STORY メドトロニック vol.3

親の介護で「遠隔地勤務」に移行、社員が選ぶジブンらしい働き方

日本メドトロニック コミュニケーション
伊藤 彩子さん

医療機器大手メドトロニックの伊藤彩子さんは2020年11月、母親の介護のために都内から通勤圏外となる千葉県東部の実家に転居して「遠隔地勤務」を始めた。新型コロナウイルス禍でテレワークを経験してみて、担当する広報業務も大半は実家にいながら対応できることが分かったという。同社は「FIND YOUR OWN WORK STYLE(自分の働き方を見つけよう)」と称し、遠隔地勤務やコアタイムなしのフレックス勤務制など新しい働き方をサポートする社内制度を21年3月にスタート。伊藤さんの介護と仕事の両立は、社員の人生の大切なものを犠牲にすることなく仕事の生産性向上を目指す同社の挑戦につながっている。

母が病気に、コロナ禍で会いに行けず

20年8月上旬の夜、都内の自宅にいた伊藤さんのLINEに父親からメッセージが入った。「お母さんに病気が見つかった。手術が必要になりそうだ」。自宅から両親が住む実家までは特急電車を使って約2時間。しかし当時はコロナ感染の第2波の真っただ中にあった。移動による感染リスクもあって、母の様子を見にも行けない。治療の影響で体調がよくないときもLINEや電話で話をするだけのもどかしい日々が続いた。

680x430Ito-08.JPG
伊藤彩子さんはヘルスケア業界のPR活動に長年携わり、2020年5月に日本メドトロニックに入社した

伊藤さんはメドトロニックの日本法人3社の一つ、日本メドトロニック(東京・港)に同年5月に入社したばかり。外資系PR会社からの転職だった。コロナ禍のため入社初日から在宅勤務が始まる。新製品のプレスリリースの作成やオンラインセミナーの企画運営など大半の業務は、オンライン会議システム「Zoom」などを使った社内外の関係者とのやり取りで対応できた。入社からの3カ月間で、取材対応などで出社が必要だったのは数日にとどまった。

母の病気判明からしばらくたった8月下旬、伊藤さんは介護のために実家での勤務ができないかと上司に相談した。「ちょうど会社がテレワークの実態調査をして新たな働き方を模索していた。これまでの経験で遠隔地勤務でも対応できると思った」という。上司で社外広報マネジャーの小野直子さんは「ほぼ毎日リモートで情報交換をしており業務面の心配はない。親と一緒に住めば必要な時にケアができる」と背中を押した。

広報・コミュニケーションの力を実感

伊藤さんは大学生時代に国際協力に関心があり、英国に本部を置く国際NGO(非政府組織)の東京事務所でボランティアとインターンを経験した。世界の貧困問題に取り組む団体で、卒業後もそのままアシスタントとして勤務。主に広報業務を担当し、プレスリリースの翻訳やイベントの企画運営、ウェブサイトの更新などを手がけた。

680x439_itosan235.JPG
大学生時代は開発途上国へよく旅行した。ベトナムで日本語を勉強中のベトナム人と屋台でランチ

この時に日本で活動する複数のNGOやNPOが一緒になって世界の貧困撲滅を訴える大型キャンペーンがあった。伊藤さんはスタッフの一人として運営を手伝うなかで「効果的に情報発信することによって、多くの人が貧困問題に関心を向けてくれた。寄付やボランティアなど行動を起こしてくれることを目の当たりにし、広報やコミュニケーションの仕事が持つ力を実感した」。この経験が、自らがこれから歩むキャリアの針路を定めることになった。

NGOでの約1年間の勤務を経て、伊藤さんは広報職を募集していた携帯電話・スマートフォン向けのゲームやアプリを開発する会社に転職する。規模の小さな企業で、広報業務に詳しい人はいなかった。専門媒体に新製品を紹介してもらったり、ネットでバナー広告を展開したり、独学と試行錯誤で広報・コミュニケーションのノウハウを身に付けていった。

ゲームやアプリの広告宣伝業務はほぼネット上で完結した。おかげで「デジタル広告についてはかなりの知見を習得できた」という。5年半の勤務の後「記者会見や発表会など広報・コミュニケーションの仕事の幅をもっと広げたい」と、企業の広報業務を代行する外資系PR会社に転職した。担当はヘルスケア部門。製薬会社や医療機器メーカーなどの広報活動に携わるようになり、医薬品医療機器法(薬機法)における規制がある業界の専門的な広告やコミュニケーションの知見を学んでいった。

680x420Ito-19.JPG
川崎市にある「メドトロニック イノベーションセンター」にはこれまで開発した心臓ペースメーカーなどを展示している。伊藤さんは会社の歴史や製品の説明なども行う

伊藤さんがメドトロニックに転職したのは、この外資系PR会社で7年半の経験を積んでから。すでに広報のプロとしての道を歩む中で「事業会社のなかで企業広報や製品広報にもっと深く携わりたい」との思いが強まっていた。ヘルスケア業界のPRを長く担当するなかで、メドトロニックが掲げる「人々の痛みをやわらげ、健康を回復し、生命を延ばす」というミッションや同社の医療機器にも魅力を感じていたという。

仕事は順調、暮らしに戸惑う

転職から半年後の20年11月初め、伊藤さんは住まいを実家に移した。本社まで特急電車で約2時間半、川崎市のメドトロニック イノベーションセンターまでは約3時間。入社後、間もないなかで遠隔地勤務をすることに戸惑いはなかったという。「働く場所や時間ではなく、仕事の中身で評価してくれる会社だった」。母は通院による治療を続けていて、月内に手術をすることが決まっていた。「家族がたいへんな時には、そばにいて力になりたい」との思いが強かった。

