イベントリポート

美しい所作は一日して成らず~初夏の絶品和食と食卓作法の体験記

ホテルオークラ東京と日経ウーマノミクス・プロジェクトは、昨年春に初開催して好評だった「和食のテーブルマナー講習」を今年は6月13日に開催しました。初夏の会席料理を味わいながら、日本料理の食卓作法や女性として美しく見える所作を学ぶセミナーです。20代から60代の約40人のウーマノミクス会員が参加しました。学びあり、おいしさありの2時間半。受講生の一人として参加した日経ウーマノミクス・プロジェクト事務局スタッフ(36)による体験記をお届けします。

季節を先取り、初夏の献立とともに

会社では仕事をしながらおにぎりをかじり、家では2人の子どもに食べさせながら自分のご飯をかきこむ――。年相応の美しい所作を身につけたいと思いながらも、なかなか学ぶ機会がない日々を送っていましたが、ホテルオークラ東京で開かれる和食のテーブルマナー講習を体験してリポートするという貴重な機会に恵まれました。日頃は時間に追われ、あまり意識することがない食事中の自らの所作を、ここはしっかりと見つめなおそうとセミナーに臨みました。

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この日の献立。前菜(左)は旬のジュンサイや青豆の豆腐、タコの彩りを楽しむ一品。お吸い物(右)は白身魚のすり身に小豆を合わせた「水無月真丈(みなづきしんじょう)」。お椀のふたを開けると上品な香りが立ち上った

会場のメイプルルームはカエデの木目を生かしたインテリアと天井にきらめくシャンデリアが印象的な格式高い空間です。6人がけのゆったりした円卓が並び、一人一人の席に用意された朱色の盆の上にはおしゃれに折られたテーブルナプキンが。その脇には懐紙が添えられています。よく見ると、涼しげな水紋と金魚があしらわれていて初夏の雰囲気を演出しています。懐紙を選んだのは本日の講師、青木優佳さん。ホテルオークラ東京の和食・天ぷら「山里」のアシスタントマネージャーです。

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講師の青木優佳さんは複雑な所作や作法に込められた意味などを親しみやすい語り口で説明した

夜7時。壇上に青木さんが登場し、講習が始まりました。「みなさま、マナーと聞いてどのようなイメージを思い浮かべますか?」。親しみやすい笑顔で語り始めます。食べ方の作法のまえに、まずは「化粧室で身だしなみを整える」など、席に着く前に心がけるマナーから。働く女性が多いウーマノミクスの会員を意識して、接待などビジネスで会食の予約を取る際のポイントも説明してくれました。参加者はテキストの余白に熱心にメモを取っていました。

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一流の会席料理を味わいつつも、ウマノミ女子らしく熱心にメモをとる参加者が目立った

「お箸は三手(みて)で取る。つまり3回の動作で手に持ちます」。前方のスクリーンに青木さんの手が映り、美しく見える箸の上げ下ろしの解説が始まるのに合わせて、テーブルには待ちに待った前菜が運ばれてきました。高杯(たかつき)の器に盛られたみずみずしいジュンサイや青豆豆腐の青みが目にも涼しげです。きょうの献立はそのほかにもこの時期が旬のハモ、アユなどの食材をふんだんに使った季節感あふれる内容。耳は青木さんの解説に向けながらも、献立表に並ぶおいしそうな料理の数々に気がはやります。

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お造り(左)はハモとシマアジ。焼き物(右)は若アユの塩焼き。今がいちばんおいしい時期の食材が登場。ハモと特製の梅肉ドレッシングを合わせた絶妙な味わいが印象的。アユは骨抜きが上手にできなかった

陰と陽の組み合わせ~和食の奥深さを知る

箸の使い方に続いて、器の扱い方のレッスンです。器を置いて食べるときは、食べ物を口に運ぶまでこぼしてしまわないよう「懐紙を活用して」と青木さん。皿と同じように利き手と反対の手に持って、食べ物の下に添えます。手を受け皿代わりにする「手皿」はNG。懐紙を持ち合わせていないときはテーブルに備え付けの紙ナプキンや箸袋を広げて使ってもいいそうです。会場から「へえー!」と驚きの声が上がります。

