STORY 日本能率協会 vol.4

強く、発信する人事部署への変身をお手伝い

日本能率協会 経営人材センター 人事・マーケティングチーム
橋本 広子さん

経営、マネジメントの知識を身に付けたい。そう考えて橋本広子さん(32)が日本能率協会に転職したのは2014年4月のことだ。担当は人事部門という経験したことのない部署向けのセミナー、イベント。戸惑い、悩みながらも実務を重ね、少しずつ独自色を出せるようになってきた。彼女はさらなる研さんを積むことで、これまでとは違う人事部署に変わる手伝いができればと考えている。追い求めるのは、企業の成長に直結する、強く、多様な意見や提案を自ら発信する人事部門。

電話口で30分説得、面談こぎつける

32に上るセッションの内容はすべて決まった。これから講演内容について登壇者と打ち合わせを重ね、全体の運営チェックを進める。2018年2月7日から9日まで開催される大型イベント「KAIKAカンファレンス2018」に向けて、橋本さんは詰めの作業に追われている。

企業の人事・人材開発に携わる人々が学ぶ場として1982年に始まった「HRD JAPAN」から名称を改め、2014年度にスタートしたKAIKAカンファレンス。各セッションでは、次世代の組織づくりの指標となるような取り組みをする企業の実務者が、施策の狙いや内容を紹介する。

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KAIKAカンファレンスに携わるのは3回目

「聴講した方が『自分の会社に応用するにはこうすればいいのでは』と熟考できるような講演にしていきたい」と橋本さんは語気を強める。「だから事例を話すだけでなく、導入の背景や実施に至るまでの失敗、その克服までのストーリーを説明してもらうことを目指す」。これまで3度携わったイベントだけに、明確な方針が自然と出る。

初めて担当した4年前は違った。日本能率協会に入職したばかりで、以前の職場でも人事関連部署に在籍したことはなかった。先輩に付きながらの業務とはいえ、分からないことだらけ。「細かな雑用はこなしていたが、企画に入り込んだ手伝いができず、不安だった」と振り返る。

「登壇の交渉をしてみないか」。新人に経験を積ませようと先輩から声がかかったのはそんなときだった。交渉相手は過去アプローチした実績がない外資系。「ホームページで分かった代表電話に連絡し、なんとか人事担当の方につながった」(橋本さん)。登壇の依頼を切り出すと、「あまり話ができない」と色よい返事が来ない。

たとえ付き合いがある相手でも、企業は組織整備といったトピックスについてあまり語りたがらない。ましてや関係があまりない先。なんとかお願いできないか。電話口で30分説得し、ようやく面談の約束を取り付けたという。話は進み、登壇は実現した。「事前に制度の詳細を調べ、理論武装してお会いしたことがよかった」。今も鮮明に残る記憶は、新たな世界でやっていく自信を与えてくれた大事な思い出でもある。

TPP議論きっかけに転職決意

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人事業務は奥深かったと振り返る。

農学部を卒業し、農業団体へ。橋本さんが歩んでいた社会人人生は、環太平洋経済連携協定(TPP)の議論が盛り上がることで大きく変わった。商品の仕入れ先だった農家の人々は当然のように参加反対を叫んでいた。だが、彼女の目には「TPPのメリット、デメリットがしっかり伝わっていないのでは」と映った。これを機に農家の経営を見直す必要があるとも感じた。「でも、私にはマネジメントに関する知識が備わっておらず、アドバイスもできない」。今の職場ではこれからも学ぶ機会に恵まれないかもしれないとの危惧も、頭をかすめた。そのとき偶然出会ったのが、日本能率協会の職員募集だった。

業務概要を調べてみると、食に関する展示会を主催したり、食品工場で取得するISOの認証機関であったりと、これまでも縁があったことが分かった。企業や団体の経営革新を支援するため、経営をはじめとする研修も幅広く手がけていた。ここならマネジメントに詳しくなれる。気持ちは固まり、新たな職場に移ることを決めた。面接やグループディスカッションなどの試験を突破。2014年4月、職員としてのスタートを切った。

