STORY 宮本製作所 vol.1

見つけた「一生関わりたい」商品、リモートワークで地域から発信

宮本製作所 営業部 SDGs推進チーム
大崎 美紀さん

マグネシウムと水だけで汚れや臭いを落とし、排水による自然環境への負荷を減らす洗濯用品「洗たくマグちゃん」(以下「マグちゃん」)。大崎美紀さん(39)が、同商品の製造販売を手がける宮本製作所(茨城県古河市)に転職したのは2019年1月。「マグちゃん」という商品から、地球規模の環境保全を目指すというビジョンに惹かれた。さらに、20年12月からは、石川県加賀市を拠点に、「地域社員」として勤務を開始。「加賀からマグちゃんを通じてSDGs(持続可能な開発目標)の考え方を広めたい」。新たな地で、リモートワークという新しい働き方の先駆者として、さらなる挑戦の第一歩を踏み出している。

夫の就農を機に石川県でリモート勤務

20年12月、大崎さんは石川県加賀市に移住した。新しい住まいは築50年を超える古民家。東京支社勤務から、加賀での「地域社員」への転換が決まったきっかけは、夫の起業だった。

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大崎美紀さんは「洗たくマグちゃん」から広がる環境保全の理念にひかれ宮本製作所に2019年入社した

「会社を辞めて、加賀で無農薬農法をやる」。20年9月、夫の決断を聞き、大崎さんも選択を迫られた。「私たち夫婦は、それぞれの人生はそれぞれで豊かにしましょうという考え方。お互いが付いていけなくなったらそこで終わり。極端な話だが、一緒に付いて行くか、離婚か。選択肢は2つでしたね」。出した結論は二人そろっての加賀への移住だった。

一方で、「マグちゃん」には一生関わり続けたいという思いもあった。退職まで覚悟して相談した会社からは「どうしたいか」と問われ、マグちゃんに対する思いを率直にぶつけた。そこで提案されたのが、自宅を拠点にリモートワークを活用しながら働く「地域社員」としての勤務。地域を拠点にして働く「地域社員」のロールモデルを作りたいという会社の構想も後押しとなった。

憧れの仕事に物足りなさ感じ退職、営業職で活躍

大崎さんは北九州市の出身。社会人としてのスタートは、新卒で就職した地元・北九州空港のグランドスタッフだ。子供の頃から憧れていた飛行機に関わる仕事。しかし、便数が限られた地方空港での仕事に、次第に物足りなさを感じるようになった。便と便の間の空白の時間を持て余すなか、待つ時間がもったいなく感じ始めた。元々じっとしているのが苦手で、移動の際も最寄りのバス停にバスが来るのが15分後なら、次のバス停まで歩こうとする性分。「もっと能動的な仕事がしたい」。子供の頃の憧れと、今やりたい仕事は違うと思い切り、1年たらずで退職。リクルート(現・リクルートライフスタイル)の営業職に転じた。福岡市で広告の企画営業、人材派遣の営業などを経験し、月間MVP、エリアMVPを受賞するほどの成果を挙げた。

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飛行機に関わる仕事へのあこがれから地元空港のグランドスタッフの仕事に就いた

2015年、同僚だった交際相手(のちの夫)が東京本社転勤となったのをきっかけに上京。コンサルティング事業のベンチャーに転職し、営業担当として出会ったのが宮本製作所だった。

「ところで大崎さんはいつウチに転職するの」。同社の担当として1年が過ぎた頃、会食の場で宮本隆社長が突然こう切り出した。突拍子もないオファーに、その場は軽く受け流したが、更に1年後、東京支社開設のパーティーで司会を務めたのを機に決意を固めた。

洗濯の環境負荷減らす「マグちゃん」にほれ込む

きっかけとなったのが「マグちゃん」だ。洗剤を使わずマグネシウムの力で洗濯する「マグちゃん」は、排水による川や海への影響が少なく、マグネシウムを含んだ排水は農業用水として活用することもできる。環境問題に興味があったわけではないが「一つの商品で社会を動かすというのは面白いチャレンジだな」と心が動いた。「マグちゃん」について知れば知るほど、暮らしや社会、農業を変革するという社長の夢にひかれた。

折しも30代後半に入り、身近に出産、育児を経験する友人が増えていた。未来を生きる子供たちを見ていると、ビジネスの課題解決以上に、生活や環境に関する課題解決にかかわりたいという思いも芽生えていた。「それまでは、お客さんのビジネスをどうやって一緒に大きくするかという点に興味があったし、自分もチャレンジできるのが楽しかった。ただ、年齢を考えると、残り約20年働くのであれば、自分たちの生活や社会をより良くするための活動に力を入れたいと考えるようになっていた」

19年1月、宮本製作所に入社。わずか1カ月で、広報担当として、立て続けに入ったテレビ取材への対応に追われた。広報の経験もなく、社内のカルチャーも分からない。それでも、取材対応のデータや素材を求めて各部署を駆けずり回った。「この仕事のおかげで、最初の半年でさまざまな部署の人と会話をする機会が一気に増えた。会社の財産や情報がどこにあるのかが分かるようになった」

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広報としてテレビ取材に立て続けに対応したことで会社の財産や情報のありかが頭に入った

