イベントリポート

「朝活脳」の鍛え方、バランスよい朝食がパフォーマンスを高める

どんなに忙しくても1日は24時間、その時間は人間だれしも平等です。「働き方改革」が問われるなか、いかに限られた時間で仕事を効率よく進めるか--。その手法の一つとして注目されるのが、夜の残業を減らし早朝から仕事に取り組む朝型のビジネススタイルです。日経ウーマノミクス・プロジェクト実行委員会は7月10日、東京・大手町でウマノミ特別セミナー「『朝活脳』の鍛え方―できるビジネスパーソンの決め手!」(協賛:大塚製薬)を開催。"朝型企業"の先進事例や朝食が脳に与える影響などを踏まえ、ビジネスパーソンが朝から仕事のパフォーマンスを高める秘けつを探りました。

ブドウ糖だけでは足りない、脳を働かせる栄養素

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「働き方改革」への関心が高い人事部や総務部の関係者が多く集まった

セミナーには企業の人事部や総務部などで働いている人たちを中心に、約180人の男女が集まりました。コーディネーターを日経CNBCキャスターの榎戸教子さんが務め、「脳トレ」ブームで知られる東北大学加齢医学研究所所長の川島隆太教授、朝型勤務を先駆けて導入した伊藤忠商事の西川大輔人事・総務部企画統括室長、AI(人工知能)などICT(情報通信技術)分野を専門とする日本経済新聞の関口和一編集委員を交えたパネルディスカッション形式で進められました。

東北大の川島教授は脳活動の研究が専門で、朝食と脳の働きの関係などについて研究しています。セミナーで強く訴えたのは「朝から脳を働かせるためには栄養バランスの良い朝食が欠かせない」という点でした。これまで脳の活動にはエネルギー源のブドウ糖があれば足りるとされていましたが、最近の研究で脳細胞を活性化するにはたくさんの栄養素が必要だということが分かったそうです。これを朝食に置き換えると、糖質中心のおにぎりやパンだけでは望ましくなく、おかずもしっかり食べないと脳が十分に活動しないことになります。朝に連続足し算をする実験では、洋定食>おにぎりのみ>朝食抜きの順番で、被験者の計算の速さに差が出たとのことです。「おかずの品数が多いほど、脳の認知機能が高まる」と話していました。

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東北大学加齢医学研究所所長の川島隆太教授。バランスよい朝食を取ることの重要性を力説した

朝食と子供の成長・発達との関連にも聴衆の関心が集まりました。全国の小中学校を対象とする文部科学省の調査では、「学力」「50メートル走」「持久走」「シャトルラン」のすべてで、朝食を食べる頻度が高いほどパフォーマンスが高いとの結果が出ています。それは大人になってからも影響を与え、毎日朝食を食べる学生のほうが第1志望の大学や就職先に進む比率が高く、社会人になってからの年収も多くなる傾向がはっきり表れているそうです。川島教授は「子供のときから栄養バランスのよい朝食を毎日しっかり食べる習慣をつけることが、その後の人生にとって重要」と熱く語りかけていました。

朝型シフトの伊藤忠、深夜勤務はほぼゼロに

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伊藤忠商事の西川大輔人事・総務部企画統括室長。2013年に導入した朝型勤務の成果を説明した

伊藤忠商事の西川室長は、2013年10月に会社が導入した朝型勤務の仕組みや成果を説明しました。同社の朝型勤務は社員の健康や生産性向上を目的に、午後8時以降の勤務を原則禁止、午後10時以降の勤務を禁止したうえで、午前5~8時の早朝時間帯への勤務シフトを促しています。午前8時前に始業する社員には深夜勤務同様の割増賃金を支給するほか、伊藤忠グループ会社で扱っている「ドール」ブランドのバナナや、パン、ヨーグルト、栄養調整食品「カロリーメイト」など40~50種類の朝食が無料で提供されます。

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伊藤忠商事で午前8時前に就業する社員向けの朝食コーナー。40~50種類が無料で提供される

こうした取り組みの結果、最近では午後8時以降に勤務する社員は全体の約5%にとどまり午後10時以降の勤務はほぼゼロになりました。一方、午前8時前に出社する社員は約45%に達し、朝型勤務が社員の間に定着。残業手当は導入前に比べ約10%減ったほか、タクシー代は約30%も減りました。西川室長は「働きがいのある会社であることは、企業価値の向上に欠かせない」と強調しました。社員の80%以上がこの制度に賛成しており、同社では早朝に海外ビジネスなどに関する「朝活セミナー」を開いたり、中国語学の向上を図るための中国語カフェを開いたりするなど、社員を飽きさせない工夫を続けているそうです。

