STORY 東京海上日動火災保険 vol.28

なりたい自分を育てる 「グループ内大学」1期生の挑戦

東京海上日動火災保険 営業開発部 兼業グループ
山本 早紀さん

東京海上日動火災保険の山本早紀さん(35)は4月、関西地方の営業担当から、東京の本店で、保険販売を兼業する全国の代理店や営業第一線を支援する部門へと異動した。自分の思い描くキャリアビジョン実現のために、挑戦したいポストに応募できる同社の制度を利用。背中を押したのは、昨年、新設の「グループ内大学」で1期生として学んだ経験だ。一緒に働く仲間がやりがいを持って楽しく働けるように――。そんな未来図を胸に、新たなステージで第一歩を踏み出した。

「女性活躍推進プロジェクトのリーダーに」の一言から始まった

山本さんは現在、自動車整備業を営む会社の団体本部の担当や、全国の営業の支援、人材育成等に携わっている。提案資料をつくったり打ち合わせをしたり、社外とやり取りする仕事のほか、社内の営業担当向けに各地の取り組み事例などを発信するニュースメールの発行や、研修の企画・運営にも奮闘する。

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山本さんは4月、希望のポストに挑戦できる制度を使って京都の支社から東京の本店に転勤

「どうやったら皆さんが第一線で動きやすくなるだろう、やりがいを持って働けるだろうとアイデアを練る時間が一番楽しい」。山本さんが今の部署への異動を希望したのは人材育成に興味があったから。研修カリキュラムなどを考える発想力やスピード感がまだ足りないというもどかしさもあるが、念願のポストでの仕事の滑り出しに手ごたえを感じている。

1年前の今ごろは京都南支社にいた。保険販売を兼業する代理店を担当する営業のポジションから一転、キャリアチェンジを決意したすべての始まりは、昨年春のある打診だった。

「プロジェクトリーダーになってくれませんか」。京都南支社が属する京都支店が立ち上げることになった女性活躍推進プロジェクト。2024年までに全社で「主任以上に占める女性の割合が半数以上になることを目指す」という目標が掲げられるなか、50人を超える女性社員を抱える京都支店は達成に向けてどう取り組むか。そのための施策を立案するプロジェクトのリーダーとして、ちょうど支社の営業統括に抜てきされたばかりの山本さんに白羽の矢が立った。

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新型コロナウイルス流行のなか、新しい環境で日々奮闘している

決まっていたのはプロジェクトの会合の日程だけ。支店での女性活躍推進にどんな課題があり、どんな施策を打つのか。プロジェクトの進め方は山本さんに一任された。4月の第1回会合の日 、京都支店の会議室に集まった各支社のプロジェクトメンバーと話し合い、まずはそれぞれの支社の女性社員に自身の成長のために必要なことや、自分に足りていないと思う部分をヒアリングしていくことにした。ヒアリングを担当するメンバーの年代も職種もばらばらなら、集まった声も多種多様。それぞれの業務をプロジェクト活動と両立させるため、すべての声を取り上げるのではなく、多く上がった課題をグループ分けして施策を考えていこうという方向が見えてきた。

プロジェクトそのものは着実に前進していったが、山本さんはリーダーとして、メンバーを引っ張るにはもっと幅広い知識が必要だと痛感していた。さまざまな人の考え方を知る機会が欲しい。そんなとき、会社から1通の案内が届いた。

キャリアカレッジの学びを持ち帰る

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社外とのやり取りが多い営業の仕事。社内プロジェクトやキャリアカレッジとの両立には苦労もあった

東京海上ホールディングスがグループの女性社員向けに新設した「Tokio Marine Group Women's Career College(TWCC)」の参加募集だった。半年間、キャリアをテーマに グループディスカッションなど参加型の授業を月1回受ける内容で、第1回のテーマはずばり、女性とリーダーシップ。「これだ」と直感し応募。2倍を超える倍率をくぐり抜け「入学」が決まった。

9月、授業がスタートした。普段の業務と女性活躍推進プロジェクトにTWCCが加わり、多忙を極める日々。けれど、「第1回に出席してすぐ、応募して正解だったと確信した」。

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TWCCのカリキュラム策定など運営に携わった事務局の仰木綾子さんは、オンライン開催となる第2期を前に、参加者のコミュニケーションを活発にする方法に知恵を絞っている

ワークシートに並ぶ十数個のキーワードから、自分が大事にしているものを選んでエピソードを話すグループワークに取り組んだ。山本さんが選んだのは「責任」。中学時代にバレーボール部のキャプテンに任命された経験を話した。周囲には「協力」などを選び、協調性を重んじる人が多かった。さっそく価値観の多様さを実感するとともに、「協調性、共感力を大事にする女性が多いとしたら、女性がたくさんいる京都支店でも話し合いや相互理解を大切にしたらうまくいくんじゃないか」と考えた。京都に帰り、さっそくプロジェクトのメンバーで同じグループワークを実施。それぞれが重視するキーワードや考え方が多様であることを全員で共有した結果、「個性の違いを尊重するだけでなく、その違いを生かしていけば新しいアイデアにもつながりそうだという考えが生まれた」という。

