イベントリポート

「逆算」の発想で準備、子育てファミリーのマネー戦略

今や人生100年の時代だそうです。筆者は今年50歳。折り返しを過ぎました。子どもは7歳と5歳。60歳を迎えても未成年です。両親は高齢。年金をはじめとする社会保障制度はこれからどうなることやら。心配です。そこで目に留まったのが「子育てファミリーのマネー講座~資産形成の基本から住宅、教育、老後への備えまで」(主催:大和証券、企画協力:日経ウーマノミクス・プロジェクト、9月30日開催)。今後の蓄えはまだ間に合うと自分に言い聞かせ、参加してみました。

退職後の35年で必要な金額は1億4000万円?

託児サービスが準備されたこともあるのでしょう。会場の大和コンファレンスホール(東京・千代田)には乳幼児を連れたご夫婦が多数います。参加者の半数は男性でしょうか。総合司会の榎戸教子さんが姿を見せ、セミナーがスタート。キーノートスピーチはフィデリティ投信フィデリティ退職・投資教育研究所所長の野尻哲史さんです。

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フィデリティ投信の野尻哲史さんは「逆算の資産準備が大切」と話す

「年代別に考える資産形成のポイント」と題した講演で野尻さんはまず、退職後に資金がどの程度必要かというアンケート調査を紹介しました。3万人に聞いたところ平均2952万円で、性別、年代問わずほぼ同じ水準です。ところが、現在の年収別で集計すると、年収の高い人ほど必要な資金は増えるそうです。そうなんですか。いったい準備すべき額はどのぐらいですか??

野尻さんは続けます。会社員なら、現在の年収から大まかな退職直前の年収が推測できます。この額の何%ぐらいを退職後の生活費として想定するのかによって、必要額は変わるとのことです。これを決めれば、今からどのぐらいを老後の資産形成に回すべきかが分かります。

「ここでポイントがあります。投資は毎月1万円といった一定額を振り向けるのではなく、年収の何%回すのかと考えましょう」と野尻さん。金額より率。ちなみに、英国で成立した企業年金の法律では、2018年に給与の最低8%を資産形成に回すことが決められているそうです。え! 8%も振り向けなければいけないんですか。

もう一つ覚えておいてほしいと野尻さんが訴えたのが「目標代替率」です。先ほども言及があった、退職後の生活費は退職直前の年収のどの程度にするのか、その割合です。生活レベルをどう設計するのかとも言い換えられます。「こちらも率で考えます」(野尻さん)。「退職直前と変わらない生活は無理だよな」と思っていると、フィデリティ退職・投資教育研究所が家計調査を基にした推計が紹介されました。65歳以降の生活費は50代後半の68%。食費や交際費は減っても、医療・介護の費用などが増えます。

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夫婦で熱心にメモをとる姿も

毎年必要な生活費はみえてきました。次はその生活が何年続くのか。野尻さんは「35年、95歳まで生きると計画してください」と言います。男女とも2割の方はこの年齢前後まで存命なのだとか。

そして、実際の計算が始まります。退職直前の年収が600万円だったとして、その68%が年間の生活費、それが35年続くとすると、必要額は1億4280万円。は? 1億4000万円? 生涯賃金ですか? では年金はどのぐらいもらえるのか。月24万円と想定すると、受取総額は8640万円。結構な金額ですが、それでも差し引き5640万円を自分で賄わなければなりません。無理です。そんなのとてもできませ~ん。

運用は分散・長期投資で

真っ暗な気分になっていると、「ちょっと脅しています。実際はここまではいりません」。そうですか、ホッとしました。「5640万円は60歳以降で引き出す総額です。75歳まで使いながら運用する期間を設ければ、60歳時に用意する額は4000万円弱になります。生活費を68%でなく60%とすれば、2800万円ぐらいに下がります」。それでも多いです、野尻さん。「60%に収める方法など考えることはありますが、95歳に資産を使い切ると想定して全体像を導くのは非常に重要です。これを『逆算の資産準備』と呼んでいます」

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パネルディスカッションでは教育費、住宅購入費など人生3大費用について意見が交わされた

目標とする60歳2800万円。年率3%で運用すると、30代は月4万円、40代は5万円、50代で6万円と積み立てていくと達成できます。退職金があれば、もちろん充当してもOK。「ちなみに、投資に回す額を年収で割ると、12%です。年収の12%を資産形成に振り向けましょうという発想です」。なるほど、必要額から逆算ですか。発想を改めることから始めないと。

今の40代は自分の退職、子どもの教育費、親の介護という3つが重なる「トリレンマ世代」で、大変な時代になっているとも野尻さんは説明します。計画的な対応が求められる中で、「資産をどう配分するのかも重要です」。

世の中には少額投資非課税制度(NISA)や個人型確定拠出年金(iDeCo)といった新しい制度が次々登場しています。いつでも引き出せるNISAは教育資金に充てるなど、使い道とそれぞれの特徴をみて、うまく配分することが欠かせないと野尻さんはアドバイスします。そのうえで、資産を分散し、値動きのブレを抑えることも強調します。「ここで気をつけてほしいのは、分散するだけではダメだということ。そのうえで長期投資してこそ、資産形成につながります」。投資商品が値下がりしても、分散していれば資産の減少は抑えられます。ただ、分散だけだと損をしたことには変わりません。分散した商品が値上がりして収益を上げられるように、長期投資することが必要と力を込めました。なるほど、気をつけます。

