イベントリポート

大和撫子になりきる~「名門ホテルで学ぶ女性の美しい所作」体験記

毎回大好評のホテルオークラ東京と日経ウーマノミクス・プロジェクトのタイアップセミナー第3弾が8月2日、東京・虎ノ門の同ホテルで開かれました。今回は日本女性の美しい所作をテーマに、20代~60代の幅広い年代の女性約60人が美しく見られる立ち居振る舞いやテーブルマナーについて学びました。セミナーに参加した日本経済新聞の木村恭子編集委員によるリポートをお届けします。

「美人画」にみる仕草やたたずまいの美

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ホテルオークラ東京のアートコレクション展「佳人礼讃」がセミナー会場になった

あるテレビ番組で、「浴衣を着たときの所作でブスがわかる」といった意見が取り上げられ、スタジオが盛り上がっていました。この「ブス」とは、顔のパーツのことではなく、全体の印象のこと。せっかく着飾っても、流行メークをほどこしても、「美しい所作」が身についていないと「残念な女性」になってしまうと、多くの人が気づいているわけです。

では、どうしたら「美しい所作」が身につけられるのでしょうか。8月2日にホテルオークラ東京で、美しい所作のプロに教えていただいた「大和撫子」になりきるためのコツを、ここにシェアしますので、皆さんが美しさに磨きをかける一助になれば嬉しいです。

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女流画家の上村松園が描いた美人画『うつろふ春』(左)などを見入るセミナー参加者たち

このセミナーは2部構成で行われました。まずはホテル地下2階のアスコットホールで開催中の美人画コレクションで描き出されている女性のうるわしい仕草やたたずまいを、学芸員の解説のもと、しかと目に焼き付けます。

ホテルオークラ東京では社会貢献活動の一環として、チャリティーイベント「秘蔵の名品 アートコレクション展」を1994年から行っているそうで、23回目となる今年のテーマは「佳人礼讃」。佳人とは美しい女性のこと。人物像の生命力や美に着目し、西洋画や日本の洋画、日本画73点が展示されました。(開催期間7月31日~8月24日)

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鏑木清方の作品『七夕』を鑑賞しながら女性の美しい所作を学ぶ

「後ろ姿が美しく、どんな表情をしている女性なのか、気になりますね」。金色地の屏風絵を前に、そう語る学芸員の神津瑛子さんは、「美人画」の二大巨匠といわれる上村松園(1875~1949)と鏑木清方(1878~1972)の作品を中心に解説してくださいました。鏑木清方の作品『七夕』(1929年)では、7月7日に行われていた江戸時代の行事で裁縫、音楽、書道の上達を願う3人の女性が描かれ、そのうちの1人だけは後ろ姿。

自然に立っているように見えながら、上を見上げる頭の角度や少しひねった腰の位置、内股気味の左足など、なまめかしささえ感じる美しさ。ゴッホにも影響を与えたという「ジャポニズム」の奥深さを垣間見た気がしました。

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学芸員の神津瑛子さん(左)が美人画の見方や作品の特徴をを分かりやすく解説

「なるほど、この手の使い方が、あの背筋の伸びが、『美人の所作』のポイントなのね」と、約30分間の美人画鑑賞で具体的なイメージを頭にインプットしたところで、次は12階のケンジントン テラスに、参加者約60人は大移動。今度はテーブルに座りながら、ホテルの和食・天ぷらのお店「山里」の大女将による日本女性らしい所作や立ち居振る舞いについてミニ講習を受けます。

食事を美しくいただく6つのティップス

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セミナー第2部の会場となったホテルオークラ東京の「ケンジントンテラス」

「山里」といえば、2010年に横浜で開かれたアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議の晩餐会で料理を提供しサービスを担当。同年の上海万博では「日本館」の和食レストランとして出店した、日本を代表する和食店です。

その「山里」でのサービスを一筋に39年間つとめている講師の寺家(じけ)かつみさんが語る食事の際の「美しい所作」のティップスを、次の6つにまとめてみました。

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和食・天ぷら「山里」の大女将、寺家かつみさんが食事の際の美しい所作を実演しながら解説

(1)美しい所作は1日にしてならず

寺家さんは「佳人礼讃」のコレクションの中で、島成園(1892~1970)の作品『お客様』(1929年)に描かれている、姉妹と思われる2人の子供が座っている絵を挙げ、次のように指摘しました。「着物の裾がきれいに広がっているのが印象的です。普段から、きちんとしつけられているのだと、絵を通じてわかります」。そして、美しい所作は「とってつけて、できるものではありません」とキッパリ。日ごろからきちんと訓練しておくことが大事なのですね。

