アンケート結果

気になるミドル転職、専門家に聞く「初めの一歩」
 ――日経ウーマノミクス調査から

転職してみようかな――。誰でも一度は抱く思いかもしれません。「35歳限界説」が常識だった転職市場で、新型コロナウイルス流行などの環境変化を受けて40代以降に転職する女性が増えています。日経ウーマノミクス・プロジェクトが2023年1月に実施したアンケートでは、転職経験のある女性の割合は7割超。「40代以上での転職」の経験者が4割を超えました。とはいっても生活がガラリと変わる転職は、転職先になじめるのか、自分の経験やスキルが通用するのかなど不安や疑問でいっぱい。これまでキャリアを積み上げてきたミドル世代ならなおさらです。転職が気になったとき、まず何から始めたらいいのでしょうか? アンケートの回答をもとに、リクルートの藤井薫HR統括編集長に「初めの一歩」を聞きました。

■「転職を検討している」6割

日経ウーマノミクス・プロジェクトは2023年1月10~18日、インターネットで転職に関するアンケートを実施し、1044人から回答をいただきました。

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女性回答者のうち転職経験のある割合は71.3%。うち「40代以上での転職」を経験した人は44.2%に上りました。40代以上の女性で「近い将来に転職を検討している」と答えた人も、59.2%と6割に迫っています。

40代といえば、学校を出て社会人として20年近くキャリアを積んできたころ。いったいどんな理由で転職しているのでしょうか。40代以上での転職経験のある女性でもっとも多かった理由は、「やりがいがない」の23.4%。「転職後の仕事に魅力」「会社の将来性に不安」が20.0%で続きました。

続いて転職が成功だったか、失敗だったかを尋ねたところ、成功だったと答えた割合は58.1%。成功もしくは失敗と思う理由の最多は「仕事のやりがい」の50.0%で、次に多かった「人間関係」(28.1%)、「勤務時間や時間外労働の量」(26.3%)を大きく引き離しました。40代以上で転職している女性が、より働きがいのある仕事を求めて行動を起こしている様子がうかがえます。

「新型コロナウイルス流行をきっかけに、自分の仕事とライフスタイル、ライフデザインが合っているかを見つめ直したという声が多く聞かれます」(藤井さん)。テレワークの拡大などを受けて、働く場所や時間といったライフスタイルを見直した部分。さらに人生100年時代といわれ健康寿命が延びるなかで、大きな社会の変化に直面し、自分の能力を長い人生でどう生かしていくかを考えた部分。そうした求職者側の動きと並行して、企業のほうでも女性活躍推進や、外部から管理職や専門職を採用する動きが強まっていることなどを背景に、特に40代女性の転職者数は10年前の2013年に比べて昨年は約12倍の水準に達したそうです。ミドル女性にとって転職は身近な選択肢になっています。

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■「異業種・異職種」への転職が主流に


「久しぶりの販売業に就きましたが、やはり自分は事務職向きだと気が付きました」(53歳、卸売・小売業・商業)


「営業事務として5年、派遣社員として働いていたが、一般事務として転職したため仕事のやりがいがなくなってしまった」(49歳、建設)

転職が身近になっているとはいえ、未知の環境に飛び込んで失敗したら――。アンケートでも、転職した仕事が自分の適性と合わなかった、新しい仕事に手応えがなかったといった残念な体験談が寄せられました。こんなミスマッチはどうしたら避けられるのでしょうか。

まず藤井さんがすすめるのは自分の「ポータブルスキル」の棚卸しです。ポータブルスキルとは、ミドル世代がこれまでの仕事などで培ってきた、業種や職種が変わっても使えるようなポータブルな(持ち運べる)能力のこと。厚生労働省が開発した「ポータブルスキル見える化ツール」では、「課題の設定」「計画の立案」などの仕事の仕方、「社外対応」「部下マネジメント」といった人とのかかわり方の9つの要素から強み・弱みを分析し、そのスキルを生かせる仕事を診断します。

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ポータブルな能力を把握しておくメリットについて、藤井さんは「最近は業種や職種を越境して、異業種・異職種に転職するケースが主流となっている」と説明します。転職支援サービスの「リクルートエージェント」の転職決定者のデータを分析すると、2009年度には「同業種・同職種」に転職した割合が27.9%、「異業種・異職種」は24.2%だったのが、2020年度にはそれぞれ19.6%、36.1%と逆転しているそうです。

