読者リポート

快適な睡眠のための入浴法、目安は40度前後のお湯に10~15分

睡眠に関する調査・研究を進めてきた「読者リポート」も3回目を迎えました。前回の取材で、生活リズム、食事のバランスを整えることが重要との助言を受けたリポーター。試行錯誤しながらも、少しずつ実践しているようです。今回のテーマは生活リズムに密接にかかわる入浴です。バスクリン(東京・千代田)のつくば研究所(つくば市)を訪ね、睡眠の質とお風呂の役割について、話を聞きました。

多彩な研究開発施設に驚き

明治薬科大学の駒田陽子先生から、「睡眠環境」をどう整えていくのか学んだリポーターの安藤裕子さんと林美帆子さん。睡眠を楽しめるようにと安藤裕子さんは気に入ったパジャマを購入し、林美帆子さんは正しい食事のリズムにするため、朝食を取るようになりました。

駒田先生からはいくつも興味深い話が聞けました。その一つが入浴との関係で、「寝る前にあまり熱すぎないお風呂に入り、少しさめる頃にベッドに入ると、体の奥の体温(深部体温)がスムーズに下がり、深い睡眠になりやすい」。そこで、バスクリンで製品開発などを手がけるつくば研究所を訪ね、綱川光男さん、村松司さん、渡辺智さん、石川泰弘さんから、さらに深い知識を取得しました。

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ブレンドの仕方でいろいろな香りになる(左)/9000以上の成分に分けた生薬エキスが保存されている

まずは研究所の中を見学。1897年に日本で始めて入浴剤を発売した同社は、お風呂の「友」を研究開発するための充実した施設を備えています。香りを研究するフレグランス室、品質をチェックする安定性試験室、実際にお湯に溶かして調べる入浴剤評価室、血流や自律神経などを基に有用性を確認する人工気候室――。新製品を生み出すために多くの過程があり、安全性、効果を慎重に見極めている姿に、安藤さんも林さんも感心することしきりでした。2人のリポートをみてみましょう。まずは安藤さんです。

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入浴剤を入れてカラフルなお風呂に(左)/人工気候室で自律神経や体温を測定

安定性試験室にある9000以上の生薬エキスを保存しているという倉庫は圧巻で、その香りに包まれて、一気に健康になれた気がしました。入浴剤評価室では家庭の浴室に近い状況の中で溶かして色や香りを確認したり、残り湯を使った洗濯実験をしたり。8種類の入浴剤を溶かした様子はなんともいえない美しさでした。

林さんはこんな感想を寄せています。

1番印象的だったのはフレグランス室でみた「香りへのこだわり」です。入浴剤専門の調香師さんがいて、1000以上の香りの中から選んだものをブレンドするという、気が遠くなるような作業です。それもただ「良い香り」を作るのではなく、「年代、性別関係なく好かれる香りを作る」ことをコンセプトにされていると知り、真摯に製品と向き合っていることを気付かされました。

入浴で深部体温のリズム整える

知識を深めたところで、本題である睡眠と入浴についての議論が始まりました。バスクリンの石川さんは「人間の深部体温は早朝から午後6~8時まで時間の経過とともに上昇し、朝方にかけて下がるというリズムがあります。これをちゃんと整えてくれるのがお風呂です」と解説。人は眠りに付く1時間前から、手のひらや足の裏が熱くなり、体内の熱を逃がします。体温がスムーズに下がると、深い睡眠につながります。「お風呂に入ったときは体温も上がりますが、血管も広がるので、お風呂から上がると熱放散が進みスムーズに体温が下がります」。体温が下がるまで時間がかかるので、寝る1時間半ぐらい前に入浴するぐらいがお勧めだそうです。

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「お風呂に入ると深部体温がスムーズに調整される」とバスクリンの石川泰弘さん

寒さが厳しかった今冬は、女性に多い冷え性の人にとってつらい日々が続きました。冷え性だと末梢の血管が広がらず、熱放散が進まないため、スムーズに体温が下がりにくく、結果として睡眠にも影響します。バスクリンの渡辺さんは「温かいお湯に入ることで、末梢の血管が開き、体温を下げるよいきっかけになります。実験でも睡眠の質を高めるという結果が出ています」と教えてくれました。

