イベントリポート

女性リーダーのいざない in 新潟 ~ 部下を育て、組織をまとめる方法

まもなく世界経済フォーラムが2018年の男女平等ランキング(ジェンダー・ギャップ指数)を発表します。17年の日本は144カ国中114位。過去最低でした。あらゆる分野で女性が活躍する場が広がっているとはいえ、上場企業で女性役員比率が1割を超えているのは594社中156社(日本経済新聞社調べ)にとどまっています。しかし職場では女性リーダーへの期待は高まるばかり。果たして日本の女性は元気なのでしょうか。そこで9月から11月にかけて新潟県内で開かれた「女性社員のスキルアップ講座」(新潟県主催、日経ウーマノミクス・プロジェクト企画協力)に出かけてみました。そこで見たのは、一つの積極的な意志をもって参加している女性たちの輝く姿です。弥彦山に注いだ一滴のしずくが、やがて信濃川に合流し、日本海に注いでいくような。そんな思いが宿る、新潟からの白熱講座をリポートします。

さあ、始めましょう

10月24日、水曜日。この日の会場となった新潟東区役所2階には午前9時すぎから、ワーキングウーマンが集まり始めました。新潟市内などに職場があり、主任や課長などの肩書きをもつ30~40代中心の36人です。講座は6人一組のチームで課題に取り組む、演習中心の実践形式に特徴があります。1回の講座は6時間。計3回=18時間で修了するプログラムです。長岡市でも同じ内容で開いており、両会場合わせて定員の2倍を超える応募があった人気の講座です。

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午前9時半、6時間に及ぶ第2回講座のスタートです

講師にみる私のロールモデル

「先生の話し方がとてもわかりやすく、勉強になりました」「笑いがまじり、聞きやすく、わかりやすい」「演習が多く体感できたので、会社に持ち帰ってやってみたい」など。9月13日の第1回目を受講した人たちの感想です。

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青木テル講師のテンポ良い進行と明るい人柄も評判に

講師は日経ビジネススクールの講師でもある、株式会社タクト&アクト(東京・文京)代表取締役の青木テルさんです。青木さんは新潟大学教育学部を卒業し、高校教諭やコンサルタント業界で経験を積んだ後、1988年にタクト&アクトを設立。様々な業界で働く管理職から新入社員までを対象にした研修や講演に携わっています。本題の合間に時折語られる、青木さんの体験談に魅せられた人もいたようで「とても明るく楽しい、礼儀についてもきびしく、女性の目標になる方だと思いました」ともらす参加者もいました。

プレゼンはデザイン

グループワークの一コマをのぞいてみましょう。テーマは「私の忘れられない失敗談」の3分間スピーチです。話す相手は新入社員です。

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聞いてもらえる話し方をめざして!実践中

まずは話の構成(導入~本論~まとめ)を考えましょう。青木さんがプレゼンテーションのポイントを導いていきます。「何のために」(目的)、「誰に対して」(対象)、「何を伝えたいのか」(内容)を踏まえ、限られた時間の中で目的を達成するためには、聞き手に対してどのような表現方法が最も効果的かを考えるのです。さらに「話は短く」「語尾まではっきり」など、きめ細かい注意も促します。

「はい、どうぞ」。青木さんの合図で、一斉にグループワークがスタートしました。一人のスピーチが終わるごとに必ず、聞いた一人が1分間の感想を述べるコメントタイムも。どのグループも滞ることなく次々と話が展開していく流れに、小さな驚きと小気味よさを覚えました。まさに「プレゼンはデザイン」「話は見られている」と、ノートに記録した記憶がよみがえってくるようでした。

