イベントリポート

おいしい新米のおにぎりを食べて、世界中に笑顔を増やそう

秋の収穫が終わって全国各地の新米が出回り、ごはんがおいしい季節です。「お米」は日本の風土に適し、保存も可能、そして私たち日本人の主食として長く慣れ親しまれてきました。そんな愛すべき「お米」をテーマにした丸の内キャリア塾スペシャルセミナー「実りの秋!美味しい新米を食べて世界を変えよう!」(主催:日本経済新聞社クロスメディア営業局、共催:JAグループ)が10月25日、東京・大手町の農業・農村ギャラリー「ミノーレ」で開かれました。

お米の新品種が続々登場する理由

セミナーには創業80有余年、東京・原宿で唯一の精米店という「小池精米店」の三代目、小池理雄(ただお)さんと、おにぎりの写真のSNS(交流サイト)投稿を通じて、世界の子どもたちを貧困から救うプログラム「おにぎりアクション」を発案した大宮千絵さんが登壇しました。2人の講演を聞こうと、会場にはほぼ満席となる80人が集まりました。

最初に講演した小池さんは「五ツ星お米マイスター」です。Tシャツの胸には「NO RICE NO LIFE」の文字。約10年前までは会社員で、出版社の編集やコンサルティングの仕事をしていたそうですが、父親が倒れたことをきかっけに小池精米店を継ぎました。「楽しくなければお米ではない!」を合言葉に、お米の魅力を伝えるべく、現在は新聞やテレビなど多くのメディアで活躍しています。

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お米の魅力について語り伝える「五ツ星お米マイスター」の小池理雄さん

さて、皆さんは日本のお米の品種がどれくらいあるかご存知ですか? お酒に使われる酒米や黒米、赤米、もち米なども含むと約600品種もあるそうです。その中で最も生産量が多いのが、ご存知「コシヒカリ」。北は秋田県・岩手県から南は鹿児島県まで広範囲で作られています。この「コシヒカリ」に、コシヒカリの"子ども"である「ひとめぼれ」「あきたこまち」「ヒノヒカリ」の3品種を合わせると、全国の生産量の約5割を占めます。そんな中、日本有数の米どころが競い合うように新品種の開発に力を入れ、最近は新しい銘柄が次々と登場しています。なぜ新品種の開発に力を入れるのでしょうか。

小池さんによると、それは日本人のお米の消費量の減少と関係しています。1960年代半ばの1人当たりのお米の年間消費量は約120キログラムあったのに対し、現在では年間60キログラムを切っているそうで、新品種の投入により、新しい需要を喚起しよう!という思いがあるようです。ちなみに2017年デビューのお米の新品種は、新潟県「新之助」、福井県「いちほまれ」、富山県「富富富」(ふふふ)、宮城県「だて正夢」、山形県「雪若丸」、福島県「里山のつぶ」などがあるそうです。皆さんも生産者の思いが詰まった新品種にトライしてはいかがでしょうか。香り、甘み、うまみ、粘り、食感、のど越しなどの違いを比較・評価すると、自分の好みが分かってくるかもしれません。小池さんはコーヒーやウイスキーのように好みに合わせて複数の銘柄をブレンドしたお米を販売しているそうです。選ぶ楽しさから味わいまで、新しいお米の世界が広がります。

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セミナー参加者には「つや姫」と「ゆめぴりか」で作ったおにぎりが配られた

「おにぎりで世界を変える」

続いての講演はNPO法人「TABLE FOR TWO International」(TFT)の大宮千絵さんです。大学卒業後、07年に日産自動車に入社し、社会人3年目ごろからプライベートでTFTに参加。その後、育休・産休を取得した後に日産を退社し、15年4月よりTFTに正社員として勤務しています。マーケティングの責任者として、日本から世界を変える「おにぎりアクション」を立ち上げ、SNSを活用した次世代のマーケティングと評価されて「日本マーケティング大賞奨励賞」「アジア・マーケティング3.0アワード」を受賞しました。現在2児の母であり、バリバリのキャリアウーマンです。そんな大宮さんは、社会貢献への取り組み方、そして「人生と仕事」への向き合い方について話をしました。

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日産自動車からNPO法人「TABLE FOR TWO International」に転身した大宮千絵さん

世界の人口約70億人の中で約20億人が肥満に悩む一方、約10億人が飢餓で苦しんでいる。そんな現状を、両方解決できないかという思いからTFTは立ち上がったそうです。社員食堂や学生食堂などでヘルシーメニューを1食頼むと、アフリカやアジアの子どもたちに給食が1食届くという仕組みで、創設から10年で5300万食を届けているそうです。食料支援をすることによって、子どもたちの登校率も上がり、教育を受ける機会を増やす効果もでているそうです。教育を受けられれば、将来の仕事にもつながります。結果として貧困から救えるのではないか、という思いもあります。