「自動車メーカーがサブスクリプションで新車に乗れるサービスを始めるなど、企業がビジネスモデルを変革する動きが産業を問わず出てきていて、異業種・異職種の人材を積極的に中途採用しています」(藤井さん)。教えることに長けた学習塾の塾長が携帯ショップの店長に転身。専業主婦時代にPTA活動で意見を取りまとめた経験が生きて社員育成のスーパーバイザーに。藤井さんは様々な事例を教えてくれました。違う業種・職種でも通用する自分のスキルを知ることで、挑戦できる世界が広がるかもしれません。

■転職先探し、「4P」の優先順位付けを


「もう少し調査して転職先を選ぶべきでした。1社を受けて決めてしまったので、16年間勤めましたが、かなりひどい会社でした。あの年齢であればもっと大胆に条件の良いところを探すべきでした」(48歳、介護・福祉)


「収入が下がったが、仕事の難易度も拘束時間も下がった。(中略)子どもにすごくお金のかかる時期が来てしまった。自分に必要なのは、ゆとりや時間ではなくお金だったかもと思って失敗に感じている」(50歳、卸売・小売業・商業)

アンケートでもう一つ目立ったのは転職先選びに関する失敗や後悔。たくさんの求人から自分にぴったりの職場をどうやって見つけ出せばよいのでしょうか。

藤井さんは「"4P"の優先順位をつけましょう」とアドバイスしてくれました。4Pとは、企業や組織の「パーパス(目標)」「プロフェッション(仕事内容)」「ピープル(構成員)」「プリビレッジ(特権)」。例えば介護で両親の近くで働きたい、子育て中で何時に帰らなくてはならないといった勤務条件に関する「プリビレッジ」が必要なのか。いままでは営業だったがもう少しデジタルの仕事をしたいなど「プロフェッション」が大事なのか。「全部が合っていればうれしいが、どんな目的で転職するのか、4Pを手掛かりに整理したうえで譲れない要素に優先順位をつけ、転職先を選んでいくことが大切です」(藤井さん)

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お金、地位、安定、健康、成長などさまざまな角度から働く目的を精査して優先順位をつけるよう藤井さんはアドバイスする

もう一つ重要なのは、会社単位で人事と面接するだけでなく、職場単位で将来のチームメートや上司と話す機会を持つこと。アンケートでは「現在ほど会社の評判がネットで流布していなかったため、パワハラが日常的に行われる会社に入ってしまい、体を壊した」(48歳、介護・福祉)という深刻なケースもありました。職場にフィットできず離職してしまうことになっては、採用する側にもされる側にもマイナスです。入社前に、実際に働く場所にいる人と転職者がコミュニケーションできるようにする企業は増えているといい、転職者からそうした場を設けるようお願いするのも一手。売り手市場のなか、勤務条件や働き方を含めて何かしら交渉した転職者が半数に上り、そのうち30%程度は交渉が成立しているというデータもあるそうです。

■理想の職場をつくるには


「女性管理職には、従来と異なる発想や視点、突破力や空気を読まない力など、男性とは違うコンピテンシーを求められていると感じ転職しました。しかし、実際の業務ではオールド・ボーイズ・ネットワークや男性の社内政治に巻き込まれ、仕事が進まないケースにたびたび遭遇してきました。自分をどう適合させ、一方でどう変革を起こすのかという点は常に試行錯誤です」(48歳、情報処理、SI、ソフトウェア)

今回のアンケートで、転職した理由や転職を成功・失敗と思う理由として上位に入っていた「人間関係」。転職先の人間関係になじんでいくことも大切ですが、中途採用する側にも新しい風を吹き込んでほしいという期待があるはずです。

入社後のより良い関係づくりについて藤井さんにアドバイスを求めたところ、「ラーニング」と「アンラーニング」というキーワードを教えてもらいました。アンラーニングは、これまで学んだ知識に固執しないで新しく学んでいく態度のこと。ラーニングのほうは、新しい職場に行った時に「これってどうしてこういう仕事になっているんですか」と学ぼうとすることで、受け入れたほうにとっても仕事の意味や必要性を見直す機会となり、結果として組織が改善されていくことにつながります。

この考え方は転職にかぎらず現在の勤務先にいても使えそうです。転職を思い立っても、自分のスキルの分析や、転職の目的を精査することで、いまの職場がベストという結論に至ることもあるでしょう。その場合でも「ラーニング」と「アンラーニング」を意識して仕事を進めれば、理想の職場に一歩近づけるかもしれません。アンケートではこんな声も上がりました。「新しいチャレンジができたことにより、50歳になってもまだ終わりじゃなくてチャレンジしたいと思うようにマインドが変わった」(51歳、その他)。新年度、自分らしい働き方に向けて、いいスタートを切れるといいですね。

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