ICT分野に詳しい関口編集委員は、日本の1人当たりGDP(国内総生産)を労働時間で割った生産性指標が世界で20位にとどまり、上位に並ぶ米国やフランス、ドイツなど欧米主要国に水をあけられている現状を説明。「日本が低い労働生産性を高めるためには、AIや(あらゆるモノがネットにつながる)IoT、ビッグデータを活用して生産性を向上させる取り組みが必要であり、組織の中の働き方のルールや枠組みを変えないといけない」と強調していました。

「朝・昼・夜のカロリーは4:4:2が理想」

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パネルディスカッションでは、川島教授が質問攻めに遭う場面が目立ちました。例えば「朝食はパンとごはん、どちらがよいのか」という質問です。川島教授によると、パンよりもごはんの方がGI値(※)の点から脳発達にとって良いそうですが、ご自身は子どもの頃からパンを食べて育ったため、毎日の朝食は自宅のパン焼き機で焼いた玄米パンを食べているそうです。具だくさんのスープなどで温野菜を食べ、卵や肉料理などで脂質やたんぱく質もバランス良く摂取することも心がけているとのことでした。

モーレツな働きぶりのイメージが強い商社マンの西川室長は、かつては夜中まで働き、それからお酒を飲むという生活スタイルの時代もあったそうです。関口編集委員は長年の新聞記者生活で、深夜まで原稿を書く習慣が身に付き、翌朝に朝食をあまり食べられないこともあるとのこと。川島教授は「朝食を食べられない生活スタイルは間違っている。朝、昼、夕の3食は、カロリーベースで4:4:2が理想」と指摘しました。ご本人は深夜まで飲酒しても翌朝は必ず午前5時に起きて6時に朝食を食べるそうで「朝は生活リズムをリセットするタイミング。同じ時間に起きて朝食を食べ、働くというリズムができれば、その人の持っている能力をきちんと発揮した状態で仕事ができると思う」と朝食の重要性を生活リズムの点からも改めて訴えていました。

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生活リズムと脳の働きとの関連についての話題では、川島教授が「睡眠時間が短くリズムが崩れると、ミトコンドリアの働きが悪くなり、細胞全体でエネルギーが作れなくなって全身と脳のパフォーマンスが上がらない」と警鐘を鳴らしました。西川室長は朝型勤務で生活リズムが一定になり、平日、休日とも朝早く目が覚めるようになったそうです。伊藤忠では夕方の研修を朝にシフトしたところ、研修中に居眠りする若手社員がいなくなったとの報告もありました。

活字を読んで仕事脳を鍛えよう

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AIの将来性に関する議論でも盛り上がりました。川島教授は「今のAIよりも人間の脳の方が情報処理能力は高い」との見解を示しました。ゼロから何かを生み出すという点で、現状のAIは脳に勝てないとみています。また仕事脳は脳をトレーニングすることによって年齢に関係なく鍛えることができると指摘し、「一番いいのは活字を読むこと。できるだけ速く活字を読むトレーニングをすれば、その後、1時間くらいは脳のパフォーマンスが上がったままになる」と説明してくれました。最後に川島教授は「早寝早起き朝ごはん、当たり前のことをやろう」と呼びかけました。この先の10年は遺伝子の研究が進み、遺伝子レベルで朝に強い社員、夜に強い社員といった分類がなされ、社員ごとに勤務時間帯が変わる可能性があると、企業戦略が大きく変化するシナリオも示してくれました。

パネルディスカッション終了後には、登壇者と参加者の懇親の場となる「ネットワーキング交流会」が催されました。企業の人事・総務担当者らが伊藤忠の西川室長に朝型勤務の成果を聞いたり、関口編集委員にセミナー内容について追加質問したり、展示品を興味深く見て回る様子が見られました。

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ネットワーキング交流会は参加者たちが登壇者と積極的に意見交換したり、展示品を手に取ったりする姿が見られた

※GI値:グリセミック・インデックス。摂取後2時間までに血液中に入る糖質の量を測ったもので、値が低いほど食後の血糖値の上昇が緩やかとされる。GI値が55以下を低GI食品、56~69を中GI食品、70以上を高GI食品と3分類される。

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