TWCCのカリキュラム策定など運営に携わった、東京海上ホールディングス人事部ダイバーシティ&インクルージョン推進チームの仰木綾子さんは、「参加者から、受講を通じて自信がついた、成長できたなど自分の変化だけでなく、周りにフィードバックしていきたいという声が上がったのが印象的だった」と振り返る。授業でディスカッションを重ねるうちに受講生同士のコミュニケーションも活発に。「もともと自己開示が苦手だった」という山本さんも徐々に発信力を鍛え、それを京都でのプロジェクト活動や支社の統括業務に生かすサイクルが生まれていった。

自分からキャリアビジョンを描き出す

TWCCでの学びが深まるにつれ、リーダーを務めるプロジェクトチームも進化していった。例えば社内の女性の働き方や思いなどを聞く座談会企画。業務時間を割いて開催していたが、メンバーの一人から「せっかくみんなの思いを共有できたので、これをもっと業務に生かせないか」と問う声が出た。すぐにチームで話し合い、座談会を開いて終わりにするのではなく、1カ月後に振り返りの機会を設け、参加者が座談会で得たことを日々の行動に生かす意識を持てるようにした。「決めたことをやり遂げるよりも、メンバーの意見をどんどん取り入れて、プロジェクトを走らせながらやり方を改良していった」

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営業担当向けの研修のアイデアをふくらませる時間にやりがいを感じている

あるとき座談会の参加者からこんな声が寄せられた。「自分は年次が浅いから、自分より役職が高い人はほかにいるから、と思う気持ちは甘えだったと気づきました」。座談会で登壇した女性が語った、「出向先で最終判断する立場にいる。メンバーにとって私が最後のとりでなので、覚悟を持って決断している」という言葉を聞いて、自分に与えられた仕事に責任を持ち言い訳をせずに取り組む姿勢を学んだという。

プロジェクトの取り組みが、参加者の考え方の変化に結び付いた――。もともと、営業第一線で一緒に働く仲間がやりがいを持って働ける環境をつくりたいという思いはあった。その思いがますます強まったころ、現在のポストへの異動希望の募集を知る。手を挙げるのに迷いはなかった。

「今までは自分の仕事をしっかりやっていれば成長できたけれど、これからは周囲を引っ張って組織全体を見ていきたい」。チャレンジしたいと思った仕事に向き合うことができた今、山本さんはそう未来図を描く。女性活躍推進プロジェクトリーダーへの抜てきに始まり、TWCCでの学びを経た自分のなかから生まれたキャリアビジョン。これからも山本さんを支え、導き、周りを巻き込んで広がっていきそうだ。

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一緒に働く仲間を思う山本さんの笑顔は明るい

答えは自分自身で見つける ~Tokio Marine Group Women's Career College創設の狙い

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TWCCの立ち上げを指揮した人事部長の鍋嶋美佳さん

東京海上ホールディングスが2019年9月に開講した「Tokio Marine Group Women's Career College(TWCC)」は、グループの女性社員向けのプログラムだ。女性が自らキャリアビジョンを描いて活躍できるように、昭和女子大学が運営するキャリアカレッジの熊平美香学院長の監修のもと、独自のカリキュラムを設計。第1期は全国から募集人数の2倍を超える応募があった。

「東京海上グループは女性活躍推進に長く取り組んできたが、女性の働き方や役割が変化するなか、自分のキャリアに対する不安や迷いの声も出てきていた」。東京海上ホールディングス人事部長の鍋嶋美佳さんはTWCC創設の背景をこう説明する。「ダイバーシティー先進国」である前任地の米国で、女性に特化した研修が広がっていることに注目。「どう働き、どう生きていきたいか。答えを与えるのではなく、自ら答えをみつける力をつけられるプログラムを目指した」

研修を手がけるグループ会社からもメンバーを集めてチームをつくり、半年かけて全6回のカリキュラムを練った。「女性とリーダーシップ」「デザイン思考」といったテーマを設定。鍋嶋さんが実際に米国で参加した女性向け研修もヒントに、「受講生同士でディスカッションして刺激し合うことで、自分の中の考えに気づいてもらうことを狙った」という。

募集を始めるとグループ19社から定員を大幅に超える約170人もの応募があり、ニーズの高さに手ごたえを感じた。指名制ではなく、自発的な参加を重視して受講料や交通費は自己負担としたが、地方からも多数の参加希望が寄せられた。今年の第2期に向けて開催した「卒業生」によるオンライン説明会は、全国から約200人が視聴。鍋嶋さんは「第1期の受講生からは、自分の強みを業務に生かしていきたいというコメントがあった」とTWCCでの学びや経験が実践されていると感じている。「上級コースの新設などプログラムを進化させながら、修了後も受講生のネットワークを継続させるための企画も考えていきたい」と次の構想も温める。

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