営業以外の経験を積みたいと、広報、販促、採用から社長秘書まで何足ものわらじを履いた。「東京支社を立ち上げたばかりで他に担当する人がいなかったのが実情。結果的に私が全部担当した。相談する人もいなければ経験もないので全て手探りでやっていた」と当時を振り返る。

経営判断を腹落ち良く現場に届ける

さまざまな役割を経験するなかで見えてくるものもあった。特に心を砕いたのが、会社の方針を現場へとうまく伝える橋渡し役だ。「明確な中間管理職がいるわけでもなく、会議体もしっかり整っているわけではないので、正直に言って、経営側が何を考えているかが伝わっていない場面が多い」と感じていた。

社長は大きな方針だけを点のようにポンと置いていく。だが、そこに至るまでの過程を現場は知らないので戸惑う。「私は秘書という立場もあり、他の社員に比べると社長の考えを聞く機会が多い。知っている情報を現場と共有することで、点ではなく線で理解して欲しいと思った。同じ情報でも、現場の私が言うのでは腹落ち感が違う。そういう役割ができればといつも考えていた」

こうした調整役を担う上でも、営業としてさまざまな企業、経営者と関わってきた経験が生きた。「経営者といえども『人』だし、会社も人の集まりなので、双方のコミュニケーションが不足しているとうまく機能しない」。いつしか、経営者と、会社に集まる人双方の利益を、より広い視点で捉えることを心掛けるようになっていた。「私はコミュニケーションを生かした調整が得意なので、双方に生じている誤解の壁を取り払うことにも面白みを感じる」と言う。

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得意とするコミュニケーション能力で経営と現場の間の誤解の壁を取り払うのはやりがいある仕事だ

半面、大崎さん自身も宮本社長とのコミュニケーションに悩んでいた時期があったという。「いいと思ったことを、会社に提案するが受け入れてもらえない。私が出す提案が全て否定される。一体何がダメなのか、社長の考えが理解できない」と悩んだ。

感性が違うからなのかと諦めかけたとき、1冊の本がブレイクスルーのきっかけとなった。「仕事をしていくには、社長のように大きな方針を出す人と、それをプロセスに落としこんで実行して行く人がいるという考え方を知り、それならば私は、徹底的に社長の考えを実行していく人になろうとマインドを変えた」

もっとも、自身の提案の機会まで諦めたわけではない。大崎さんが狙うのは「カウンターフック」だ。「社長の方針をプロセスに乗せながら、自分のアイデアもカウンターフックのように差し込む。それがうまくつながれば、お客様のためにもなる」と笑う。

加賀では再び営業の仕事に戻る。数字が出る営業は成果が見えやすい。具体的な目標として掲げるのは、加賀市でのマグちゃん使用率を全国1位にすることだ。

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この取材も石川県加賀市の自宅と結んでオンラインで実施された

加賀市は、SDGsの達成に向けた優れた取り組みとして内閣府が選定する「SDGs未来都市」のひとつだ。大崎さんは「このエリアにいることがアドバンテージになるような働き方をしたい。加賀市、石川県を巻き込んで、マグちゃんを通して、SDGsの輪を社会に広げていくような仕事ができれば」と意気込む。「例えば、SDGsに関する勉強会やワークショップを開催するなど、オフラインのコミュニケーションを大事にしていきたい。無形の企画営業は得意分野なので、相手方企業に合わせて、商品やサービスを少しずつカスタマイズしながら企業ごとの提案をしたい」と夢を膨らませる。

加賀に来て感じるのは、リモートワークの新たなメリットだ。「東京にいるときは、単に通勤時間を省けるのがいいと思っていたが、実際に加賀に移住して始めてみると、住む場所を選ばずに仕事ができる良さを改めて実感している」。リモートワークが当たり前にできる環境づくりを期待している社員も少なくない。「私の働き方が生産性を上げられるという例になれば、会社もこうした新しい働き方に寛容になるのではないか」と感じている。ハードルは高いが「私に続く新しい地域社員を作るのが目標」。

リモートワーク活用の成功事例になりたい

これまで、優秀な友人たちが出産や育児で職場を去る姿を何度も見てきた。今まで続けていた仕事がゼロになるのはもったいないと思う半面、子育てに時間と労力を割きたいという気持ちにも共感する。だからこそ、リモートワークという働き方が当たり前になることを願う。「特に、採用に苦戦を強いられる中小企業ほど、リモートワークを活用すれば全国にいる優秀な女性を採用して、事業のスケールアップにつなげられるのではないか。私が一つの成功事例になりたい」と力を込める。

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リモートワークのメリットは地方に住む女性にも中小企業にも大きいと考えている

4月には、夫が農業を本格的に開始する。自然農法で作るコメと野菜。そして、自然の力で洗う「マグちゃん」。

「幸せになるために生まれてきたのだから、幸せにならなければいけない」ーー。宮本社長の言葉が改めて身にしみる。「マグちゃん」をきっかけとして、普段の生活様式や日常の行動をほんの少し見直すことが、幸せな時間を作ることにつながるのではないか。大崎さんの新たな挑戦はさらなる広がりを感じさせる。

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