STORY 積水ハウス vol.22

ESG経営の発信多様に
共感の輪広げ仲間づくり

積水ハウス コミュニケーションデザイン部
井阪 由紀さん

積水ハウスは創業60年に当たる2020年に"「わが家」を世界一 幸せな場所にする"というグローバルビジョンを打ち出した。ESG(環境・社会・企業統治)経営の基盤となるこの理念を通じて、目指すのは顧客、従業員、そして社会の「幸せ」を最大化すること。コミュニケーションデザイン部CXデザイン室ESGコミュニケーションチームの井阪由紀さん(39)は、エネルギー収支ゼロを目指すネット・ゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH)の推進や住宅を建てる際に出る廃棄物のリサイクルを支える資源循環センターなどESG経営にかかわる多様な取り組みを世の中に発信することで、共感の輪を広げ、環境問題などの社会課題に共に取り組む仲間を増やそうと考えている。

環境に配慮した暮らし SNSで身近に

新型コロナウイルス感染症の緊急事態宣言が出されていた21年6月。井阪さんが手がけた環境プロジェクト「エシカル暮らすメイト」が若者たちを中心にSNSで関心を集めた。次世代のクリエイター3組が太陽光パネルを設置した積水ハウスの賃貸住宅で一週間過ごし、環境に配慮しながら、楽しく、そしておしゃれな暮らし方を模索するというもの。「衣食住のなかでも、再生素材を使った衣料品や大豆ミートのような環境負荷の低い食材の活用のトレンドなど『衣』『食』への意識の高まりに比べて、一番身近である住まいや暮らしを変えるのはハードルが高く『住』にはなかなか目が向かない。だからこそ、そこにスポットライトを当てたい」という思いから企画したという。

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井阪由紀さんはESGの発信を通じて環境問題解決に取り組む仲間づくりを目指す

コロナ禍ということもあり、滞在人数に制限を設けるなど、感染対策に配慮しながらの運営となったが、原状復帰できる廃材利用の家具づくりや、正しい洗濯の方法、コンポストへのチャレンジなど、環境に配慮したエシカル(倫理的)な暮らし方の様々なアイデアを実践。何もなかった空間に3組の活動した形跡がどんどん増えていくことで、様々な意見交換も繰り広げられる展開になった。彼らが試行錯誤するプロセスをSNSでリアルタイムに発信し、視聴者投稿なども取り入れることで、「自分ごと、として楽しみながら参加できるプロジェクトになった」と手応えを感じている。

17万アカウントにリーチ

開催前後に実施した動画配信も多くの視聴者を集め、インスタグラムを見たアカウントリーチ数は17万アカウントにも達した。参加者や視聴者からは、「仲間で取り組んだのが楽しかった」「やってみると意外と簡単で、色々トライしたい」という感想が寄せられており、窮屈になりがちなエコの文脈がうまく世の中に広がる変換ができたと実感している。

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環境分野の専門家と語り合うオンラインイベントも開いた

井阪さんは奈良県の出身。実家は工務店で、幼少期から職人が身近にいる環境で育ち、住宅には昔から興味があったという。積水ハウスに入社したのは2005年。女性の営業職はまだ少なかったものの、このころから積極的な採用を始めていた。彦根支店(滋賀県彦根市)に配属され、約4年間、戸建て住宅の営業に従事した。転機となったのが、社内で立ち上がったばかりの国際事業部の社内公募。縁あって公募を突破し、東京に赴任した。

ロシア、中国で環境配慮への思い芽吹く

今でこそ、事業が軌道に乗り始めた国・地域も増えているが、当時は日本で提供してきた安心・安全で快適な住まいを海外にも届けられないか、試行錯誤をしながら、あらゆる地域で可能性を模索していた時期。最初に携わったのはロシア事業で「なかなか行けそうにない場所で、行ってみようと思い、実際に行ってみると楽しかった」と振り返る。モスクワには2年半駐在。日本に戻り、中国事業のサポート業務に従事したが、中国・無錫での不動産開発事業が本格的に始動するのに合わせて現地に赴任。現地採用の販売員の育成など、マーケティング・販売企画などに従事した。

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中国・無錫の物件オーナーとの交流で、現地の文化を体感した

2年半のモスクワと5年に及ぶ無錫での駐在員生活で胸の奥底に芽吹いたのが環境配慮への思いだった。「海外では日本人が思う以上にグリーン、植物を身近に置いていて、家の窓際などのスペースで植物を育てており、植物と共生している」。暮らしぶりも「便利にすることに意識が向いていた日本と異なり、モノや資源を大事にする」。こうした思いは日本への帰国後の出会いでさらに膨らんでいく。

