読者リポート

睡眠の質改善へ試行錯誤、光と食事に気をつけリズム整えよう

読者リポーター3人が睡眠に関する調査・研究に取り組み、「わたし目線」でまとめる「読者リポート」の2回目。前回得た知識を生かし、よりよい睡眠を確保できているのでしょうか。皆さんには最初の取材でもらったアドバイスがどの程度実践できているのか、現状を報告してもらいます。あわせて、睡眠の習慣・環境について探りました。1週間の生活の記録を付けてもらい、睡眠学、心理学が専門の明治薬科大学、駒田陽子先生の話を聞きました。

簡単ではない入眠儀式の見直し

リポーターの安藤裕子さん(34)、西尾美穂さん(39)、林美帆子さん(29)は昨年、睡眠の健康度を分析する自己診断システムを受けたうえで、国立精神・神経医療研究センターの三島和夫先生から様々な助言をもらいました。

「日中に急な眠気があるため、仕事中にエナジードリンクを1日1本飲んでしまう」「ベッドの中ではスマホで動画を流さないと寝られない」という安藤さんは、三島先生の話を聞いて①エナジードリンクに頼り過ぎないようにする、②寝る前に必ずする「入眠儀式」を見直し、睡眠前にスマホを操作しない、という2つを心がけています。現状報告のリポートをみてみましょう。

眠気を感じてベッドに入るときはスマホ操作しなくても気になりません。ただし、日曜や連休最終日の夜などは寝なきゃ寝なきゃと思うほど目が覚めて、なかなか寝付くことができず、最終的にはスマホを操作してしまいました。儀式を減らすのは、なかなか簡単ではないと感じています。

 エナジードリンクは週1~2本に減りました。仕事中に眠くなりそうなときには席を立ち、化粧室やカフェテリアで会った同僚と話をしてみたりしています。

毎日の睡眠時間が5時間で、だんだんつらくなってきた林さん。年末年始の休みにあわせ、助言どおり目覚まし時計を使わず、カーテンを閉め切って眠りについたそうです。林さんはこう言っています。

6時間半前後で目覚めることが多く、睡眠が足りていなかったのだと気付かされました。今まで5時間睡眠にこだわり続けていましたが、年齢や体質によっても求められる睡眠時間は変化し続けていくのだと思います。時々はこの方法でチェックしていきます。

西尾さんは冷え性や日中の眠気に悩んでいます。冷え性対策として入浴時は湯船に漬かるなど対策を取り入れました。一方、日中の眠気はまだ解消しません。質の改善に皆さん試行錯誤しています。

規則正しくベッドに入ることから

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睡眠の習慣・環境について明治薬科大学の駒田陽子先生(右)に安藤裕子さんが聞いた

前回の取材では、睡眠の問題として専門的な治療が必要な「睡眠障害」と、自ら改善できる「睡眠環境」の2つがあると知りました。そこで今回、睡眠環境をどう整えていくのがいいのか、明治薬科大の駒田先生に疑問点をぶつけました。仕事などで西尾さん、林さんが参加できなかったため、安藤さんが代表して聞いていきます。

1週間の起床・就寝時刻、食事や入浴の状況など基本的な3人の生活リズムの記録を、駒田先生に診断してもらいました。まず駒田先生が注目したのは平日と休日の起床・就寝時刻です。寝た時刻と起きた時刻のちょうど中間の時刻(中央値)を調べてみると、安藤さんと西尾さんは平日と休日では大きなズレがあります。「ソーシャル・ジェットラグ(社会的時差ボケ)の状態になっているのかと思います」と指摘します。

時差ボケは海外旅行をすると起こりますよね。時差のある地域に飛行機で急速に移動すると、体の時計をすぐには現地の時刻に合わせられないため、我々の体のリズムが乱れ、体調が崩れてしまいます。実は移動をしなくても同じ症状が出てしまうことがあります。ソーシャル・ジェットラグと呼ばれ、休日に夜更かしをしたり、寝だめをしたりした結果、体内時計が乱れ、寝付きが悪い、日中眠気がとれないといった体の不調が訪れるのです。

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日曜夜に寝付けないことも多いという安藤さん

駒田先生は「どの程度の中央値のズレが許容されるのか答えがまだ出ていません。ただ、厳しいけれど私は1時間程度に収めてほしいと思っています。研究で2時間ズレるといろいろ影響が出てくることが分かってきました」と言います。「睡眠の長さを気にする方は多いですが、規則正しく寝ているかというリズムも大切です」。「どれだけ寝たかは意識していましたが、中央値のズレもなんですね」と安藤さん。「周囲の悩んでいる人にも教えてあげます」と声が弾みます。

平日の睡眠時間が短くて、休日は少しでも長く寝たいという働き女子は多いでしょう。安藤さんもつい夜更かしして、日曜夜に寝なければと思っても寝付けないことも多いとか。駒田先生は「いつもと同じ、もしくは少し早くベッドに入ることで、就寝と起床の中央値を普段と変えずに睡眠時間を延ばしましょう」と助言します。

林さんの生活チェックでは睡眠時間の短さに言及がありました。米国の研究では成人だと7~9時間睡眠が必要だとしているそうです。「できれば8時間程度、しかも1~2週間ぐらい取ると、頭が非常にクリアになったという人は多いですよ」と指摘します。

