イベントリポート

私も自分らしく生きる! 映画「バトル・オブ・ザ・セクシーズ」試写会

1973年9月、女性の歴史にとって転換点となる"戦い"が米国でありました。世界テニスの女王ビリー・ジーン・キングと男子テニスの元王者ボビー・リッグスの性差を超えた試合です。女子選手の権利向上を求めて戦ったビリー・ジーンの行動は、テニス界だけでなく社会全体の男女差別に大きな一石を投じました。日経ウーマノミクス・プロジェクトはこの実話を描いた映画「バトル・オブ・ザ・セクシーズ」(配給:20世紀フォックス映画、7月6日から全国順次ロードショー)の試写会を6月21~29日に東京、大阪、名古屋、福岡、札幌の5都市で開催。東京会場では特別ゲストに元プロテニスプレーヤーの杉山愛さんを招いたトークイベントも実施しました。「信念を貫き、時代を切り開くパワフルな姿に勇気をもらった」「自分らしさを大切に生きていきたい」――参加者アンケートには感銘の声があふれました。

なぜ彼女は戦ったのか~前代未聞の挑戦状を受けた理由

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ビリー・ジーン・キング役は「ラ・ラ・ランド」のエマ・ストーン(左)、ボビー・リッグス役はスティーブ・カレルが熱演。2人ともテニスのトレーニングを重ね、本人そっくりの役づくりで撮影に臨んだ

物語は全米テニス協会が次期大会の女子の優勝賞金を男子の8分の1と発表したことで動き出します。ビリー・ジーンは男女の格差是正を求めて大会をボイコットし、仲間とともに「女子テニス協会」を立ち上げました。一方、55歳となり表舞台から遠ざかっていた元王者のボビーはもう一旗上げようと、「女は男にかなわない」との"男性至上主義"を掲げて29歳の女子のトップに挑戦状を叩きつけます。

前代未聞の男対女の戦いという挑発にビリー・ジーンは乗りません。しかし運命はいたずらです。彼女はその挑戦を受けざるを得ない状況に直面し、女性の自由を勝ち取るために立ち上がります。ビリー・ジーンを演じる映画「ラ・ラ・ランド」のエマ・ストーン、ボビーを演じるスティーブ・カレルが本人そっくりの役づくりで、この世紀の対決の再現に迫りました。当時、この一戦はテレビ中継され、全世界で9000万人が観戦したといわれます。

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ビリー・ジーンとボビーの世紀の一戦が行なわれたテキサス州ヒューストンのアストロドームには3万人を超える観客が集まった

「私も変化を起こしたい!」 働き女子、奮い立つ

女子選手だけの新たな競技団体の設立に、スポンサー企業との連携、そして「世界を変える」との強い決意――。映画を観た女性たちからは、ビリー・ジーンの行動力と勇気に感銘し、元気をもらったとの声が相次ぎました。「信念を貫く大切さを改めて感じた。私も自分の信じた道を進みたい」(43歳女性、会社員=大阪)、「これからの人生について考えさせられることが多く、仕事もプライベートも前向きに取り組んでいこうと思った」(31歳女性、会社員=福岡)、「来年から社会人として生きていくなかで、一人の女性としての覚悟をさせてもらった。いつまでも輝ける女性として誇りを持って生きていきたい」(24歳女性、学生=大阪)などです。

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ビリー・ジーン・キングたちは女子選手だけの団体「女子テニス協会(WTA)」を立ち上げた

映画が描く当時の米国社会の女性差別を目の当たりにし、若い世代からは「平等であることが普通ではなく、多くの人の努力で成り立っていると知り、感動した」(22歳女性、学生=福岡)、「今まで女性のために闘ってきた先輩に感謝と敬意を表したい」(30歳女性、会社員=名古屋)といった声も上がりました。「私もビリー・ジーンみたいにパイオニアになれるような女性になりたい」(26歳女性、公務員=東京)、「自分も少しでも何か未来のために良い変化を起こせるように頑張りたい」(29歳女性、会社員=東京)など、多くの変革を成し遂げた彼女の姿に刺激を受け、自身を奮い立たせた女性も多くいました。

「男性にもぜひ観てほしい」魅力ある登場人物たち

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ボビー・リッグス(左)はギャンブル依存症で夫婦仲も危機を迎えていた。もう一度、世間の脚光を浴びたいと、男対女の戦い(バトル・オブ・ザ・セクシーズ)を仕掛ける

