イベントリポート

世界の憧れのワインを飲みくらべ ~ 仏米伊の"最高峰"7銘柄の物語

世界中で賞賛される憧れのワイン7銘柄を一度に味わえるという、何ともぜいたくなセミナーが11月2日、ホテルオークラ東京で開かれました。日経ウーマノミクスの会員の働く女性約50人が参加。シャンパーニュ(シャンパン)に始まり、白ワイン、赤ワイン、そして世界最高峰の貴腐ワインの計7銘柄を、オークラの料理とともに堪能しました。チーフソムリエの渡部明央さんからそれぞれの銘柄にまつわる物語や魅力を引き出す味わい方も伝授され、参加した皆さんは至福のひと時を過ごしたのでした。

シャンパーニュ:「ドン・ペリニヨン2009」VS「クリュッグ グランド・キュヴェ」

シャンデリアがきらめくホテルオークラ東京のメイプルルームがこの日の会場です。テーブルに最初に運ばれてきたのはワイングラスに注がれた2つのシャンパーニュ。まずは銘柄が伏されたまま、参加者は2種類の香りと味を楽しみました。「最初のシャンパーニュが好きな人は?」と渡部さんが尋ねると、会場の半数近い人が挙手。この日は参加者の好みがほぼ二分されました。2つの銘柄の市場価格はほぼ同じ。飲みくらべたことで自分の好みの銘柄がはっきりしました。

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会場となったホテルオークラ東京のメイプルルーム。日経ウーマノミクスの会員約50人が有名ワイン7銘柄を飲みくらべた

最初のグラスは「ドン・ペリニヨン2009」。「白い花束や洋ナシのような華やかな香りがします」と渡部さん。シャンパーニュの大半の銘柄は複数の収穫年のワインを混ぜ合わせて作られますが、ドン・ペリニヨンは同じ年のブドウ(シャルドネとピノ・ノワール)だけで作るこだわりの単一ヴィンテージです。ブドウの出来がよくない年には生産されません。09年はフランス全域でいいブドウができた年でした。ちなみにシャンパーニュについては08年産がさらに期待できるヴィンテージだそうです。09年産よりも長い熟成期間を取っていて、市場に出回るのはこれからとのことでした。

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「ドン・ペリニヨン2009」(左)と「クリュッグ グランド・キュヴェ」のボトルラベル。「『ドンペリ』と呼ぶよりも『ペリニヨン』と略したほうがスマートです」と渡部さん

もう一方の銘柄は「クリュッグ グランド・キュヴェ」。こちらは「ナッツのような熟成を感じる香り」(渡部さん)が特徴です。クリュッグは複数年産のワインをきめ細かくブレンドする「アッサンブラージュ」の技術にこだわりとプライドがあり、毎年の天候に左右されずに高品質の製品を出し続けています。世界には「クリュギスト」と呼ばれる愛好家も多く、瓶内で7年熟成されて出荷されるクリュッグを、購入後さらに1~2年熟成させてから飲む人も多いとか。参加者は2つの高級シャンパーニュを、オークラの中国料理「桃花林」の前菜盛り合わせと一緒に味わいました。

白ワイン:「シャブリ グラン・クリュ2014」VS「キスラー シャルドネ2013」

次に登場したのはフランスと米国を代表する白ワイン。渡部さんはそれぞれの産地の特徴と品質の関係について解説しました。

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セミナー講師のホテルオークラ東京チーフソムリエの渡部明央さん。7銘柄の特徴や味わい方を披露した

シャブリは仏ブルゴーニュ地方の最北に位置する産地で、ブドウ栽培にはやや冷涼な土地です。このため南東向きの日当たりのよい斜面で栽培したブドウ(シャルドネ)で作ったワインを「シャブリ プルミエ・クリュ」(一級)、さらに土壌が優れた南向きの斜面のブドウで作ったものを「シャブリ グラン・クリュ」(特級)と明確に区別しています。ワイン通は加えて誰の畑で作ったシャブリなのかにまでこだわるそうです。この日は評価の高いドメーヌ(生産者)「ウィリアム・フェーブル」の銘柄を味わいました。「さわやかな香り。酸味が利いて、滑らかな果実味。少しコクもある」と渡部さん。オリーブオイルを使った料理に合うとアドバイスしました。

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飲みくらべをした白ワイン「シャブリ グラン・クリュ ブーグロ・コート・ブーグロ2014」(左)と「キスラー ヴァイン・ヒル・ヴィンヤード ロシアン・リヴァー・ヴァレー シャルドネ2013」

一方の「キスラー」の味わいは大きく異なります。渡部さんによると「バニラや、アプリコットジャムのような甘い濃い香り。酸味は弱く、しっかり、もっちりした、バタースカッチのよう。乳製品によく合います」。料理で出された白菜のクリーム煮との相性はぴったりのようです。「仏ブルゴーニュのグラン・クリュをも凌駕する」とまで言われるキスラーですが、その秘密はどこにあるのでしょうか。もちろん、こだわりの製法にあるのですが、ブドウ産地の特性も大きいといいます。