680x440Ito-12.JPG
伊藤さんが実際に出社をするのは月に1~2回程度。同僚との打ち合わせはオンラインが中心だ

テレワークによって実家でも業務は問題なく進んだ。コロナ以前だったら、関係する複数部署の社員がひとつの会議室に集まり、連携しながらプレスリリースや関連資料などを作成していたようなプロジェクトが発生したときも、ほぼオンラインで対応できた。「デジタルツールの活用によって業務の効率化が進むことが分かった」

戸惑ったのはむしろ日常生活のほうだった。大学進学時に東京で一人暮らしを始めたので、両親と一緒に生活するのは高校卒業以来。「仕事に集中しているときに食事の時間になるなど、生活のリズムの違いに困った」という。東京にいた時は在宅でも自分のペースで仕事を進められ、食事の時間は不規則だった。一方、両親は毎日規則正しい生活だ。「しばらくは折り合いをつけるのに苦労した」

自分らしい働き方・暮らし方を見出す

ただ両親との約20年ぶりの共同生活は、自らの働き方や生き方を見直す転機になった。「これまではついつい仕事中心の暮らしになり、ワークライフバランスは取れていなかった。家族と過ごす時間が大切なことに気づかされた」。仕事の効率をもっと高めて、「ライフ」に関わる時間を充実させていくことを意識するようになったという。家族の食事作りや犬の散歩などは一日のオンとオフの切り替えになった。

680x440Ito-23.JPG
遠隔地勤務という環境の変化は、自らの生き方を見つめなおすきっかけになった

母親の英子さんの手術は11月に無事終わり、1週間ほどで退院した。術後の経過もおおむね良好という。「体調が悪い時や入院時には娘がいてくれて本当に心強かった」と英子さん。さらに「東京で一人暮らしの時に娘がコロナに感染したらどうしようかと心配だったので、一緒に暮らすようになってほっとした」と親心も見せた。

メドトロニックが21年3月に改定した人事制度ではセキュリティーと生産性を確保できる場所であれば、上司(マネジャー)の承認を得て、日数の制限なく国内のどこでも就業できるようになった。フレックスタイム制度もコアタイムをなくし、午前5時から午後10時までの間はいつでも就業可能とした。「従業員それぞれのワークライフスタイルに応じて最も効率的・効果的な働き方につなげる」という。

680x435Ito-10.JPG
メドトロニックのミッションは社内の目立つ場所に掲げられている

新人事制度が示す「FIND YOUR OWN WORK STYLE」。伊藤さんは母の介護が一段落したのをきっかけに、21年11月から自身の新しい家族との生活を始めるために山形県に転居した。東京の本社からはさらに遠い地での遠隔地勤務。仕事と生活を両立させる自らの働き方、さらに暮らし方を見出し、両方のレベルアップを模索し続けている。これからもメドトロニックで企業広報の知識と経験を積み重ね、広報・コミュニケーションのプロとしてのスキルを高めていくのが目標だ。

「2025年に女性管理職比率を30%に」~ ロブ・サンドフェルダー社長インタビュー

680x453Sandfelder-06.JPG
メドトロニックの日本法人3社の社長に8月に就任したロブ・サンドフェルダー氏

――日本法人の新社長としての抱負と、これから注力していく施策を教えてください。

「世界の医療機器市場で日本は米国に次いで2番目の規模であり、グローバル企業のメドトロニックにとってきわめて重要な市場だ。私は欧州や中国など海外勤務が長いが、初めて日本で働くことにワクワクしている。以前より出張や観光で日本をよく訪れていた。日本には国民皆保険制度や優れた医療インフラなど洗練されたヘルスケアシステムがある。メドトロニックは革新的な技術や製品によって患者さんへの治療法を提供するとともに、医療的ケアの需要がますます高まる日本のヘルスケアシステムに貢献していけると自負している」

「なぜなら当社の技術や製品の提供を通じて早期診断が可能になったり、低侵襲な治療で患者さんの負担を軽減したり、快復までの時間を短縮したりすることができる。患者さんが早期に職場に復帰できれば生産性の向上につながり、全体としての医療コストを下げることになる。政府や学会などと協力しながらイノベーティブな製品を市場に提供し、日本のよりよい医療に貢献し続けていきたい」

――ジェンダーダイバーシティに力を入れています。

「私たちのミッション『人々の痛みをやわらげ、健康を回復し、生命を延ばす』は60年以上も変わらず大切にしているものだ。これを達成するためには、社員一人ひとりの価値を認め、それぞれのポテンシャルを最大限発揮できるようにサポートしていかなければならない。社員に多様性があると市場の多様なニーズをより理解でき、よりよいサービスの提供につながる。会社のパフォーマンスをより高めるためにジェンダーの多様性を重視していく」

「具体的な目標も新たに設定した。2025年の日本法人の女性社員の比率を40%、女性管理職比率を30%に引き上げる。グローバルではすでに女性社員は50%だ。女性管理職も39%に達しているが、さらに45%を目指して改善していく方針が示されている」

――目標達成に向けての具体的な取り組みは?

「優秀な人材を採用・育成し、長く働き続けてくれるような努力をしていかなければならない。そのためにも多様な人材が必要であり、さらに働きがいのある会社でなければならない。私自身は長年ヘルスケア業界で働き、世界をよりよくしたいと考えてきた。医師という立場ではないけれども、メドトロニックで働くことによって患者さんの健康回復に貢献できていると感じられる。それは喜びであり、こんなに素晴らしい仕事はないと思って情熱を持って取り組んできた。おそらくメドトロニックのどの社員に聞いても同じ感覚を持っていると思う。働きがいをさらに進め、多様な人材が一番働きたいと思う企業にしていきたい」

会員登録すると、イベントや交流会への参加、メールマガジン購読などご利用いただけます。