った結果、「どんなにいい製品でも売るのは人。いい組織、いい会社を作るにも、結局は人がカギになる」との思いが募り、「ヒューマン・リソース(人事)関係の仕事をやりたい」という思いに至ります。

とはいえ、人事の仕事はこれまで経験したことがありません。独学で勉強し、キャリアコンサルタントの資格を取得。経験のない職種に対応できる裏付けをとって、日本HPのドアをたたきました。「学びに終わりはない。今も労基法関連などの勉強を進めています」と前向きです。

グローバル企業で働く魅力とは

グローバル企業では、どんな人材が求められるのでしょうか――。世界各国の社員と仕事に取り組む3人が口をそろえたのが英語の必要性です。ネイティブ並みに流暢である必要はなく、「自分の言いたいことを伝え、相手が言いたいことを聞き出す能力があれば十分」と強調していました。

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榎戸キャスターは参加者が登壇者に聞きたい質問を投げかけてトークタイムを盛り上げた

グローバル企業で働くことについて、稲本さんは「PMJでは女性だから不利になったという経験は一度もない」と言います。男女でも平等なサラリーが支払われ「バリバリ働きたい人、バックオフィスに行きたい人、それぞれの声を尊重してくれる。多様性を受け入れる企業文化を感じている」と話しました。

岩井さんはグローバル企業ならではの働きがいを語ってくれました。アビームコンサルティングは日本の本社がグローバルオペレーションをしています。日々顧客のニーズが変わっていくなか「自分たちが主体になり、海外メンバーを巻き込みながら議論し、会計やITなど強みのある人たちがプロジェクトごとにチームを組んで新しいサービスを提供していく。人々のつながりが広がるのが刺激的」といいます。

安達さんはダイバーシティな環境だからこそ「柔軟性が必要」と指摘しました。外国人社員には自分の成果を必要以上に訴える傾向もあるそうで、「怒っても仕方がない。そんな時はこれが多様性と受け入れ、一方で日本のお客様には日本人として振る舞う柔軟性が大事になる」との考えを話しました。

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トークタイムの最後は3人の登壇者がセミナー参加者に熱いエールを送った

トークタイムの最後に3人は転職やキャリアアップを考える会場の参加者に次のようなエールを送ってくれました。「なりたい自分に少しでも近づけるようにと積み重ねて、今があります。変わりたいという気持ちを自信に変えて、次につながる糧にしていただければと思います」(稲本さん)。「まっすぐ直線でなくても、急カーブでなくてもいい。自分のスピードで常に右に上がって成長し続けることが必要です。自分の強みに自信を持って踏み出してください」(岩井さん)。「自分がやりたいこと、できること、求められていること。この3つが一致したら必ず成功します。年齢など関係ありません。より良い環境にチャレンジしてください」(安達さん)

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軽食が並んだ交流会では時間いっぱいまで登壇者に質問をする参加者が後を絶たなかった(写真の一部を加工しています)

セミナー終了後の交流会では、参加者が登壇者の皆さんを囲んで直接質問をするシーンが続きました。また、ケーキやドリンクを片手に参加者同士で交流する輪があちこちに広がりました。今回トークタイムで登壇した企業によるブースも設けられ、興味を持った企業の人事担当者らに深堀りした質問を投げかける姿も見受けられました。

参加者からは「転職のきっかけやキャリアアップの経緯が具体的に分かって勉強になった」「生き生きとした実体験の話が聞けて、勇気をもらえた」「転職への関心がぐっと高まった」など積極的な声が多数聞こえてきました。可能性は無限大。夢や希望があれば、キャリアの可能性にリミットはありません。今回のセミナーが新たなキャリアへの一歩となりますように――。

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