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セミナーではワインを特徴付ける産地の畑の場所なども確認。細かい気候風土の違いなどでワインの複雑味に違いが出る

いいワインには「複雑味」が必要です。様々な香りや味を感じられるほどよいワインとされ、そのためにはブドウがゆっくりと育つこと、複雑な土壌に深く根を張って育つ環境がふさわしいといいます。温暖な環境でブドウが一気に育つと、どうしても単調な味わいのワインになりがち。米カリフォルニア州は一大ワイン産地ですが、キスラーは同州の北にあるソノマが産地です。隣のナパよりもさらに涼しい気候で、個性のある味わい深いワインができあがるそうです。

赤ワイン:「サッシカイア2014」VS「オーパス・ワン2014」

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「私好みのワインはどっち?」。有名ワインを飲みくらべるのは貴重な機会

さて、お待ちかねの赤ワインを味わう時間が来ました。まずはイタリアのワイン文化を変えたという「サッシカイア」からです。産地はトスカーナ州の地中海沿いにあるボルゲリ地区。仏ボルドー・メドック地区に似た気候風土で、ここにボルドーから持ち込んだカベルネ・ソーヴィニヨンを作付けしたのが始まりだそうです。このためイタリアのワイン法で原産地呼称を名乗れず低ランクの位置づけでしたが、その味わいが世界で賞賛され、ついには1994年に原産地呼称が認められたという経緯があります。この日の2014年産は「ヴィンテージが若く、フレッシュラズベリーやピーマンのような香りで、渋みとやわらかさがある。少し脂がある肉料理に合う」と渡部さん。参加者は濃厚な豚の角煮とともに味わいました。

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イタリアを代表する赤ワイン「サッシカイア」(左)と米国を代表する「オーパス・ワン」。2014年ヴィンテージを飲みくらべた

もう一方は、米国を代表する赤ワイン「オーパス・ワン」です。サッシカイアと同じカベルネ・ソーヴィニヨン主体ですが、味わいは大きく違っていて「果実味が豊かで圧倒的。ワインだけで楽しめる」(渡部さん)とのことでした。参加者からも「絶品の味わい」との感想が聞かれます。オーパス・ワンは1978年にフランスと米国のワイン生産者の2人の巨匠が手を組み、カリフォルニア州ナパにワイナリーを設立して生産が始まりました。きっかけとなったのが「パリ対決(パリスの審判)」と言われる事件です。そのいきさつを渡部さんが紹介してくれました。

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有名ワインが世界に認められるまでの歴史的背景もセミナー参加者の関心を集めた

それは1976年のこと。米国の独立200年を祝う記念イベントとして、当時は世界で無名のカリフォルニアワインをフランスのワインと対決させる催しがありました。場所はパリ、審査員9人は全てフランス人。ブラインドで試飲して点数をつけて審査します。結果は、だれ一人として予想しなかったものになりました。なんと白も赤もカリフォルニア産が名だたる仏ワインを打ち負かしたのです。世界に衝撃が走り、カリフォルニアは高品質ワインができる土地と認められるようになります。新世界で最高品質かつ唯一無二のワインをつくるという目的で米仏の第一人者が手を組み、オーパス・ワンがつくられ始めたのです。ちなみに10年後の86年、30年後の2006年にパリ対決のリベンジ・マッチが開催されましたが、いずれもカリフォルニアワインが勝利したとのことです。

貴腐ワイン:「シャト-・ディケム2008」

セミナーの最後に登場したのは、貴腐ワインの王様「シャトー・ディケム」です。華やかな香りと濃厚かつ上品な甘さは、ワインだけでも至福の味わいにひたれますが、食事に合わせる場合も前菜からデザートまで幅広く楽しめるそうです。この日、用意されたのはチーズ。渡部さんは「シャトー・ディケムとブルーチーズのロックフォールはぜいたくこの上ない組み合わせ」と教えてくれました。もうひとつ、白ワインのキスラーのとっておきの味わい方も紹介しました。バターとブルーチーズを練り合わせて口に含み、キスラーを飲みます。すると口の中に香りと果実味が爆発したように広がるそうです。早速試した参加者からは「おいしいー」という声が上がり、笑顔が広がりました。

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貴腐ワインの最高峰「シャトー・ディケム」(左)。仏ボルドーのなかでも別格のシャトーとされる。この日はブルーチーズ「ロックフォール」との組み合わせを楽しんだ

渡部さんから最後にフルコース料理の楽しみ方についてアドバイスがありました。「コース料理の最後にチーズなどいかがですかと勧められたら、断らずに楽しんでください。デザートワインなど食後酒まで味わうのが美食家としてエレガントです。だからメインディッシュが終わって、腹五分目を目指してください」と。なんとも難しそうですね。それはさておき、一生の間に一度は飲んでおきたい7銘柄を飲みくらべるという貴重な体験をした参加者の皆さんは幸せそうな表情。この日のセミナーは女性限定でした。会場の傍らで指をくわえて眺めていた事務方の男性陣は「あぁ、女性に生まれて参加したかった」とつぶやいたのでした。

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セミナー終了後、飲みくらべをした有名ワイン7銘柄のボトルを記念撮影

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