配属先は研修などを手がける教育事業に。希望通りとはいえ、人事担当向けの仕事に就くと、業務の奥深さを知ることとなった。若手社員にどんな研修を受けさせるべきか、社内研修では講師としてどう振る舞えばいいのか。様々なことに目を配らなければならない。「給与や社会保障の管理、異動の際の手配といった労務の仕事以外にもいろいろあるんだ」と気づいた。「人事の方はこれほどいろいろ考えているのだと初めて理解できた」

もちろん、驚いてばかりではすまない。招く講師をはじめ、周囲はほとんどがスペシャリストだ。議論に参加できる知識を身に付けるため、関連書籍を読みあさり、分からない言葉があればすべてメモして後で調べた。

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自分の性格は「特定のことに徹底的にこだわるタイプ」

外部識者の話に触発され、セミナー参加者の考え方を聞き、先輩の後を追い、多くの情報に触れる中で、少しずつ技量は磨かれていった。あるトピックスについて話題をふり、どう思いますかと意見を交わすこともできるように変わってきた。KAIKAカンファレンスでは複数の企業の担当者と登壇交渉をするのが当たり前だ。中には断られることもある。「上っ面のことしか議論できていないと感じることもある」。それでもくじけず、前を向いて仕事に当たっていった。

社会に一石投じる仕事を

経験値が増えるとともに、自らのアイデアを織り交ぜることにもチャレンジし始めた。17年から担当になった組織開発のセミナーでは、「マインドフルネス」という考え方を紹介する内容を盛り込んだ。忙しい毎日の中で雑念を捨てて、ただ一点に集中するようにする方法を取り入れることで、チームは活性化すると判断したという。

幸いなことに「自由に企画を考え、実施させてくれる風土が日本能率協会にはある」。企画案を提示した際、最初からダメだと否定されることはない。まずは取り組んでみる。思うような結果が出ないときでも、何が問題なのか考えさせてもらえるという。「大変だけど楽しいと実感できる」。充実した顔が浮かぶ。

さらなる成長を勝ち取ろうと、橋本さんは歩みを止めない。まず改めたいと感じているのが思考法だ。例えば、何か一つミスをした際、すぐに対処法を思案するのではなく、なぜミスをしたのか、本当の原因はどこにあるのか、突き止めることに労力を割く。ミスの構造解明を目指すわけだ。「常に大枠、大局をつかむということができるようになりたい」。そう力を込める。ちょっとした助言でもスーッと相手の頭に入っていくような「深み」も身に付けたいとも願っている。

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大枠をつかむ思考法を身に付けようと努力している

自らの能力向上とともに、もう一つ意欲を燃やすことがある。間接部門、裏方というイメージがある人事部門の変身だ。

人事・組織開発分野のセミナー、KAIKAカンファレンスの企画・運営といったキャリアの中で、人事の潜在力にふれた。「販売のように直接お金を稼ぐという仕事ではないけれど、稼ぐ人材を育てるということでは、収益の向上に貢献している」。だからこそ、人事担当者が採用方針の立案に積極的に関わり、事業領域の拡大につながるような人事政策を生み出すことができれば、企業の成長は加速するとみる。「そのためにも、人事部署がもっと強く、意見や提案を自ら発信するような部門に変身することが求められる。そのお手伝いができれば。おこがましいとも思うけれど」。そうはにかむ。

橋本さんは何か社会に一石を投じる仕事がしたいとも話す。経営革新を推進する機関として、時代のポイントや方向性をイベント、研修を通じて示す。人事の変身も、その一つなのだろう。オンオフの切り替えを意識せず、日ごろから常に斬新なアイデアを探し続けてもいる。

1年をかけて取り組んできたKAIKAカンファレンスまで1カ月を残すのみとなった。働き方改革に関するセッションも加え、学びの場所として磨きをかけた。細かな漏れがないよう、準備を整え、橋本さんは開幕を待つ。

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