かさむ教育費、事前の計画しっかり

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ECCの太田敦子さんは幼児期からの英語教育が重要と指摘

将来への備えを甘く考えていたなと反省していると、今度はパネルディスカッションが始まりました。「住宅・教育・介護からみる子育て世代のマネー事情」がテーマで、フィデリティ投信の野尻さんのほか、教育現場に詳しいECC総合教育研究所所長の太田敦子さん、住まいに関するソフト面の研究開発に携わる積水ハウス総合住宅研究所課長の河崎由美子さん、NISAなどの制度を知り尽くした大和証券営業企画部副部長の長島義浩さんが登壇。人生の3大費用とされる教育費、住宅購入費、老後の生活費について意見を交わしました。すみません。「3大費用」という言葉は初めて聞きました。勉強不足です。

教育費について、ECCの太田さんが解説します。「幼稚園児から大学生まですべて公立だと19年間で1000万円、すべて私立だと2300万円かかるとのデータがあります。ほかに習い事があり、月謝は5000~2万円まで幅がありますね」。学校外の費用もかさみます。さらに太田さんは「英語に触れる時間を確保できるなどの理由で、始めるのは幼児からが一番よいと考えています」と強調します。

さらに、希望者が増えている留学についても言及がありました。高校生が英語圏の現地高校に通う場合は年間300万~400万円、大学生が大学併設の語学学校で学ぶと年間500万円ぐらいかかるそうです。1~2週間の短期留学であっても30万~50万円。子どもの将来を思うと何とかしたいのはやまやまなんですが...。「すぐに出せる金額ではないので、事前の計画が必要です」(太田さん)

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ちょっとしたことで生活は変わると積水ハウスの河崎由美子さん

大学入試をはじめ、これから英語教育はどんどん変わっていきます。太田さんは「コストパフォーマンスが最もよい英語教育は子どもが自律的に学ぶこと。小学校の中高学年から勉強の習慣を身につけたいですね」と助言しました。そうです。自分で進んでやってくれたら、親も応援しなければという気持ちになります。はい。

住まいはどう考えればいいのでしょうか。積水ハウスの河崎さんは「五感を刺激する、いろいろな人とコミュニケーションをとるのは子どもにとって大切です」と切り出しました。例えば、リビングの床の一部を沈ませる「ピットリビング」を設けると、なぜか家族が集まる場所になるそうです。

「子どもたちとどんな家で過ごしたいのか、老後はどのような住まいにするのか、しっかりみて選んでもらえればと思います。さらに、地震など災害時にはご近所の力が一番頼りになります。これも忘れないでください」。確かに、筆者も東日本大震災の折、家族はご近所さんに大変お世話になりました。

さらに、河崎さんはリビングに食卓とは異なる、対面で勉強ができる空間をつくると、いろいろなことに使えると紹介します。「親がパソコンに向かう姿などを見せることも意味があります。ちょっとしたことで暮らしは変わります。家具のレイアウトやリフォームなどの間取り変更にも興味を持ってください」と呼びかけました。そうですか。我が家はおもちゃが片付けやすいレイアウトから考えますかね。

税優遇制度、使わないと損

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大和証券の長島義浩さんは税優遇制度の活用を訴えた

大和証券の長島さんは「NISA、iDeCoなど国は税優遇制度を整備しています。積み立て型のNISAも始まります。これらの制度の利用は皆さんの権利であり、使わないと損です」と強調します。運用、投資となると元本割れといったリスクが頭に浮かびます。長島さんは「値上がり・値下がりという市場の不確実性に対抗するには、長期投資が最も適しています。将来から逆算し、今から運用を始めては」と続けました。「私たちは金融のプロとして、助言していきたいと思います」。NISAとか難しそうと感じていましたが、権利は使わないと損ですよね。

フィデリティの野尻さんはキーノートスピーチでも飛び出した「トリレンマ世代」というキーワードについて、「世界中のどの国でも親の介護と子どもの教育費が重なることはあります。ただ、これに自分の退職も加わるのが日本。きちんと早めに準備を進めるのが重要です」と力を込めます。う~ん、備えあれば患(うれ)えなし、ですか。

老後についても、「定年後にキャリアアップしていくぐらいの心構えがこれからは求められます。自分への投資も進めてください」とエールを送ります。さらに家庭での金融教育についても助言がありました。「家庭ではお金にどう向き合うのか、広い視野で教えることが大事です。私は常々、中学生ぐらいになれば親の年収を子どもに教えてほしいとお願いしています」。うちも中学に入れば、子どもに家計状況をつまびらかにしますか。

孔子は五十にして天命を知ったそうですが、筆者は50歳にして自らの甘さを知りました。猛省です。将来から逆算して必要額を求めることから、まず始めます。

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(左)当日は託児サービスを準備 (右)セミナー終了後、登壇者に質問する参加者も

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