19年に日本に戻り、配属されたのは広報部広報企画室。プレスリリースなどでの情報発信業務に加えて、世の中の情報を社内に還流させ、関連部署と連携して、今の時代に求められているものを企画開発していく業務に従事した。最初に企画したのが、女性向けの実例集カタログの制作。一般的なカタログはサイズが大きく、人によっては読むハードルが感じられるため、小ぶりで可愛い絵本仕立てのものをつくり、女性が手に取りやすいように工夫した。伝えたいことだけにフォーカスするのではなく、どう伝わりやすくするかというアプローチはその後の取り組みでも発揮される。

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営業、設計、商品開発など、様々な分野の女性社員と共に女性向けの実例集制作を行った

「伝わりやすさ」意識し、情報発信

ここで出会った、当時の環境推進担当の常務執行役員の広報活動・講演のサポートや取材対応に従事するなか、「積水ハウスの活動の社会的意義をあらためて認識するとともに、海外と日本との環境意識の違いに気づいた」と環境への意識を一段と高めていく。その視点で改めて社内に目を向けると、積水ハウスは早くから環境に軸足を置いた企業活動を推進しているものの、評価は業界内にとどまっており、それを生活者目線でうまく伝えることができていないという現実が見えてきた。

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生活者目線で環境活動を伝えることを心掛ける

例えば、積水ハウスは戸建て住宅だけでなく、賃貸住宅でもZEH仕様の物件を提供しているが、取り扱っていること自体が賃貸物件に住む生活者に伝わらなければ、どんなに社会的意義が高くても選択肢には加わらない。「家賃や駅からの距離が現在の賃貸物件の選択基準だが、今後は環境に配慮した家を借りたいと思う人も増えてくるかもしれない。選んでもらうには取り組み自体をわかりやすく噛み砕いて伝え、まず知ってもらう必要がある」と考える。6月に実施した「エシカル暮らすメイト」もそんな井阪さんの思いを形にしたものと言えるだろう。

資源循環センターの伝道師に

もう1つ、ライフワークのように注力していることがある。住宅の建築現場で出た廃棄物をリサイクルする拠点となる資源循環センターでの取り組みを発信していくことだ。海外駐在時代にも現地から関係者を連れて、度々訪れた原点のような場所。「大好きなこの場所での取り組みを、世の中の人に知ってもらいたい」。

新築住宅の施工現場では様々な端材や梱包材などの廃棄物が発生する。まずはその現場に分別袋を置き、廃棄物を27種類に分別する。どの現場で、どんな種類の廃棄物が出たかがわかる二次元バーコードを印刷したラベルを分別袋に装着してからトラックで回収し、資源循環センターに集約。ここでさらに80種類に分けて100%リサイクルにつなげている。約15年来の取り組みだが、当初は現場からの反発も出たという。このため、観光バスをチャーターし、工場での地道な作業を見てもらうことで、徐々に現場に浸透させていったそうだ。

センターでは分別袋についたゴミや塵を丁寧に払ったり、プラスチックについた紙のシールを除去したりと、分別のクオリティーも高く、リサイクルがしやすい状態を手作業で行っている。排水管とそれを包むスポンジも直接接着する方式から、分別しやすいように管とスポンジの間にビニールを差し込むなど建築資材の設計段階から工夫を施しており、他の建築メーカーにも広がっている取り組みも少なくない。

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「エシカル暮らすメイト」参加のクリエイターと資源循環センター(茨城県古河市)を訪問

井阪さんが資源循環センターにこだわるのは、ここを訪れることで自らの環境意識に刺激を受ける人が多いからだ。「エシカル暮らすメイト」がプロジェクトとして始動するきっかけとなったのも、パートナー企業の担当者をここに連れていったこと。「社内にいると近視眼的になって見えなくなっていたことに気づかせてもらい、意見交換を重ねるうちにプロジェクトに行き着いた」という。資源循環センターの取り組みをより知ってもらおうと、工場や商品開発部署、環境推進部署などに声をかけて部署横断チームも組成、資源循環センターを活用した商品企画に取り組むなど、新たな模索も始まっている。

「みんな一緒に」の思い、込める

21年2月の組織再編で、現在の所属はコミュニケーションデザイン部CXデザイン室のESGコミュニケーションチームとなった。環境やサステナビリティー(持続可能性)についての会社としての取り組みの認知度をいかに高めていくか。「買い物は消費者の投票行動。環境負荷の少ない商品やサービスを正しく消費する人が増えれば、カーボンニュートラルにつながる」と話す井阪さん。そのためにも「企業としての思いを知ってもらいながらも、負担を強いたり、押しつけたりではなく、選択すれば自然に社会貢献につながる仕掛けを実装していく責任があると思う」と力を込める。

心がけているのは会社の考えをわかりやすく伝え、共感してもらうというアプローチだ。環境問題のような社会課題に向き合うには住宅メーカーだけの取り組みでは限界がある。「みんなに一緒にやっていきましょうというメッセージを様々な形で発信し、共感してもらって、できることがあれば一緒にやる。その輪が広がればいい」。投じた石が水面に広げる波紋のように、環境意識を静かに周囲に広げようとしている。

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