大宮さんが発案したTFTの「おにぎりアクション」とは次のような仕組みです。

▽おにぎりを作る・買う→▽おにぎりの写真を撮影→▽写真をTFTのサイトに投稿または「#OnigiriAction」を付けてSNSで投稿→▽TFTを通じてアフリカ・アジアの子どもたちに給食が届く

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配られたおにぎりの写真をスマホで撮影するセミナー参加者

1枚の投稿につき給食が5食寄付されます。5食分の費用は、企画に賛同する企業が支援してくれます。今年は10月のキャンペーンスタートから約20日間で毎日約3千枚(昨年は約2千枚)、計6万枚を超える投稿が続いているとのこと。日米に拠点を置く35社の企業が協賛し、地方自治体の参加もあるそうです。TFTはすべて寄付収入で成り立っているため、寄付額の上限2割で運営をしています。広告費はゼロですが、昨年のキャンペーンでは期間中に計11万枚の個人の投稿が拡散し、メディアにも取り上げられました。大手広告代理店が試算したところ、約4億円の広告効果があったそうです。日本の食「おにぎり」で、日本から世界に影響を与えています。

世界に活動を伝播させる3つの要素

では、なぜ世の中にこのアクションを広げることができたのでしょうか?――大宮さんが考える「社会貢献活動が大衆に広がらない要因」は3つだと言います。第1は自分の生活に身近でないこと。第2はマイナスの気持ちからスタートすること。「かわいそうだな」「何かしなくちゃ」などの気持ちは一時的な原動力になりますが、毎日継続していくには負担を感じます。第3は社会貢献活動をする人がまるで聖人のように思われること。自分とは違う、一部の良い人だと思われることで、心の距離ができてしまうといいます。大宮さんはこの心の距離を近づける方法として「おにぎりアクション」を企画しました。"チャリティー"ではなく"アクション"という言葉で興味を引いてもらい、社会貢献をポジティブに変えるためのワンアクションを起こしてもらえたら、と考えたそうです。

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セミナー参加者でぎっしりと埋まった会場の農業・農村ギャラリー「ミノーレ」

大宮さんは社会的な取り組みに大衆を巻き込むためには「シンプル」「ポジティブ」「ストーリー」の3要素が必要といいます。「おにぎり」のようにシンプルで分かりやすいもの、それが「世界を変える」と組み合わさることで、意外な驚きがあり、興味を引く。さらにSNSでの投稿内容は楽しいものが多く、ポジティブなものは共感が共感を呼んで伝播しやすい。そしてその先にストーリーがある。昨今SNSでの広告手法は広がっていますが、その内容にストーリーがないとお客さんは冷めてしまいます。TFTのおにぎりプロジェクトは、シンボルに「おにぎり」を採用したことで、「大切な誰かのために握るおにぎりに、アフリカ・アジアの子どもたちへの想いも込めて参加できる」というストーリー性があります。ストーリー性があることで参加者自らが自分ごととし、個人個人が広告塔にもなり、ポジティブな伝播が連鎖していくのです。

心からモチベーションを感じる仕事を

大宮さんが日産を辞め、NPOに転身した経験に基づくキャリア観の話もありました。日産時代に大宮さんは、キャリアの階段を駆け上がることを目標に、日々奮闘していたそうです。そんななか第1子の出産が人生の転機となりました。産休で初めて仕事から離れたときに、自分がいなくても仕事が回っていくのを目の当たりにします。子どもを授かり、一体私は人生で何を大切にしていったらいいのか?と考える機会、時間ができました。そんな時、知人に『イノベーション・オブ・ライフ』という本を薦められました。その本にあった「お金やポジションなどを目標にする人は、達成した時に不満は持たない。けれど、心からモチベーションを感じることができなければ、一生心から満足することはない」という内容に強く共感したといいます。

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「海外市場における日本のお米の評価」「周囲を巻き込んで仕事を進めていくコツ」など2人は参加者からの質問にも答えた

米アップル共同創業者のスティーブ・ジョブズの言葉「人生に心から満足したいなら、自分が素晴らしいと信じる仕事をするしかない」にも動かされました。マインドマップを書いてみたり、人と積極的に話をしたりするなかで「日産時代に築いた経験を生かし、自分が考えたアイデアを世の中に送り出す仕事がしたい!」という結論に至ります。NPOの手伝いをしていくなかで、自分たちで考えたアイデアが企業を巻き込み、早いタイミングで商品化され、店頭に並んだことが大きな経験となりました。心からモチベーションを感じ「TFTって面白いかも」と思ったそうです。そして子どもとの時間の大切さ、仕事と家族との時間のバランスを考えた時に、TFTに入ることを決めたそうです。「人の評価は後から付いてくるもの。何をするか、最後は自分の声に従ってほしい」と話していました。

大宮さんからはほかにも印象深い言葉がありました。「ASK&THANKS」、育児も仕事も独りで抱え込まず、色んな人に頼りましょう、お願いしましょう、そして感謝しましょう、ということです。最後に大宮さんが悩みに悩んだ時に大好きな人からもらった言葉で講演を締めくくりました。「未練はあっても後悔のない人生を!」

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