(2)茶たく、ソーサーは置いたまま

ちょうど『お客様』の絵には、湯のみと茶たくが描かれていたことを受け、寺家さんはお茶の飲み方について「一般的な席で卓上に供された場合は、湯飲みだけを持つように」とのこと。私たち参加者の席に注がれていたコーヒーや紅茶についても、「ソーサーを持たずに飲みましょう」。ただ、お茶会の場合は、流派によって茶たくを持つケースもあるそうです。

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「美しい所作は普段から意識して訓練しておくことが必要」と話す寺家さん

(3)テーブルとの距離は「こぶし1個」分

テーブルに座るときは「姿勢が大事」と寺家さん。テーブルとの距離は「こぶし1個」分くらいあけると、「汁物をたらしたり、かがんで皿をのぞき込んだりするようなことがない」そうです。実際にやってみると、あら不思議。スッと背筋が伸びる感覚を味わいました。

(4)ナプキンは内に折る

大判のナプキンは手前の4分の1を折り、折り山を手前にして膝の上に置きます。使うときは、折った内側を口元に持ってきてふくようにしましょう。たとえ、よく食べ物をこぼすからといって、襟元にナプキンをひっかけるのは「タブー」とのことです。

(5)水が入ったグラスは右手で持ち、左手を底部に添える

「ゴクゴクと飲んでしまうと、生活感が出てしまいます」と語る寺家さんが実演した、左手をグラスに添えて水を飲む姿は、行為そのものが「美しい」と思えるほどでした。たかが水、されど水。

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コップや湯のみ茶碗を持つときは両手で。指先まで気を配れば上品な仕草に

(6)箸を割ったら、いったん箸置に

割り箸はひざ元で横に向け、上下に割ります。割った箸をすぐに料理につけるのではなく、いったん箸置きに置きましょう。割った直後から使い始めると、急いで食事をしようとするしぐさに映り、「美しくない」そうです。ちなみに、参加者から質問があった「箸袋を箸置にする」ことは「OK」とのことでした。

なお、寺家さんが和食のサービスのプロでいらっしゃるにもかかわらず、6つのティップスが和洋折衷になっているのには、理由があります。実は、参加者は寺家さんのお話を、ケーキを食べながら聞かせていただいたのでした。

伝統のレモンパイ、"必味"の価値

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ホテルオークラ東京の開業時から高い人気が続くレモンパイ(奥)とアート展限定チーズケーキ「つかさ」

特にホテルオークラ東京が1962年にオープンして以来、55年もの間、レシピを一切変えずに提供しているレモンパイは「必味の価値あり」でした。目にも胃袋にも満足感いっぱいの大きさ。プルンとした食感が重厚さにつながり、甘さ控えめなすっぱさと舌に溶けるメレンゲがベストマッチ。シェフパティシエの中村和史さんによりますと、ホテルオークラのパティシエの新人は、まず、このレモンパイづくりを鍛錬するそうです。

寺家さんによる30分のミニ講座が終わると、テーブルのあちらこちらから「あっという間だった」「もっと聞きたい」といった声が聞こえてきました。本格的にテーブルマナーを学びたい方には、「山里」のテーブルマナー講師による1日1組限定で、会席料理を食べながらの講習会も用意されているとのことです。

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セミナーの時間はあっという間に終了。参加者からは「美しい所作についてもっと学びたい」との声も

友人に誘われ、会社帰りに参加した千葉県在住の女性(43)は「絵を見る機会は多いのですが、所作の観点で鑑賞したことはなく、とても新鮮に感じました。学芸員の方の説明もよく分かりました。ミニ講座も勉強になりました」と満足げ。また、都内在住の女性(35)も「美しい所作ということに興味を持って参加しました。専門的に学んだことがありませんので。今回を機に、食べ方などを美しくできればいいですね」と笑顔が印象的でした。

私は、といいますと、背筋や指先に気を配りながら、少しゆったりとした歩調でホテルオークラ東京を後にした自分が新鮮に感じられ、美人画に描かれていた大和撫子になったような錯覚に陥った「美人画なりきり」に、気分が上がった夜でした。(編集委員 木村恭子)


◆第1弾タイアップセミナー「名門ホテルで学ぶ日本料理の食卓作法」の体験記はこちら
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