イベントリポート

多様性推進の意義を考える~アフラックの挑戦をヒントに

この春に新卒入社した新社会人の皆さんをはじめ、ビジネスパーソンの方々はここ最近、ダイバーシティ(多様性)という言葉を毎日のように耳にするのではないでしょうか。2014年に専門部署の「ダイバーシティ推進室」(現・ダイバーシティ推進部)を立ち上げるなど、日本ではこの分野の先進企業として知られるアフラック生命保険(アフラック)は、全社規模の会議「Aflac Global Diversity Conference(アフラックグローバルダイバーシティカンファレンス)」を定期的に開き、役員と社員が一緒になって多様性推進の意義を考える機会にしています。日経ウーマノミクス会員の皆さんにもダイバーシティへの理解をより深めていただくため、20年11月に開かれたカンファレンスの様子をご紹介します。

4回目のカンファレンス、初のリモート開催

「多様性が機動力と柔軟性を生み、激変する外部環境への効果的な対応を可能にしている」。米アフラックのダニエル・P・エイモス会長兼CEO(最高経営責任者)が冒頭のビデオメッセージで日本の役員や社員に向けて力強く呼びかけました。15年に始まったカンファレンスは今回で4回目。以前は米アフラックの経営トップが訪日して都内で大規模な会議を開催していましたが、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて今回は初めてリモートで開催。約550人が参加しました。

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米アフラックのダニエル・P・エイモス会長兼CEOはビデオメッセージを寄せた

基調講演を務めたのは、テレビ出演や書籍の執筆など幅広く活躍中の入山章栄・早稲田大学ビジネススクール教授。コロナ禍によって社会の不確実性がさらに高まるなか、ダイバーシティとイノベーションを成功させるための企業や人材の条件について熱く語りました。

日本企業の壁は「経路依存性」

入山教授は最初に、日本企業の変化が遅れている要因として「経路依存性」を挙げました。難しい言葉ですが、簡単に言うと、様々な要素が複雑に絡み合う社会の中で、どれか1つだけを変えようとしても変えられない状況を指します。入山教授は「最も分かりやすい例がダイバーシティ」と指摘しました。ダイバーシティの実現には新卒一括採用や終身・メンバーシップ型雇用、評価制度、働き方など、すべてを同時に変えていく必要があるということです。働き方改革やジョブ型雇用を推し進めざるを得ない状況のコロナ禍は「全部変えられる奇跡的なチャンス。最後の好機かもしれない」。

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入山章栄・早大教授は「コロナ禍は奇跡的なチャンス」と位置付ける

イノベーション実現に必要な要素として入山教授が挙げたのが「知の探索」と「知の深化」です。「知の探索」とはスーパーマーケットの仕組みを取り入れたトヨタ自動車の生産方式など「なるべく遠くの地を見て幅広くアイデアを組み合わせること」。ダイバーシティ経営で多様な人材を抱える組織は「常識がはがれていく効果により、組織レベルで知の探索が可能になる」そうです。

「腹落ち」欠かせず

「ダイバーシティは1人でもできる」(入山教授)。自分で多様な経験を積み、知見を重ねることは「個人内多様性」(イントラパーソナル・ダイバーシティ)を可能にし、コロナ禍で加速する働き方改革や副業も知の探索につながります。一方、「知の深化」とは、ここだけは儲かると思ったら徹底的に深掘りして磨き込み、収益化していくことを意味します。

その上で入山教授が繰り返し強調したのは「腹落ち」の重要性です。正確な将来予測が難しいこの時代、「正確性より納得性。つまり腹落ち。これが今の日本企業に一番足りない」と鋭く切り込みました。腹落ちがあればダイバーシティは進んでいきます。多様な人々が会議に参加すると議論は難航しますが「もめない会議からイノベーションは生まれない」。もめても前進するため、入山教授が管理職に勧めるキーワードは「なるほど!」だそうです。「『なるほど!』が豊かな組織は強い」と述べて基調講演を締めくくりました。

ダイバーシティと働き方改革の相乗効果

続いて古出真敏アフラック社長と入山教授の対談が行われました。古出社長は「経路依存性」の打破について、アフラックが14年から本格化させたダイバーシティ推進の取り組みや、15年から始めた働き方改革「アフラック Work SMART」などを通じ、社員の時間外労働が大幅に減った成功事例を紹介。「意図的に組み合わせたわけではなく、その時に必要だと思ったことをやってきたが、結果的にうまく相乗作用を生み出している」と同社の歩みや現状を分析しました。

