イベントリポート

親が楽しむ姿を子供に見せていますか? 中学受験を勝ち抜く「心技体」

秋の訪れとともに受験シーズンの足音も少しずつ近づいてきました。具体的な志望校選びなどで不安が高まりやすい時期でもあります。中学受験は親と子供が二人三脚で戦わなくては、春の勝利が見えてきません。親が子供の「心・技・体」をいかに手厚くサポートしていくか――。日経ウーマノミクス・プロジェクト実行委員会は9月25日、東京・大手町の日経ホールで「中学受験を勝ち抜く親の'心技体'2017秋―子供の将来を見据えた準備とは」(協賛:大塚製薬、ナガセ)をテーマにした「日経オヤヂカラセミナー」を開きました。

「脳発達のため、朝食は絶対に食べたほうがいい」

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子供の将来を見据えて必要となる「心・技・体」について3人のパネリストが熱く語った

パネリストとして登壇したのは、こども国連環境会議推進協会事務局長の井澤友郭さん、四谷大塚教育事業本部第一ブロック長でお茶の水校舎長を務める成瀬勇一さん、東北大学加齢医学研究所教授の瀧靖之さんの3人です。持続可能な社会の実現に向けた人材育成に取り組む井澤さんは「心」、1000人近い生徒が通うお茶の水校舎で教育現場の最前線に立つ成瀬さんは「技」、脳の発達メカニズムや栄養、休養との関係に詳しい瀧さんは「体」の観点から、コーディネーターの榎戸教子さんの進行のもと受験生の「心・技・体」について大いに語ってくれました。

瀧さんは東北大で磁気共鳴画像装置(MRI)を使って小学生の脳の画像データを蓄積し、生活習慣などが脳発達にどう影響を与えるかなどについて研究をしています。脳の発達過程について「最初は情報伝達のたくさんの道を作り、ある時点からは情報伝達を効率化するため、よく使う道路を高速道路にして、使わない道は壊していく」と例えました。では何歳ごろにどんな活動をすれば子供は効率よく能力を獲得できるのでしょうか。瀧さんによると「生後半年くらいから読み聞かせ、3~5歳ごろには運動や音楽、8~10歳ごろから英語の勉強を始め、小学生から中学生にかけて周囲とのコミュニケーションを学ぶのがベスト」だそうです。もちろん高齢者になってから英語の勉強を始めても能力は伸びますが、「学習に最適な時期を外れると習得するのに時間がかかる」と指摘しました。

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東北大学の瀧靖之教授。MRIを活用し、小学生の脳の発達を研究している

脳の発達には十分な栄養も欠かせません。「朝食は絶対に食べたほうがいい」とアドバイスする瀧さんは「朝にご飯(お米)を食べる子供は、菓子パンを食べる子供よりも脳の発達がより進む」との実験結果も紹介しました。さらに脳発達のカギとなる子供の知的好奇心を伸ばすためには「親が楽しんでいる姿を子供に見せることが重要」と何度も強調しました。瀧さん自身も、自らがピアノや英会話、空手などを楽しんでいる様子を子供に意識的に見せているそうです。また親が子供を褒める頻度が高ければ高いほど、脳の発達にプラスになるとのことです。

「中学受験、論理的な思考力を試す出題に変化」

四谷大塚の成瀬さんは現在の中学受験生を取り巻く状況を説明しました。マーク式の大学入試センター試験の後継として2020年度にスタートする「大学入学共通テスト」は、国語と数学に記述式問題が導入されるなど課題解決能力が問われるようになります。その影響で中学受験も「高い基礎学力をもとに、論理的な思考力を試す出題へと変化している」といいます。単に学習内容を理解するだけでなく、自らの言葉で意見をまとめる能力が問われるようになります。

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四谷大塚の成瀬勇一さん。「志望校を見つけるために学校説明会など20~30校を回って」とアドバイス

また今後は18歳人口が減少するものの私立大学の入学定員厳格化によって、難関大はさらに競争激化が見込まれるそうです。成瀬さんはあこがれの第1志望校を見つけるため「文化祭や学校説明会など20~30校を実際に回ってほしい」と助言しました。成瀬さんも子供を褒めることの効能を説明してくれました。ポイントは「すかさず」「率直に」「具体的に」褒めること。これにより子供の脳は変化を起こすそうです。

子供に答えにくい質問をしていませんか?