課題解決ゲーム「薫さんを助けて!」

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持ち寄った情報を精査し、地図作成に生かす

次の実習は、課題解決ゲーム「薫さんを助けて!」です。各グループに模造紙が配られました。6人に1枚ずつA4の「指示書」が机上に伏せられています。裏には計6通りの情報が記載されているそうです。ルールは、模造紙に地図を書き、道順を矢印で示す。各自の情報は口頭で伝える。講師への質問は3問まで受け付ける。ゴールは、歯痛で困っている薫さんが無事治療を受けられるように、歯科医院への分かりやすい地図を作り、薫さんに教えてあげることです。制限時間は15分。スタートです。「はい、どうぞ」

こんな情報が見えます。「さくら歯科医院は川の南側にあります」「薬局から南へ300メートル行くと木橋があります」「川が増水し警戒水位を超えると、しばしば木橋が通行止めになります」などです。開始当初は笑顔もありましたが、制限時間が迫ってくるにつれ、みなさんも真剣な表情に変わっていきます。この辺でタイムアップとなりました。

さて、薫さんは診療時間に間に合うでしょうか

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歯痛の薫さん、歯医者への道のりは遠い?!

各グループの発表です。ここで、課題を振り返ってみます。「薫さんはひどい歯痛で困っています。ところが、近所にある行きつけの歯科医院は休みです。隣町には歯科医院が2軒ありますが、場所が分かりません。無事治療ができるように、情報を出し合い、歯科医院への分かりやすい地図を作って、薫さんに教えてあげてください。今日は2020年8月22日(土)です。隣町へ行くバスは30分後に出発します。そのバスに乗らなければ、診療時間には間に合いません」。以上です。

答えはいかに。時間内に完成したグループは4つ。う~ん、各グループとも、かなり遠回りのような気もしますね。中には、診療時間に間に合いそうもないときは「タクシーに乗る」といった奇抜な道案内もありました。やがて、遠回りの原因となった理由に、みなさんが気付き始めます。どの地図も、目的の歯科医院が木橋を渡ったすぐ先に描かれています。しかし、なぜだか木橋を迂回し、コンクリートの橋を渡るルートを選択しているのです。

「川が増水し警戒水位を超えると、しばしば木橋が通行止めになります」。この情報の「しばしば」が、くせものだったのです。この点を確認すれば良かったのです。つまり2020年8月22日(土)に木橋は渡れる状況にあるのかと。残念ながら、ここに気付いて講師に質問したグループはありませんでした。「あ~そうか」。教室の所々からため息が聞こえてきます。早速、各グループは自分のチームの強みと弱みを話し合う反省会へと移行します。なるほど。これはゲーム体験を通して「職場の課題解決は部下・後輩と共に」に通じるエッセンスを含んでいるのだなあと、感じ入りました。

明日から実行すること

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女子力の力はコミュニケーション力にありそう

第2回となるこの日の大きなテーマは「育てる、組織をまとめるスキル」でした。部下・後輩のやる気を引き出す指導のポイントとは。青木さんは、まずは「ア」「イ」「サ」「ツ」ですと、完結にまとめました。アイサツは、アかるく、イきいきと、イつも自分から、サわやかに、ツらいときでも、ツづけてと。また、啓発的な教え方とは、相手中心で、知っていることから知らないことへ、あらすじ→詳しく→締めくくり、事例に基づいて具体的になど、分かりやすく解説しました。そして、やる気にさせるほめ方や注意のしかたも実例に即した演技で見せてくれました。「やってみせ、言って聞かせて、させてみて、ほめてやらねば、人は動かじ」。山本五十六の語録が浮かんで、ふと消えそうになりましたが、青木さんの「明日から実行すること」の声音に、身が引き締まる思いでした。

6時間の長さがあまり苦にならなかったのは、知り合って間もない女性同士が活発にコミュニケーションをとる姿勢に感化されていたからかもしれません。

この日の全スケジュールが終了し、陽が傾きかけた教室を後にして、1階に下りると、10月28日の投開票を控えた新潟市長選挙の期日前投票所がありました。4人の立候補者はすべて男性。現実に戻されたような軽いめまいを感じながらも、36人の笑顔が、遠い山なみに灯る薄明かりのように思い出されたのでした。

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