STORY 東京海上日動火災保険 vol.27

地元を守り続けたい、西日本豪雨災害で刻んだ想いをつなぐ

東京海上日動火災保険 岡山支店
川崎 舞子さん

生まれ育った岡山を守りたい、お世話になった地域に恩返ししたい――。東京海上日動火災保険の川崎舞子さん(33)は岡山県内でキャリアを積むにつれ、地元への想いを深めていった。ハンドボールで活躍した学生時代の思い出、保険営業で苦楽を共にした地域の代理店の人々、そして2018年夏に襲った西日本豪雨災害・・・。損害保険業界に携わる身として、この地のだれもが安心・安全に暮らし、元気に働き続けられるように役立ちたいとの想いで仕事に向き合う。心に灯る熱い火を仲間に広げ、「地域を守る」という理念がこれから先もずっと受け継がれるように。

社員の気持ちをひとつに、共有した使命感

「保険を販売するための施策と受け取られると、営業の現場は戸惑うと思います」。2019年4月、岡山支店に着任したばかりの田辺健二支店長から新しいプロジェクト案を聞いた川崎さんは、自らの感想を素直に伝えた。前年夏の西日本豪雨災害で岡山、広島、愛媛は甚大な被害を受けた。経済的損失1兆円超に対し、保険金の支払額は業界全体で約2000億円。無事に保険金を支払えた顧客がいる一方で、業界関係者には「全ての顧客に保険を十分に届けられていなかった」との悔いがあった。だからこそ田辺支店長は安心・安全につながる保険を地域にしっかり案内する取り組みが必要と考えていた。

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川崎舞子さんは9年の営業経験を経て、いまは岡山支店業務グループで営業推進統括を務める

地元で豪雨災害を目の当たりにした川崎さんも「保険金をお届けできず、お助けできないお客様がいた」と悔しい想いは変わらない。ただ入社以来9年間は営業を担当し、現場の社員の気持ちもよく分かっていた。今は支店長を補佐する立場であり、プロジェクトの推進役を担う。「プロジェクトに込めた支店長の想いや理念が伝わらないと、災害をきっかけに保険を勧めているようで営業担当は後ろめたく感じます」。現場の微妙な心理を支店長に伝え、「まずは社員同士の意見交換会を開いて、自分たちが地域を守るという理念を共有しましょう」と提案した。

意見交換会では、豪雨災害の経験から保険の役割・使命を改めて考え、損害保険会社として「いざ」という時に本当に役立つために何をすべきかを話し合った。社員全員が、災害など想定されるあらゆるリスクへの備えとして保険の有効性を再認識し、安心・安全につながる商品・サービスなど全ての情報を顧客一人一人に届けきることが、いざという時に地元を守ることにつながるのだという考えを共有した。そして顧客の窓口である保険代理店と一緒になり、徹底的に顧客に向き合うことで、この取り組みを進め、理念とともに毎年毎年バトンをつなぐように続けることを誓った。「皆が自覚し、使命感を抱いた。3カ月で社員の気持ちをまとめてくれた」と田辺支店長は川崎さんの働きに感謝する。

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川崎さんは田辺健二岡山支店長と共に支店運営に携わる

岡山支店の「守る岡山、つなぐバトン」プロジェクト(略称「おかバト」)は7月にスタートした。キックオフとなった「災害一年を考える会」では社員と代理店、さらに県や市などの自治体関係者ら計約100人が参加。1年前に被災した代理店が経験談を語り、保険を届ける大切さを参加者に訴えた。「おかバト」を実効力ある取り組みにするには「お客様に直接接する代理店さんに同じ想いを抱いてもらい、お客様に必要な情報を全て届けてもらうことが欠かせない」と川崎さん。3年以内に県内の代理店約800社に浸透させることを目標にし、営業の社員たちは代理店を地道に訪ねて具体的な取り組みの説明や打ち合わせを重ねている。今年1月には「おかバト」にいち早く取り組む代理店6社がその成果を発表する「ナレッジ共有会」を開催し、他の代理店への普及を促した。