こども国連環境会議推進協会の井澤さんは、自身を「ワークショップデザイナー」「問いづくりの専門家」と自己紹介しました。これまでの教育についてはすべて横並びで工場のように情報や知識を詰め込む「『標準化』を目的とした学び」と分析。インターネットを通じあらゆる情報がいつでも手に入るようになった現代では「情報を所有・記憶するのではなく、共有・加工する能力を身に付けることが欠かせない」と指摘し、正解のない問いに挑むワークショップ型の教育プログラムを子供たちに提供しているそうです。

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こども国連環境会議推進協会事務局長の井澤友郭さん。子供に対する「問いかけ」の重要性を訴えた

井澤さんは「親子関係で重要なのは親から子供に対する問いかけ」と指摘しました。「学校、どうだった?」といった漠然とした質問や「なんで○○したの?」といった批判的に受け止められる質問は、子供は答えにくいものです。「いつ?」「どこで?」「誰と?」「何を?」といった子供が答えやすい具体的な問いかけによって会話を進めるスキルが親には求められるといいます。「問いかけとは1本のティースプーン」と井澤さんは例えました。その心は、単に紅茶(子供)に砂糖(知識や答え)を入れるだけではなく、紅茶全体をかき混ぜる(問いかける)までの作業が重要で、「答え」は子供の心の奥底にある、という考え方です。これこそが親と子供のコミュニケーションで重要なポイントです。

塾での夕食「パッと食べられ、栄養バランスがよいものを」

パネルディスカッションでは子供たちの食事も話題となりました。セミナーの参加者向けに事前に実施したアンケートで子供の「朝食」を用意する際に最も気をつけていること(1つだけ)を尋ねると、「栄養のバランス」と答えた人が最多の40%で、次が「短時間で食べられるメニュー」(32%)となり、栄養バランスを意識する人が目立ちました。一方、子供の塾や習い事、勉強の合間などの「間食」について気をつけていることとなると、「塾などでも食べやすいメニュー」が25%で最も多く、「栄養のバランス」は15%にとどまりました。「間食としてよく利用する加工食品」では、「おにぎり」が37%と最も多く、「菓子類」が30%と続きました。

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セミナー会場では栄養調整食品の展示にも関心が集まった

四谷大塚では授業が夜遅い小学5、6年生には15分程度の食事時間を設けているそうですが、成瀬さんが「子供たちの9割弱は手作り弁当を持参している」と説明すると、会場からはどよめきが起こりました。瀧さんは「夕食があまりに遅い時間だと将来的に肥満や動脈硬化などにつながるリスクがあるが、エネルギー供給がないと学習の能率が落ちる」と指摘。時間の余裕がない時は手軽に食べられる栄養調整食品が「1つの大きな選択肢になる」と話していました。

スマートフォンの是非に関する議論も盛り上がりました。井澤さんは「コミュニケーションツールとして使いこなすことが欠かせない。危ないからといって子供に与えないのもリスク」とスマホの有用性を訴えましたが、成瀬さんは「連絡手段として以外は『百害あって一利無し』」と断言しました。また共働き家族へのアドバイスとして、成瀬さんからは「親は子供の健康管理だけでいい。あとは塾に任せてほしい」との力強い言葉も。瀧さんは「夫婦で目指すところが一緒でないと、子供が混乱する」と指摘し、夫婦や親子のコミュニケーションを通じ、志望校などの将来目標を家族で共有することの大切さを教えてくれました。

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