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真っ白な懐紙を添えて料理を口まで運ぶと、あわてずにゆったりした優雅な所作で箸を動かせる

お吸い物、お造りと料理が進みセミナーも中盤に。ホテルオークラ東京の和食調理総料理長、澤内恭さんが登壇しました。「和食は引き算の料理。『だしを引く』という言葉がありますが、アクやエグみなどの素材の悪いところを取り除いてうまみだけを生かしていく」などと日本料理の特色、考え方についてわかりやすく説明してくれます。

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和食調理総料理長の澤内恭さん。見事な手さばきでお刺身に刃を入れながら、和包丁の刃の向きと切り口の関係をよどみなく説明した

「日本料理は伝統や面倒な決まりごとがあって、こんなテーブルマナーはとても大変だなんて感じるかもしれないが、奥深さをどんどん知ってもらって身近に感じてほしい」。澤内さんはそう話します。

例えば日本料理は中国から伝わった陰陽五行説と深い関係があるそうです。森羅万象は陰と陽、木・火・土・金・水の5つの要素からできているととらえる思想です。和包丁は片刃ですが、刃がある面を陽、反対の面を陰と考えます。澤内さんは壇上にしつらえられたまな板の上でお刺身や大根、里芋などを切りながら、包丁で切り分けた食材も陰と陽に分かれることや、それを盛り付ける皿にも陰と陽があることなどを生き生きと解説してくれました。陰と陽の組み合わせでバランスの取れた美しい日本料理になります。テーブルでは参加者同士で「知らなかった」「勉強になりますね」と会話が弾んでいました。

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煮物(左)はイチヂクの黒胡麻味噌添え。果実感とだしのハーモニーは絶品。お食事(中)はトウモロコシと枝豆の黄色と緑が目にも鮮やか。締めくくりのデザート(右)は白玉ぜんざいの冷たさが初夏の気分を演出した

美しさと優雅さはゆとりにあり

デザートを待つあいだには、青木さんの生まれた年にホテルオークラ東京に入社したというベテラン、「山里」サービスマネージャーの寺家かつみさんが登壇し、女性らしいしぐさについてのレクチャーです。寺家さんは、箸の持ち方はペンをもつ形とまったく同じと指摘。「ペンをきれいに持って、仕事に生かして」と話すと、参加者の皆さんも深くうなずいていました。「知性あふれる女性はいろいろな所作が本当にきれい。会話も美しい」。わが身を省みると思わず背筋が伸びます。

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ベテランマネジャーの寺家かつみさん(右)は柔らかな物腰で女性らしいしぐさをレクチャーした

寺家さんからは挨拶時の美しいおじぎについても教わりました。ポイントは「TSS」だそうです。相手の前で止まる(T)、膝元に手を添える(S)、足をそろえる(S)。慌しい現代社会、私もついつい歩きながら会釈で挨拶を済ませがち。これでは相手におざなりな印象を与えてしまいます。寺家さんが実践するTSSの挨拶は、なんて美しくて優雅なんでしょう。心のゆとりが挨拶の姿勢に出るのがよく分かります。参加者のなかから、おじぎの心得のある茶道経験者の方がステージ前に呼ばれました。寺家さんのアドバイスのもと、誰かとすれ違う際の美しいおじぎをデモンストレーションすると、会場は拍手に包まれました。

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「左利きの場合、箸の上げ下ろしの作法は?」会場から質問が飛ぶと青木さんが席まで行って直接指導

セミナー終了後は、一流の料理と盛りだくさんの内容の講習を満喫した参加者のみなさんの充実した笑顔が広がりました。わたしが参加したテーブルでは「セミナーをシリーズ化してもっと深く学べれば」といううれしい声も聞かれました。講師の青木さんと寺家さんを囲んで熱心に質問する参加者の姿が印象的でした。

わたし自身はといえば、食事のときの箸使いや器使い、おじぎの挨拶などなど、自らの所作が美しい姿になるには日々の暮らしの中で強く意識して、実践し続けなければいけないなと強く感じたセミナーでした。美しい所作は一日にして成らず、です。

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会場のメイプルルームの格式高い空間がセミナーの雰囲気を盛り上げた

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