イベントリポート

あすの職場ですぐ実践!~ウマノミ連続講座 in 山形

夫婦の共働き率が全国2位、子育てと仕事を両立する「働くママ」の割合は全国4位―――。働く女性の社会進出が全国トップクラスの山形県。一方で、女性管理職は少ないといった課題も残ります。そんな状況を改善し、山形に女性活躍の新しい風を起こそうと「ウーマノミクスで経済活性化塾 連続講座」が10月に2回、山形市で開かれました(主催:山形県、企画協力:日経ウーマノミクス・プロジェクト、会場:山形国際交流プラザ「山形ビッグウイング」)。いずれも企業担当者によるパネルディスカッションと、参加者がグループに分かれて取り組むワークショップの2部構成で実施。実践的なプログラムを通じ、管理職としての心構えや効果的なコミュニケーション術を学んだ参加者からは「明日の仕事から役立てられそう!」との声が相次ぎました。女性が働くモチベーションを高めるため、どんなスキルを学んだのでしょう。連続講座をのぞいてみました。

第1回 パネルディスカッション~管理職は部下の知識を借りればうまくいく

第1回は2019年10月18日に開催。管理職やチームリーダーなど男女約25人が、3~4人のグループになって座ります。同じ企業からの参加者は別のテーブルに案内されるため、グループのメンバーは初対面が多く、開会前からなごやかに名刺交換をする姿が見られました。

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管理職の意識改革について議論を深めた

第1部は「こう進める! 管理職の意識改革」と題したパネルディスカッションです。パネリストはエヌ・デーソフトウェア(NDソフトウェア、山形県南陽市)人事部長兼総務部長の佐藤真理さんと、インペックスソリューションズ(東京・港)企画調査部部長の木村裕美さん。コーディネーターは日本経済新聞女性面編集長の中村奈都子です。

2社とも男性社員が多い職場で、女性社員に活躍してもらう課題の共有からスタート。女性社員の割合はNDソフトウェアは30%程度、インペックスソリューションズは15%程度です。

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「管理職だからと力まずに」とアドバイスするNDソフトウェアの佐藤さん

「管理職を目指す意欲的な女性が少ない」。佐藤さんはそんな悩みを打ち明けます。理由の1つに「責任が重い仕事に対する不安」があると言います。自身も前職の銀行員時代、キャリアが上がる不安から管理職登用試験の受験を1年間遅らせたエピソードを明かしてくれました。

今は管理職として活躍する佐藤さん。「管理職だからと力まずに分からないことがあったら、部下であっても頭を下げて知識を借りれば、大抵うまくいきますよ」とのアドバイスに参加者は大きくうなずいていました。

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インペックスソリューションズの木村さんは「フェイス・トゥ・フェイスが重要」と話した

木村さんは管理職に必要なポイントとして、コミュニケーションの取り方を挙げました。顔を合わせるフェイス・トゥ・フェイスが最も大事と強調。メールなどの文字だと何を言いたいか分かりづらく、意図がうまく伝わらないことも少なくないといいます。部下の顔色や目を見れば、仕事の状況を把握できるメリットもあると語りました。働き方改革を進めるには、管理職が率先して休暇を取り、定時後に早めに退社することも大事です。管理職が積極的に職場の雰囲気を作っていくことが重要だそうです。

座学&ワーク~部下がほめられたいことは?

第2部は管理職に必要な部下育成の心構えやコーチングスキルについて、座学とグループワークを織り交ぜたプログラムです。講師は大手企業などでビジネススキル研修の実績がある合同会社キモト代表社員の木本幹則さん。

「皆さんの職場では、部下との面談をどのくらいの頻度・時間でやっていますか?」と会場に問いかけます。木本さんが研修を受け持つ企業では、半年から1年に1回程度、1回あたり15~30分程度が多いそうです。「これだけでは部下のことは全く分かりません」とばっさり。資質が異なる部下を日常的によく観察して、個性に合わせたマネジメントをしていくことが管理職に求められる役割と説明しました。

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「女性には期待していることを具体的に伝えて」と木本さん(左から2人目)は強調

女性は100%の自信がないと仕事を積極的に引き受けない傾向があるそうです。これは第1部の佐藤さんの話にもつながります。「女性の部下には期待していることを具体的に伝え、一度断られても背中を押すようにするといい」。そんな説明を熱心にメモする参加者が多数見られました。

管理職にはコーチングの「承認」や「傾聴」といったスキルも必要です。「承認」スキルのなかでも効果があるのは、ほめること。ここで「部下がほめられたい言葉を考えてみましょう」とグループで話し合うよう促します。なかなか意見が出ないグループもあり、木本さんは「主語を『部下』ではなく『私』に変えてみると考えやすいですよ」と助言。身振り手振りで話す参加者や笑い声が上がるグループなど、あちこちで活発に意見が交わされました。

メリハリの効いた講座はあっという間に終了時間を迎えました。参加者の女性に感想を聞くと「人をほめて育てることは難しいです。部下育成も子育ても同じですね」とほほ笑みながら答えてくれました。別の女性は「実践的で明日の仕事からすぐに役立てられそうです」と満足げな笑顔です。次回の講座にも期待が高まります。

第2回 パネルディスカッション~働く女性の本音を引き出すには?