映画はビリー・ジーンを取り巻く人物たちも魅力的に描いています。作品のメッセージは男女平等だけではありません。家族、人間関係、自分らしい生き方、LGBT(性的少数者)・・・観る人によって感じ方は様々です。「試合相手のボビーも自らの現状を変えたいと思って一生懸命な男性。この映画、男性にもぜひ観てほしい」(48歳女性、会社員・営業=福岡)、「ビリー・ジーンと彼女を献身的に支えていた夫のラリーの姿を見て、男女がお互いに尊敬し合えることが大切だと思った」(29歳女性、会社員=大阪)。夫婦2人で一緒に監督をするヴァレリー・ファリスとジョナサン・デイトンは「男女はお互いを必要としていることを理解してほしい」と来日時に語っています。

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1970年代のファッションも注目。デザイナーのテッド・ティンリングがテニスウエアに初めてカラフルな柄を採用し、テニス界のファッション革命を起こした

監督は映像づくりや音楽、さらには衣装や小道具など細部にこだわって70年代当時の雰囲気を作品で伝えています。それまで簡素だったテニスウエアに一流デザイナー、テッド・ティンリングによるカラフルなデザインを持ち込んだのもビリー・ジーンの「功績」。映画では実際に選手が着た本物そっくりのおしゃれなウエアが多数登場します。「ファッションがレトロで素敵だった」(31歳女性、会社員=名古屋)、「昔のアメリカのテレビやバスなどの再現がとても良かった」(40歳男性、会社員=東京)などリアリティーを評価する声も上がりました。

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夫婦で監督を務めるヴァレリー・ファリス(右)とジョナサン・デイトン。「映画づくりは役割分担するのではなく、2人で一緒にすべてに関わる」という

杉山愛さんが語るビリー・ジーン・キング

東京会場では試写会終了後に元プロテニスプレーヤーの杉山愛さんと日本経済新聞の木村恭子編集委員によるトークイベントを開催。映画の感想を尋ねられた杉山さんは「テニスの世界で生きてきて、ツアーのこともビリー・ジーン・キングさんのこともよく知っている。だから映画を観るときは実際と違わないかと心配だったが、本当にリアルに描かれている」と選手目線で教えてくれました。

ビリー・ジーンとはテニスの四大大会の会場などで何度も挨拶を交わしているそうで「彼女のオーラはすごく、カリスマ性がある。自分の勝負だけではなく、テニス界全体、さらにスポーツ界のなかでのテニスの存在や女性のステータスの向上も考えていて、社会全体を見渡す力がある。テニス界の男女平等が進んでいるのはキングさんがいたからこそ。本当に彼女が原点」と力説しました。またビリー・ジーンの行動をきっかけに四大大会の賞金が男女同等となった一方で、サッカーなどの他の競技では収入などの面で依然として男子選手と女子選手で格差があるという現実も指摘しました。

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試写会後のトークイベントに元プロテニスプレーヤーの杉山愛さん(右)が白いセットアップスーツ姿で登壇した。聞き手は日本経済新聞の木村恭子編集委員

杉山さんは現役時代に全米、全仏、ウィンブルドンの女子ダブルスなどで優勝を重ねた輝かしい戦績の持ち主です。2009年、34歳で現役を引退した後は解説者やテレビのコメンテーター、さらに最近はテニスのコーチとして活躍の場を広げています。プライベートでは11年に結婚、3年前に男の子を出産した1児のママです。トークイベントでは現役引退後のキャリア設計についても話が及びました。

「引退の次の日からいろいろな仕事をいただき体は忙しかったが、自分は本当に何がやりたいのかが見えなかった」。杉山さんは当時の戸惑いを教えてくれました。そのときに、残りの人生でやりたいことを100個書き出す「ウィッシュリスト」を作ったことが、その後の歩みに役立ったといいます。当初は30個ほどしか考えられませんでしたが、まず引退後の約10年は「結婚や出産などプライベートを優先する」との方針が見えました。その後、旅行したい国や行きたい店なども含めてウィッシュリストの数は増え、それとともに人生の彩りも豊かになって仕事も充実してきたそうです。参加者アンケートでは「私もウィッシュリストを作ってみようと思った」という声が多く聞かれました。

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杉山愛さんは大学院でコーチングを研究し、今年からコーチとして指導する穂積絵莉選手が全仏オープンの女子ダブルスで準優勝した。「指導者としてのやりがいを感じている」という

会場との質疑応答では、25歳の女性が結婚・出産したい希望と仕事を続けたい気持ちで揺れ動いているとの悩みを相談。杉山さんは同じ年齢のときに選手としてスランプに陥り、一時はテニスをやめようと考えていたこと、そのときに自分と向き合って5年後、10年後にどうありたいかを考える時間を持ったことでスランプを乗り越えられたことを教えてくれました。

東京会場では映画のビリー・ジーン・キングに、トークイベントの杉山愛さんと、力強く輝く女性をリアルに感じた2時間半のイベントが終了したのは午後9時半を回っていました。夜遅かったにもかかわらず、参加した皆さんがエネルギーをたっぷりと充電し、笑顔で会場を後にする様子が印象的でした。

 

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