STORY 日本能率協会 vol.2

学びたい意欲に応える 
ものづくり現場の知恵伝える

日本能率協会 ものづくりチームマネジャー
松本 亜砂子さん

一般社団法人日本能率協会の松本亜砂子さんは、製造現場や購買にかかわるビジネスパーソン向けセミナーの企画・立案を担う。時流に合ったセミナーの開発はもちろん、既存の講座を磨き上げることも怠らない。ものづくりに携わる人の学びたい意欲に応えることが松本さんのやりがいになっている。

タイ人の心をつかむ

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「(タイ人の)ものづくりに対する関心の高さは日本人に劣らず強い」と手ごたえを感じた松本さん

日本能率協会は6月6日、タイのバンコク国際貿易展示場で製造現場での改善事例を発表し合う「GENBA Management Conference&Award」を開いた。タイでの開催は初めてだったが、ダイキン工業、三菱電機、コマツなど日本を代表するものづくり企業の現地工場に勤めるタイ人の現場担当者ら250人を集め、盛況となった。各社の製造現場のリーダーが改善事例を次々にプレゼンし、参加者は熱心にメモを取っていた。発表会の企画・運営に携わった経営人材センター経営支援グループものづくりチームマネジャーの松本さんは後日、参加者のアンケートに書かれたコメント欄を読んで、彼らの業務に対する意識の高さに改めて驚きと喜びがこみ上げたという。

「もっと学ぶ機会を増やして欲しい」「今の仕事に関する知識を増やしたい」といった声が多く寄せられたのだ。同協会では研修を受講した参加者に対し必ずアンケートを行い、内容に関する評価を聞いている。バンコクでの発表会でも「現状で不満に思っていることは何か」などを聞いたところ、無記名ながら給料や処遇に対する不満の声はほとんどみられなかったという。「ものづくりに対する関心の高さは日本人に劣らず強い」と手ごたえを感じた松本さん。来年も事例発表会をタイで開催することが決まった。今後、能率協会がアジア展開を加速するうえで、重要な企画となるのは間違いない。

師走を迎えて来年の手帳を買いに走るビジネスパーソンは多いだろう。日本能率協会と言えば、「能率手帳」のイメージがあるが、実は手帳事業は日本能率協会マネジメントセンターというグループの別会社が手掛けている。能率協会の主力事業はセミナーや展示会の企画・運営や国際標準化機構(ISO)規格の審査や研修などである。

時流に合ったセミナー開発に努める

松本さんの仕事は製造業のものづくりや調達関連にかかわるセミナーの企画・立案だ。例えば、生産管理関連では「コスト追求打開に効く品質工学セミナー」「統計学入門セミナー」、調達関連では「サプライチェーン強化のための調達カテゴリー戦略セミナー」といった専門分野に即した内容で、全50テーマほどの講座を担当する。セミナーは1人当たり8万~10万円するだけに、受講者の求める水準は高い。「IE(インダストリアル・エンジニアリング)の考え方」を学ぶ30年続くロングセラーのセミナーがある一方、全ての機器がネットにつながるIoTや人工知能(AI)といった製造現場が抜本的に変わる可能性をもったテーマについても意欲的に取り込んでいく必要がある。

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アンケートは宝の山。セミナーの良否を判断するのに欠かさず読んでいる

受講者のニーズを探る1つのツールがアンケートだ。セミナー受講後に答えるアンケートは宝の山で、テーマにふさわしい内容だったか、講師の話しぶりがどうだったかといったことを回答してもらう。多くのセミナーに共通する回答が「もっとたくさんの事例を具体的に知りたい」だ。それだけに企業での実務経験があって、教えるスキルにも長けた専門家を講師としてどれだけ発掘することができるかが、セミナーの成否にかかわる重要な要素となる。また、既存のセミナーでも講師に運営を任せ切りにせず、良かった点を伝えてモチベーションを高めたり、悪かった点を整理して反省を促したりもする。コミュニケーションを深めることで、より質の高いものにしていくのだ。

昨年、松本さんが新規に開発したセミナーはIoTをテーマにしたもので、募集枠100人のセミナーを2回開いてほぼ満員にした。昨年には10本の新規セミナーを企画・立案し、商品化した。

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昨年、10本の新規セミナーを企画・立案した

一方、思惑通りにならなかった企画もある。

大手企業を中心にシステムの導入・更新をする動きが広がっていることから、システム導入する際の要件定義について教えるセミナーを企画したが、募集に苦戦したという。

入社してから20年ほどはJMAマネジメントスクールという部署で、セミナーの参加申請を受け付けしたり、登録者を管理したりする業務に携わっていた。今のものづくりチームに異動したのは5年前。各事業部門に新たな発想を入れていく狙いで、能率協会が人材の流動化を進めた中でのキャリア転換だった。まったくの畑違いの仕事に当初はとまどったが、新聞や専門書を読んだり、担当するセミナーの講師から色々教わったりすることで、自分なりに知見を深めていった。最初は既存のセミナーの見直しや関連テーマの追加などから取り組み、4年目から新企画の立案ができるようになった。

また、ものづくりチームとしては同僚が手掛ける来年2月開催予定のものづくり総合大会にも積極的にかかわっていくつもりだ。50年の歴史を持つものづくり総合大会は、全国の製造業に携わる約3500人が一堂に会する能率協会で最大規模のイベントだ。製造業のスピーディーかつ複雑な変化に対応する解決策を考え、議論している。

学びを通じ調達にかかわる人の存在感を高めたい

今後の夢は、「調達部門で働くビジネスパーソンが幅広いスキルを身につけて、経営に携われるようにステップアップしてほしい」ということだ。日本企業では華々しく売り上げを稼ぐ営業部門や経営の中枢に位置づけられる経営企画などに比べ、調達畑出身のビジネスパーソンはやや地味な印象を与えることが多い、と松本さんは見る。自分が取り仕切るセミナーを受講する人の中から経営幹部に育ってほしいとの思いが強まっているのだ。スキルアップを目指す多くのビジネスパーソンのニーズに応えられるように、セミナーの充実に努める日々が続く。

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