10月30日に開催した2回目の講座も約40人の参加者を迎え、熱気ある議論が交わされました。パネルディスカッションのテーマは「ここが重要! 社内コミュニケーション活性化」。パネリストはアフラック生命保険・ダイバーシティ推進部課長の若濱靖樹さんと、女性向けキャリア支援サービスを提供しているmog(東京・港)の取締役副社長、金子麻由子さん。1回目と同様、コーディネーターは日本経済新聞女性面編集長の中村奈都子です。

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mog副社長の金子さんは「育休制度を受け入れる風土づくりが不可欠」と指摘

議論は「女性社員のモチベーションをどう高めるか」を中心に進みました。金子さんは働くママたちに実施したアンケートの結果を紹介。モチベーションが上がった言葉は「育休明けだけど、どんどんチャレンジする姿を見せてほしい」など。逆に下がったケースとして「子供の発熱で仕事が思うようにできない時、甘えじゃないかと言われた」などの声も寄せられたそうです。

難しいのは上司に「無理しなくてもいいよ」と言われた時です。「ありがたい」と思う人がいる半面、人によっては「期待されていない」と感じることもあるそうです。子育てをしながら働く女性の思いはさまざま。だからこそ金子さんは「女性をひとくくりにしてはいけない」と言います。「どんな働き方でどう会社に貢献したいのか。しっかりコミュニケーションすることが大事」というわけです。

若濱さんも部下に寄り添う姿勢での会話が重要と指摘します。アフラックでは面談を年に3回実施し、上司が昇格希望の有無などを聞き取りしています。以前は「何かある?」「いえ特に」で終わったケースも。そこで重要になるのが日頃の部下との向き合い方です。「日常の何気ないコミュケーションの積み重ねがあってこそ、面談時で本音が出てきます」

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アフラックの若濱さんは日常の何気ないやり取りの積み重ねが欠かせないと話した

議論で浮かび上がってきたキーワードが、金子さんが指摘した「制度より風土」です。せっかくの育休制度もそれを受け入れる社風がないと女性のモチベーションは下がってしまいます。金子さんは日本では「仕事に家庭の事情を持ち込まない」という意識が根強いことを挙げ、「育児など家庭の話を上司にさらけ出すことができる状況をどうつくるかがカギ」と力を込めました。若濱さんはアフラックでの復職研修の事例を紹介。育休から戻った社員に、働き続けてよかった経験など先輩復職者の生の声を繰り返し伝えることで、育児しながら活躍できる「風土」がさらに広がるようにしています。

研修&ワーク~共感コミュニケーションで連帯深める

次は「リーダーのコミュニケーション術」をテーマにした研修・ワークです。講師はタクト&アクト(東京・文京)代表取締役の青木テルさん。真っ先に話したのが笑顔での挨拶についてです。簡単なようですが、できていない会社が多いそうです。「挨拶がよくなる」→「人間関係もよくなり、何でも話せるようになる」→「仕事もはかどる」といった好循環が生まれることを、具体的な事例を踏まえて熱く語ってくれました。

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言葉だけに頼らないコミュニケーションが重要、と青木さんは熱く語った

「コミュニケーションで最近気をつけていることは?」「どんな上司なら一緒に働きたいですか?」ーー。矢継ぎ早に青木さんが質問を投げかけ、グループで話し合って発表する形でワークが進みます。

ワークを通して指摘した点は、コミュニケーションの頻度を高めること。1日30秒でもいいから部下に何気ない言葉をかけるだけで「私の存在を認めてくれている」と伝わるそうです。そして重要なのが言葉だけに頼らないコミュケーション術です。コミュニケーションで伝わる手段は「言葉」がわずか7%で、「顔の表情」や「態度」などが55%を占めるという説があります。言葉での不備を補うために、相手の目を見てうなづき、話を聞いて理解していることを相手に伝えます。最後は聞き間違いを避けるために、相手の話した内容を要約し「こういうことですね?」と確認します。特に強調したのが「共感」です。悲しい話を聞いたら「辛かったね」と同調してあげることで関係が深まるといいます。

最後に青木さんが「自信がないだけで、管理職になりたい女性はたくさんいます。いいところをほめて背中を押してください!」とエールを送ると会場からは大きな拍手が。参加者からは「明日から部下も上司もほめまくります」「具体的な会話術が学べました」などの感想が聞こえてきました。

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両日とも熱心にメモを取る姿が会場のあちこちで見られた

2回にわたっての講座では、終了後も参加者同士で話を続けるグループも見受けられました。まだまだ話し足りず、名残惜しそうに会場を出ていく姿も。「山形で女性活躍を意識したネットワークがさらに広がる」ーー。10月9日に開催されたシンポジウムを含め、「ウーマノミクスで経済活性化塾」は豊かな未来を感じさせる3日間となりました。

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