イベントリポート

心地よい居場所をつくろう 住まいで、そして社会で

楽しく、充実した毎日を過ごすためには、欠かせないものがあります。やりがいを感じる仕事、家族の笑顔、気の置けない友人――。ホッとできる住まいもそうです。どうすれば心地よい、素敵な空間をつくることができるのでしょう。ヒントを求めて、日経ウーマノミクス・プロジェクト実行委員会が6月25日に開いたスペシャルセミナー in 大阪「家族とともに楽しむすてきな暮らし」(協賛:積水ハウス)に足を運んでみました。

家具も小物もピッタリサイズ

あいにくの雨でしたが、会場となった梅田スカイビルの一室には約120人が集まり、関心の高さがうかがえました。プログラムは2部構成。まずフリーアナウンサーとして活躍している八木早希さんの基調講演「暮らしとコミュニケーション」がスタートしました。

米ロサンゼルス生まれで、大阪育ち。同志社大学卒業後に毎日放送に入り、多くの番組に出演してきた八木さんは「結構なご応募があったそうで。知ってます?」と軽妙な関西弁で参加者に声をかけます。プライベートで一番情熱をかけているのは家だとか。人生の拠点であり、ここを居心地のよい場所にしない限り、社会の居場所も見つけにくいと考え、「自分らしくいられて、居心地のよい空間にすることを追求してきました」とほほ笑みました。

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「プライベートで一番情熱をかけているのは家」とフリーアナウンサーの八木さん

10年前に結婚し、インテリアを楽しみ始めた八木さん。初公開という自宅の写真を見せながら、こだわりのポイントを紹介していきます。例えばリビングです。壁を取り払い、書斎とリビングを一体化。ソファのすぐ後ろにご主人が使うテーブルを置きました。「コミュニケーションの第一歩はいつでも視界に入ることですので、テーブルを壁に向けず、内側を向くようにセッティングしました」

「ピッタリ」もキーワードです。本棚は床から天井まで、デスクも壁から壁までピッタリ。家具の中の箱なども隙間なく入っています。しかも市販品。ピッタリの製品を見つけるために、「とにかく測りまくり、幅や奥行きなどを手帳の後ろに全部書き留めています」。収納もピッタリ志向。「スペースを広げるというより、限られた空間を充実させます」。下駄箱は自作の棚を用意し、びっしり並べるようにしていました。

2016年に第一子が生まれ、仕事と家事に子育てが加わりました。ご主人も育児は積極的です。さらに、住まいも工夫して働きやすい環境を整えたそうです。共有スペースを増やすという考え方です。リビングに赤ちゃんのオムツなどの置き場所を確保し、どちらか一人でもすぐにお世話ができるようにしました。

言葉を練って、思い伝える

居心地のよい空間を家でつくってきた八木さんは、社会でいかに居心地のよい場所をつくるかについても、熟慮しています。

「言葉を持ち、自分の思いを丁寧に伝えることで自由に、楽になります。社会での居場所をとてもつくりやすくなると思います」と言葉の力、コミュニケーションの重要さを強調します。この思いに至った背景にあるのが、子どものころの経験。帰国子女として入学した大阪の中学校では、連れ立ってトイレに行くといった「群れる」行動に違和感を覚えました。でも、米国でも苦労がありました。「アジア人に対してはそもそも無関心、invisible(見えない)な存在です。文化を共有しないから、言わなくてもわかる、察してくれることはありません」。心の内を伝え、相手にわかってもらうには言葉で説明するしか、時には闘うしかなかったのです。

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子どものころの体験を通じ、言葉で自分の思いを伝える重要性を知った

 居場所をつくるために欠かせないコミュニケーション。正直でいること、素でいることが大事だと八木さんは話します。テレビの前でもそうです。一方で、リスクを伴います。素で発した言葉が間違ったとき、数百万人の視聴者から指摘や、時には怒りまでもが降りかかります。特にアナウンサーは誰もが不快に思わないラインを探りながら、目立ちすぎないように振舞うことを求められます。でも、「好みに答えるだけではやはり心が苦しいですし、自分を失っていくという感覚もあるので、守りたい個性は守ります」と語気を強めます。

生まれもったものまで否定されたくないと、左利きの八木さんはテレビの食べ物のリポートでも左で箸を持ちます。そして「左で失礼します。いただきます」。一言挟むことで、視聴者の理解が得られるわけです。

日常でも言葉には人一倍気を使い、自分が不快だと伝える際には丁寧な言葉をあえて用いて、自分の意思を伝えています。観劇時に隣席の人の肘が邪魔になった時もありました。相手にこう話しかけたそうです。「すみません。肘がこちらにはみ出しております」

毎日帰る家を居心地のよい空間に丁寧に仕上げましょう。そして、社会で居心地のよい場所を確保するため、ずっと使ってきた言葉を今一度探ってみませんか。八木さんはそうアドバイスします。「居心地のよさをどう守るかで、自分の幸せもみえてくるのではないでしょうか。遠い幸せをつかみにいくというよりは、家という身の回り環境を整えることが、幸せの一番の近道ではないでしょうか」と結びました。

