イベントリポート

自分らしい生き方を見つける~学生のためのキャリアセミナーin岩手

「自分の仕事は、自分の一生を充実させるためにある」。こう話したのは、小説家の武者小路実篤です。確かに、満ち足りた日々を過ごすには、やりがいを感じる職業に就くことが欠かせません。これから社会に出る大学生にとっては、とても重要なことですよね。でも、変化の激しい現代社会。一生を充実させる仕事とは何か、見極めるのは非常に難しくなっています。そこで、日経ウーマノミクス・プロジェクトは今後のキャリアを考えるヒントにしてもらおうと、今年も全国6カ所で「大学生のためのキャリアセミナー」を開くことにしました。第1弾は岩手大学。約160人の学生が、登壇者の話に聞き入りました。

オンタイムは1日の7割以上が仕事

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旧盛岡高等農林学校本館の前には宮沢賢治のモニュメントが

岩手大と開くセミナーは今年で2回目です。セミナー当日の10月31日は秋が深まり、キャンパスは紅葉に包まれています。宮沢賢治が通った「旧盛岡高等農林学校本館」の周囲も赤や黄色に色づいた葉が揺れていました。

今回のセミナーは「キャリアを考える」という講義の一環にもなり、人文社会科学部、教育学部、理工学部、農学部で学ぶ男女が集まりました。中心は1年生とあって、まだ表情に初々しさがあります。セミナーのスタートは、日本経済新聞女性面の佐々木玲子編集長による講演「変わる社会~自分らしい働き方を考える」です。

「働くということはどういうことなのでしょう」。佐々木編集長はまず問いかけます。『女・仕事』(長征社)という本には「生きがい」「私のすべて」「当たりまえのこと」など、いろいろな定義が出てきます。では、仕事は人生の中でどの程度の比重を占めているのか。実総労働時間などから導き出すと、オンタイムの日には1日の7割以上が通勤や睡眠、実際の業務といった働くうえで必要なことをするために充てられているそうです。「だからこそ、納得できる仕事を見つけるべきです」と強調します。

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セミナーには約160人の学生が参加した

佐々木編集長は世の中が常に動いていることにも注意をしようともアドバイスします。売り手市場が一転して氷河期に突入するように、雇用環境は急変します。業界の盛衰もあります。人工知能に代表されるテクノロジーは日々進歩し、さらに働き方改革が広がってきました。少子高齢化が進む中で、これまでの日本を支えてきた長時間労働を見直し、どんな人でも活躍できる職場が求められています。

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「仕事探しの成就は恋と同じです」と佐々木玲子編集長

今や人生は100年時代と言われます。「仕事だけでなく、生き方全般を考えて、どのようなキャリアを歩むのか、考える時期にきています」。では、仕事をどう選べばいいのでしょうか。独断と偏見と前置きしたうえで、佐々木編集長は仕事探しの成就は恋と同じと話します。事前にリサーチし、好みや振り向いてもらうためのスキルを磨き、相手に思いをぶつけます。もし失恋しても、それも人生。乗り越えた先に新たな出会いもあります。

「勉学は学生の特権です。英語力を磨いておきましょう」「一度は人に使われる経験をしてみましょう」。学生のうちに身に付けておきたいことを上げた佐々木編集長は「自分らしい働き方を見つけ、活躍されることを楽しみにしています」と結びました。

視野広げ、幅広い交友関係を

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岩手大OG3人のパネルディスカッションでは今の仕事を選んだ理由などに言及

続いて、岩手大OG3人が登壇するパネルディスカッションです。東京海上日動火災保険の佐藤岬さん、岩手銀行の永井結花さん、電子カルテや介護ソフトの開発・販売を手掛けるワイズマンの藤村こずえさんが壇上に並び、コーディネーターは佐々木編集長。「将来の自分をイメージしよう~先輩女性から学ぶ」と題し、3人から学生時代の思い出、今の仕事を選んだ理由などを聞いていきました。

人文社会科学部国際文化課程を卒業し、2010年に入社した東京海上日動の佐藤さんは現在、取引先である保険代理店の経営・営業支援に携わっています。入社のきっかけは「大学の先輩に話を聞いて興味を持ったこと」と振り返ります。「会社説明会では、どの方も仕事に誇りを持ち、仕事が好きだと感じました。そのような社員の方と一緒に働きたいと思って入社を決めました」

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東京海上日動の佐藤岬さんは盛岡支店盛岡中央支社を経て現在は同岩手南支社に勤務

大学時代と変わらないぐらい学ぶべきことはあります。日々の業務では大変なことも多く、苦手なこと、嫌なことに取り組まざるを得ない場合も。「そこを乗り越え、ステップアップできたと思えたときに、やりがいを感じます。またそれがモチベーションにもなっています」とほほ笑みました。「学生時代に視野、世界を広げてください」と後輩にアドバイスしました。

永井さんは人文社会科学部環境科学課程で学び、13年に岩手銀行に入行しました。東日本大震災を経験し、地元のために力になりたいと同行の門をたたいたそうです。高校、大学と弓道部に所属。大学時代は最後に矢を放つ「落」という役割を担っていました。「プレッシャーのかかる仕事にも、集中力や責任感を持ってしっかり進められるのは、学生時代の経験が生きています」と力を込めます。

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法人向けインターネットバンキングの企画業務を担当する岩手銀行の永井結花さん

「任された企画がうまくいくと、やっていてよかったと実感します」と永井さん。会場の後輩に向けて「学生時代にしか付き合えない人もいます。交友関係を深め、広げてください」とエールを送りました。

人の役に立つことがやりが

ワイズマンの藤村さんは教育学部を卒業し、12年に入社。サポートセンターに所属し、システム利用者からの問い合わせに電話で対応する業務を担当しました。昨年からはグループリーダーとなり、メンバーの取りまとめ役もしています。「時にはクレームの電話が入ることもあります。どう対応するのか、正解はありません。これが難しいですね」と打ち明けます。

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ワイズマンの藤村こずえさんは学生時代のアルバイト経験が今も役立っていると話す

人の役に立てる、感謝の言葉をもらえることに、仕事のやりがいを感じていると話します。「企画や販売、マーケティングなど様々な角度から会社を見て、もっとお客様に喜ばれるシステムを考案したいと思います」と今後の抱負を語りました。

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男子学生が「女性の社会進出についてどう考えていますか」と質問

パネルディスカッションが終わると、場所を移して登壇者と学生が気軽に意見交換できる交流会がスタート。軽食をとりながら、社会人生活についてなど多様な話題に話の花が咲きました。出席した学生からは「働く時間がオンタイムの7割以上を占めることを知り、納得のいく仕事をしたいと考え直しました」(人文社会科学部)「どの先輩もそれぞれの会社を選択した明確な意思があり、それが学生時代に培われていました。もっと積極的に職業を考える必要があると思いました」(農学部)「仕事の制度や育児休暇など、今重視されていることをしっかり聞けて安心しました」(理工学部)との声が上がりました。可能性が無限にある時代に、これからの長い人生を考えてみる。そんな貴重な時間になったようです。

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交流会ではざっくばらんに色々なことが聞けた

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