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2019年7月に開催した「災害一年を考える会」。社員、代理店、自治体関係者が「災害の備え」をテーマに話し合った

「保険のその先まで支えたい」

「おかバト」の立ち上げを支えた川崎さんの原動力は「地元のお役に立ちたい」という熱い想い。ただ、その熱量はもともと高かったわけではない。岡山で生まれ育ち、東京海上日動で働くうちに醸成され、徐々に強くなっていったという。

中学、高校、大学時代はハンドボール部の主力選手として活躍し、全国大会にも出場した。社会人になって部活の後輩指導などに関わるなかで「学生の時から地元の企業や応援してくれる人々に支えられていた」と改めて思い返し、感謝の意が膨らんだ。また営業社員として代理店の経営者や社員と日々接する中で、彼ら彼女らの地元を愛する想いに触発されることも多かった。

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岡山市で生まれ育ち、学生時代はハンドボール部の厳しい練習で鍛えられた

社会人4年目になると、母校の岡山大学でキャリア関連の講義を任されるようになった。毎年1回、後輩たちに金融・保険業界のことを解説する。東日本大震災、熊本地震、台風災害などのケースを通じて学生たちに保険の意義や地方創生の必要性などを繰り返して話すうちに「自分の中でも保険の果たす役割が鮮明なカタチになり、また地域経済が元気でいることの大切さを強く思うようになった」という。

そして2018年夏の西日本豪雨災害が、川崎さんの中に育んでいた地元愛と使命感を確たるものにした。岡山県は「晴れの国おかやま」とうたい、瀬戸内式気候で雨の少ない地域。川崎さんも「正直に言うと、この地で水災が起きるとは想像していなかった」と打ち明ける。しかし、豪雨災害は起きた。「いざ」という時の被災者の再出発の一歩は保険の有無で全く違ってくる。「保険のチカラで地元の安心に貢献し、元気にすることが自分の役割だとはっきり思うようになりました。保険を届けたその先の復興に向けたチャレンジ精神までを支えていきたい」とその想いは力強い。

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西日本豪雨災害の際は岡山支店に設けた対策本部のメンバーとして様々な対応に当たった

マンネリズムを打破した上司の支援

働きがいを感じて前向きな川崎さんだが、今から4年ほど前は少し違っていたという。その頃は入社以来の営業担当を続けて7~8年目。「自分の中でどこかマンネリになっている部分があり、キャリアについて閉塞感を抱いていました」

新人時代は厳しくも愛情あふれる教育係の先輩に鍛えられながら、代理店の経営支援のために書籍を読み、セミナーに参加して経営のことを必死に学んだ。担当の代理店には「毎日毎日とにかく会いに行っていました」。代理店の社長から相談を持ちかけられる相手になろうと、ハンドボールで鍛えたガッツで営業の仕事を覚えていった。入社6年目に倉敷から岡山へと異動があったものの、営業という担当業務は変わらない。いつしか業務を無難にこなせるようになるなかで、「このままでいいのかな。他の社員のように別の業務も幅広く経験したほうがいいいのではないか」と思い悩んでいたという。

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自らのキャリアについて悩んだのは、仕事を通じて成長の手応えを感じることが少なくなった時期だった

悶々とした思いを口には出さなかったものの、その時の上司には見透かされていたようだ。「上司が面談で私の本音を聞き出してくれて。それで思い切って伝えたんです。『今の仕事が長くなりすぎて、正直、前向きな気持ちが湧いてきません』って」。上司は悩みをしっかりと受け止めてくれた。「どうすれば、何年経ってもワクワクした気持ちを忘れずに仕事に取り組めるかを一緒に考えてくださりました」