家事や持ち物、価値観異なるアラサー

第2部では積水ハウス総合住宅研究所のライフスタイル研究開発グループリーダー、河崎由美子さんが「事例満載! 今どきのインテリア・コーディネート」と題して、リフォーム・リノベーションに役立つポイントを紹介しました。

「家に住み始めたら、愛着を持って自分の好きに変えていっていいんです」。暮らしに関わるソフトの研究開発全般に携わる河崎さんはこう切り出しました。自分の好きなものに囲まれて暮らせば、毎日が本当に楽しくなります。

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積水ハウスの河崎さんは「セパレートキッチンなどが注目されています」と解説

そして、いまどきの若年層には、暮らしの価値観に大きな変革が起きているとも言います。「アラサー」と呼ばれる30歳前後の層は自分らしさを表現するのが好きで、友人や家族を大切にしようという意識も高くなっています。家事や育児にも積極的に参加しています。「調査では男性は食器洗い、ゴミの分別、風呂掃除をほとんど1日おきにこなしていました。しかも回数をもっと増やしたいという人が多くなっています」。台所にいっしょに立ち、料理をする人は3割もいるそうです。

インテリアではシンプルなスタイルを好みます。使わないものは処分する方だという割合も3割。「モノの所有に関する価値観が異なっているので、家の中の収納や間取りもずいぶん変わってきます」と強調します。

これらを踏まえ、積水ハウスが実験、施工した例をみせながら、今の注目スタイルを挙げます。まず「セパレートキッチン」。コンロとシンクの島が分かれたタイプです。これだと対面キッチンであっても換気扇を壁側につけることができ、リビング・ダイニング・キッチン(LDK)のインテリア空間がすっきりします。コンロとシンクが一列に並ぶスタイルでは大きな調理台が真ん中に1つありますが、実験をすると調理台は大きな1つの台よりも、コンロ用、シンク用と分かれて台がある方が作業効率は良く、「同じ調理でも時間が2割削減できました」。

「キッチンクローク」も家事をやりやすくする工夫です。幅1メートルほどのウオークインタイプのクロークをキッチン横に設置し、冷蔵庫や調理家電、食材、ゴミ箱も置ける収納スペースにします。コンセントを数多く付けておくと、便利な調理家電をいつでも使える状態にして並べておけるので、家族誰もが使いやすくなります。これは家事分担の秘訣(ひけつ)にもつながるそうです。

リビングにこそ収納場所確保

アラサーの生活スタイルを踏まえて生まれたのが「カフェダイニング」。ダイニングのテーブルを少し低めにして、食事の際もくつろぐ時もここにいます。窓辺にあれば、まるでカフェのようにぐっと雰囲気が変わります。

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左からセパレートキッチン、キッチンクローク、カフェダイニング

家の悩みで多いリビングの収納でも、新たな考え方が出ています。歩いて出入りできる収納空間「リビングクローク(リビクロ)」です。収納は場所が広くても、出し入れがしにくかったり、適当な場所になかったりすれば、満足できません。リビングに家具をゴチャゴチャと置くよりも、壁をつくって1帖(じょう、約1.6平方メートル)ほどの収納空間を設ける方が効率よく片付き、インテリアとしてもより魅力的になります。

リビクロの棚の奥行きは15センチ、30センチ、45センチと色々なサイズがあるとよく、文房具、携帯電話の充電器、掃除機、はてはクリスマスの飾りなど、リビングで使うものはすべてしまうことができます。「海外でも注目されており、シンガポールのマンションに提案したところ好評でした」

玄関の「シューズクローク(シュークロ)」も同じ考えです。靴だけでなく、外で使う遊び道具やベビーカーもしまうことができるので、玄関が散らかりにくくなります。「シュークロの中にシンクがあれば、手や足を洗ってから家の中に入るようにもなります」とメリットを説明しました。

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スクリーンにはインテリアの最新トレンドが次々と登場

「ここからが事例満載です」と最近のインテリアのポイントをどんどん紹介しました。ほんの一例を挙げると

「ラスティック」 ちょっとラフな感じの家具や照明器具に黒い鉄の金具がアクセントとしてある。黒の金具が全体を引き締める
 「オープン棚」 扉や背板がない棚収納で空間に仕切りをつくる。空間を有効に使い、空調の循環もスムーズ
 「窓辺ベンチ」 肘掛け高や腰高の窓に面してベンチを設ける。本を読んだり、作業をしたり。気持ちのよい場所に
 「和ルーム」 部屋の一角に畳を敷く。洗濯物を畳んだり、小さい子どもを寝かせたりできるお役立ちスペース  

植物を置くなどアウトドアで使うものを家の中のインテリアにする『アウトドアリビング』も出ています」と河崎さん。部屋の内装や飾りつけは自由に楽しむものなので、アイデア次第で独自のインテリア空間をつくることができます。

参加者は八木さんの講演にうなずき、河崎さんの事例紹介に見入っていました。会社員の女性は「電子メールが広がり、コミュニケーションが難しくなる中で、言葉の選び方でいかに印象が変わるかわかりました」。「紹介された窓辺のインテリアの例を参考に、リフォームを考えていきます」と49歳の女性はにっこり。

住まいでも、社会的な居場所でも、心地よい空間は人それぞれ異なります。自分にとって何がよいのか。探してみる時間も楽しそうです。

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