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2014年当時、古出社長(右)は担当上席常務としてダイバーシティ推進に取り組んだ


入山教授が「なぜダイバーシティを経営に取り入れようとしたのですか?」と問い掛けると、古出社長は自身のちょっと意外なエピソードを打ち明けてくれました。古出社長は金融機関から転職してアフラックに入社した際、社員数がほぼ男女半々で活気があり、女性上司が男子部下にテキパキと指示する社内の光景をとても新鮮に感じたものの、13年頃に女性活躍の状況などを詳しく分析してみたところ、日本企業全体で女性登用のボトムアップが進む中、アフラックは横ばいが続いている状況が浮き彫りとなったそうです。それがダイバーシティ推進や働き方改革に舵を切るきっかけとなりました。

ビジョンの共有欠かせず

企業や役員、従業員が多様性を追い求める上で、入山教授が必要性を強く指摘するのが、「私たちは何者か。どういう方向に向かっていくのか」を示す全社共通の指針です。アフラックは16年、「『生きる』を創るリーディングカンパニー」というビジョンを打ち出しました。古出社長は「あえて『保険』という言葉を外した。我々のコアバリューについてここ数年、とても熱心に社員と共有している」と話しました。このビジョンのターゲットは24年。「保険の枠にとらわれず、もっとトータルに世の中の人々に価値提供していく企業を目指す」という考え方です。

「名詞のビジョンは意味がない。大事なのは動詞」と言い切ったのは入山教授。アフラックが掲げる(生きるを)「創る」はまさに動詞です。社員に向けこのビジョンを繰り返し発信し、受け止めた社員がどんどん進化させて育てていくサイクルで、古出社長は「本に例えると、作家の手を離れてキャラクターが成長していく感じ」とこの1年、ビジョンの浸透や進化に手応えを感じているそうです。こうした経験から、古出社長の印象は「会社は生き物のよう」。一方、入山教授は普段、若い世代に「会社は道具なんだから、成長のために使い倒しなさい」とアドバイスしているそうです。

入山教授が基調講演で挙げた「知の探索」の過程では、失敗が避けられません。例えば米アップル創業者のスティーブ・ジョブズ氏もヒット商品を生み出すチャレンジを繰り返す人生で「実は失敗ばかり」(入山教授)。企業は失敗を受け止められる組織であることが求められます。その点、古出社長は「企業が財務的な目標をもって結果を出していかなければいけない中、長期的な視点で将来の布石を打つために失敗をある程度許容するというところを、うまくバランスを取るのが経営では」と考えます。

「自分が主人公」として考え発信を

社員からは壇上の2人に対し「ジョブ型雇用を推進する企業が組織のイノベーションを推進するため、どんなことを気を付ければいいのか」という質問が寄せられました。アフラックは21年1月、役員・管理職に対しジョブ型の人材マネジメント制度を導入。22年1月には一般社員にも導入する予定です。入山教授は「ジョブは1つである必要はなく、2つ3つあっていい。生活で得た知と、会社で得た知を組み合わせることもできる」と助言してくれました。アフラックは社員が外部講師の話を聞く「アフラックカレッジ」を開講。例えばAI(人工知能)の研究者や作曲家など、ビジネスから遠い分野の人たちの話を聞き、社員が知見を広げているそうです。

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木島氏は「自分が主人公」になることの重要性を訴えた(カンファレンスの中継動画から)

この日のカンファレンスでは、「多様性の活かし方」をテーマに、アフラック経営陣によるパネルディスカッションも実施されました。二見通・取締役上席常務執行役員は「とにかく挑戦してほしい。一歩必ず前に出て、変化を取り入れ、もっと言えば変化を自分で起こしてほしい」と呼び掛けました。木島葉子・取締役専務執行役員は「多様性を活かすためには、ポジションに関係なく全員が『自分が主人公』として、自分の頭で考えて発信することが必要」とアドバイス。有吉浩二・取締役専務執行役員は「個性を伸ばすためには、基本的な知識をベースに自分で工夫や努力を重ねることが欠かせない。自分の力で花を咲かせてほしい」とエールを送っていました。

今回ご紹介したアフラックのカンファレンスは、組織や個人が多様性を実現させるためのヒントを数多く示してくれました。ビジネスパーソンの皆さんも、自分のマインドセットを見直す契機にしてみてはいかがでしょうか。

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