末梢血管が開くと、心身を休めてリラックスさせる副交感神経の活動が活発になり、こちらもよい睡眠につながります。逆にうまく熱放散が進まないと、ストレスを感じたり緊張したりする際に活動する交感神経が主役となり、睡眠を妨げてしまいます。

お風呂の効果を高めてくれるのが入浴剤です。含まれている炭酸ガスが血流を促したり、保湿成分が肌を整え、快適な眠りにつながったりするそうです。安藤さん、林さんは熱心にメモをとります。バスクリンの村松さんは「香りと色は人によって好みが分かれるので、入浴剤では誰もが受け入れやすいようにしています。でも1人だけ入るのなら、好きなタイプを選んで穏やかな気持ちになるといいですよ」とアドバイスをくれました。

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バスクリンの村松司さんは香りの奥深さについて解説

忙しい働き女子はシャワーだけで済ますという人も結構いるでしょう。「湯船に漬かることで水圧がかかり、血液を心臓へと押し上げてくれます。また、横隔膜が上がって肺の容量が少なくなるので、呼吸も増え、軽いウオーキングをしたような効果が得られます」と渡辺さん。軽い疲労感と体温の変化によって、深い眠りにつながりやすくなります。シャワーだけを浴びた場合に比べ、寝ている間の心拍数が少なくなることが実証されているともいいます。

理想的な温度や長さはあるのでしょうか。個人差はありますが、目安として「気持ちいい」と感じながら、少し汗が出てくるぐらい、40度前後で10~15分ぐらい漬かるぐらいだそうです。

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「しっかり肩まで漬かって」とバスクリンの渡辺智さん

半身浴よりしっかり肩まで

林さんが44度前後の熱いお湯に1時間ぐらい入っていると打ち明けると、バスクリンの皆さんは声をそろえて「やめた方がいいです」。入浴中に気絶してしまう事故さえ誘発しかねないうえ、体温が上がりすぎて、朝方にかけてスムーズに下がらなくなるのこと。「よくないんですね」と林さんは納得していました。

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今回の取材を機に林美帆子さんは入浴法を改めた

半身浴がもてはやされた時期もありましたが、渡辺さんは「肩まで漬かる入浴よりも優れているという話を研究者から聞くことはほとんどありません」ときっぱり言います。病気などが原因でダメだと言われていないのなら、ちゃんと肩まで漬かったほうがいいそうです。

入浴と睡眠は男女差もあります。一般的に女性の方が体脂肪は多いので、お風呂でも温まりにくい半面、一度熱を持つと発散しにくくなっています。さらに、月経周期によって、基礎体温が低い「低温期」と高い「高温期」が交互にやってきます。高温期はしっかりお風呂に入り、リラックスして、体温をスムーズに下げるリズムを付けるとよい結果が出るとも聞きました。

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安藤裕子さんは睡眠の質が上がってきたと実感する

入浴と睡眠について勉強した二人。安藤さんはこうまとめてくれました。

寝る1時間前に副交感神経が一番働くくらいの温度で、じわっと汗をかくくらいの入浴を心がけるようになりました。加えて、お気に入りのパジャマに身を包み寝るようにしたことで、横になってスマホで音を流すことをしなくても、眠りにつけるようになりました。1月から利用している睡眠アプリでも、睡眠の質が上がっているとのデータが出ています。

続いて林さんです。

今まで良かれと思って続けていた入浴方法が、まさか質の良い睡眠を妨害していたとは思いもしませんでした。これからは睡眠の質を向上させるためにも、健康のためにも、40度前後のお風呂に入ろうと決意しました。今までずっと高温のお風呂に長時間入ることが当たり前になってしまっていたため物足りなさを感じてしまったのですが、発汗作用のある入浴剤を使うことで解消されました。

さらに、二人とも石川さんのこんな言葉が印象に残っていると言っています。「1日の終わりに疲れたなとお風呂に入るよりも、明日の活力のためにお風呂に入るととらえてみましょう。翌日はお風呂から始まっていると考えてみては」

読者リポート最後となる4回目は、これまでの総決算をしてもらいます。

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