ほどなくしてチャレンジングな課題や役割が次々と与えられるようになった。広島支店に1カ月間の"短期留学"として派遣され、初めて金融機関や自治体など、新たな分野の営業業務を経験した。最も印象深かったのは、その翌年にグローバルコースの男性新入社員の教育担当を任されたことだ。川崎さん自身は、岡山県内で勤務するエリアコースの社員。一方、グローバルコースの社員はこれから国内外の各地で勤務することになる。社会人としての常識や保険営業のイロハを教えるのは通常の教育担当と同じだが、「性別も違うし、コースも違うので本当に苦労しました」と実感を込めて振り返る。試行錯誤しながら「厳しくも愛ある指導」を一年続け、新入社員は2年目から立派に独り立ちした。「大変でしたが、いい経験をさせてもらいました」

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様々な課題や役割を与えられたことが「視野を広げるきっかけになった」

リーダーと現場社員の「中継点」に、異業種との連携も

上司はさらに次のステップを用意した。2018年に営業現場から現在の業務グループに川崎さんを異動させ、支店長を補佐し、県内の社員をまとめる役割を与えた。岡山支店が取り組む地方創生の統括役なども担当する。入社10年目としては挑戦的なポジション。「新しい仕事にチャレンジできるとうれしかったのですが、やってみると目まぐるしくて大変です。でも、ワクワクして、仕事をしているという充実感があります」と笑顔で語る。

マネジャーと社員、双方の意向をつなぐことも大切な役回りの一つだ。岡山支店傘下にある各支社のマネジャーの組織運営や人材育成方針などを把握し、一方で現場の社員たちの声を拾い上げながら支店運営を支援している。「組織全体のことを考えるようになりました。上と下の中継点となるようにいろいろな人と話をするようにしています」。「おかバト」プロジェクトを立ち上げる前の意見交換会の提案もその表れ。川崎さんは「おかバト」について、「人事異動や新入社員の入社で支店メンバーが入れ替わっても、想いをつないでいくことが大事。それはこの先も地元で働くエリアコース社員の役割」と自覚する。田辺支店長はそんな川崎さんを「現場の社員に慕われ、信頼されている。視座も高い」と評する。

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岡山支店で「守る岡山、つなぐバトン」プロジェクトを推進する事務局メンバーの打ち合わせ

岡山支店のエリアコース社員の新卒採用も川崎さんの役割の一つ。かつては女性採用が中心だったエリアコースだが、最近は地域に根差して働く社員として男性も積極的に採用し始めた。男子学生のリクルーティングに当たり、「グローバルコースの男性社員の新人教育をした経験が役に立っています」という。男女を問わず地元を愛する人を採用し、育てたいと思う。

さらに地方創生の新たな取り組みとして「地方創生経営者フォーラム」の企画・推進も担い始めた。岡山県内で創業100年を超える老舗企業に声をかけ、歴史をつなぐ経営のことや事業承継の悩み、後継者による変革の事例などの情報を幅広く共有し、地域経済の発展につなげようという試み。社齢が百歳を超える企業は県内に約660社あるという。地元の経済団体や行政などと連携し、今年の夏ごろに開催する計画で準備を進めている。「横の連携によって岡山の経済を盛り上げる一助になりたい」

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岡山支店業務グループのメンバーたちと。川崎さんは職場のムードメーカーだ

新しい仕事にチャレンジし、キャリアや経験を積むことに意欲的な川崎さん。これからも知見や視野を広げたいとのビジョンを描く。「例えば岡山を外から見るために東京や大阪などでしばらく働いたり、あるいは県庁や地元の銀行、商工会議所などに出向して岡山のためになる連携事業を生み出したりしてみたい」。その根底には地元の役に立ちたいという強い想いがある。今では何年経っても、どこにいても新たな課題を自ら見つけ、それに挑戦する姿勢でいれば閉塞感に陥ることはないと思うようになった。「後輩たちに、働くって楽しいという姿を背中で見せていける存在でありたい」と今日も職場に笑顔を届ける。

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