駒田先生は眠りには体のリズム、生活のリズムを整えていくことが大切と強調します。そこでポイントとなるのが体内時計です。人の体内時計は1日24時間よりも少し周期が長く、そもそも後ろにずれやすくなっています。ただ、午前中に明るい光を浴びると遅れ気味の体内時計が調整されて元に戻り、逆に夕方から深夜にかけて光を浴びると一段と遅れていく性質があります。「朝起きたらカーテンを開け、明るい光を浴びます。通勤時もなるべく外を歩いて空を眺めて、逆に夜はなるべく暗くするようにしましょう。日本はとりわけ夜もこうこうと明かりがあるので、リズムが乱れやすい環境にいることを忘れずに」(駒田先生)。安藤さんはうなずきます。

寝ている間に体メンテナンス

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駒田先生は光と食事を意識すると体内時計が整えやすくなるとアドバイス

体のリズムでは食事についても話が及びました。体の体内時計の中心は脳が管理していますが、ほかにも内臓などいくつものサブ時計があります。こちらも整えることが欠かせません。その一つが朝食です。英語で「breakfast」と言いますが、これはfast(断食)をbreak(破る)という意味です。就寝時間中の断食が朝、破られるわけです。ところが、朝食を抜いたり、遅い夕食を取ったりすると、最も長い断食が破られるタイミングは朝でなくなります。体内時計が乱れ、体調が崩れる原因になるのです。

「最初はヨーグルト1個でも構わないので、起きたら口の中に何か入れます。夕食は午後9時までには終了。そうすれば断食時間が終わって朝がやってきたと体が認識します」と解説します。

栄養バランスについても気をつけてほしいと駒田先生は訴えます。「なかなか寝付けない人はビタミンやミネラル、たんぱく質の摂取が少ないという結果も報告されています。眠りと栄養は密接な関係があるので、バランスよい食事をできるだけ規則的に取っていけば、眠りの質も上がると思います」。普段の食事で不足する栄養素を補ったり、体のリズムを整えたりするために、サプリメントを活用することも効率的です。例えば、アスパラガス由来成分にはソーシャル・ジェットラグを緩和する効果があるとの研究もあるそうです。「光と食事を意識すると、体内時計を整えやすくなり、調子もよくなります」。駒田先生はほほ笑みました。

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3人には1週間の生活の記録を付けてもらった

ほかにも興味深い話が満載でした。「午後3~4時以降居眠りをすると、体に徐々に蓄積して眠りをもたらす「睡眠物質」が減ってしまい、体のリズムも乱れるので避ける」「ホルモンバランスの影響や、育児中は自分のペースで眠れないといった社会的要因もあり、男性より女性の方が眠りは乱れやすい」「寝る前にあまり熱すぎないお風呂に入り、少しさめる頃にベッドに入ると、体の奥の体温(深部体温)がスムーズに下がり、深い睡眠になりやすい」などなど。

「睡眠は体の調整、メンテナンスをする重要な時間帯。何もしていないわけではありません。人生の4分の1ぐらいは眠っているのですから、昼間にかけるのと同じぐらい気を配り、お金を使って環境を整え、リラックスできる状態にしてもいいのでは」。駒田先生は発想の転換を促しました。

今回の取材を終え、3人はどう感じたのでしょう。まず安藤さんのリポートです。

睡眠は体内時計を整えることが大事で、光によって調整できます。朝は太陽の光を浴びることで目覚め、夜は照度を下げることで睡眠モードに入ることができるそうです。簡単な方法なので、早速取り入れてみようと思いました。

ソーシャル・ジェットラグの緩和にアスパラガス由来成分で作られたサプリメントが有効との研究結果も出ているそうなので、サプリメントも上手に取り入れつつ、自分の生活を見直すきかっけになると思います。

 これまで、睡眠=何もしていない=もったいない、寝なきゃいけない、寝ちゃいけない、と睡眠に対してネガティブなイメージを持っていましたが、「豊かな生活を送るために睡眠がある」とポジティブなイメージに変えることができました。早速、気に入ったパジャマを購入して睡眠を楽しめる状況を作ってみました。週末は体内時計を整えるために早めに寝て、いつもと同じような時間に起き、日の光を浴びる生活を始めたいと思います。

林さんも睡眠の捉え方にハッとしたそうです。

「寝ることはなにもしていない状態ではなく、体のメンテナンスをしてくれたり、調整をしたりしている状態。睡眠を削ってしまったり、夜更かしになってしまったりすると、それこそ病気になりやすくなったり、仕事の生産性が上がらなくなったりして、かえってもったいないかなと思います」と駒田先生はおっしゃいました。私が睡眠時間を削り始めた理由というのが、寝ている時間がもったいない、その時間があったら何か行動していたいという理由からでした。たくさん寝てしまった日は罪悪感でいっぱいになり、1日中後悔してしまうなんてこともありました。これからは体をメンテナンスをする大切な時間だと認識していきます。安心して眠ることができそうです。

 今年に入って、少しでも朝食を取る、寝具を見直す、お風呂でうたたねしないの3つを実践し始めました。朝はヨーグルト1つ、スープ1杯などの少量なのですが、体が目覚める感覚があり気持ち良く感じます。

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安藤さんはパジャマを購入(左)、林さんは朝食を取るようにした

3人にはアドバイスを実行してもらいつつ、次回は生活リズムの整え方をさらに探っていきます。

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